「この漫画がすごい!'96」

漫画ベストをやります。奥付の日付はなるべく(笑)'96だといいけどね、くらいの、ゆるやかな範囲でいいことにしました。自分の読了データが、そもそも、年しかメモしてないし、まあそんなところで。 という集計方式です。

投票者のコメント


by 竹村かおる

1.吉田秋生「ラヴァーズキス」
小学館/フラワーコミックス'95-96(全2巻)/『別冊少女コミック』掲載
話としては腹八分目なんだけれど、96年これ以上のラブストリィーにはあえなかった。看板どうりキスの表現も極上にうまい。

2.三浦健太郎「ベルセルク」
白泉社/JETS COMICS'90-/『月刊アニマルハウス』'89-92『ヤングアニマル』'92-掲載
ずっと、続いているけれどよんだのは96年なのでベストにあげます。
ベルセルクは鋼の書き方がすごい。鋼の重感、剛感 鎧が関節で可動するのがわかる。ガッツが振り下ろす大剣が空気をさくのもわかる。(るろ剣の左之助の斬刃刀は、これのパクリね。きっと)
中世風の設定は数あれど重量感あふれる世界を描けるのは三浦健太郎ぐらいしかいないじゃないかと思う。

3.井上雄彦「SLAMDUNK(スラムダンク)」
集英社/ジャンプ・コミックス'91-(全31完結)/『週刊少年ジャンプ』掲載
終了記念!最後の方のスラムダンクの絵はなんだかイラスト調の絵になってしまって、汗のにおいのしないスポ根なんて、つまんなあ〜いとおもいながらよんだのだけれど。

4.木村千歌「メープルハイツ#201,202」
講談社/ワイドKC
となりどうしの部屋にすむ男の子と女の子のラヴストーリィ。声だけ聞こえる姿のみえない男の子に気持ちが傾いていく201はテンションたかかったけれど、202はHだけの話になってしまって残念。

5.西条真二「鉄鍋のジャン」
秋田書店/少年チャンピオンコミックス'95-/『週間少年チャンピオン』掲載
主人公の性格がわるい、ヒロインにかわげがない、でも巨乳。描いてある料理がひどくまずそう。
いきおいだけあります。漫画はいきとのりです。

by 高橋陽子

1.秋月りす「OL進化論」
講談社/ワイドKCモーニング/『モーニング』掲載

2.竹宮惠子「天馬の血族」
角川書店/あすかコミックス'92-/『ASUKA』掲載

3.河惣益巳「火輪(かりん)」
白泉社/花とゆめコミックス'92-/『花とゆめ』掲載

4.市川ジュン「大正洋食倶楽部 懐古的洋食事情(5)」
集英社/ユーコミックス'96/『YOU』掲載'94-95

5.なるしまゆり「原獣文書」
新書館/WINGS COMICS'96-/『サウス』掲載'95-

by 津浦語

1.曽根正人「め組の大吾」
小学館・1〜5以下続刊/『週刊少年サンデー』掲載
―火事場だけに熱いマンガだ!―
というオチから入るが、本作は、やけに”古い”タイプの”少年”マンガである。
だが、消防士が主人公のマンガというのは、あまり無かったような気がする。
”さいとうたかを”が、やはりサンデーで「特救GO」とかいうレスキュー物を連載していたように思うが、それ以外で印象に残る火事マンガは無かった。
考えてみると日常と隣合わせでありながら、非日常的なエピソードがてんこ盛りな職業であることだよな。主人公の才能がちょっと突出しているのが鼻につくケド、どーせ少年マンガのほとんどが、”天才”を主人公にしているのだからねえ。

2.吉田秋生「ラヴァーズキス」
小学館/フラワーコミックス'95-96(全2巻)/『別冊少女コミック』掲載
―「BANANA FISH 」の”後番”は,本格恋愛ものだった?―
6つのパートからなる本作は、各章に日本語のまっとうなサブタイトルがついているが、ぞんざいかつあっさりと英語のサブタイトルもついている。
曰く「boy meets girl 1, 同 2, boy meets boy 1,同 2,girl meets girl 1, 同 2」
つまり最初の2章でフツーの恋愛(?)を描いておいて、後はアレなんである。
なので、「このJUNE..」に投票する資格の無いだろう俺(何しろほとんど読んだことが無い)ですが、この作品はそっちの一位(といってもこれだけだけど)にも推しときマス。ま、3章以降は恋愛というよりは憧憬みたいなモノだけど、かえってそういう方がイイ感じがするのは、俺が汚い大人になっちまったからなのか?
この作者の描く高校生が、「河よりも長くゆるやかに」以来けっこう好きなので、本作では久し振りに堪能した感じ。登場人物が揃いもそろってイイヒトばっかなのがナンだケド。とはいえ,「夜叉」でまた,「BANANA FISH 」路線に行ってるらしい(実は未読)。やっぱ恋愛はアツイぜ!ああ、俺も燃えるよーな... 以下略。

