囚われの美女
アラン・ロブ=グリエ監督/1983年作品
 監督は「エデン、その後」の次に「快楽の漸進的横滑り」という"魔女"っぽい映画を撮るのですが、さらに後に撮った「囚われの美女」は"吸血鬼"っぽい映画です。このへんは後ほど…

 そもそもタイトルの「囚われの美女」というのは、マグリットの絵画で、風景の前に置かれたキャンバスに描かれた絵とキャンバスの向こう側の景色が一体化していて"現実の風景"と"絵画"の境界があやふやになっている。さらに左右には赤い幕が下りていて、そもそもこの風景すべてが舞台上のセットなのかもしれないという、幾重にも解釈可能な作品なのです。

 実際、この映画では、このマグリットの絵画をそのまま海辺に実写で再現して、さらにカメラを引いていくと赤い幕もそこに置かれたものであり、その外側にはさらに風景が広がっているという場面を見せてくれます。この「現実かもしれないものと非現実の多重構造」と「見えるものの解釈はそれを見る者に委ねられる」ってあたりが、時系列に起承転結の物語を描くことを拒否する監督の今回のアプローチのようです。

  さて、マグリットの絵画「囚われの美女」には"美女"は出てきませんが、ロブ=グリエの映画「囚われの美女」には冒頭から"美女"が登場します。 主人公の男は、"美女"が率いる謎の組織の運び屋。ナイトクラブで謎めいたブロンドの"美女"に出会い身体を合わせて踊っていると、ボスから仕事の電話が。電話を終えて戻ってくると女は姿を消していた。ボスの依頼は、とある伯爵に今夜中に手紙を届けること。主人公が車を走らせていると、後ろ手を縛られて車道に倒れている血だらけの女。それは、さきほど一緒に踊った美女だった。彼女を連れて、主人公は通りがかりの大きな屋敷に助けを求める。その屋敷では正装した男たちがパーティーをしていた。医者だという男について奥の部屋に行くと、なぜか二人は監禁される。すると、血だらけの美女は手の拘束をあっさり外して主人公を誘惑。あああ……。ふと気が付くと朝になっていて、美女は消え、立派な屋敷は廃屋になっていた。主人公の首には咬まれた傷跡。訳が分からない主人公がふと手に取った新聞に、昨夜の美女の写真。彼女は、昨夜訪問するはずだった伯爵の婚約者で行方不明だと報道されている。慌てて伯爵の元に向かうと、伯爵は急死したという。その首元にもまた、咬まれた傷跡。手がかりを探して昨夜の屋敷に戻ってみると、やはりそこは古い廃屋。さらに、くだんの美女は数年前に事故死したことも判明し……

 というような、めくるめく展開。 一見、物語があるようで、でも一貫した物語はない。しかし、この謎の展開に身を委ねるのも悪くない。バイクに乗る女など、絵作りもいちいち"作り物"っぽくて、「映画という虚構」の中を彷徨う「幻想譚」といったところでしょうか。屋敷のくだりなど、キューブリックの「アイズ・ワイド・シャット」も思い出させます。
僕のお気に入り度
DVDで持っておいて、たまに監督特集しながら見たくなる映画です。



(C) Tadashi_Takezaki 2020