風 日 好   ・・・ 今日は日和がよいけれど、明日はそうではないだろう

     2006年4〜6月                     Top Page  過去の「風日好」


   4月某日  いまどきは

 「・・問題の若年失業率は、いちおう好転中だそうですね。ただし、正社員率は低落化の一方だそうですが。
 「いまは即戦使い捨ての時代ですからね。正社員との格差拡大と引き替えの失業率好転に過ぎません。例のフランスの法案が思い起こされますね。
 「・・と、まあ、そういうことは、確かにその通りだと思うのですけど、ただもうひとつ。内田氏も、いわゆる<自分さがし>ということばに触れていましたが、<いまどきの若者論>の中には<自分>というのがよく出てきますよね。例えば、連中はせっかく就職しても、<自分>にあってないと思うとすぐ辞めてしまう・・とか
 「・・この前にもいいましたけど、だいたい<いまどき>という以上は、じゃあんたがいう<昔>ってえのはいつのことなんだい、という問に答えてもらいたいですね。漱石の・・『それから』でしたかね。働かないパラサイトがいたでしょう。大学を出て何もしないでぶらぶらしている。兄貴が銀行の頭取か何かしていて・・
 「また古い話ですねえ。
 「・・大体近代小説は、内海文三ていいましたっけ?仕事をやめちゃう男からはじまるのですからね。悩まないと近代小説にならないし、悩むような人間はまともには働かない(笑)。
 「で、たいてい敵役というか対比される人物として、いわゆる俗物がいて、互いに相手を馬鹿にしている。・・いまどきの若い者の周辺にもありがちな構図ですね。
 「自分が相手を馬鹿にするだけじゃなく、逆に自分も相手から馬鹿にされてると、お互いに感じている・・。そういえば、昔の専業主婦と共働き妻の関係にも似ていますかね。でもまあ、この程度の心理的対立なんてものは、正直いって犬も喰わない程のものでしょうけど。
 「そんな。高見の見物みたいにいっちゃ、また批判されますよ。
 「じゃ取り消し(笑)。・・ともかく、<自分>というやつを確認させてくれるのは、世間というものの一角で生活しているという実感なんで、平たくいえば結婚して就職して、つまり食って寝ることできて一人前というわけですね。だから近代になってからの<自分>に関する悩みも、結局恋愛と就職ですね。大正になっても、例えば「三太郎の日記」っていうベストセラーなんか、就職のことでもう悩みに悩んでますよ。自分にあった職業は何なんだろう、適当に就職すると自分を売るようなことになるし・・とか何とかね。そういえば白樺派ね。あれも結局、身も蓋もなくいってしまえば、フリーターで<自分>を生かしたいっていう、ほとんどそれだけのことだともいえますよね。
 「いや、それはちょっと無茶なまとめ方でしょう。
 「おっしゃる通り。もともとその程度の粗雑な茶飲み話ですがね(笑)。
 「自分を生かす場は、例えば芸術とか政治とかもあるじゃないですか・・
 「まあでも、絵描きも武士も桶屋も、平たくいえば職業、といって悪ければ生活点ですしね。・・職業革命家なんてのは、さしずめフリーター・・
 「ほら、誰かさんになってますよ(笑)。
 「や、光栄ですなあ。でも、まずい(笑)。やめましょう。・・で、何の話でしたっけ。
 「いや、別に特別の話題があったわけでは・・
 「私は経済のことは全く分からないので、何もいえませんけど・・とにかく、景気や産業構造の変化に対応する労働力市場の調整プールが山谷や釜ガ崎にとどまらなくなったというのが、今の事態なんでしょうね。
 「いま構造改革と呼ばれているのは、実に弱者を犠牲にしたものでしかないですが、確かに構造的な変化を背景に、例えば後継者難と就職難が同時進行し、過疎と過密が同時進行しています。現状のままでよいとは誰も思わない・・
 「というわけで、<変えるんだ!>といっただけで、バカウケしてしまうんですね。
 「ここ最近は<景気回復>とかで、それがほんとかどうかは私には分かりませんが、とにかく、そういわれるものだから、批判の声も大きくならないみたいだし・・
 「でも・・もしほんとに<回復>といわれるようなことがあるとしても、最初にいいましたが、非正社員率がどんどん上がって来ていて、彼らの労働条件、雇用条件がものすごく悪い。彼らを踏み台にした、広くいえば格差拡大と引き替えの<回復>でしかないんですがね・・
 「でも新聞なんかでも、回復だ回復だなんて見出しだけが一面にあって、踏み台構造つまり格差拡大の現状は、まともにとりあげられないですね。・・それでも最近は、さすがにフリーターとかニートとかいわれる<いまどきの若者>についても、生活の実態が、社会面なんかで少しずつ取り上げられるようにはなりましたけど。
 「そういうことからいうと・・<いまどきの若者>は<学ばない、働かない>とか<不快感のかたまりだ>とかね。そういうように、社会問題を心理問題化して来た連中の犯罪性がありますね。
 「・・でも、それなら、ごく一部の<高等遊民>の悩みと<いまどきの>貧しい若者たちの悩みを一緒にするのも、まずいんじゃないでしょうか。・・
 「いや、それはあなたが<自分さがし>なんてものを話題に持ち出したからですよ(笑)。・・とにかく、当事者にしても第三者にしても、心理問題は犬に食わせる程の議論にすぎないと思いますけどね。
 「またそんなことを・・第三者はともかく当事者は大変なんですから・・

