Logo TrainJR全線完乗記7

雄大な山々と豊肥本線

 

 日本は島国であると同時に山国でもある。国土の7割以上が山地である。この山が“箱庭”といわれる日本の車窓の美しさをさらに引き立てている。しかしそれはあくまで箱庭であり,外国にあるような,雄大な山々の眺めを見る機会はあまりないと思う。

 そのような日本のなかで珍しく,わりと雄大な山々の眺めを見ることができるところがある。昭和63年10月,2回目の就職活動が一応終わったを期に11日間におよぶ旅行にでたが,その旅行の目的の一つが,その雄大の山々を見に行くことだった。

 昭和63年10月12日,水前寺駅から豊肥本線の急行火の山1号に乗って阿蘇の山へ向かった。水前寺というのは熊本市にある有名な公園(水前寺公園)の最寄り駅であり,同公園に立ち寄ってから阿蘇に向かうという行程だったのである。

 次第に建物の密度が減り,熊本の市街地から離れていく。肥後大津あたりから山の雰囲気が漂ってくる。そして瀬田を過ぎると登りが急になってくる。この列車はディーゼルカーなのでエンジン音がひときわ高くなる。このようなところが蒸気機関車ほどではないとはいえ,人間味のようなものを感じる。電車ではこうはいかない。急坂でもまったく変化がみられない。もっとも自分が通勤に使う線がこうではかったるいだろうが‥。

 瀬田からの登りは阿蘇の外輪山である。この外輪山の切れ目を登っていくのである。そして苦労して登り切ると立野駅である。この立野駅は数少ないスイッチバック駅の一つである。スイッチバック駅というのは急坂の途中に駅を設けなければならない場合,坂の途中に駅を作ると停車中の列車が滑る危険があるため,線路の側方にならした平らな土地を作り,そこに引き込み線をもってくるような形で駅を作る形式ものである。南関東に住んでいる人であれば,箱根登山鉄道に乗ればその実例を見ることができる。スイッチバック駅は前時代的であるが,旅行者の目から見ると味わいがある。

 立野を出てしばらくすると草原が広がってくる。そしてそれを遠方から山がとりまくという図になっている。じつにいい眺めである。そのような眺めのなかを30分ほど走ると阿蘇駅。ここで下車して観光バスに乗り換える。

 まず暴れ山,阿蘇山に登った。さすが時々大噴火する山だけあって避難用コンクリート製のト−チカ?があちこちにある。ところどころ大きなひびが入ったものがある。噴火のすさまじさを物語っているようだ。頂上の火口まで登りつめる。いままで見た火口のなかで最もそして圧倒的に大きい。

 次に九重連山を越えるやまなみハイウェイに向かう。列車を降りた阿蘇駅を再び通り,こんどは阿蘇北側の外輪山を登っていく。登りきると,そこにすばらしい眺めが待っていた。九重の名のとおり何重にもつらなる山々。箱庭日本ではめったにお目にかかれない眺望である。当日はからっとした澄みわたるような秋晴れだったこともあいまって,本当に素晴らしかった。途中休憩停車したドライブインでは,その時間の大部分この山々を眺めていた。日本の山の風景ベスト10があれば,私としては第一位に推薦したい。

 それから8年強経た平成8年12月30日,私は再び豊肥本線に乗った。今回は前回と反対側の大分からである。このころJR線全線完乗へ向けて大詰めの段階をむかえていた。この年末年始は休日の並びが非常に良く,有給休暇を一切取らなくても九連休だった。それに私は年末最終週の4日間について休暇をとり,クリスマスの3連休をくっつけてなんと16連休に仕立ててしまったのである。そして最初の5日間は沖縄を回り,その後は鹿児島からジクザグに北上をして,九州・中国地方のJR線乗り残し線区の全てを片付けてしまおうという計画だったのだ。

 とても年末とは思えない暖かさの中,午前8時53分,大分発の普通列車で豊後竹田へ向かう。大分から離れるに従って次第に建物が少なくなり,草木が増えてくるのは前回乗った熊本側と同じであるが,熊本側と違いゆるやかに山の風景になっていく。それでも大分から約1時間ほど乗った三重町まで来ると山らしくなってくる。さらに40分ほどで豊後竹田に到着する。ここで20分ほどの接続で別の列車に乗り換える。この20〜30分ほどの待ち時間が私は嫌いだ。

 なぜ嫌いかといえばいちばん有効に使えないからである。四・五十分以上あれば,何か飲食したり,散歩したりするだけの時間が取れる。ところがそれ以下であれば,中途半端でうまく使えないのである。ここでもやはりそうであった。暇つぶしに駅前広場を散歩すると名所の案内など目に入る。そうすると興味をそそられる所があるが,行くだけの時間はない。まあ自分でこのようなプランを組んでしまったのだから自業自得ともいえるが‥。

 そうして無為の20分をつぶし,10時58分宮地へと向かう。いちだんと山へはいっていくが,あいかわらず少しづつという感じである。そのうち峠のトンネルをくぐり,ほどなく宮地へ到着する。宮地での接続時間は10分。これはちょうどよい。ちょうどよい乗り継ぎをして阿蘇平原のなかを二駅ほど走ると阿蘇駅。これで豊肥本線も完乗した。着々と完乗に近づくこの実感に思わず“にんまり”した。

 

 

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