電子負荷装置

電源設計の必需品

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1.どんなものか

電源の特性測定をするときは、電源に負荷をつながなければなりません。

一番簡単な方法は抵抗を負荷としてつなぐことですが、それですと自由に負荷電流を変えられません。また可変抵抗器を用いる場合、大電力タイプの抵抗の入手は非常に難しいです。そこで負荷にトランジスタなどのアクティブ素子を用いたものを使用します。この負荷を電子負荷といいます。

図1 電子負荷

 

電源設計の特性、たとえば負荷電流に対する出力電圧の変動を測定するとしましょう。この測定を実現するには、必要な負荷電流を流す抵抗を沢山用意するか、可変抵抗を用意すればよいことになります。しかし、前者の場合、沢山の抵抗を用意しなければなりませんし、必要とする電流値となるよう抵抗の値を計算しなければなりません。後者の場合、大電力をタイプの可変抵抗を入手しなければならず、これは入手が意外と難しいものです。そこで、抵抗の代わりに図2のようにトランジスタなどのアクティブ素子を可変抵抗の変わりとして用いることにします。アクティブ素子は、トランジスタならベース電流でコレクタ電流を、FETならゲート電圧でドレイン電流を制御できますから、可変抵抗の変わりとして用いることが出きるのです。このように、アクティブ素子を用いた負荷を電子負荷(アクティブダミーロード)といいます。これらアクティブ素子は、電圧や電流によりコントロールできますから、制御回路を組み込むことにより負荷を自由にコントロールすることができます。これは、単なる負荷にとどまらず、抵抗負荷ではできなかった負荷状態をも作り上げることが可能ということなのです。

この電子負荷、電源設計では必需品です。

 

 

数十Wの可変抵抗を入手するのは大変だが、数十Wのアクティブ素子を入手するのはたやすい。

図2  トランジスタを抵抗の代わりとして使う

 

2.簡単な仕様

・最大負荷 3A

・最大印加電圧 42V

・動作モード   連続/過渡応答(A/B負荷自由設定)/過渡応答(100%−50%)

・電圧計・電流計確度  特に誤差計算をしていないのでできたなりです。

・負荷安定性  できたなりです。電流センサ用抵抗に温度係数の良くないものをつかってますし。

   (温度係数の小さな抵抗は入手が困難で非常に高いから)

・入力 非絶縁

・電源 DC12V

 

3.外観

作成した電子負荷は、写真1と写真2の2種類のタイプがあります。写真1は、最初に作成したもので、きちんとケースに収めたものでした。さすがに最初に作成したものなので、「ジャンパー線が飛ぶ」、「ハーネスいっぱい」などなどいろいろ問題ありのものでした。写真2は、ハムフェア出展用として作成したもので、電子負荷装置の構成がわかるよう各基板をパネルに貼り付けてあります。この写真2の基本回路は写真1と同じ、ただ基板構成や、写真1でミスった個所を直してあります。

 

一番最初に作成したもの。

ジャンパー内部はジャンパー線が飛びまくってます。

カバーを取るとこんな感じ

写真1

ハムフェア展示用に作成したもの。試作した電子負荷の内部がわかるよう、パネルに基板を固定させています。左上が電源、左下が負荷トランジスタ(放熱器の下)、真中が基板2段重ねで、上がメータとキーロジック、下が負荷制御、そして右がキーボードと表示部です。写真1の回路を手直ししてあります。

写真2

 

4.回路説明

4-1.全体構成

この電子負荷装置は、「負荷として用いるトランジスタ」、「負荷電流を制御する制御回路」、「負荷電流波形を決定する負荷波形生成回路」、「電圧・電流を測定するメーター回路」、そして「過電力や過電流による保護や警告をだす保護回路」から構成されます。

全体構成図はこちら。170kBとちょっと大きいです。

 

4-2.制御回路部分

 負荷電流を制御する回路の概略図を図3に示します。負荷として使用するトランジスタと、電流を検出する抵抗Rs、そして電流を一定に保つための制御回路から構成されております。抵抗Rsに電流が流れると、それに比例した電圧が抵抗両端より取り出せます。この電圧Vsは誤差増幅器に入り、基準電圧Vrefと比較されます。. Vs>Vrefのとき、誤差増幅器出力は小さくなり、トランジスタのベース電流が減り、負荷電流が小さくなり、Vsは小さくなり、やがてVs=Vrefとなりバランスがとれます。