3.村上もとか「私説昭和文学」
小学館(全1巻)/『週刊ヤングサンデー』掲載
近年の村上もとかは恋愛というか、女性への憧憬みたいなモノの絡む作品が多い気がする。それもちょっとオトナな、成熟した味わいのあるやつ。
「検事犬神」もそんな感じの話であった。ちゅーねんのじょーねんが熱いッス。

4.三浦健太郎「ベルセルク」
白泉社/JETS COMICS'90-/『月刊アニマルハウス』'89-92『ヤングアニマル』'92-掲載
積み上げた死体の数なら日本一なんじゃないかっつー作品。暴力シーンだけで成年指定されてもおかしくない感じ。基本的に趣味ではないが面白いのでOKっす。
主人公の平熱が常人の1.5倍(当社比)位はありそうな感じで熱いっす。

5.福本伸行「カイジ」
講談社・1〜3以下続刊/『週刊ヤングマガジン』掲載
「このミス97年版」で、とあるグループが4位にあげていた作品。
マンガがエントリーされたのは初めてじゃないか?その後「このマンガがえらい!」で、堂々の1位に輝いた本作は、一般誌に麻雀劇画のノリを持ち込んだ怪作。
能條純一が自作の「哭きの竜」のノリで、麻雀よりは一般に通用するだろう将棋で、マンガを描いているが、それをもっとパンピーにわかるであろう、ジャンケンというゲーム(?)でやってみた試み。
ギャンブルは当然熱いっす。鉄火場ですから。

という訳で96年マンガは熱かった!というお話でした。

さてここからは,去年はなかった(今年もないか)6位以下,ベスト5だけじゃ,ちと寂しい気がしたものだから,勝手に増やしちゃいました。

6.星野之宣「宗像教授伝奇考」
潮出版社・1〜2以下続刊/『月刊コミックトム』掲載
俺はこーゆうホラ話が読みたかったんだよう。

7.高橋葉介「学校怪談」
秋田書店・1〜5以下続刊/『週刊少年チャンピオン』掲載
こういうショート・ショートを描く人は貴重だと思う。僕は特に5巻の金魚売りの話が好き。

8.高橋ツトム「地雷震」
講談社・1〜9以下続刊/『月刊アフタヌーン』掲載
第9位の「勇午」とは対象的に、えらく辛口なお話。構造的には似てる気がするんだけどネガとポジのようだ。この主人公は決して激昂しない。常に一歩引いているような態度で、その実犯罪者の一番近くに踏み込んでいる。少年マンガ(青年か)の主人公がここまでクールなのは珍しい。こんなに無口で通用した主人公はボトムズのキリコくらいなのではないか?アニメだけど。(あ、ゴルゴと呼ばれる男達は別)かわりといっては何だが、他のキャラが泣く、叫ぶ、怒る、わめく。

9.作・真刈信二、画・赤名修「勇午」
講談社・1〜6以下続刊/『月刊アフタヌーン』掲載
「ねごしえーたーのプロであるゆーご君が交渉する相手に酷い目にあわされて、それでも”人”を信じて交渉するよって言ってて結局は何とかなっちゃう」という, 考えようによっては超大甘な話。でも、すげえ好きだし。

10.槇村さとる「イマジン」
集英社・1〜4以下続刊/『コーラス』掲載
「 おいしい関係」 で天下万民にその名を知らしめた感のある作者だが、人の業の深さに関しては本作の方が上(?)。少年マンガで”勝負”を描くと、敵や技がどんどん強くなっていくわけだが、恋愛という”心”を描くものである少女マンガでは描く対象がどんどん深くなっていってしまって、”業”を描かなくてはならなくなる。ってーのはどうでしょうか?

