ミア 〜今日と明日をつなぐ声〜 (第1章) |
「といわけで、今日もあっという間の1時間でした。お相手は、ワタクシ、いつも元気なミア。聴いてくれてアリガト! 来週も絶対聴かなきゃダメよ! じゃあね、バイバイ!!」 ミアの元気な声が今日の放送をしめた。午前0時、スタジオの中は明るい。このラジオ番組も、5年目になる。僕は、この番組のディレクター。ミアはもともとちょっとしたモデルから出発して、今はラジオを中心に仕事をしている。 ここ数年、ミアのラジオは僕らの予想を遥かに超えた人気を得てきた。彼女には、話すということに関して特別な才能があるのではないかと、ふと思うことがある。 ミアはいつも自然体で、リスナーからのどんな手紙にも自分なりのまっすぐな答えを返している。前もって答えを模索することなく、その場その場で自分の感覚で答えを出せるのが彼女の強みだ。その答えがリスナーを元気にさせることができるのは、ミア自身がいつも物事を前向きに考え、積極的に生きているからなんだと思う。 午前0時を過ぎて、この放送を聴いた人が元気な気持ちで明日を迎えられる、そんな番組を僕は作りたいと心がけているし、それを実現してくれるのが、彼女、ミアなのだ。 「お疲れさまでした!」 「お疲れさん。今日もいい放送だったよ。これから旨いものでも食べにいくかい?」 「いいですねぇ。そうしましょうか。」 僕はミキサーのハラ君にも声をかけた。 「ハラ君も、どう?」 テープを片付けながらハラ君は笑顔で答える。 「じゃあ、例の豆腐料理のお店はどうでしょう?」 「あっ、それ賛成!!」 「そうだな、うまいし、健康にもいいしな。」 「行きましょう、行きましょう!」 「ボク、スタジオ閉めちゃってから追いかけますから、ヒロさんとミアさん、先に行っててくださいよ。」 「じゃ、行くか、ミア。」 「オッケー!!」 僕とミアはスタジオを出て、まだ寒い2月の街を息を凍らせながら歩きはじめた。ミアは細目の体を黒いだぶだぶのコートに包んでいる。 「なぁ、ミア。体調はどうだ。仕事が忙しすぎないか?」 「大丈夫ですよ、ヒロさん。いつも変わらず元気です。私、健康だけが取り柄ですから。」 ミアはそう言って、声をあげて笑う。 「そうかそうか。それにしても、この番組も5年目。はじめた時には、こんなに長く続くとは思わなかったな。」 「そうですね。私、この番組が初めてのラジオだったから、いろいろ失敗してましたよね。」 「でも、今じゃ文句なしに凄い人気番組だ。ミアの元気がラジオを聴く人みんなに伝染して、みんなが元気になれる。だから、みんなはミアを支持してくれてるんだろうな。僕もこの番組を作ってるときが一番幸せな気持ちになれるよ。」 「ありがとうございます。でも、私、ヒロさんやハラさんが支えてくださってるからここまでやってこれたんですよ。」 「今じゃ、スタッフのみんなが家族みたいだな。この幸せがいつまでも続けばいいな、なんて思っちゃうよ、うまく言えないけどさ。」 「そうですねぇ……。」 ミアは遠くを見るような目で、そう答えた。街は深夜だというのに色とりどりの明かりで飾られている。この街の妙な明るさの中で、彼女が一瞬、寂しげに見えた気がした。 「おっ、そうこう言ってるうちに店に着いたな。」 こじんまりしたこの店では、豆腐を使ったさまざまな料理が楽しめる。一概に豆腐料理とは言っても実にバラエティ豊かな美味しい食べ方があるのだ。 「とりあえずビールでも飲むか。」 「一杯だけヒロさんにつきあいましょう。」 手早く運ばれてきたビールを注いで、僕とミアは乾杯をした。 「ウン、やっぱり仕事の後の一杯はうまい!!」 「ヒロさん、ちょっとオジサン入ってません?」 「おいおい、ビールがうまいってのは若者だって同じだろ。オジサンてのはひどいよ。」 「フフフ……。そう言っちゃうところが、ヤバイですよね。そういえば、ヒロさんって、何歳でしたっけ?」 「35歳、働き盛り。」 「そうかぁ……。私も今年で29歳になるんですよね。いつの間にか歳をとっちゃったな。」 「29歳なんてまだまだ若いよ。全然、平気だ。」 「ラジオをはじめた時は24歳だったんですよ。あっという間の5年間って感じ……。」 そう言って、ミアはふとため息をついた。 「あのね、ヒロさん。始まりがあるものには、必ず終わりがありますよね。いつまでも同じ毎日が続くわけでもないし……。実は私、ずっと前から考えてたんですけど、そろそろラジオを辞めようかなって思うんです。」 「えっ…!?」 突然の話に、僕の頭は真っ白になった。 その時、店の入り口が開いて、ミキサーのハラ君が入ってきた。 |