風 日 好   ・・・ 今日は日和がよいけれど、明日はそうではないだろう 

     2006年7                     最新記事  過去の「風日好」  contents一覧    


謹告 この雑文日録は、8/13から、下記のブログに引っ越しています。よろしければご訪問ください。
      


   7月某日  何だかねえ

 ● 「またまたバッシングですねえ・・」
 ▼ 「って・・村上ファンド?・・はもう古いし、・・日銀総裁ですか?」
 ● 「いえいえ、彼らには擁護や弁護が一杯ありますよ。そうじゃなくて、安田弁護士ですけど。母子殺害事件の上告審の・・」
 ▼ 「ああ。あの山口の事件ですね。」
 ● 「そうです、そうです。」
 ▼ 「まあ、どんな凶悪犯でも弁護するのが弁護士の仕事ですけど・・。でも、家族の気持になってみれば、いまになって<殺すつもりじゃなかった>なんていわれるとねえ・・」
 ● 「でも・・『東京新聞』の記事で安田弁護士が取り上げられていると教えてくれる人があって、見たのですけどね。あの人は、徹底的に事実にこだわって、人権を守ろうとする、非常に真面目で優秀な弁護士だそうですよ。上告審で急きょ頼まれて担当弁護士になって、それで改めて事実関係を調べてみると、とにかく全ての出発点でなければならない筈の事実認定に大きな問題が残っていると気付いた、ということらしいですね。」
 ▼ 「そうなんですか。」
 ● 「それで、量刑の問題以前に事実誤認の疑いがあるということを、テレビを通じてアピールしようとしたのでしょう。」
 □ 「まあしかし、裏目に出ましたねえ。・・世間というのは事実より感情で動きますからね。酷いヤツだ、死刑しかない、という感情がもう出来上がっていたところへ、情状酌量ならまだしも、事実が違うっていったもんだから、いまさらそんな言い逃れ・開き直りを代弁する弁護はけしからん、となったのでしょうね。」
 ● 「そうですねえ。」
 ▼ 「でも、安田弁護士の方も、口頭弁論に欠席したりしたのでしょう。死刑廃止論者だから、とにかく死刑にさせないように、いろいろ抵抗してるのだっていう声もありますし。」
 ● 「いえでも、欠席問題も、むしろ最高裁の方に問題があるらしいですよ。」
 □ 「まあ、日頃から<不埒>な弁護士ということなんでしょうからね。ありそうなことですわな。」
 ● 「・・とにかく、復讐したいという被害者の気持も分かりますし、世間の同情も当然ですけどね。でも、それだけじゃ仇討芝居ですし。・・・近代法治主義というのは、暴力と感情の支配する殺し合いの連鎖を越えようとして、人類がようやく辿り着いた秩序維持システムですからね。一時の感情で、事実と法にのみ従おうとする法曹人の職業倫理がバッシングされるようでは、司法の危機ですよ。」
 ▼ 「一時の感情で裁いちゃいけないのは分かりますけど・・でも、裁判は法曹専門家だけが議論する場所で、一般市民は口を出せない、被害者さえも口を出せない、というのもおかしいじゃないですか。」
 ● 「いえ、もちろん被害者の人権尊重とか支援とかは大事なことですけど・・」
 ▼ 「復讐はいけないみたいないい方されましたが、でも、もともと犯罪というのは、いってみれば、社会的な利害関係の網目に加害と被害のアンバランスが生じるということでしょう。それを平衡に戻さねばならない。それが司法の基本だということで、法の女神は秤をもってますよね。・・・確かに、あなたのいわれるように、近代法治主義では、被害者側が加害者に対して私的に報復するということが禁止されて、犯罪者を処罰する権限は司法の手に委ねられましたがね。それは、社会的平衡の回復つまり処罰を、いうならば被害者に代わって、公権力の手で、公平にやろうということでしょう。だから、被害者そっちのけという、これまでの司法のあり方がおかしかったんですよ。」
 ● 「そこが全く違うんです。近代法治主義というのは、報復原理の否定の上に成り立ってるんですよ。・・乱暴にいえば、被害者そっちのけでいいんです。」
 ▼ 「それはおかしいじゃないですか!」
 ● 「いえ、どういえばいいでしょうか。・・・つまりですね。起こった事件そのものの次元では加害者があって被害者があるわけですが、でも、刑事裁判では、被告を告発して法廷で対決するのは被害者じゃありません。」
 ▼ 「だからそれは、いわば被害者に代わって・・・」
 ● 「いや、代わってじゃなく、近代法治主義では、被害者はもともと当事者ではないんです。」
 ▼ 「それがおかしいっていうんです。」
 □ 「・・・いやまあ、それはある意味彼女のいう通りでして・・・つまりその、法治主義っていうのはあくまで<法>が命というか、だから裁判で裁かれるのは、行為の<違法性>なんですね。・・いうならば、泥棒がケシカランというより、泥棒するなというお国のキマリを破ったのがケシカラン、ということですわ。
 ▼ 「なんか屁理屈のような気がしますが・・」
 □ 「まあ、そうかもしれませんなあ(笑)・・。」
 ● 「いえ、屁理屈じゃなく、それが実体ですよ。」
 ▼ 「う〜ん・・、司法システムが、国法を守らせることだ、つまり法を通しての国の支配だということは、それはその通りでしょうけど・・。
 ● 「だから違うんですったら〜。<法を通して支配する>んじゃなくて、支配っていうなら<法>が支配するんです。例えば<法によらないで逮捕されない>という近代法治主義の原則をとると、それは国民にとっては権利であって、法は支配者の手も縛るのです。」
 ▼ 「いや、あなたの方こそちょっと誤解してますよ。私は、<法を通して誰かが支配する>とはいってませんよ。いうならば、国家というものがはじめて抽象的な人格になるって、そういうことをいいたんでしょう? だから私も、そういう<国家が>支配するっていったんです。」
 ● 「それならいいです。すみません。」
 □ 「 でも、実際には、抽象的な法人格なんて現実にはありませんからね。やはり、いずれかの社会層が支配するわけですわな。」
 ▼ 「とにかく、元に戻りますけど、法治主義国家だから被害者も口出すな、というのは、そのような法の支配を全面的に認めろということになるわけですか?」
 ● 「そんなこと、全然いってませんよ。・・私は安田弁護士へのバッシングはおかしいといいましたが、それは、現在の日本が曲がりなりにも到達している近代法治主義の次元から、前近代的な私的報復の次元に戻ってはダメだといったんです。・・でも、後戻りはダメというのは、現在が完全だということでは全くありません。例えば現在の刑法は、決定的に遅れた面をもっています。・・・あなたがいわれたように、安田弁護士は死刑廃止論者ですが、私も死刑のあるいまの刑法は改正すべきだと思ってますしね。」
 ▼ 「どんな凶悪犯でも死刑にはするなと・・?」
 ● 「そうです。・・国家が人の生命を左右するということに反対です。死刑は廃止すべきだと思います。」
 ▼ 「現状じゃダメですよ。数年で出てきたりするんだから。」
 ● 「それはまた別問題です。」
 □ 「・・あのですね。死刑廃止の論拠にはいろんなことが挙げられでますよねえ。例えば冤罪があった場合取り返しがつかないとか、抑止力にはならないとか、その他いろいろ。でも、いまのお話しだと、あなたは、そういうことではなく、国家が人の生命を左右することに反対だ、というわけですな。」
 ● 「そうです。」
 ▼ 「じゃ、凶悪犯はどうするんですか。」
 ● 「それは、矯正による更正を待つのです。犯罪者といえども基本的人権をもっています。死刑というのは、国家による人権の抹消です。そういう考えは、遅れていますよ。」
 ▼ 「死刑があることが、遅れているっていうんですか。」
 ● 「そうです。西洋先進国では、死刑廃止の流れが進んでいます。いまなお死刑を残している先進国は、アメリカと日本だけなんですよ。」
 ▼ 「そのいい方は、ちょっとひっかかりますねえ(^_^;)。」
 □ 「・・・いやまあ、どうもその、西洋先進国というのは、進んでいるといい条、もうひとつ分からんところがありますな。大体、戦争というのをするでしょう? 人を殺しても人に殺されてもヨウヤッタなんていうわけですよ。ところが殺人事件はケシカラン、というのは法律でイカンと決めてるからだ、ということでしたな。ところが、死刑については、それを法律で決めることがイカンのだ、というわけでしょう。お国が戦争するのはいいけどお国が死刑をしてはイカン、というか、まあ少なくとも、戦争はやめないけど死刑はヤメた、というのですが、そこのところが、もうひとつ分かり難いですわな。」
 ● 「いえ、もちろん、私は戦争も絶対反対です。戦争も死刑も・・・」
 □ 「まあ、あなたはそうでしょうけど。でも、大抵の<進んだ>先進国では、国として、戦争は廃止しないまま、死刑はイカンと廃止しちゃってるっていうんでしょう。」
 ● 「ま・・・それはその・・・小さいことからコツコツと・・(^_^;)」
 □ 「・・あなたがその台詞をいうとは意外ですなあ(笑)。」
 ▼ 「あの・・・ちょっと、キヨシ師匠に聞きたいのですけど(笑)、・・・近代法治主義っていうのは、法に対する違反<行為>があったという<事実>を問題にするのでしたよね。だから、被害者の感情なんかも、さしあたり敢えてファクターから外して・・・」
 ● 「ま、そうですね。」
 ▼ 「ところが、さきほどは、死刑をやめた場合凶悪犯はどうするのかということで、矯正とか更正とかいわれましたよね。それは、感情とういか、少なくとも<心>の問題じゃないですか。」
 ● 「それはですね。・・・誰がどういうことをしたという事実、裁きの出発点である事実認定までは、あくまで客観的な事実として・・」
 ▼ 「いや、出発点じゃなく、報復感情などが裁判に入っちゃいかん、事実を法にだけ照らして裁かれるべきだ、といわれましたよ。」
 □ 「・・まあ、何を裁くのかと、どう裁くのかという、この二つの関係は、ちょっと面白い問題ですわな。面白いなんていっちゃ不謹慎ですが。」
 ● 「え〜っと・・確かにまあ、何が起訴されて裁判に持ち込まれるのかというと、あくまで違法行為があったという<事実>ですが、一旦裁判になると、動機とか情状とか反省とか矯正可能性とか、まあ感情というと狭いですが、心の問題というか、それが問題になりますね。・・困ったなあ(^_^;)。まあ、回りは感情で裁いちゃいけないし、被害者の報復感情もよろしくないけど、被告本人は<心情>を大いに問題にされる・・・と、まあいうことでしょうか。」
 □ 「ちょっと回り道なんですけど・・・いま<行為>の<事実>っていうのを聞いて思い出したんですけど、こういう話があります。・・・え〜っとですね。侍の子弟が藩校の帰りか何かで侮辱されて、今でいえば未成年の喧嘩ですけど、悪いことに刀を差している。で、斬り合いになって相手を斬り殺してしまった。そこで彼は家に帰って母に一部始終を話すのですが、それを聞いた母刀自は、いや別に刀自である必要はないのですが(^_^;)、ここで切腹しなさいという。<お前は悪いことをした>というんじゃないんですね。ある意味逆です。もし侮辱されながら黙っておめおめと帰って来ていたら士道が立たない。もし斬り合いになって不覚を取っていたら武士の名折れだ。だから、天晴れな息子なんです。だが、というか、だからこそ、相手を斬ったという行為の事実に対しては、死という行為の事実でもって償わねばならない。そのことで、天晴れが完成するわけです。・・・もちろんこの場合、母は息子を差し出して、他ならぬ<家>を守ったわけで、困った天晴れですし、実際には、こんなきれい事というかお話通りのお話しはなかったでしょうな。でも、比較のために、こういうエートス社会は想定可能じゃないでしょうか。・・つまり、行為の事実が行為の事実だけで償われる。そこで、動機だの反省だの更正可能性だのいってると、それは恥ずべき<言い訳け>でしかないわけですな。」
 ▼ 「前近代は感情で動くのに対して近代法治主義は事実だけが基礎だ、という話から始まったわけですが、西洋近代こそ行為の事実と動機や反省という情意世界の間ですっきりしていないですね。」
 ● 「まあ、それはそうですが、それは・・・西洋人にとって償いとは何かとか、それより罪とは何かというような、大きな問題になってゆきますからねえ。ちょっと簡単には・・・」
 □ 「そうですなあ。ちょっと休憩しましょうや・・・」

