基礎と応用
「基礎と応用、どっちが面白い?」そんなことを聞かれりゃ誰だって応用と答えるに違いない。基礎には堅苦しいというイメージが付いてしまうのが原因らしい。それを私は否定する気にはなれないし、基礎の方が面白いんだなんていう意見をいうつもりも無い。ただ、基礎学問をやり始めるとどうやら「はまる」らしい。それも、ちょっとした基礎知識の習得後に応用に取りくみ、ひとしきり応用を見た上で基礎を再度学び始めたときにこの傾向が強い。はじめから基礎を丹念にやり始めた人が、いきなり基礎にはまったという話は聞いたことが無い。
応用を前提にして初めて基礎の面白さがあると思う。基礎を身に付ければそれだけ応用の範囲が広がるし、応用のときには「そういうもんなんだ」で済ましていた事項が、基礎を学ぶことにより明確に分かるようになるので、はまらない方が不思議かも知れない。下手なたとえかも知れないが、応用は人間の発展の行く末を、基礎は人間(生命)誕生の秘密を探るといった、方向的にはまったく逆ではあるものの、どちらも「探究」には違いないく、ただ基礎には確定したものがあり、応用には未確定因子があるといった違いがあるだけといった感じだろうか。
直流安定化電源は、電圧の制御を電子回路を用いて実現したもの、といえる。つまり制御工学が基礎であり、電源回路はその応用なのである。そこで、電源回路を設計しがてら制御の理論をちょいと盛り込んでみれば、制御の面白さが実感できる。電源を通して制御が分かってくると、電源についての制御にとどまらず、自ずと他の制御まで感心が沸いてくる。基礎の部分は電源を通して理解しているので、他の制御の土壌にいってもそれほど違和感が無い。
結局、応用に足を突っ込んでみれば、自ずと基礎理論に興味を持つようになり、基礎理論を学べば別の応用事項にも興味が発生して......という道ができる。自動操縦やらロボットなんてのも制御の応用に入るが、ここから足を突っ込むのは実際のものを作るだけでも一苦労。その点電源を作ることは、少なくともロボットを作るよりはやさしいだろうし、費用もそれほどかからない。ひょっとして、電源ってのは、制御を学ぶ上で非常にいい材料なのではないだろうか。少なくとも電子回路が好きな人にとっては。
ここで、ただ一つ問題がある。電子回路の動作状態を知るには測定器が必要不可欠。この測定器がこれまた結構高い。測定器の有る無しによって、ハードウェアが理解できるかどうかに大きく影響してくるのは事実だが、そうそう高い測定器が買えるわけがない。こればっかりは、ひたすらお金をためて買ってくださいとしか言いようがない。工業系の高校や、理系の大学、電子・電気系専門学校にいっている人は、学校の測定器をその場で借りることが可能だと思うので、大いに利用するといいんではないだろうか(理系学校に通う人の強みがここにある)。
(ハムフェア94 クラブ出展物 '94 DCDCコンバータ設計入門より抜粋)