戦没画学生慰霊美術館「無言館」

 
 

 長野県上田市、まわりを山々に囲まれた塩田平と呼ばれる田園地帯の丘陵地の頂に、浅間山を背景にし、中世のヨーロッパの僧院を思わせる建物のなかに、先の太平洋戦争で志半ばで戦地に散った画学生30余名、300余点の遺作、遺品が展示されている。
 信濃デッサン館の館主窪島誠一郎さんが、画家で自らも出征経験があり、また美術学校の仲間を戦争で失った画家野見山暁治さんとともに日本各地の戦没画学生のご遺族のもとを、敗戦後50年を迎えた平成7年5月から2年間探し訪ね遺作を蒐めたという。
 そして、村山槐多ら夭折画家の素描を展示する信濃デッサン館の分館として、平成9年5月2日に開館。

  「無言館」ガイド
住所:長野県上田市大字古安曽山王山3462
電話:0268−37−1650
鑑賞料・・・随意制(一人200円から500円) 出館の際に納める。
開館時間:10時〜17時入館まで(年中無休)
 

窪島誠一郎著 無言館 戦没画学生「祈りの絵」(講談社)より抜粋

 野見山先生には黙っていたけれども、先生の亡き画友への鎮魂録「祈りの画集」にうたれて「無言館」建設を思い立った私の心奥には、戦争にとことこ苦しめられ、口にいえぬ辛酸をなめながら貰い子の私を慈育し、報われぬまゝ先年この世を去った両親への憐れみがあったと思う。憐れみというのも甘い言い回しだけれども、私は死んでいった画学生のどの絵にも、あふれるような存命の歓びと肉親への感謝を発見して瞼がぬれたのだった。
 親が生きているうち、何一つ孝行せず、すべてを子の手柄のように考えてきた自分の姿をふりかえってやるせなかった。同時に、父や母の背後にあった「戦争」をも一顧だにしようとしなかった自分がなさけなかった。全国をめぐって戦没画学生の遺作を蒐めることは、そんな私自身の五十数年にわたる思いあがりの暦を、もう一どみつめ直すきっかけになるのではなかろうか。

窪島誠一郎氏の主な著作

「父への手紙」(筑摩書房)
「わが愛する夭折画家たち」(講談社)
「絵画放浪」(小沢書店)

千葉県の戦没画学生の作品として、木更津市生まれの興梠 武(こうろぎ たけし)さんの遺作が展示されている。