 >  7月某日  何だかねえ2

 ● 「香りがいいですねえ・・でもちょっと私には濃すぎますけど(^_^;)。」
 □ 「・・そうですかねえ(^_^;)、私は先日あなたが点てて下さったお茶が大変濃かったので、あなたは万事濃いのがお好きかと思ったのですが・・・(^_^;)。」
 ▼ 「目には目を、ですか(笑)。」
 ● 「報復は野蛮です(笑)。」
 □ 「いや、報復なんてとんでもない。好意のお返しですよ(笑)。・・それに、目には目をってのは<報復>の原理じゃなく、むしろ同等の<償い>という原理です(笑)。」
 ▼ 「でも何だか、<目には目を>だ報復だ野蛮だあの宗教は・・・なんていういい方が、よくされますよね。」
 □ 「まあそうですな。・・・歴史的には、例えばどちらが異教徒に寛容だったかいう点でも、イメージとは違うんですがね。」
 ▼ 「今でも、何かというとすぐに無茶苦茶な<報復>爆撃とかするのは西洋先進国ですしね。・・・もちろん<報復>は彼らの方だけじゃありませんから、西洋先進国<も>というべきでしょうけど、・・・でも、とにかく彼らは強大な力をもっていて躊躇しませんからねえ。」
 □ 「そういえば、アメリカは死刑があるわけですが、<報復>をばんばんやってるイスラエルは、自国民に対する死刑はどうなんですかなあ。」
 ● 「ちょっといま、コーヒーを煎れてもらってる間にパソコンを借りて探したら、このページがあったんですけどね。・・・えーっと・・・死刑は人道上残酷な刑罰だということで、廃止の動きが国際的に高まり・・・国連でも「死刑廃止条約」が採択された、と。もちろん日本は反対したのですが。・・・それで、えーっと、死刑制度を撤廃したり、事実上停止している国が、西洋諸国を中心に増えているんですが・・・ちょっと待ってください。・・・ああ、イスラエルは、イギリスもそうらしいですけど、軍とか戦争とかに関する犯罪を除いた普通の罪について死刑を廃止しているらしいです。」
 □ 「はあはあ。やっぱり戦争は別なんですな。・・戦車で押し掛けていってドカドカ大砲を撃って何の罪もない子供たちを殺しても、<人道上残酷>だからやめよう、とはならない。でも重い罪を犯した者でも、自国民を死刑にするのは<人道上残酷>だからやめる・・・。」
 ● 「・・・その国連の条約でも、こう書いてあるみたいですね。えー・・・第1条の1、この選択議定書の当事国の管轄下にある者は、何人も処刑されることはない。」
 ▼ 「つまり、<人道上>といいながら、自分の国の<管轄下にある者>だけなんですね。他国民は殺してもよい、と。」
 ● 「まあ、<処刑>ということばを使えば、それができるのは自国の国民だけですけどね。」
 □ 「とにかく・・・自国外では子供でも何でも容赦なく殺しながら、自国内での死刑は人道上問題があるという辺り、西洋人の<人道>というのは、もうひとつよく分からんですな。」
 ▼ 「死刑のある日本は遅れているといわれましたが、でも日本は、少なくとも建前上だけとはいえ、戦争はやめてます。」
 ● 「いえ、もちろん、死刑も戦争も、ともに非人道的ですよ。ともになくしてゆかねばなりません。それに私は、日本が全て遅れてるなんて全くいってませんよ。憲法9条は、人類に誇るべき宝です。」
 □ 「いやまあ、どうもその・・・自分から言いだして何ですが、そういう話は、大ざっぱとうかきれい事だけになりますからやめましょうや(笑)。・・・私が分かり難いといったのは、一方では敵は殺せと単純な理屈でやってながら、死刑はやめるというときの、その理屈なんですけどね。」
 ▼ 「だから私もさっき聞いたんですけど。死刑はやめて、矯正と更正・・・? でしたっけ?」
 ● 「確かに、そういいましたけど・・・。」
 ▼ 「<敵>となるとミサイルでも鉄砲でも撃っちゃうのに、悪人は更正させるわけですね。・・でも判決のときはまだ更正していないわけでしょう? だからまあ、更正する猶予を与えてやる、とか?」
 □ 「多分、背景には、<悔い改め>る者には<宥し>を与えるという、例のやつがあるんでしょうな。」
 ● 「まあ、神学上の話は全く分かりませんけど、確かに、更正するとは、自らの罪を悔い改めて、赦される存在になることでしょうね。」
 ▼ 「ということは、例えば<懲役>10年っていっても、10年間<懲らしめ>てやろうというのじゃなく、この男はかなり悪いことをしたから、悔い改めるには10年くらいかかるだろう・・・とか?」
 □ 「でも、赦すのは、誰なんでしょうな。いやもちろん、背後には神さんがいるのでしょうけど、こちら側の世俗世界で、10年で赦してやる、とかいうのは。」
 ● 「それはもちろん表面的には、司法を司る、というと馬から落ちて落馬する問題外のソトですけど(^_^;)、・・とにかく国家だということになりますね。」
 □ 「ですわな。しかしですねえ。その10年というのは、被害者も関係あるのかもしれません。」
 ▼ 「え? 被害者ですか?」
 □ 「被害者というか被害者側というか。・・つまりですね。犯罪者は、その10年の間に、心から悔い改め、更正して出てくる筈だ、と。もちろん、あくまで<筈>の話ですよ。ところがそのとき、被害者の方が復讐心を持って待ちかまえているとまずいですわな。・・・ということで、被害者の側も、その10年の間に、赦す心境に変わるように、と。」
 ▼ 「それはまあ、そうなってくれれば、一件落着、結構なことですけどね。」
 □ 「ある意味、虫のいい話、ということでもありますわな。」
 ● 「それはちょっと意地悪ないい方でしょう。罪を犯した者が反省して更正する、被害者も報復心を克服して赦す、というのは、理想的な社会のあり方じゃありませんか。」
 ▼ 「・・・被害者だけじゃないですね。世間の人々も、報復しろ〜なんていう感情的反応を恥じて、赦す心境に達した被害者に感服し、自分たちもせめて更正した元犯罪者の社会復帰を助けるべきだなあ、などと考えるようになる・・・。なるほど、確かに、大変結構な社会ではありますね。」
 □ 「それはそうなんですが、私が虫のいい話といったのは・・・どういえばいいか、いわば親からみて、ということなんですわ。・・・つまり、親の方から見てみるとですね・・・親というのは権力というかシステム管理の側ということですが・・・、例えば姉が弟の頭をポカリとやって弟が泣きながら姉に殴りかかろうとする。そこで親が出ていって、「馬鹿!」といいながら姉の頭をポカリとやって終わりにしようとする。・・・のですが、まあなかなか実際は難しい。姉の方は「何で私を・・・。弟が悪いのに・・」などといったりするし、弟は弟でなお憤懣やる方なく姉に殴りかかろうとしたりする。そこで、「も〜っ、二人ともやめなさいっ! お母さんのいうこと聞けないのっ!」
 ● 「ちょっとちょっと。なんで私の日常を知ってるんですか(笑)。」
 □ 「いえいえ、とんでもない。一般論です(^_^;)。・・・とにかく、何といいますか、力と威厳による支配というのは、ことほど左様に、大変ですわな。」
 ● 「力はともかく、威厳のないこと甚だしいのは認めます(笑)。」
 □ 「いやいや一般論ですよ(^_^;)。・・・だから、できれば、姉がはずみで弟をポカリとやったとしても、母親がひとこといえば、姉は反省し弟は赦すという、そういう具合にゆけば、それに越したことはありません。」
 ● 「それはもちろん理想的なんですけどね〜・・・(^_^;)。」
 □ 「親にとってはね・・・」
 ● 「いえ、子供にとっても、平和な家庭で、いいじゃないですか(^_^;)。」
 ▼ 「ただ、そのー・・・弟としては、ちょっとつらいところもあるかもしれませんね。お姉ちゃんにポカリとやられて悔しい。でも赦さなかったら、今度はあなたが悪い、と叱られそう。」
 □ 「ですわな。多分。・・・つまりですねえ。お姉ちゃんにポカリとやられて悔しい、殴り返したい、というのを原初的な心身反応としておきましょう。あるいは原初的反抗といってもよい。」
 ● 「なんだか、急に固いことば遣いになりましたね(笑)。」
 □ 「いやまあ、趣味ですので(笑)、とにかくそう命名させて頂きますが、・・・ところがですな。それに対して、親が、つまり権力がですね、殴り返しちゃいけません、私的に勝手に行動しちゃいけません、と抑えにかかります。原初的反抗が、身体面で骨抜きにされる、というか権力に収奪されるわけですな。」
 ▼ 「さっきいったように、悔しいんだけど、殴り返そうとすると、今度は自分が親から叱られる・・」
 □ 「そうそう、でも悔しい。・・・ところがですね。いわゆる<理想の>関係だとどうでしょうか。殴り返してはいけないだけでなく、お姉ちゃんを赦してあげないといけない。つまり、悔しいという気持までもが、いまや叱られる対象になります。」
 ▼ 「え〜っとつまり・・・、身体の面で骨抜きにされた原初的反抗が、心の面でも骨抜きにされる、収奪される・・・と。」
 □ 「・・・で、それが結局、親の支配が進化したということだ、ともいえますわな。」
 ● 「・・一体、私に何をいいたいんですか(^_^;)。」
 □ 「いやいや。別にあなたに何も・・(笑)。」
 ● 「みんながお互いに反省しあい赦しあう社会・・・すばらしいじゃありませんか。」
 ▼ 「しかしそれは、・・・反抗的な身体も反抗的な精神も、あらかじめ骨抜きになっている社会・・」
 □ 「・・骨抜きというより、やはりそこにも権力はあるわけですから・・・もちろん具体的な支配<者>権力<者>ということではなく、どういうか、従わねばならないシステムですね、それがあるわけですから、もうちょっと複雑ですね。」
 ▼ 「ところで・・・、いまみた、反抗する身体だけでなく反抗する精神も骨抜きにされるって話は、ポカリとやられた方から見てのことだったわけですが、肝心のやった方はどうなんですかね。」
 ● 「もちろん、罪を犯した人も、やったからやり返されるという<身体の事実>の次元で処理されずに、<反省>という、いうならば<精神の事実>を強いられる・・・という話になるわけでしょうね。」
 □ 「<精神の事実>というのは、うまいいい方ですね(^_^;)。」
 ▼ 「で、近代西洋人にとっては、さっきいわれた侍の子のような行動倫理は、端的に野蛮なものだということになる、と。」
 ● 「・・・そういえば、何でしたっけ? 西洋人の前で切腹してみせた事件がありましたよね。西洋人がやめてくれ!っていったという。・・・なんて私の知識は全然ダメですけど(^_^;)。」
 ▼ 「・・? 何ですか、それは??」
 □ 「ああ、堺事件ですね。」
 ▼ 「え?どんな事件なんですか?」
 □ 「同様の事件に神戸事件というのもあるのですが、・・両方とも明治維新の年のはじめに引き続いて起こってます。・・・え〜っと、まあ簡単にいえば、西洋の軍人と日本の隊士との間にトラブルが起こるのですが、当時の力関係からすれば、日本側が責任者を厳しく処罰せざるをえないわけですな。・・・神戸事件では、隊長ひとりが責任を一身に引き受けて切腹します。ところが堺事件では、もうちょっと規模が大きかったので、20人ほどが切腹することになり、西洋人立ち会いの元に、従容として次々死んでゆくわけですね。で半分くらいになったところで、西洋人が、もうやめてくれ〜といったのかどうか、とにかく申し出により中止になった、と、確かそんな事件ですわ。」
 ▼ 「やっぱり、西洋人にとっては、実に<野蛮>に見えたのでしょうね。」
 ● 「野蛮かどうか知りませんけど、とにかく衝撃的だったでしょうね。身体的には実に凄惨で、ところが精神的には静謐な死・・・」
 □ 「そういう風に身体と精神を分けるところ、やっぱりあなた自身が近代西洋人ですな(笑)。」
 ▼ 「・・・え〜っと、それで、何の話でしたっけ? ・・・それにしても、切腹のシーンなんか想像したら、気持悪くなりました・・・。まあ私なんか西洋人以下ですから。・・・ちょっとまた休憩しましょうよ。」
 ● 「じゃ、今度は私が煎れます(笑)。」