   5月某日  警察ですが・・・

 「もしもし・・
 「・・はい、山田ですが。
 「だめよ・・それは・・
 「なんや、花子か。・・突然、何がだめなんや。びっくりするがな。
 「だから、すぐ名前いっちゃダメでしょ。最近は危ないんだから。
 「ああ、あれか。例の、オレオレ詐欺・・
 「大阪じゃオレじゃなくてワシじゃないの?<おう、ワシやワシ・・>
 「それやったら、脅す方やろ。清原やないんやからな。
 「・・まあ、最近はオレオレ詐欺っていわないで、振り込め詐欺というらしいけどね。
 「しかし、何やな・・あんだけテレビで取り上げられてんのに・・いまだに騙されるもんがおるらしいなあ。
 「いろいろ新手を考えてくるみたいね。ご主人が痴漢で逮捕されまして・・・とか。
 「・・なこと突然知らん人からいわれて、奥さんが信じるちゅうんが分からんわ。
 「知らない人っていっても、警察とか弁護士とか名乗るらしいのよね。だからつい・・
 「警察やちゅうだけで信用するか? そんもん、大阪の人間やったら、よけい身構えるで。
 「そういえば、大都市を比較したら、大阪の振り込め詐欺の被害は、ダントツに少ないらしいわね。全国平均の8分の1とか9分の1とかだって。
 「大阪のオバチャンは、テレビの公共広告にも出た位やからね。・・東京とは違うわ。
 「確かに、東京は、大阪とは逆に、ダントツに被害が多いんだそうよ。全国平均の3倍位。
 「そりゃまあ、人口が多いから、騙されるもんも多いんやろけど。
 「ううん、今いったのは、1件あたりの人口比較なのよ。去年の発生件数を比べたら、もっと差が開いて、東京は大阪の30何倍位とか・・
 「はあ〜、それはまた東京は騙され過ぎやなあ・・
 「とにかく、全国の被害の4分の1程を、東京が引き受けてるということらしいわね・・
 「どういうことやろねえ
 「大都会だけに、外に出てる家族が何か事件にあうんじゃないかという不安が、他より強いのかなあ・・
 「それもあるかもしらんけど、・・何しろ東京の人間はシンタロウ様々やかららなあ。とにかくオカミに威張ってもらいたがってるんやないの? 強い知事に頼ろ、警察に頼ろ弁護士に頼ろ、ていうことで日頃やってるんで、<警察です>なんていわれたら、それだけでもう信用服従モードに入るんやない?
 「う〜ん。そういえば、大阪の人はノックさんに投票したんだよね。
 「ノックさんは、ホンマに痴漢で捕まってしまいよったけどね(笑)。
 「そうだったわねえ。でも、子供を産まない女は無意味だなんていったシンタロウは、ある意味もっと<女性の敵>なんだけど。
 「・・痴漢は女性の人格否定やちゅういい方を裏返したら、シンタロウの女性の人格否定は痴漢や、ともいえるわな。
 「でも、ノック知事は辞めさせられて消えちゃったけど。だけどシンタロウ知事には、みんなほとんど怒らないのよね・・・
 「ほんま・・東京の人間はわけ分からんわ。・・それはそうと、何か用事あって電話して来たんと違うんか?
 「あ、そうそう。・・それが、ちょっと話のなりゆきで、いい難いんだけど・・シューカツ資金が、その・・
 「お〜い、オバチャン、電話代わってくれ〜。振り込め詐欺や〜(笑)。

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