電源うんちく話 その5
大変なところはすべて背負います
電源といってもいろいろあるが、ここでいう電源とは家庭用ACコンセントからきている100Vの電気から、数ボルト程度の直流を作り出すものをいうことにする。電気も、数百ボルトという高圧になれば結構怖い。この怖い電気をも扱わなければならないのが電源であるから、当然、電源の中にはこんな高い電圧を扱っている部分がある。だから、設計には気を使う。作っているときに感電しないようにというのもあるが、実働時に、高圧回路部で絶対事故が起きないようにしなければならないからである。例えば、配線間の距離が狭いため、高電圧がその部分にかかったら火花が散ったとか、部品が高圧に耐えきれず破壊した、最悪の場合火を吹いた、なんてことは絶対にあってはならないのである。
危険だからこそ、その部分を設計するときにこうすれば大丈夫というルール、いわゆる安全規格というものが存在する。「このぐらいの電圧を扱うのなら、これだけ距離を離しなさい」とか、「ユーザーが手で触れられる場所とはいかなるところか」とかそんなことが記載されている。安全規格を守って設計し認定を受ければ、「この製品は安全規格を守って設計していますから、安全です」というお墨付きをいただける。今の世の中、このお墨付きなしでは電気製品を売ることはできないようになっている。そして、高圧を扱う電源と安全規格は切っても切れない関係にあるので、電源設計者は熟知とまではいかなくても安全規格についての知識が必要とされる。低圧になれば安全規格の適用除外になってくれるから、電源より先の回路を設計する設計者は安全規格を気にする必要がほとんどない。
安全規格認定のお墨付きをもらうには、作成した機器を検査機関に渡して、いろんな試験にパスしなければならない。ちなみに検査機関へは5から8台程度渡すのだが、検査終了後に戻される被試験用機器はほとんどが破壊されており、ちゃんと動作するものはほとんど無い。試験は、「これだけ外部から高電圧を印加しても壊れないこと」ということから「わざと故障を起こさせ.....というか機器内部でわざと危なそうなところを短絡させるなど故障を想定した試験をひたすら行い、故障しても火を吹くなどの2次災害が出ないことを確認」、そしてその他いろいろ、とにかく過酷な試験を行うので五体満足に戻ってくるものは無いのである。このような、破壊されることが目的という厳しい試験は、高圧を扱う部分において行われる、つまり試験のほとんどは電源部に集中するということである。結局、電源部の設計は、性能はもとより安全規格についても頭を使わなければならない。
(ハムフェア94 クラブ出展物 '94 DCDCコンバータ設計入門より抜粋)