   7月某日  何だかねえ3

 ● 「・・・なんだか今日は、ず〜っと私が批判されてるみたいな雰囲気ですねえ(笑)。・・・ま、<遅れてる>っていったのはちょっとまずかったですけど(^_^;)。・・・でも、やっぱり近代法治主義っていうのは、王様とか権力者が恣意的に処断する社会じゃなく、基本的な人権が守られる社会になってゆくための重要なワンステップというか拠り所ですし、・・・それに、罪を犯した人は反省し被害者は赦すことが期待されるっていうのは、報復社会なんかよりずっと住みやすい社会だと私は思いますけどねえ・・・」
 ▼ 「いや、それはもちろんそうですよ。」
 ● 「原初的反抗?・・・そういう観念を作ったり、郷愁をもったりするのは(笑)、男の人の発想ですよやっぱり。・・・なんていうとまた批判されそうですが(笑)」
 ▼ 「男の、ねえ。なるほどそうかもしれません・・・(^_^;)。」
 ● 「何かというと、昔の侍は潔かったなんて言いだしたり(笑)。」
 □ 「いやいや、そんなこといってませんけど。でも、参りました(笑)。・・・あのですね。私らは、あなたの掌があるので、安心して、その上でちょっいと遊ばせてもらってるだけなんですから。・・・誤解しないでください(笑)。」
 ● 「なんですか。今度はひとを馬鹿にして・・・(笑)」
 □ 「いえいえ・・・。例えばいま、郷愁っていわれましたよね。・・・ホラよくいるでしょう? 私らの子供の頃には蛍が舞い赤トンボが飛びイナゴが跳ねて・・なんて、<郷愁>を語る人が。・・・で大抵こういうんです。<今の子供たちは可哀相だ>、ってね。とんでもない! 私は絶対戻りたくないですな。食べようとすると蠅が群がり寝ようとすると蚊に襲われ蚤や虱に悩まされる・・・そんな時代に戻るのは真っ平御免ですわ。」
 ● 「それは私も同感ですけど、・・・でも、何をいいたいんですか?」
 □ 「だから、今日は、あなたが蠅蚤虱のことをいってくれているので、安心して、ちょいと赤蜻蛉のことを持ち出してみた・・・というだけの話ですよ。」
 ● 「何だかよく分かりませんけど。結局私を馬鹿にしてるんでしょ(笑)。ま、いいですけど。赦します、今日の主旨に免じて(笑)。」
 ▼ 「・・・ところで・・・これ、さっき配達されたばかりの夕刊(12日)ですが、2杯目のコーヒーを頂きながら眺めてたんですけどね。そしたら、たまたまここに、<修復的司法>の第一人者という人が来日したという記事が出ているんです。<修復的司法>って、私ははじめて聞いたんですけど、・・・つまり、犯罪と処罰という従来の刑事司法と違って、<被害者と加害者の関係回復をめざす>司法だということなんだそうです。」
 ● 「まさに、<反省と赦し>ですね。」
 ▼ 「そうなんですけど、ええと・・・従来の刑法学では、<許し>と<癒し>の難しさが指摘される。それに対して、被害者が加害者への理解を深めることに、この修復的司法の意味がある、・・・というんです。」
 □ 「なるほどね。これまでみてきたように、いまの刑事司法でも、<行為の事実>とその<違法性>の客観的な確認が全ての基礎でありながら、犯罪者の<反省>と被害者ひいては社会の<赦し>が期待される、ということでしたよね。ところが、そうはいい条、刑法と刑事訴訟法は、前半の部分に関わるものであって、<反省と赦し>は、期待されるだけで、司法の扱う事項にはなってはいませんわな。」
 ● 「それからもうひとつ、今聞いて思ったのですけど、・・・<赦し>ということは、被害者自身にとっても<癒し>になるんだということですね。これは、私たちのこれまでの話にはあまり出てませんでしたね。」
 □ 「<癒し>というのは、何かにつけて流行りですからなあ。」
 ● 「でも、流行ってるっていうなら、<厳罰化しろ>という声の方でしょう。何度もいいますけど、死刑を頂点とする厳しい報復的処罰が、犯罪の抑止力になるというのは間違ってます。被害者の方も、報復によっては本当に癒されることはありません。私は、<修復的司法>っていうんですか、その考えに賛成ですね。」
 ▼ 「いや、そこなんですがね。もちろん私も、死刑賛成とか厳罰化賛成なんて、はじめからちっともいってませんよ。その点は、あなたがいわれた通りです。・・・ただですね。どういえばいいか、ちょっとこだわりすぎかもしれないのですが、気になることばがあるんです。・・・いま紹介した新聞記事で、その修復的司法の第一人者の人、・・・え〜っと、あ、ここに写真が出ているこの人ですが」
 ● 「ハワード・ゼアっていう人なんですか。なかなか上品で知性的な、感じのよさそうな人じゃないですか。」
 ▼ 「そうですね。・・・ま、それはおくとしてですね(^_^;)、この人が、ある例を挙げて説明しているのです。それはどういうことかというと・・・あるレイプ事件の被害者女性が、裁判の終了後何年も経ってから、加害者に会いたくなったというんです。で刑務所で面会すると、大きくて恐ろしい男に見えた加害者が、年を取った弱くかわいそうな人に見え、彼も同じ人間なのだと分かった、と。そして、自分がどんな苦しい思いをしたかも相手に伝えて、怒りが消えた、と。つまり、ま、癒されたというんでしょうね。・・・で、こういう例が、え〜っと、従来の司法では満たされない被害者側の<本当の二ーズ>、の例だ、というんです。」」
 □ 「なるほど。<本当のニーズ>ねえ。」
 ▼ 「どうなんですかねえ。私はへそ曲がりですので、ちょっとこのいい方にもひかかったんですけど。つまりですね。・・・例の、原初的反抗とか原初的心身反応、でしたっけ?」
 □ 「いや、そんなに引っ張らないで下さい。あの場での思い付きのことばで、いまもう批判されて謝ったわけですので(笑)。」
 ▼ 「じゃ、使いませんが(^_^;)、とにかく被害者が犯人に対して抱く一番元の感情的反応ですね。それはまずい、と。・・・被害を受けた人は、どんな被害の場合でも、その被害の<事実>は消えないんですけど、心的にはそれがなかったように、いや、なかったようにはできませんが、でも、心に受けた傷を・・・え〜っと」
 ● 「・・・それこそ、<修復>ですかねえ。」
 ▼ 「そう、修復する。・・・相手が憎いとかいった、心の強い乱れを消して、被害を受ける前のような心的状態に戻す、・・・もちろん、できるものなら、被害者の心の傷が修復されることは、ほんとに望ましいことですよね。」
 ● 「だから、それが、<赦し>による<癒し>、ということなんでしょう。」
 ▼ 「そう。<忘れなさい>っていわれても忘れられなかったり忘れてはいけないこともある。それより更に深い平安に到達するためには、<赦しなさい>となるわけでしょうね。・・・でも、そうではあるんですが、それでも、私なんかは修行の足りない人間ですので、やはり思うのですがねえ。・・・それでいいのかな、と。」
 □ 「はい。」
 ▼ 「例えば、レイプ事件の被害者の願い、<本当のニーズ>、それは、癒されることなんだ、と。そしてそれは、加害者を赦すことに他ならない、と。加害者に会い、語りかけ、加害者を赦して、自らも癒される・・・。確かに、そんな感動的な物語が起こったのでしょう。これからも起こるのでしょう。でも、・・・それでいいんですかねえ。・・・さっき、原初的心身反応とかいうようなものへの郷愁は男の見方だ、といわれましたけど(^_^;)、<レイプ犯の男を赦すのが被害者の女性の本当のニーズだ>っていうのは、どうなんでしょう。・・・私は男ですが、このいいかたも、なんだか男の視点みたいな気がしますけど・・・いや、短い新聞記事だけで、こんなえらい人に、こんなこといっちゃ申し訳けないのですが(^_^;)。」
 ● 「まあ、それだけ聞けば、確かにちょっとねえ。・・・もちろん、性犯罪の被害者が、加害者に会って話し合うことを求められるなんてことは絶対ないでしょうけど。でも、いまでも絶対会いたくない、憎い、などと思ってる自分は、まだ未熟な、ダメな人間なんだろうか・・・と」
 □ 「そういった社会的プレッシャーはありうるでしょうね。・・・あなたの<本当の>願いは、相手を赦すことなんですよ、というわけで。」