選外佳作: ・趣味には合っているが今ひとつ力が及ばなかったモノ

Story 竹熊健太郎 Art 永福一成「チャイルド☆プラネット」
講談社・1〜5以下続刊/『週刊ヤングサンデー』掲載
その志にいっぴょう。インパクトがあって面白い話なんだけど、竹熊の話はやや整合性に欠ける。
・以下は面白いんだけど、趣味的に違うので外れたもの
森川ジョージ「はじめの一歩」
講談社・1〜36以下続刊/『週刊少年マガジン』掲載
「このマンガがえらい!」で、”正しい少年マンガ”と言った人がいたが実にその通りで、ジャンプの「すらだむんく」、サンデーの「帯ギュ」と共に、3大すぽおつマンガを形成していた。だが、強さのバブル現象の結果、他2作が伏線虚しく散っていったのに対し、まだ何とか描いている。だが、ガゼルパンチにデンプシーロールと、主人公の必殺技がかなりキテルので安心はできない。現に宮田戦では対戦者がウルフ金串になっているもんなあ。明日はどっちだ!
しげの秀一「頭文字D」
講談社・1〜5以下続刊/『週刊少年マガジン』掲載
乱暴な言い方をするならば、「バリバリ伝説」を車でリメイクっちゅーかセルフカヴァーした話。溝ひっかけはカメコーナリングだし、相方のトホホな車で速いクルマを抜くエピソードはカブの話だよね。今、心配なのは公道からレース場に行って話がつまらなくなるという「サーキットの狼」パターンをまた、踏襲するのではないかという事。
ところで,山梨県に巨摩という郡があるというのを,甲州土産の信玄餅を見て初めて知りました。(後日、群馬に赤城という町だか村があるのも知った)
うすた京介「セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん」
集英社・1〜3以下続刊/『週刊少年ジャンプ』掲載
この作品の面白さは文章では書きづらい。もしかしたら面白くないのかも?
でも僕は「幕張」よりはこっちかな。
以上、96年私が面白いと思ったマンガでした。でわ、また来年。

by 青柳悟

1.しげの秀一「頭文字(イニシャル)D」
講談社/ヤンマガKC・1〜5以下続刊/『週刊少年マガジン』掲載
SFやら、青春物やらに手を出して、芸風を広げようと頑張ったしげの秀一が、戻ってきました。「やっぱり、オレにはこれしかないんだ」風の、ふっきれかたが気持ちいい、4輪ものの「バリ伝」第一部(秀吉がいくまで)という感じの作品です。別にその間の作品が悪いといってる訳ではないです。青春物の「DO―PEE―CAN」(だったかな?)は、結構好きでした。

2.河合克敏「帯をギュッとね!」
小学館/少年サンデーコミックス(30巻完結)
シリーズ全体で言うと、シリアスに流れた後半部より、ギャク主体の前半の方が、異色(という程でもないが)のスポーツマンガものとして、私の評価は高いのですが、去年完結という事で、この位置です。
設定を残したままの、尻切れトンボの感は拭えませんが、全体の軽いテンポを評価しています。

3.井上雄彦「SLAMDUNK(スラムダンク)」
集英社/ジャンプ・コミックス'91-(全31完結)/『週刊少年ジャンプ』掲載
ジンクスを打ち破った、テンションの高い、バスケットもの。
試合の密度の高さは、アニメの「巨人の星」か、「アストロ球団」をほうふつとさせました。6年連載して、4ヶ月分というのはデータ、やっぱり驚き。
途中でやめたくなっても、仕方ないか?

4.森川ジョージ「はじめの一歩」
講談社/少年マガジン・コミックス 1〜36以下続刊/『週刊少年マガジン』掲載
「あしたのジョー」「リングにかけろ」「はじめの一歩」というのが、私の中での、三大ボクシングマンガです。その中でも、唯一、正統派ボクシングまんがと言えるのが「はじめの一歩」でしょう。
主人公が天才ではないというのが(努力の人)、梶原一騎型スポ根マンガを脱却していると言えるでしょう。梶原型は、主人公を努力の人、ライバルを天才という図式で提示しておいて、本当はその逆、というパターンがお得意ですね。
このパターンは、「ガラスの仮面」を含む、たいていのスポ根ものに言えるのですが。

