WAVES/ウェイブス
トレイ・エドワード・シュルツ監督/2019年作品
 映画のウリは、登場人物の心象を画面の色合いや画角や大きさの変化で演出すること。簡単に言えば、明るい気分のときはワイドで明るい画になり、厳しい状態では画面は狭く暗くなる…みたいな。それはそれで一定の新しさをもたらしている。

  宣伝で謳われている「ミュージカルを超えたプレイリストムービー」という表現は、詐欺と言っても良い印象。観た人は同じ感想を持つだろう。別に全編に音楽が流れているわけでもなく、ときに登場人物の心境を語る言葉として楽曲が使われているだけ。それは演出として別に悪くはないので、宣伝の仕方の問題だが。 でも、ここまで書いたような映像表現を一部切り取って、使われている楽曲を流して、"プレイリストムービー"と謳えば、映画のイメージがずいぶん変わって観客の気を惹く。そういった意味では、"宣伝としては成功"だと思うのですけどね!

 さて、肝心の物語なんですが… 家族構成は父と継母と長男、妹という4人の裕福な家庭。長男は、高校のレスリング部のスター選手で、素敵な彼女もいて絶好調。 そんな彼が肩を怪我したところから人生の歯車が狂い始める。彼に期待する厳しい父に怪我のことを切り出せず、鎮痛剤を乱用しながら試合を続けるものの、やがて試合中に気を失って怪我のことがバレてしまう。さらに、辛くて恋人のところに助けを求めに行ったら、彼女からは妊娠したことを告げられる。

 逃げ場を失くした彼はさらに薬とアルコールに溺れ、家族を罵倒し、子供を産みたいという彼女に怒り、身勝手さを存分に発揮して周囲を攻撃し続けた挙句に取り返しのつかない罪を犯す。

 まず、この長男には欠片も感情移入できない。 彼を追い込む父親も、「母親が稼げているのは俺のおかげだ」「母親の言うことより俺の言うことを聞け」「俺がレスリングをしろと言ったんじゃない。お前が自分で選んだんだ」と、押し付けがましく、プライドが高く、どちらかと言えば女性蔑視タイプの男性で、これまた共感できる余地がこれっぽっちもない。 こんな身勝手で偉そうな男たちを映画の前半で散々見せられて、物語上の必然とはいえ正直ゲンナリだ。

 一方、兄は学校のスター、父は兄しか見ていない環境で、静かに目立たず真面目に生きている妹。そんな存在感のない妹が、実は映画の後半を背負うことに…

 これもまた、崩壊と再生の物語。
僕のお気に入り度
物語とはいえ、こういったダメ男たちは見るに堪えないというのが正直な気持ち。



(C) Tadashi_Takezaki 2002