● 「・・・でも、<赦す>ことがニーズではなく、<癒される>ことがニーズだっていってるんでしょう? それに、修復的司法っていうのは、司法一般についてのことであって、性犯罪のことだけじゃないでしょうし。」
 ▼ 「もちろんそうです。でも、だからこそ、ひとつだけ例を挙げて説明するのに、何故レイプ事件を取り上げるのか。」
 □ 「無意識が語る、ということもありますわな。」
 ● 「・・・そういわれると、そうかもねえ・・・」
 ▼ 「例えば、<9.11の実行犯たちを赦しましょう>ともいってるのでしょうかね。」
 ● 「・・・それは、絶対この人はいってると、私は思いますけどね。」
 □ 「・・・でもまあ,同じ話はやめるとして、やっぱり背後には、前に●さんがいったことですが、神様の話があるのじゃないですか。どんな犯罪も、最終的には<悔い改めと赦し>という物語に収斂させようという・・・」
 ● 「そういう難しい話は苦手で・・・といったんですよ(^_^;)」
 □ 「いや。難しい話は私も全くダメですが・・・、え〜っとですね。これはどこであろうと同じだと思うのですが、昔はもっと生活が単純で、悪くいえば粗野に、良くいえば潔く、奪ったり報復したり・・・などもしていたのでしょうけど、ところが近代になって、人は、端的に<行動する存在>から、面倒にも<考える存在>、つまりは自らを<省みる存在>になるわけですね。・・・だから、奪ったり傷つけたりということが起こっても、<行動の事実>だけに基づきその場で処断、といった社会的処理は野蛮なものになって、決着が先に延ばされます。
 ▼ 「・・・10年ほど牢屋でよくよく自省しなさい、と。」
 □ 「そうそう。有無をいわさず決着、なんてことじゃなく、犯罪者に時間が与えられるわけです。そこで、悔い改めることが期待されるというか、強制されるというか、まあそういうことになるのですが。」
 ● 「ただその、反省というのが、結構難しいですよね。自分の過去の行為を、良くないことだと判定しその判定を受け入れる・・・」
 □ 「というか、<行為を>ではなく、そういう行為をした<自分を>でしょうけど。」
 ● 「ああ、そうですね。・・・ところが、違反<行為>の裁判では、検事に弁護士、判事という役割分担があって、しかも照らし合わせる<法>も一応はっきりしていたのに対して、こんどは何しろ、たったひとりで牢屋の中にいながら、<自分>というのを裁かなければならないんですから大変です。」
 ▼ 「ああ、・・・そこで神様が呼ばれるわけですか。」
 ● 「そういう意味では、神は裁きの神なんでしょうね。ある意味では、こちらの方がずっと怖い裁判で、」
 ▼ 「・・・有罪なら業火ですからね。」
 □ 「ところが、神は、というか神こそは、<宥す>わけですな。・・・で、その場合、業火で罰することと宥すことの関係なんですが、やっぱり<罰することをやめる>というのが、赦すということでしょう、普通に考えれば。」
 ● 「そうですね。」
 □ 「だから、三審制とかいいますけど、もっとスケールの大きな審制があるわけですな。例えば、って、すぐ具体的な話にするのが私の悪いくせなんですが(^_^;)、・・・あるご婦人がふとしたことから過ちを犯す。ところがこのご婦人が教会へいって告解すると、<夫に赦しを乞いなさい>といわれるんじゃなくて、その場で赦してもらえるわけです。つまり、いわば夫の第一審を飛ばして、上級裁判官が、ま、この場合は代理人みたいなものですが、告解室で赦しちゃう。」
 ● 「なんか変な例ですけど(^_^;)・・・、まあ、確かに、そこで赦してもらえれば、夫なんか怖くないわけですね。」
 □「でそれは、夫による裁きと罰とか、世俗裁判所の裁きと罰とか、そういうものより、神の法廷の方が段違いに恐ろしい、ということが、やはり前提になっているのでしょうね。少なくとも一般の人にとっては。」
 ● 「<悔い改める>というのが、もしも世俗の罰より恐ろしい永遠の応報罰をやめてもらうように、いわば上位の判事にお願いすることだとすれば・・・なんて、私は全く信仰のないけしからん人だから、そんな実に不謹慎なこというんですけど(^_^;)、・・・報復や応報の原理による裁きではなく反省と赦しを目指す裁判といっても、そう簡単に、別原理とはいいにくい、・・・となるわけですかねえ。・・・まあ、それでも別にいいですけど。・・・何度もいいますけど、私は、殺し合いより話し合い、報復し合うより赦し合うことが、絶対いいと思いますし、一歩でもそちらに近づくことが大事であって、さしあたりどんな原理であろうとどんな信仰であろうと、役立つならそれでいいのです。」
 ▼ 「・・・う〜ん。・・・別にそれはいいんですけどね。私は、最初からずっと、被害者のことばっかり考えてきましたのでねえ。・・・やっぱりまだ、ひっかかるなあ(^_^;)。・・・お話しを聞いていると、悔い改めて赦しを乞うのは、誰に対してかというと、被害者じゃないってことなんですねえ。だからもちろん、赦しを与えるのも、被害者ではない、と。」
 ● 「そうです。私が最初からいってるように、被害者というのは、当事者じゃないんです、多分。どこまでいっても。」
 ▼ 「寝取られた夫が赦したつもりはなくても、それどころか全く何も知らないうちに、妻は不倫を赦されてしまったりする・・・。う〜ん。悲しい被害者ですねえ(笑)。・・・その場で相手にやり返そうと思うと、野蛮だからやめろといわれる。じゃ代わりにやってくれるのかと思うと、お前のためではなく法を守るためだといわれる。それじゃ気持が納まらないというと、そんなことではいかん、報復心を捨てろといわれる。それでようやく、それじゃあ赦す他ないという心境に達すると、赦すのはお前ではないといわれる。・・・」
 ● 「ふ〜ん。そういわれると・・・ちょっと可哀相ですねえ(笑)。でもやっぱり、全てを赦す心境、全てから癒される境地になることが、幸せのためだし平和のためでもあるんです(笑)。諍いや暴力の当事者であることが、そんなに大事なことですか。単なる被害者でいいじゃありませんか。天災に遭ったら、天を恨み天に報復するのですか(^_^;)。」
 ▼ 「でもそれじゃあ、結局元に戻って、従順な臣民になっちゃうじゃないですか。あなたのいってたことと違うなあ・・・(^_^;)」
 ● 「レイプ被害なんて、犬に噛まれたか天災と思って諦めましょう。運命を受入れましょう。相手を罰しようというような報復応報の心は捨てて、むしろ相手を哀れみ赦すことで自分も癒されるのですよ。・・・な〜んてね。いつもの私なら口が裂けてもいいませんけど(^_^;)。・・・でもいいんです。今日はとにかく、復讐心をいつまでも忘れずに、あくまで厳罰を与えずにはおくものか!、って、みんなでけしかけるような昨今の風潮に断固反対するんです、私は。・・・文句ある?(^_^;)。」
 □ 「いやいやいや。文句ありません(笑)。・・・とにかく、時間も時間ですから、この辺で一旦やめて、お酒に切換えましょうや(^_^;)。」
 ● 「今日は私が馬鹿にされっぱなしで、最後にまた、一貫性がないと批判されてしまいました(笑)。でも、いいです。どうせこんなダラダラした無駄話なんか、誰ひとり読まないんですから(笑)。」
 □ 「ホントのことを、はっきりいいますねえ(笑)。」
 ● 「それに、実は・・・肝心の神様はとっくにいなくなってるっていうんでしょう?・・・全体、黴の生えた雑談だったんですよ(^_^;)。と、最後ぐらい、開き直っておきます。」
 ▼ 「・・・もはや罰する神はいないし、赦す神もいない。・・・じゃ、反省とか赦しとかって、どうなるんですかねえ・・・」
 ● 「だから、悪いヤツは死刑にしろ! なんてことにもなる。不安なんでしょうね。多分。」
 □ 「国外では爆撃を躊躇しないが、自国内には上級審があるから究極の裁きはまかせられる・・・筈だった。だが、裁き罰し赦す神がいないとなると、自国内も国外に等しい。・・・そういう不安でしょうかねえ。・・・いずれにしても、まあ世も末だということで(^_^;)。」

