野見山先生には黙っていたけれども、先生の亡き画友への鎮魂録「祈りの画集」にうたれて「無言館」建設を思い立った私の心奥には、戦争にとことこ苦しめられ、口にいえぬ辛酸をなめながら貰い子の私を慈育し、報われぬまゝ先年この世を去った両親への憐れみがあったと思う。憐れみというのも甘い言い回しだけれども、私は死んでいった画学生のどの絵にも、あふれるような存命の歓びと肉親への感謝を発見して瞼がぬれたのだった。
         親が生きているうち、何一つ孝行せず、すべてを子の手柄のように考えてきた自分の姿をふりかえってやるせなかった。同時に、父や母の背後にあった「戦争」をも一顧だにしようとしなかった自分がなさけなかった。全国をめぐって戦没画学生の遺作を蒐めることは、そんな私自身の五十数年にわたる思いあがりの暦を、もう一どみつめ直すきっかけになるのではなかろうか。
    窪島誠一郎氏の主な著作
    「父への手紙」(筑摩書房) 
    「わが愛する夭折画家たち」(講談社) 
    「絵画放浪」(小沢書店)
    千葉県の戦没画学生の作品として、木更津市生まれの興梠 
    武(こうろぎ たけし)さんの遺作が展示されている。