「このJUNEがすごい!'95」

'96.02.11改訂

シャレで口にした「このJUNEがすごい!」って言葉の響きがなんだかとても気にいったので、投票者のお二方に御協力いただいて、こういう企画が実現しました。
三人の投票じゃ少ないと思われるかもしれませんが、オリジナルJUNEをバリバリ読んでそうな友達がそんなにはいないってことなのよ(笑)。それと同人誌はパスにしました、あしからず。

という集計方式をとりました。
三人だけの投票なので「全員バラバラで1位は5点の作品がみっつ」の可能性も考えていたのですが、意外というか、なーるへそぉ、というか、わりときっぱり1位が決まりました。結果は下記の通りです。

投票者のコメント

読者の方からも順位をお寄せいただきました。ありがとうございます。

by 高村照柿

JUNEというより、やっぱ「やおい」なワタクシでありまして、今年はあんまり商業出版物(単行本のことです)は読んでないのです。そこで、定期購読雑誌からおもしろかったものを選んでみました。

1.山藍紫姫子「幾千の河もやがてひとつの海になる」
『イマージュクラブ』連載中。
とにかく圧倒的な筆致で読ませます。こーんなこともあーんなことも「やってしまう」想像力のすごさにただただ、脱帽。ここまでやってしまうとは。もーこれはSFです。
2.秋月こお「富士見二丁目交響楽団シリーズ」
『小JUNE』連載中。
現在もっとも楽しく読んでるシリーズ。今年は「アクシデント・イン・ブルー」(四月号)のロマンティックな雰囲気がけっこう好きで、圭のセリフには「いよっ、紅はこべッ」などと声をかけたくなっちゃうくらい恥ずかしくて、いっちゃってて、よかったです。余談になりますが、悠季のバイト先って泉岳寺近辺なんですよね、近所なので散歩に行ったついでに、探してみました(ナニヤッテンダロネー?)。
3.葵佐和子「寒椿」
『小JUNE』(二、四月号)
やくざと兄弟モノのミックス。テレビドラマばりのスピーディーな展開が気に入ってます。特に前半がいい。後半、ちょっと尻切れトンボで、あの組み合わせとか、こういう組み合わせとかやってくれないのん???とちょっと不満が残りました。きっと続編がかかれるに違いないと,首を長くして待っているところです。
4.佐和田知生「天使の写真」
『小JUNE』(十月号)
少年のヒト夏のいけない体験を描いたもの。どことなく臨場感が感じられて堪能しました。こうやって、青少年は道をはずれていく…… 端正な初体験ものだなと思いました。
5.つきひろともる「Noble White」
『大JUNE』(七月号)
野球部を舞台にしたレイプ救済モノ。さかりのついた先輩たちのレイプと、クールな医師の「治療行為」がなんとも不思議な対称を形作るストーリイ。典型的な物語ですが、このテーマには何度読んでもあきないアレゴリカルな魅力があると思います。

やおいカルチャー全般では、

といったところでしょうか。凡庸な趣味ですんません。

以上です、編集長。(←凡ちゃんの口調で)


by 高橋陽子

1.桑原水菜「炎の蜃気楼シリーズ」
集英社 コバルト文庫
怨霊征伐を行い、闇戦国を戦う話のはずが、総指揮者景虎(高耶)と、片腕ともいうべき直江(橘、開崎)との愛憎劇になってしまったこの話。最近は、風魔の小太郎も混じえて、三角関係かもしれないけど。つたない文章力と、構成力を補ってあまりあるパワーがすごい。このパワーにひきこまれたら最後、みんな直江といっしょにまわってしまいます。
2.秋月こお「富士見二丁目交響楽団シリーズ」
角川書店 ルビー文庫
初出は小説JUNE。気づいた時には、1話目が終わってて、ちょっとくやしかったけど、あとはまあほぼパーフェクト。クラシック、バイオリン、楽団と、なかなかジュネ心をくすぐる小道具が揃っていて、はまります。
3.鹿住槇「空に還る風(1・2)」
青磁ビブロス ビーボーイノベルズ
平八郎天下御免シリーズにすればよかったかもしれない。何年か前、小説JUNEに、まず「平八郎天下御免」が連載されていた。このシリーズはちょっとハードな展開もあるが、彼女の持ち味は、ほんわりとやさしい、ほのぼのしたところ。花丸ノベルズ「タンポポ色の風」は、そんなやさしい話で、この他の作品もおすすめです。
4.山藍紫姫子「THE DARK BLUE」
角川書店 ルビー文庫
他にもっといいと思う作品があるんだけど、今年度の作品ではないので、惜しいところ。吸血鬼もので、同人誌で出ていたものに、一作、追加されたので、少し趣が変わった。
5.新田一実「霊感探偵倶楽部シリーズ」
講談社 ホワイトハート文庫
妖怪退治もの。シリーズ3作目までと、それ以降ではイラストが変わっているので、感じが違うが、笠井あゆみの方があってるかも。はっきりジュネではないが、霊に取り憑かれたことにより、妖しいふんいきがある。