 NEW  7月某日  国を愛そう

 ○ 「私は負け組の貧乏人だけどね。というか、貧乏籤をひいちゃったってことだけど(笑)。」
 ● 「そういわれると、何と答えていいか、困りますけど(笑)。・・・でも、叔父さんみたいにいい人いないですよ。大当たりじゃないスか。」
 ○ 「確かに貧乏籤じゃないけど、でも貧乏な籤(笑)。・・・でもね、私にもひとつ、勝ち組、ってわけじゃないけど、上のクラスってことがあるのよ。」
 ● 「上のクラスって何ですか。」
 ○ 「ゴールドカードをもってるの。」
 ● 「え〜っ? あれって、審査があるんじゃないですか? 収入とか資産とか。何かごまかしたんスか?」
 ○ 「人聞きの悪いこといわないでよ。そんなの関係ないの。ほんとに10年以上無事故無違反なんだから。」
 ● 「な〜んだ。あっちのゴールドですか。びっくりした・・。でもまあ、そうですよね。審査がある方はねえ・・(^_^;)」
 ○ 「って、何を納得してるのよ。ま、それはいいんだけど(笑)。・・・で、保険のことなんだけどね。」
 ● 「車の保険ですか。ああ、あれは無事故無違反の人は、割引率が大きいんですよね。」
 ○ 「そうなのよ。他にも、車両についての細かい区分は別として、運転者についてもいろんな割引条件があるでしょ。年齢が何才以上とか、家族しか乗らないとかさ。最近は、外資系をはじめいろんな保険があって、年間走行距離で保険料が変わるのまであるらしいけど。・・・とにかく、私は、結構割り引かれてるのよね。」
 ● 「ぼくなんか、ほとんど何にも該当しませんよ。何だか、ちょっとソンてるみたいな気持ですね。」
 ○ 「ソンねえ・・・。」
 ● 「ま、確かに事故を起こす確率なんかで計算してるんでしょうけど。」
 ○ 「でも、逆にいえばよ。昔みたいに、保険料がもっと単純で、例えば年齢割引がなかったとしたら、あなたみたいな暴走族まがいの若い人でも、私のような安全運転者でも、保険料が一緒ということになって・・・」
 ● 「いやだなあ。暴走族なんかじゃありませんよ(^_^;)。」
 ○ 「まあ、とにかく(^_^;)、安全運転してる私たちの方から見ると、事故の多い若い人と一緒じゃ不公平だってこともいえるでしょ。」
 ● 「まあね。」
 ○ 「保険って、もともと相互扶助の制度でしょ。みんなでお金を出し合って、事故を起こした人の負担を扶けてあげましょう、という・・・」
 ● 「そうですね。」
 ○ 「でも、保険料がみんな一緒の平等な相互扶助ってのは、安全運転してる人からみると、ソンってことになるよね。」
 ● 「それはまあ、そうですねえ。だから、いろんな割引ができたわけで。」
 ○ 「そう。保険料に割引制度ができてきたのは、そのソンを是正するっていうことよね。」
 ● 「そうスね。」
 ○ 「安全運転の人にとってソンにならないように保険料を下げて、その代わり事故を起こしやすい人の保険料は上げる・・・」
 ● 「やっぱり、ぼくらみたいな者にとっては、昔の方がよかったなあ(^_^;)」
 ○ 「でも、いまの方が公平でしょ。私たち安全運転者から見れば、平等は不公平なのよ(^_^;)。」
 ● 「まあ、仕方ないですけどね。・・・そういえば、話は違いますけどね。保険料といえば、去年冷や汗かきましたよ。」
 ○ 「え? どういうこと?」
 ● 「え〜っとですね。ぼくの保険は、前は4月が書換時期で、それで保険会社から通知が来てたんですけどね。ちょっと3月に旅行に行ったりしてお金がなくて。・・・期限までには振り込もうと思いながら、つい忘れてたんです。」
 ○ 「じゃ、保険が切れたまま乗ってたわけ?」
 ● 「そうなんスよ。それで期限が切れてから保険会社からの連絡で気が付いて、あわててすぐ再契約しましたけどね。2週間ほど空いてしまいました。」
 ○ 「事故とかなくてよかったわねえ。」
 ● 「ほんと、ぞっとしましたねえ。もし切れたまま大きな事故なんか起こしてたらと思うと・・・」
 ○ 「そういう場合だけどね。あなたは、うっかり忘れてただけなんでしょう。」
 ● 「まあそれと、お金があれば、もっと早く払ってたんですけどね。」
 ○ 「だから、そういう、うっかりしてた人とかお金がない人の場合には、事故を起こした時に、保険料を遡って払って、保険が継続したってことで、保険が下りるようになってればいいのにね。」
 ● 「いや、そうなってれば、ほんと助かりますけどね。でも、もちろんそれはダメですよね。」
 ○ 「もちろんいまはダメだけど、制度を変えて。」
 ● 「でもなあ、そんなことしたら、きっと払わない人が続出しますからねえ。やっぱ、そりゃダメでしょう。」
 ○ 「悪意の人はともかく、お金のない人やうっかりしてた人もダメ? 確かに、ちゃんと払ってる人から見れば、そんな人まで助けてあげるのはソンだってことになるわよね。・・・あなたは、自分が一度そういう境遇になったのに、でも、そういう意見なのね?(^_^;)」
 ● 「あなたは、っていわれると、何だか冷たいみたいだけど(^_^;)。まあ、仕方ないんじゃないですか。確かに保険は相互扶助の制度ですけど、でも、お金を払えない人とかうっかりしてた人の分まで負担をかぶるのは、やっぱ、正直いってソンですからね。」
 ○ 「そうよねえ。で、私のような10年以上無事故無違反のゴールドという、上のランクの者からすると、あなたたちみたいな若い人を助けてあげるのもソンだと思う。少なくとも、昔のような一律保険料だったら、絶対ソン。・・・いまはいろんな割引があるけど、でも、どうなんだろう。やっぱ、まだソンしてるんじゃないかな。」
 ● 「どうかなあ。ちゃんと計算してると思うけど。」
 ○ 「だからいっそ、完全に無事故無違反10年以上の人だけを加入対象とするとかいう保険ができないかな。そしたら、もっと保険料が安くなるでしょう?多分。・・・少なくとも、ソンの感じはなくなる。」
 ● 「それはそうかもしれませんけど・・・。何だかちょっと、いつも言ってることと違って、今日はシビアですねえ(^_^;)。」
 ○ 「・・・シビアかどうか知らないけどね(^_^;)。私は、そういう保険ができたら、やっぱり、自分は入るんじゃないかな、って気が付いたのよね。だって、今だっていろんなことで割引率が大きくなってて、喜んでいるんだもの。」
 ● 「それはまあ、どんな保険ができても、自分が一番ソンがなくていいと思うものに入るっていうのは、当然のことじゃないスか。」
 ○ 「だからさ。それ、当然って思っちゃうよね。・・・私は勝ち組じゃなく貧乏組だけどね。でも、ちょっと、勝ち組っていうかお金持ちの気持が分かった気がしたの。・・・私にも、無事故無違反というクラスに属している者として、事故率の高い若い人の分まで負担するのはソンだ、っていう気持があるってことで。」
 ● 「う〜ん。それが金持ちの気持ちってこと? ちょっと変ですよ、それは・・・」
 ○ 「ま、ホントは貧乏組なんだから(^_^;)、ちょっと変でも、そう思わせてよ(笑)。・・・まあ、そんなことはどっちでもいいんだけどね。・・・自動車保険ってさあ、いわゆる民営でしょ。っていうか、任意保険は、税金は使っていないでしょ。」
 ● 「そうですね。」
 ○ 「私のような金持ちの気持ちでいうと・・」
 ● 「え?? 金持ちになっちゃったの?(笑)」
 ○ 「そう(笑)。健康保険とかさ、年金とかさ。ああいうのも全部民営にしてさ。税金使うのやめたらどうかな。」
 ● 「そんなことしたら大変ですよ。」
 ○ 「でもね。国民健康保険とか国民年金なんてものは、金持ちからみればソンなのよね。なんで私たちが、金のない連中の分まで払ってやらないといけないのか、ってね。」
 ● 「でも、そんなこというと、何もかも・・・」
 ○ 「最近、国保の保険料払えなくなった人の保険証が取り上げられてるってこと、知ってるでしょう?」
 ● 「何だかそんなことニュースでいってましたねえ。それで治療を受けられなくなって亡くなった人とかもいるとか。」
 ○ 「保険じゃないけど、水道料が払えなくなって、水を止められて死んじゃったお年寄りもいたわよね。」
 ● 「そうそう。あれはちょっとひどいですよ。水なんて、人の命を左右する公的なインフラなんだから、それを止めちゃ殺人ですよね。」
 ○ 「でも、水道もすごくお金がかかってるんだからね。料金を払えない人の分まで負担するっていうのは、ソンといえばソン。」
 ● 「でも、そういういい方をすると、公共的なものは何でもソンってことになりますよ。」
 ○ 「そうなのよ。だからもう、全部やめちゃうの。子供を私立有名校へ通わせてる親は、公立校の運営に使ってる税金分をソンしてる。結婚しない人や子供がいない人は、もう頭からソンよね。だから、学校も民営化、全部私立だけにする。いや、そんなことは小さいことね。税金払うのは、全部ソンだわ。・・・だから、資産はもちろん、住所も海外へ移しましょ。こんな税金の高い国なんかにいるのはやめちゃって。」
 ● 「その代わり、公的サービスも特にいらないというわけですね。」
 ○ 「もちろんよ。何か必要な場合は、必ずそういう需要に対応した民間会社があるから、個人的に契約すればよいわけ。」
 ● 「・・・実際、最近は、ホントに海外へ住所を移すお金持ちがどんどん増えているらしいですね。お金持ちなんだから、日本に住所がなくてもちっとも困らない。仕事はインターネットでできる。もっと金持ちになると、資産運用をどっかにまかせて、何もしなくてよい。」
 ○ 「そうそう。こっちにも別宅を置いといて、日本が懐かしくなれば、いつでもこっちに来て、好きなだけ滞在すればよいわけだしね。でも、税金は払わない。」
 ● 「それの方が、ソンな負担はしなくてすむ。・・・どの保険がトクか、自由に選んでよいのだから、税金もどこの国がトクか選ぶんだっていわれると、やめろっていうことはできない。」
 ○ 「大体、大臣が、自分はそうやってるって自慢してるんだから・・・」
 ● 「う〜ん。これからは、長い目でみると、都市スラム化現象みたいなことが、国単位で起こるわけですかね。」
 ○ 「日本に残ってるのは負け組ばっかりっていうような事態が、じわじわと進行する(^_^;)。残ってても、いわゆる産業の空洞化で、働き口は減る。そうなると、税金はますます高くなり、公的サービスはますます低下する・・・。」
 ● 「わああ。それは困る。ぼくなんか、とても外国に移住することなんかできないし。・・・やっぱ、愛国心教育が必要ッスね!(^_^;)。自分の国を見捨てるな! 自分の国の貧乏人を見捨てるな! 国を愛する心を持て!」
 ○ 「でも、首相はアメリカに国を売ってしまってるようなもんだし、大臣は、さっきいったように、住所を海外に移したり海外で資産運用してたりするんだから・・・ああいう人たちが自分の国を見捨てるなっていってもダメよ。」
 ● 「そうか。じゃ、思い切って変えなきゃな。・・・いまは、ニッポン代表チームの監督も当然ガイジンっていう時代だし、トップをガイジンに変えて立ち直った大企業もあるんだし。だから、日本国の経営も、いっそ有能な外国人にまかせるのがいいかもね。」
 ○ 「ガイジンの首相に、愛国教育をしてもらう他ないわね。」
 ● 「日本をガイジンにまかせよう! 日本を愛する心を大事にしよう!」
 ○ 「それそれ。」