5.秋本治「こちら葛飾区亀有公園前派出所」
集英社/ジャンプ・コミックス1-100(連載中)
100巻というのは、マンガの職人、秋本治の前人未踏の業績ですね。
去年くらいまでは、ずーっと読んでなかったのですが、この業績はきちんと評価すべきだと思い、エントリーしました。
最近のうんちくネタは、結構すごいです。エヴァのレイ等身大フィギュアのネタは、どう考えても冗談だと思ってたのですが、実在していて愕然としたものです。
インターネット関連や、今年に入ってからの筈ですが、プリクラやら、たまごっちやらはやりもののうんちくねたは、実に的確。凋落著しいジャンプ連載陣の中で、唯一気をはく作品なのでは。

いつもなら、もっととがった作品を選ぶ私としては、実に正当的なセレクトになったような気がします。
「帯ギュ」「スラダン」「一歩」は、何回読み返したか、判らないくらいの、最近のスポーツものの中では、レベルの違いを感じるおもしろさだと思います。
「イニD」は、まだまだ旬のいきおいにおされて、一位としました。週刊雑誌を追いかけるなんて、何年ぶりかという気がしますが、去年からヤンマガを読んでます。という訳で、マンガ版「阿佐田哲也」といえる「カイジ」も評価はしてるのですが、今回は見送ります。
「こち亀」は、この偉業を黙殺する形になるのはしのびないので、選ぶべくを選ぶという事で、セレクトしました。


by たこいきおし

1.桑田乃梨子「ほとんど以上絶対未満」
白泉社/花とゆめコミックス/『LaLaDX』'95,96掲載
95〜96年の桑田乃梨子は実はあまり全体としてのテンションは高くない。なんというか、94年あたりまでで持っているパターンを使い尽くしてしまって、今は新しい方向性を模索しているような感じ。どうもシリアス、というか叙情的な方向を狙っているようなんだけど、散発的に出る短編を読む限りではあまり成功している感じがしない。単行本描き下ろしの『君の瞳に三日月』完結編と『卓球戦隊ぴんぽん5』番外編がいずれも「不器用な恋愛」の心理の襞を描こうとしてるのもそれと傾向としては共通しているかな。その叙情的な部分自体はいい味だしているんだけど、作品トータルとしての出来が今イチというのが正直な感想。
その中で奇跡的に成功したのがこのシリーズ。中学時代の親友(男)が原因不明の性転換で女になって舞い戻ってきたら……というシチュエーションから派生するコメディ。コメディとしてもいかにも桑田乃梨子らしいとぼけたノリがあり、上記の叙情的な要素がそこにうまく噛み合っている。96年いちばんハマったマンガである。
しかし、たてつづけに3作描かれてもうしばらくシリーズが続くのかと思っていたら4作目以降が描かれることなく単行本にまとまってしまった。まあ、微妙な三角関係に収拾をつけようとして失敗するよりは、三角関係を盛り上げたところで切ってしまっ方が余韻が残るという考え方もあるが、中途半端な印象は否めない、かな。

2.ひかわきょうこ「彼方から」
白泉社/花とゆめコミックス/『LaLa』掲載
ひかわきょうこの作品では、ニヒルな男が平凡な少女を常に庇護しているんだけど、実は男の方も少女の母性的な部分に精神的に依存している、という相互依存の関係が男女関係の基本となる。初期のシリーズではその関係が成立した後を描いた作品が多かったが『彼方から』ではその関係が成立するまで単行本で7巻を要した。なかなか感慨深いものはある。

3.なかじ有紀「ハッスルで行こう」
白泉社/花とゆめコミックス/『LaLa』掲載
つい先日完結した、神戸のイタ飯屋を舞台に恋に仕事にがんばるコックの卵たちの物語。作者の実家がイタ飯屋で父親と弟が現職のコックというメリットを活用しまくった料理、ケーキの描写やアイデアもなかなかのもの。登場人物たちの「仕事」への情熱に重きが置かれているあたりがこれ以前のなかじ有紀作品とは一線を画している感あり。

4.マツモトトモ「キス」
白泉社/花とゆめコミックス/『LaLa』掲載
16歳の女子高生と24歳のピアノ講師の恋愛を描くオシャレな連作短編。マツモトトモは95年から増刊にちらほら描いていたけど、このシリーズで本格的にブレイクした。本当にセンスだけで読ませちゃう、こんなタイプのマンガはここしばらくLaLaに欠けていたもののような気がする。