川原つばさとか吉原理恵子とか、入れたかったのに残念でした。


by 菊池鈴々

1.秋月こお「富士見二丁目交響楽団シリーズ」
落ち込み癖のあるバイオリニストと思い込みの激しいコンダクターの、愛のハーモニー(爆)。「ブラボーです諸君」なーんて芝居がかった台詞まわしもインパクトあり。連載は新キャラも続々投入でまだまだこのさき盛り上がりそう。
2.栗本薫「終わりのないラブソング」
角川書店 ルビー文庫
これもJUNEの連載。一応、第一部完、ということで終わった。少年院を脱走し、ヤクザにしかなれない竜一と、世の中に対する協調性がやっと芽生えたばかりの双葉のふたりでは、恋や愛だけではどうにもならない、ねっとり重い空気をふり払えない。男と男の恋愛をファンタジーとして扱う作風が多い昨今では、むしろ、異彩をはなっているといえる。家族の呪縛から楽にしてくれた精神科医や、実父の暴行から立ち直ろうとする少女、双葉の面倒をみてくれたオカマバーのママなど脇をかためるキャストが秀逸。
3.双海眞奈「闇のうつつは」
茜新社 オヴィス・ノベルズ
若きフリーカメラマンがある日、少年院の前でたたずむ少年を見てとっさにシャッターを切る。数日後その少年を輪姦から救ったのが縁で同棲生活がはじまる。少年につきまとうアヤシイ男や少年院にいるという兄の話など、なかなかメリハリのあるドラマ仕立て。一番のポイントは強気な口をきくわりに脆い少年のキャラクターかな。
4.ふゆの仁子「engageII−君だけを愛す−」
青磁ビブロス ビーボーイノベルズ
芸能人と広告代理店の腕利きさんの、すれちがったり仲直りしたりのべた甘ドラマ。背負った過去もなんのその、あなたたち相思相愛なんだから、もう勝手にしてよーってな、いちゃいちゃぶり。
旅行先のミラノの大聖堂の中でHにおよぶところなんか、かなりキテる。私も一度だけミラノに行ったことがあるので、その大聖堂の中に入ったし、屋上にも登った。かすかな記憶をたどって「懺悔室ってあのへんかな、あんなとこで…」とついつい、いらんことを考えてしまった(笑)。
5.くりこ姫「さあ元気になりなさい。(3)」
新書館 ウィングス・ノヴェルズ
ふたつの男子校のカワイイ&カッコイイ男の子たちの、にぎにぎしくも切ない恋物語の中・短編連作シリーズ。
奇跡のような美形で頭よくて意地っ張りで不器用で自分の魅力をいまいちわかっていない「武田(兄)」と、常軌を逸したイイ男で暗い過去があるとはとても思えない包容力のある頬にキズある大阪弁のあんちゃん「新垣」の出会い編が載っているので、あえてこの第3巻を選びました。おぼけをかましてもかわいさ倍増の武田(兄)がいじらしいもんで(笑)。

他にも、パワーにバラつきがあるけど斑鳩サハラとか、同人誌の方がHでいいぞ倉科るりとか、はやく「天にとどく樹」の続きをだしてくれよ吉田珠姫とか、ひいきはたくさんいるざんす。いいだしっぺは自分なのに、5作にしぼるのに苦労して、うーうーうなってしまいました。「シブ知」と「バカパク」のどっちを上にするか、悩んだんですこれでも(笑)。


by 駿河絢

好みとしてはやおいよりJUNEなはずだったのですが、小説道場も終わってしまった現在、やはりやおいの世界に埋没しようかと思う今日このごろです。

1.秋月こお「富士見二丁目交響楽団シリーズ」
第二部がスタートし、どう続けて行くのかが非常に楽しみだったのですが、現在小JUNEでは最も安定して読めるシリーズとなっています。二人でいられて良かったね、で終わらないところがこの作品の魅力でしょう。
2.栗本薫「終わりのないラブソング7」
1位と対象的な真っ暗さがお気に入りのこのお話は、「コミュニケーション不全症候群」での作者の主張が物語として展開されていると思います。親から愛されなかった子供が他人を愛そうとする気持ちを持つことや親から解放されようともがくさまが、最も色濃く書かれている巻です。
3.桑原水菜「炎のミラージュシリーズ」
一時期下がりつつあったテンションを回復し、コバルトとは思えない激しい男同士の愛情を書き続ける桑原水菜には本当に頭が下がります。上手くないけどとにかくパワーで押しまくる、という書き方がここまで続けられるのは、やはり才能と言うべきでしょう。
4.桜木知沙子「札幌の休日シリーズ」
白泉社 花丸ノベルズ 家庭に事情を抱えた少年が、大学で出会った男の友人を好きになり、様々に思い悩む、と書いてしまえば身も蓋もないストーリーなのですが、JUNE風味青春成長小説といった感じのお話です。主人公が少しずつ自分を解放していく様を丁寧に書いているところに好感が持てます。
5.川原つばさ「ゴールデンルール4」
角川書店 ルビー文庫
あなた達いい加減にしてー、と叫びたくなるときもあるいちゃいちゃべたべたカップルのお話ですが、この巻は深刻に暗雲が立ちこめてしまうところがあって、どきどきものでした。川原つばさの「ココアに砂糖100杯!」の甘さがたまらない私にとっては、この先も書いてほしかったというのが正直な感想です。

この業界全体に関して最も衝撃的だったのは中島梓の小説道場の終了でしょう。
私がこのジャンルに転ぶきっかけになった人であり、最も影響を受けていただけに、ショックでした。前々からJUNEの作品群がずれてきているのは感じていたのでやはり、と思ったのですが、実際に行動を起こされてしまうと悲しいものがあります。こうして変わっていくんだなあ、としみじみしてしまいました。
あとは、ミステリ関係の作品のやおい度がばんばんあがって、ぱふで特集されてしまうとか、それくらいでしょうか。同人作家の商業誌デビューやノベルズの乱立は’95に始まったことではないですが、激化した感もあります。
映画では「カストラート」の兄弟とヘンデルの間の執着がどろどろしててとってもJUNEでした。


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