   7月某日  大雨でも人生は楽しい

*頂いたメールに少し手を入れて紹介します。
どこかで(採録者NWさん)
 □ 「ほんと、雨ばっかだよね〜。」
 □ 「嫌だよね〜。」
 □ 「どうして?」
 □ 「どうしてって、もう全部嫌じゃん。」
 □ 「違うよ。どうして雨ばっかなの?」
 □ 「知らないよ、そんなこと。・・・でもさあ、なんだか最近おかしくない?」
 □ 「そうそう、おっかしいよねー最近。」
 □ 「もしかするとさ。やっぱ、あれじゃない?」
 □ 「あれかなあ。」
 □ 「そうそう、あれだよ。」
 □ 「ねえ、あれって何?」
 □ 「地球なんとかってあるじゃん。暖房化、じゃなくて・・・」
 □ 「ああ、酸素とか増えるやつ?」
 □ 「二酸化炭素だよ。それに地球温暖化でしょう。恥ずかしいあ、もう(笑)」
 □ 「それそれ。」
 □ 「でも、それってやだよねえ。」
 □ 「ほんと。」
 □ 「そのうちさあ。北極とかの氷も溶けて、海面があがるんでしょ。」
 □ 「そうそう。その上、こんな大雨ばっかになったら・・・」
 □ 「日本沈没だよね。」
 □ 「ええ? それで日本沈没になるの?」
 □ 「違うよ。あれは何か地震とかさ、そういうんでしょ? 」
 □ 「火山が噴火するんじゃないの? コマーシャルしか見てないから知らないけど。」
 □ 「でも、やっぱ沈没だから、関係あんじゃない?」
 □ 「そうかもね。」
 □ 「怖いよね。」
 □ 「怖いよ〜。」
 □ 「知ってる? あれってさ、首相なんか出てくるじゃん。それで石坂浩二がやってるらしいんだけどさ。コイズミさんの髪型にしてるんだって。」
 □ 「って、ライオンヘア?」
 □ 「そうそう。うっとうしい髪型」
 □ 「ハハハハ」
 □ 「そいえばさ。日本以外沈没ってのもあるんだってね。」
 □ 「え〜、ほんと?」
 □ 「以外って、じゃ、日本だけ残るの?」
 □ 「そうそう。なんかそうらしいよ。」
 □ 「まだ、それの方がいいよね。」
 □ 「ね〜。」
 □ 「でもさ。それの方がいっぱい沈むってことじゃん。」
 □ 「そっかー。じゃ、困る〜。」

またどこかで(採録者NKさん)
 ○ 「とりあえず、電車乗るしかないやんなぁ。」
 ○ 「ホンマ、警報出とったら学校休めんのにぃ! むかつくぅ!」
 ○ 「そや。ワンセグで、警報出とるか見たら?」
 ○ 「そやそや。ちょっと待ってなあ・・・」
 ○ 「あ〜、それと違うん?」
 ○ 「これやこれや。天気予報やろ。そんで、え〜っと・・・」
 ○ 「あーっ、消えてしもた。トンネルやから、あかんのやな。」
 ○ 「結局、警報出てるかどうか、分からんやん!」
 ○ 「あ〜あ。休みやったら、家で寝とったらよかったのにぃ・・・ムカツク!」
 ○ 「あ、そや。アタシ、オカンに電話してみるワ〜。」
 ○ 「あ、そうかー。テレビやったらどっかのチャンネルで分かるもんな。」
 ○ 「・・・あ〜、もしもし、お母ちゃん? あんな、警報でとるん? えっ? みのもんたナンカ見てんと、警報よぉ!警報っ! ・・・えっ? 北部は大雨洪水警報? マジ? ホンマに出とるん? マジ? ・・・うん、ありがと〜!」
 ○ 「やったぁ! 警報出とるんやったら、休みやん!」
 ○ 「ほんでもな、学生ベンランに、11時までに解除されたら午後の授業あるとか書いてあったでぇ。」
 ○ 「ほな、11時まで駅のマクドでおったらええやん。」
 ○ 「どこにある?」
 ○ 「中央改札口のな、地下一階のとこにもあるで。」
 ○ 「知ってる。あそこで朝マクドしようや!」
 ○ 「そうしよか。もう電車乗ってもたしな(笑)。」
 ○ 「そうしよ、そうしよ。」
 ○ 「ちょっと。そのマスカラ見せて。私のと同じやん。」
 ○ 「何いうてんの。この前、一緒に買うたやん。」
 ○ 「あほやな〜、ハハハハ」
 ○ 「あんなぁ〜、アタシ、夏休みにイトコの結婚式でハワイに行くねん。」
 ○ 「えー、ええやん? ほんでも、ハワイって、地震とか洪水とかあって危いんちゃうの?」
 ○ 「そんなん、インドのほうやで、ハワイはぜんぜん安全やん。」
 ○ 「ほんでも、テロとかあるんちゃうの?」
 ○ 「え〜、テロってイスラムのあたりなんちゃう?」
 ○ 「そうやで。そやかてアタシらイスラムの方面には用事ないしぃ・・・アハハ!」
 ○ 「まぁな〜。ほんでもイスラムの辺って、しょっちゅうテロとか空爆とか言うてるでなぁ〜。」
 ○ 「怖いわなぁ。」
 ○ 「そや! ハワイ行ったら、コーチのバッグとか安いんかな。」
 ○ 「あ、アタシも買うて来て欲しいもんいっぱいあるぅ〜。」
 ○ 「リストアップしてや、買うて来たるでえ。」

   7月某日  アメリカ産牛肉輸入再開

 訂正=この問題については、「きっこの日記」のきっこさんが、もっと鋭い文を書かれたので、当方の冗文は削除しました。そちらを是非見てください。

   7月某日  生と死と、どっちがトクか、それが問題だ

  「ちょっと驚いたというか、まあ、ある意味予想通りっていえなくもないけど、アメリカとカナダで<脳死>って判定された人が3人も、日本帰国後に意識が回復したってニュースがあるね。
 中堅損害保険会社の調査結果が、日本渡航医学会とかで報告されたらしいんだけど。 「02〜05年度に、旅行や仕事で米国、カナダに滞在中の旅行保険契約者9人が脳血管障害で入院。主治医は家族や損保の現地スタッフに<脳死>と説明した。うち3人の家族は<治療中止は納得できない>などと訴え、チャーター機で帰国。日本で治療を受け、意識が回復した。」 ・・・ということらしい。」
  「何しろアメリカは、脳死者からの臓器移植を年間何千例とやってる国だからねえ。でも臓器移植をどんどんするためには、<材料>となる脳死者をどんどんつくらねばならない。」
  「そういうことだね。 「米麻酔学会誌(1999年7月号)によると、頭部外傷で脳死と判定された男性が、臓器摘出直前に自発呼吸をしていることが分かったが、そのまま摘出された例などが紹介されている。」 っていうのだから怖ろしいよね。」
 しかも、そのどんどん脳死として処理されてゆくっていう場合の決め手が、結局やっぱり、金なんだねえ。さっきいった日本人のケースでも、脳死と説明された9人のうち、3人が帰国して治療を受けたら意識が回復したっていうことなんだけど、帰らなかった残りの6人はというと、現地でそのまま死んでしまった。」
  「・・・帰った人は助かった。残った人は死んでしまった。はっきり別れたわけだね。」
  「何故3人だけが帰って6人は残ったのかというと、3人の 「搬送費用の約2000万円は保険で支払われた。残り6人は、チャーター機手配に必要な額の保険に加入していなかったことなどから帰国を断念。現地で死亡した」、 というんだ。」
  「金が生死を決めるわけだね〜。民営化、民営化ってやってると、そのうち全て、そうなってゆくよね。・・・っていうか、アメリカなんかもともと医療保険も民間まかせだから、高い保険に入っている金持ちは助かるけど、貧乏人は助からない。自己責任という名前で切り捨てられる。」
  「それどころじゃないよ。アメリカ式の自己決定自己責任なんてものすら、絵に描いた餅になりかねない。例えば、 「患者死亡の場合、保険会社が死亡直前の治療を<無駄>と判断するケースもある。病院側は保険会社からの支払いを受けるため、早めに治療を打ち切る傾向もあるようだ。」 いくら本人や家族が望んでも、保険会社から支払いを拒否されれば事実上治療は続けられない。病院からすれば、保険会社からクレームがつくかもしれない治療は最初からしないのがトク。病院経営からいえば当然の計算だよね。」
  「それより、むしろ早めに脳死にしてしまえば、臓器移植という高額医療に使えるから、そこからまた利益が上がるしね。」
  「結局、保険会社の判断が決定権をもっている。というか、営利の原理が医療の現場を支配している、ってわけだね〜。」
  「この人は、生かしておくのがトクか、死なせて臓器移植に使った方がトクか、よ〜く考えてみよう、ってね。」
  「考えるまでもなく、金持ちはできるだけ生かして医療費を払わせた方がトク、貧乏人は死なせて臓器移植に使った方がトク、ってことさ。」
   注:引用は、エキサイトニュースからさせて頂きました。