5.猫山宮緒「今日もみんな元気です」
白泉社/花とゆめコミックス/『LaLa』掲載
「ねこやまみやお」なんてふざけた名前の新人が出たな(笑)と思っていたら、今やLaLaの中堅どころといったところか。絵柄はたぶん日渡早紀のアシ上がりなんじゃないかと思わせるものだけど、人物の目をカケアミで丹念に描き込んだりするあたりにオリジナリティあり。この作品はデビュー当初から連作で続いている同じ中学を舞台にしたシリーズ。96年は、数多いキャラクターの中でもほぼシリーズ通しての主役といっていい二卵性の双子の早絵と草太がお互いを異性として意識していく過程を丹念に描くことに終始した。しかしおそらくは肉体関係込みでの双子の恋愛を思いっきり全肯定してしまってどうするんだろうと思っていたら、二人が結ばれてハッピーエンドで連載が終わってしまった(笑)。「実は兄妹じゃなかった」オチの『ママレード・ボーイ』なんて足元にも及ばないとんでもなさに一票(笑)。

去年は正直いってあまり新しいものは発掘してません。『このマンガがえらい!!』などを読んでは、読んでいないマンガの多さに嘆息してるくらいにして。
ということで、今年の投票は「このマンガがすごい」というよりは「このLaLaがすごい」になってしまいましたが、ご愛敬ということで……(笑)。


by 菊池鈴々

1.篠原千絵「天(そら)は赤い河のほとり」
小学館/フラワーコミックス/『少女コミック』掲載
現代人の女の子が、呪術で引き寄せられた古代ヒッタイトで苦労するラブストーリー。とにかく、生命の危機と貞操の危機の繰り返しで引っ張る。大ざっぱにいうと似てるので「王家の紋章」と比べられるのは避けられないが、絵柄はすっきり、展開はスピーディ、キャラクターはアクティブで、とにかく読者を楽しませるプロの技に感服。私が読みたい「少女漫画」ってこんなかたちなんだよなあ、と、しみじみと自分の好みを自覚してしまう今日この頃。

2.波津彬子「雨柳堂夢咄」
朝日ソノラマ/眠れぬ夜の奇妙な話コミックス/『ネムキ』掲載
骨董屋の「雨柳堂」店主の孫である、蓮が扱う、不思議な出来事の数々。ほとんどの話がエピソードごとに独立しているので、連作短編集という趣。波津彬子はどの作品も好きだけど、これがまた、骨董趣味とファンタジー風味の混じり具合が絶妙でおすすめ。

3.槇村さとる「イマジン」
集英社/『コーラス』掲載
「自分である」こと。「生きる」こと。「生活する」こと。槇村さとるが披露する見識は、なんともあざやか。

4.萩尾望都「残酷な神が支配する」
小学館/『プチフラワー』掲載
主人公の少年の母親が再婚して移り住んだ英国で、義父に性的暴行を受けることからはじまるシビアな物語。義父の異常性癖ぶり、体の弱い母親の現実逃避、義兄の鈍感さ、に囲まれて、身動きがとれない日々が、交通事故(?)で父母が共に死亡することにより、かたちを変える。義父が死んだからといって、一気に解決するわけではないのだ。
連載中ながら「朝日漫画賞」第一回を(「ドラえもん」と同時に)受賞。あの賞は審査員の顔ぶれが面白いので、どんなものが受賞するのか注目していたのだ。これがくるとは。

5.三浦健太郎「ベルセルク」
白泉社/JETS COMICS'90-/『月刊アニマルハウス』'89-92『ヤングアニマル』'92-掲載
漫画の持っている「絵の力」と「物語の力」が、これでもか、と発揮されていて凄い。

ほかには、なるしまゆりの「幻獣文書」が注目株。この作者は「少年魔法士」も暗く渋く連載中で楽しみ。新人の、志水ゆき「LOVE MODE」シリーズは絵柄がこなれてくれればもっといいけど。『プチフラワー』で続いている、名香智子のシャルトル侯爵家のシリーズも好調。杉浦志保の「氷の魔物の物語」は優しいファンタジーで好き。『ネムキ』連載の川原由美子の「観用少女(プランツ・ドール)」と、今市子の「百鬼夜行抄」は、ともに質の高いファンタジー。こうしてみると『ネムキ』っていい雑誌だなあ。佐久間智代の「月の船、星の林(平家物語シリーズ)」は、地味だけど、とても奇麗な後味。芦奈野ひとしの「ヨコハマ買い出し紀行」は、タイトルからは想像しにくいけど、カタストロフィ以降の日常を淡々と描くSF。さわやかな風を感じさせる表現は見事。津田雅美の「天使の棲む部屋」はおとなしい体裁の短編集だが、心に残る。


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