Logo TrainJR全線完乗記1

67分リターンマッチの恐怖−根室本線

 

 今(平成9年4月現在)でこそ北海道には十数回上陸しているが,私と北海道との関わりは意外に新しい。初上陸は平成元年3月に大学の卒業旅行として行った時である。このときすでに宮崎県と鹿児島県を除いては,全都府県に足を踏み入れるという状況であった。ところがその卒業旅行で北海道が気にいってしまい,その半年後の同年9月にはもう2回目の北海道旅行をしている。
 この2回目の北海道旅行の目的はまだ見ぬ知床半島に行き,牧場で実習をし,セスナ機に搭乗して摩周湖を遊覧飛行をするなどいろいろあったが,最大の目的はJR線最東の根室本線を踏破することであった。
 いろいろと検討した結果この旅行の最終日の24日に根室本線に乗ることにした。このプランにすると旅行全体の効率は最もよくなる。ただし一つだけ不満な点があった。それは根室本線の終点根室駅での滞在時間が少ないことであった。具体的には11時42分に着いて,12時49分には折り返さなければならない。たったの1時間7分=67分である。根室半島といえばやはり日本最東端,北方領土と目と鼻の先にある納沙布岬が最大の見所であろう。私としても是非そこに行きたいと考えた。根室駅から納沙布岬へはバスが出ている。このバスで行けばよいのであるが,このバスは片道だけで40分かかる。つまり納沙布岬ですぐに折り返すバスがあったと仮定しても,往復で80分かかる。これでは絶対的に無理である。そりゃそうだろう。なんせ根室駅と納沙布岬の間は30km弱あるのだから。
 結局根室での時間の過ごし方についての結論は出せぬまま北海道へと向かった。途中「花咲蟹を買うだけにしようか」とか,「バスでせいぜい途中まで行こうか」とかいろいろと考えたが,ついにある結論に達した。
 9月24日11時42分定刻どおり根室駅に到着するやいなや,私はタクシー乗場へ向かった。そしてちょうどドアを空けて待っていた運ちゃんに「1時間で根室駅と納沙布岬を往復してもらえないでしょうか」と聞いた。おそらく99%以上の確率で拒否されるだろうと思ったら,意外なことに「よしゃ」と答えるやいなやドアを閉めて走りだした。
 頼んだ私の方が信じられない気持ちであったが,落ち着いてよく見るとその運ちゃんはパンチパーマに黒いグラサン(サングラス)といういでたちをしていた。さらに落ち着いてスピードメーターを見ると市内を走っているにもかかわらず80km/hを指している。私はこの運ちゃんは元ゾク(暴走族)だなと確信した。
 この元ゾク運ちゃんは根室の市街地を出ると“水を得まくったトビウオ”のように飛ばしだした。根室半島の道はそこそこくねくねし,またそこそこアップダウンもあるという,まああまり良いとはいえない道なのであるが,そのあまり良くない道をなんと110km/hという高速道路並みのスピードで走っているのである。このスピードで走れば当然すぐに前の車に追いつく。追いつけばどうするのかといえば対向車を無視して追い越しをかける。という恐怖の三段論法となる。
 別に正確に測ったわけではないが,おそらく対向車と最大至近距離5mというニアミスも絶対あったはずである。そしてわずか20分ちょっとで納沙布岬に到着した。
 帰路のスピードを少しでも落としたいと思った私は,記念碑前で写真を撮り,貝殻島を確認するとすぐにタクシーへと戻った。すると運ちゃんは「やけに早いね,本当にもういいの」と言った。
 帰路も行きとほぼ同じペースで飛ばした。ただ少しは慣れてきたのか,行きの時ほどは恐怖感を感じなった。それでも根室の市街地が見えてくると「もう間に合いますので,スピードを落としてもらえますか」と言ってしまった。
 結局帰りの列車の発車時刻(12時49分)の約15分前に根室駅に戻ってきた。われながら「なんてバカなことをやったんだろ」と思った。さらに「こんなバカな注文を受ける運ちゃんがいるなんてスゴイな」とも思ってしまった。
 とにかくこうして私が北海道新聞や道東の某新聞に掲載されるチャンスは消えたのである。もちろん本人はそのチャンスが消えてよかったと思っている。

 

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