   7月某日  親の心子知らず

 ● 「コイズミが参拝すると言い張っている日が近づいて、A級戦犯の合祀が話題になってますねえ。・・・天皇のメモも公表されて。」
 ▼ 「でも、A級をどうするかなんていってるうちはダメねえ。」
 ● 「まあ、確かにAってのは東京裁判の分類符号ですけど。でも、ダメっていうのはどういうことですか? まさか、一方的な東京裁判は認めないということから戦犯免責、戦争肯定、なんてところまで話をもってゆくような連中と同じじゃないでしょうし・・・」
 ▼ 「だから、A級なんてカテゴリー使ってる限りは、そういった連中に反論することが主題のように思ってしまうでしょ。大体、一方的だったことは間違いないしね。人類に対する罪ったって、無差別空襲も原爆投下も裁かれてはいないんだから。」
 ● 「でも、その・・・、前から思ってたんですけどね。一方的っていうのが、もうひとつよく分からないんですけどねえ。」
 ▼ 「一方的じゃなかったっていうの?」
 ● 「いえいえ、そうじゃなくて。・・・大体戦争ってのは、無茶苦茶な殺し合いでしょ。それで勝負あったんだから、もう<一方的>に決まってるじゃないですか。逆に日本が勝ったときなんて、日本勝った!日本勝った!台湾取れ!樺太取れ!権益取れ!賠償金出させろ〜!・・・ってね。<一方的>に大騒ぎ。」
 ▼ 「まだ足りずに、遼東半島は取りすぎだといわれると国中みんなが憤激するし、ロシアからの賠償金が安過ぎるといって暴動まで起きるし。」
 ● 「もしも太平洋戦争に勝っていたら、大変だったでしょうね。・・・もう居丈高になって。ハワイは今日から日本領だ! 鬼畜米英から賠償金を取れるだけ取れ〜! ってね(笑)。」
 ▼ 「まあ、日本だけのことじゃないけどね。」
 ● 「そういえば、第一次大戦のドイツなんかも、ものすごい賠償金を課せられたんですよね。・・・それで、ナチスなんかだ出てくることになった・・・」
 ▼ 「だから、そういう方式はまずいっていうのが、連合国にはあったんでしょうね。巨額の賠償金なんか課して敗戦国を苦しめるのじゃなく・・・」
 ● 「逆に、復興を支援する・・・」
 ▼ 「もちろんそこには、戦後の国際戦略を見据えた国益計算があったわけだけど。」
 ● 「でもねえ。政治家は計算したかもしれないけど。国民はどうだったんですかねえ。例えば、いまの北朝鮮とかつての日本とは似てますけど、今みんな、<拉致した国なんかに支援なんてとんでもない!>って調子でしょう? でも、あの戦争じゃ、連合国側で、ものすごく多くの人たちが、夫を殺され息子を殺されてるんですよ。それで、復興支援なんて、よく納得しましたね〜。」」
 ▼ 「まあ、体制を倒した後だから事情は違うけどね。でも、そういう点でも、東京裁判っていう政治装置が必要だったのでしょうね、多分。・・私たちの夫は、息子は、日本人に殺された・・・でも実は、戦勝国の国民も敗戦国の国民も、ともに戦争という異常事態の被害者なんだ・・・」
 ● 「自分の夫を殺した日本人も、いわば騙されて引き金を引いたんだ、というわけですね。」
 ▼ 「でも、それなら、・・・みんなが被害者なら、加害者は誰なのか。騙されていたのなら、騙したのは誰なのか。・・・この戦争を引き起こした張本人は誰か。戦勝国、戦場となったアジア諸国、さらには敗戦日本の、あわせて数億の人々の、家を焼き家族を殺し、人々を取り返しのつかない悲劇のうちにたたき込んだ責任者は誰か・・・」
 ● 「・・・それが、戦争犯罪人、というわけですね。そこで、何人かをリストアップして、被告席に立たせ・・・」
 ▼ 「ただし、一人だけははずしてね。」
 ● 「そうそう、結局天皇ははずすことにして。・・・それでまあ、一種の手打ちをしたわけですね。・・・で、戦後体制も決まり、復興支援も日米同盟も何もかもが動いてゆく。」
 ▼ 「・・・<一方的>な裁判だからA級戦犯免責、なんていってる連中より、ある意味天皇の方が、よっぽど<手打ち>の意味を分かってたっていうことね。」
 ●  「手打ちを認めないなんて、<親の心子知らず>だ、って。」
 ▼ 「いえ、手打ちを認めない、じゃないのよ。そんな勇気があれば大いに結構じゃないの。戦争を最低限31年からの15年戦争として捉えた上で、天皇の棚上げも含めたトータルな戦争責任をもう一度見直す、そういった作業ができずに、A級戦犯処刑とか押しつけ憲法とか、適当な項目だけつまみ食い的に<認めない>なんて呟くだけなら、ただの小心者に過ぎないでしょ。」
 ● 「・・・そういった連中への反論をテーマにするのはダメだって、最初にいわなかったですか? 結局やっぱり話がそこへ行ってるじゃないですか。」
 ▼ 「いや、違うつもりなんだけどねえ(笑)。」

   8月3日  嫌なニュース

 8月である。普通の書き方に戻す。
 TVのニュースは殆ど見ない。マスコミを信用していないからであるが、それだけではない。
 新聞や雑誌であれネットであれ、<読む>ものの場合は、見出しをスクロールして、情報を取捨選択できる余地がある。だがTVでは、先方が勝手に軽重や順序を決めて垂れ流すニュースの流れに、一定時間ひたすら身を任す他ない。少なくとも私は、大抵の場合、それに耐えられない。冒頭から、今日の重要ニュースはこれこれです、などという。馬鹿いっちゃいけない。何が重要かを決めるのは、私であってTV局ではない。ま、こういうことをいってるから世の中から取り残されるのであるが(^_^;)。
 などと、持って回った始め方をしてしまったが、以下書くこととは直接関係がない。単に<嫌なニュース>のひとつというだけのことである。
 誰かを仲間はずれにしてイジメる子供たちは必ず、あの子はワタシたちとは違ってる<嫌な子>だからそう扱ってるだけだ、と、自分たちの集団行動を正当化する。大人たちもまた、あの人は近隣の生活基準からハミ出た困った人だから、と、誰かを無視したり排除したりする。
 不幸な生い立ちの少女がいた。彼女は、学校で凄まじいイジメにあった。家でも学校でも幼い存在を否定された彼女は、いわゆる「不良」の道を歩み、やがて、自分の子とその友だちを殺害した。・・・どこかで誰かが、「ホラ見ろ」といったりしているのであろうか。
 最初、娘の死体が川で発見されたとき、警察は単なる事故だと簡単に処理したが、彼女は手書きのチラシを配って訴えた。しかし日頃から団地の生活基準からハミ出ていた彼女の訴えは無視され、逆に、もしかして、と噂する人たちさえいた。やがて、娘を川に投げ入れたのは母親だったということが分かった。・・・どこかで誰かが、「ホラ見ろ」といったりしているのであろうか。
 近所に男の子がいた。こだわりなく女の子と一緒に遊び、母親であるおばさんとも顔見知りとなっていた。おそらく彼の両親は、あの家の子とは遊んじゃいけません、などとはいわなかったのであろう。ある日男の子は、おばさんに声をかけられ、何のためらいもなく家に入り、そのまま幼い命を奪われた。・・・どこかで誰かが、「ホラ見ろ」といったりしているのであろうか。
 そうは思いたくはない。だが、実に嫌なニュースであった。
 ▽・・・何が重要なニュースかを決めるのは私だ、と書いた上で、嫌なニュースとして国内の事件を取り上げたことで、あるいは誤解が生じるかもしれない。そういうことはないと思うが、一応いわずもがなの付記をつけておく。諸事昼寝中の私といえども、最も憤激している緊急ニュースは、イスラエルのレバノン侵略とそれに対するアメリカの支持であって他ではない。

 NEW  8月5日  もし私なら

 全く根拠のない話である。しかし嫌な予感がする。
 亀田八百長疑惑のことである。

 試合直後のニュースには、判定結果への率直で強い<意外>感が読みとれた。ガッツ石松をはじめとして、「意外だ!」とか「おかしい!」とかいう<専門家>の声も報じられていた。
 だが、一般の声が圧倒的に、八百長か少なくとも不当判定ではないかという疑惑に傾いてゆくのに反比例して、マスコミの姿勢はどことも次第に<慎重>になった。その後のニュースを特にあちこちフォローしたわけではないので確言する根拠はないが、何となく私にはそう思える。「おかしい!」と発言した<専門家>が沈黙し、またはマスコミが取り上げなくなり、逆に、「玄人的には不当ではない、少なくともありうる判定だ」といった<専門家>の声が増えた。そして、ニュースキャスター小倉某のように、「ジャッジの仕方も知らない素人が騒いでいるのです」といわんばかりの発言をする者も現れた。
 八百長か少なくとも不当判定ではないかという疑惑の声が予想を越えて大きくなると、ひとつの試合だけの問題ではなく、ボクシング業界さらには試合放映で稼ぐ業界の問題に関わってくる。防衛に回るのは当然だろう。
 一方、亀田側からは、「今回で減量の無理が明らかになったので、防衛せずに王座返上も考えている」、という声が伝えられた。なるほど。<ホントの>実力が確認されないですむ、うまい作戦ではある、と私などは<感心>した。
 しかし、一般の疑惑の声は、沈静するどころか益々強くなっていった。「防衛せずに返上」では、その声を消せないどころか、火に油を注ぐことになりかねない。
 そこへ、「大晦日に再戦を考えている」、というニュースである。なるほど! と、私はさらに<感心>した。・・・つまり、嫌な予感が私を襲ったのである。

 圧倒的に多くの人が、あの判定は不当だ!と思ったらしい。つまり、本当は相手が勝っていた、と思ったのだ。八百長などなかったと思いたいが、それでもあの判定はおかしい、と。だとすれば、一番の被害者は、負けにされてしまった相手選手だろう。というわけで、少なからぬ人たちが、相手選手に同情し、また日本人として申し訳ないと思い、領事館に手紙を出したりまでしたようだ。
 私は、もちろん素人である。素人でしかない。素人ゆえに、亀田某の話はできない。玄人的には、あの判定はまっとうなのだろう。八百長などなかったのだろう。以下は、予感と妄想の区別もつかない私の、妄想仮説の話である。
 ・・・仮にもしも、の話。もしも私が、慎重かつ巧妙な八百長プロモーターであるならどうするだろうか。私が、私の選手を使って大金を儲けようと企んだとして、私は一体どうするだろうか。
 試合前、私はあらゆるところへ手をまわすであろう。もちろんジャッジは私の方で選ぶ。そしてまた、当然対戦相手についても、白紙で臨むなんてことはするわけがない。大金がかかっている試合で、相手選手が私の選手をKOしてしまうかもしれない危険を、私は絶対犯したくないからだ。私は、いろんなファクターを考え合わせて慎重に相手を選び、そして、前もって相手選手にささやかせるだろう。「あなたの選手としてのプライドには、絶対傷をつけません。だから、後は全てまかせてください」、と。そのように、慎重にも慎重な根回しをした上で、私はいよいよ試合に臨む。私の選手はKOされなければそれでよい。そして実際、相手選手のプライドは、この上ない形で守られるだろう。試合後彼はいうだろう。「本当はどちらが勝っていたかは、みなさんに分かってもらえただろう。ただし、私は提訴は考えていない」、と。
 だが、あの判定は不当だ!という声が強すぎたらどうするか。次の一手として考えておいた「防衛戦なしで引退」というシナリオはまずい。そこで私は考える。そして、もっとよい手を、私は思いつく。「再戦して勝つ」、これだ。(いや、負け方さえうまくやれば負けてもよいかもしれないのだが)。
 判定は不当だ!という声に、私はほくそ笑む。その声は、関心の高さの裏返しに他ならないからだ。そうだ、場所の点でも時期の点でも、最高の舞台で再戦させよう。不当だ八百長だというその声こそが、最高の舞台の期待を高めてくれている。非難こそが金になるのだ。
 私には見える。最高に盛り上がる再戦の舞台が。そしてレフリーが高々と勝者の手を挙げるとき、判定は不当だと騒いだ人たちは、私のために奉仕してくれたのだということを思い知ることになるだろう。
 私は側近に命じる。「行け。今度は、プライドを買うのだ!」。

 NEW  8月6日  赤い月
 
 寝ようと思ったら、赤い月だった。

 NEW  8月7日  60年

 暦が戻る60年前なら46年夏、原爆1周年を迎え、東京裁判で戦争犯罪人の審議がはじまったところである。
 首相として参拝を批判されると宗教施設ではないといい、分祀をいわれると宗教施設ゆえに介入できないという。何が何でも参拝するのだと言い張りながら、争点にしないなどという。・・・しかし実は、ある意味神社は危機だそうである。遺族が急速に減少しているということで。
 遺族・・・そのひとりひとりは、例えば、このようであった。
 「あなたのお父さんは――」といいかけて、私は少女の顔を見た。やせた、真黒な顔、伸びたオカッパの下に切れの長い眼を、一杯に開いて、私のくちびるをみつめていた。
 私は少女に答えねばならぬ。答えねばならぬと体の中に走る戦慄を精一杯おさえて、どんな声で答えたかわからない。
 「あなたのお父さんは、戦死しておられるのです」といって、声がつづかなくなった。瞬間少女は、一杯に開いた眼を更にパッと開き、そして、わっと、ベそをかきそうになった。涙が、眼一ぱいにあふれそうになるのを必死にこらえていた。
 (杉山龍丸→全体を読む
(注)ちなみに龍丸氏は、茂丸の孫で夢野久作の子息であるが、戦後は、政府や企業の無理解の中、インドの緑化事業に身を投じ、インド「緑の父」と呼ばれることになる。
 少女はいま60代、幸せな日々を送っておられるであろうか。
 せめて、父の死は夫の死は息子の死は、意味のある死であったと思いたい。その死があって今があると思いたい。もし私たちが、単に意味のない死だったというだけで通り過ぎるなら、それは傲慢でしかないだろう。だからこそ、かつて無数の遺族を生み出し、いまなお遺族の気持ちを利用している者らを許してはならない。
 とはいえ、人々はいつも平和を願い政治家や軍人どもが人々を戦場に駆り立てたのだ、と思うなら、それは違っている。状況が来ると、いつも、人々の熱気こそがむしろ戦争を煽り立ててきた。
 「国が戦争をはじめた場合、あなたは戦いに参加しますか?」といった国際比較アンケートをどこかが試みたとかで、「はい」と答えた日本人は15%位だったとか。もちろん15とうい数字は、アンケートの仕方によってかなり動くだろうが、日本がダントツの最下位であるという順序は、おそらく動かないであろう。何だかんだいっても、いまのところはまだ、そう捨てたものではない。とはいえその「はい」は、表面的で危うい逃避によって、かろうじて支えられている。

 NEW  8月9日  想像する力

 テレビで、広島を訪れた14才のアメリカの少年が紹介されていた。
 少年は、学校で、「原子爆弾が開発され、広島と長崎で使用された」と習った。そのたった1行から、彼はもっと知りたいと思い、友だちと一緒に、原爆の開発に関わった科学者などに20時間に及ぶインタビューをし、それをまとめて16分の短編ドキュメンタリー映画を作ったのだという。
 その映画で、少年たちは原爆を、呼びだしてしまった魔神に喩え、「原爆が人を殺すのではなく、人がそれを使って人を殺すのだ」、と訴えようとしているらしい。
 一方、伝えられるところによると、彼は、「みなさんボクの映画に興味があるのは、子供が作ったからでしょう」、といったとか。
 ・・・もはや何も付け加えることができない。

 NEW  8月10日  想像力の範囲

 (どうせ訪問者がごく少ないページなので、しばらく毎日無理に書いてみる。またすぐやめるであろうが・・・(^_^;))
 「国家公務員に半日育休」という見出しが出ている。育児のために半日勤務を認める制度ができるとのこと。これまでも育児中の職員の部分休業制度はあったが、なかなか利用されなかった。自分が休めば回りに迷惑をかけるからである。今回の目玉は、半日勤務となる職員のかわりに、任期付きの短時間勤務職員を、一般公募で非常勤採用できるようにすることにある。これで実効性のある制度になる。育児中の職員もまわりの職員も、みんな歓迎するに違いない。大変結構なことである。労組も大いに賛成するであろう。
 ところで、この制度がスムースに運用される前提は、「任期付きの短時間勤務職員」の採用がスムースにゆくことである。公募に応じる人々、つまり、現在失業中で、任期付きの短時間勤務の仕事でも是非やりたいと望む人々は、当然いくらでもいると思われている。むしろ、この制度はそういった人々への雇用対策にもなる。そう思って、公務員はみんな、この制度を歓迎し、労組も大いに賛成する・・・のだろうか。するのであろう。
 松下をはじめとして違法な「偽装請負」が蔓延していることが先日報じられたが、連合の副会長は、正社員と同じように仕事体制に組み込まれながら待遇に決定的な格差がある人々の存在に「目をつぶって」「ほったらかしにしていた」労組にも責任があると発言している。「消極的な幇助〜と言われてもしょうがない」。
 もちろん、公務員に導入される新制度によって補充される臨時職員は、偽装請負のような<違法>な雇用形態では決してない。確かにこの制度は、育児支援をより有効にしようということで、ひいては少子化対策にもなる。臨時でかつ短時間勤務とはいえ、新しく雇用を増やすことになるのだから、いわゆるニート・フリーター対策にもなる。決して悪いことではない。むしろ歓迎すべきことではあろう。
 ただ私は、想像力の範囲が気になっている。
 これまで公務員が、育休を取りにくかったのは、迷惑をかける<仲間>のことを想像したからである。では、今回の制度で臨時で格差採用され、自分の育休が終わればそのまま解雇される他ない人々については、どうなのだろうか。どこまで、<仲間>として想像するのだろうか。おそらく労組は、そういうことには敢えて「目をつぶって」、新制度を歓迎するのでもあろう。
 それでも、最近は行政も、「ニート・フリーター対策」について、多少の努力を試みてはいる。年金や社会保障制度の将来のためにも、由々しき問題だからである。だが、それらの多くは、職業訓練と職業斡旋を中心とするもののようで、対象として想定する肝心の若者たちにそっぽを向かれているようだ。いわゆるニート・フリーターと呼ばれる若者らは、厳しい雇用・労働状況の産物であるが、訓練や斡旋は、彼らをその厳しい労働状況に追い込み組み込むものでしかないと思われているのであろう。もっともなことである。排除されることは主体的な脱出に、拒絶されることは主体的な拒否に読み替えられうるし、そこに若者らの矜持があることを、訓練と斡旋というプログラムは見過ごしている。それでも、もちろん、自己責任だなどといって放置するのではなく、対応努力をしようとすることは悪いことではないだろう。
 しかし、まだ他に「目をつぶって」見ないようにされて人たちがいる、という指摘がある。行政は「ジョブトレーニングなどにはかなり力を入れて」いるが、「ニートやフリーターの親側の生活に目を向ける機会はほとんど」ない。「ところが、現実問題としてニートの親は、老後の生活設計が崩れてしまっているケースがとても多くなっている」。若い人は、「たとえ今、定職についていない」場合でも、「生活設計を立て直すチャンス」があるが、「一度崩れてしまったニートの親の生活設計を立て直すのは、困難を極め」る、と(豊田眞弓)。
 これもまた、想像力の範囲の問題なのだろう。


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 NEW  8月11日  自己責任

 輸入再開されたアメリカ産牛肉が超安値設定で店頭に並べられ、結構買う人が多くて、一部では行列もできたらしい。高くても安全なものを食べるという贅沢、地盤のしっかりした高台に住むという贅沢、安楽で健康的な老後を確保するという贅沢、その他もろもろの贅沢。アメリカ産牛肉を喰って脳がスポンジになったり、低地の安アパートで災害後死体で発見されたり、年金も生活保護もなくボロ切れのように孤老死を迎えたり、・・・これらを自己責任の人生という。  

 たまたまあったゴーヤとバナナと挽肉でカレーを作った。ヨーグルト入りである。

 NEW  8月12日  10人だけのマスゲーム

 先日北京で、北朝鮮大使が中国外相に面会を求めた。国連で対北朝鮮決議案に賛成したことに抗議しようとしたのである。だが断られたため、大使は、大使館員10人とともに3台の車で中国外務省に押しかけ、同省前で3時間以上にわたり「裏切り者」などの言葉を荒々しく繰り返したという。余りにも険悪な様子に警察を呼ぶ話まであったというから、かなりのものだったのだろう。
 イスラエルに抗議してデモに行ったが30人しかいなかった、シュプレッヒコールの声も街の喧噪に吸い込まれるだけだった・・・などという諸君。修行が足りませんゾ(^_^;)。但しもちろん、諸君が同じように3時間以上激しい無届け街頭抗議をするためには、先ず大使にならなくてはならないが。
 それとも、あの国のことだから、3時間というのも、あるいは職務指令に従った行動だったのかもしれない。それならいっそ、荒々しい街頭抗議というような、帝国主義国の市民文化を借りずに、たとえ10人でも整然とマスゲームでアピールをしていれば、世界中に配信されたであろうに。惜しいことである。

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