図3 原理図

 

またVs<Vrefのとき、誤差増幅器出力は大きくなりますから、トランジスタのベース電流が増え、Vsが増加、Vs=Vrefとなってバランスがとれます。このように、VsはVrefよりも大きくなることも小さくなることもできず、一定値に落ち着きます。このように、この回路はつねにVref=Vsとなるため、Vrefによって負荷電流Icを決定することができるのです。さて、こうして電圧Vrefに応じた一定の負荷電流を流すことができるようになりました。このVrefを可変抵抗器ででも作ってあげれば、可変抵抗をまわせば電流を自由に可変できる電子負荷装置が出来上がります。

 

4-3.負荷波形生成回路

電源設計において過渡応答試験は必要不可欠です。この電子負荷にも過渡応答試験の機能をいれておきましょう。過渡応答試験を行うためには、図5のように、オペレータが任意に決めた負荷電流Aと負荷電流Bの間を急峻に変動させてあげればいいわけです。

図4 過渡応答試験時の負荷電流

 これを実現するには、振幅を自由に変更できるような発振器を作ってあげればよいわけですが、ここでは、負荷電流Aに対応するVrefの直流レベルVAを決め、VBは、VAから発振器の振幅VOを引いた値とします。こうすれば、VO〜0Vの振幅で発振する発振器の波高値VOだけを決めてあげればVA,VBが決定できるので、回路的に楽です。

矩形波は、タイマIC555を用いて周波数1kHz,Duty50%の矩形波を発生させます。こうして、任意の電流値における過渡応答試験をできるようにしたのが、図5です。まず、ノーマルモード(U4B,U4C,OFF  U4D ON)で負荷電流を決め、この時のVrefの電圧をVAとします。

 次に、過渡応答試験における負荷電流Bを決めるモード(発振器の発振を止め、発振器出力をHレベルに固定する。スイッチU4B ON,U4C,U4D OFFにする)にします。ユーザーがボリュームVRをまわすと、発振器出力のHレベルが自由に変えられ、負荷電流Bに対応する電圧VBは、VA-VOとなります。この状態で過渡応答試験をスタート、すなわち発振を開始させると、負荷電流A,負荷電流Bの間で過渡応答試験を行うことができます。

 なお、過渡応答試験において、負荷電流Bは負荷電流Aの50%にすることが多いので、負荷電流Aを決めたら自動的に負荷電流Bはその半分になるというモードを用意しておきました。回路的には、単にVAを半分に分圧したものをVBとして用いるだけです。これは、U4CをONにすることで実現します。

 

図5  過渡応答試験の振幅決定回路

 

4-4 メーター回路

電子負荷に流している電流と、電子負荷に印加している電圧を測定します。ICにインターシルのICL7137を用いました。この回路は、データーブックに記載されている回路をそのまま用いましたので、とくに設計らしいことはなにもしておりません。このICは2Vフルスケールで動作しますから、電圧測定のときは1/100アッテネータをいれて200Vフルスケールにしております。電流測定のときは、電流センサ抵抗が0.05Ω、その検出電圧Vsをオペアンプで2倍しておりますから、0.1V/Aとなり、20Aで2Vフルスケールとなります。具体的な回路は回路図を参照してください。

 

4-5 保護回路

過電流・過電力が発生した場合、入力に接続されているリレーをOFFすることで回路を保護します。過電流検出は、センサ抵抗に検出される電圧が一定以上になったらコンパレータを動作させることで実現しています。また、過電力は、アナログ掛け算器NJM4200をもちいて電圧・電流の積、すなわち電力を計算し、その出力が一定値以上になったらコンパレータを動作させます。過電流検出のコンパレータ出力・過電力検出のコンパレータ出力のどちらかがHレベルになったら、フリップフロップを動作させ、入力に接続されているリレーをOFFします。フリップフロップですから、一度でも保護回路が動作すると、フリップフロップをリセットするまで回路は保護状態を保ちます。

この電子負荷は、回路の都合上負荷電圧がある程度以上(およそ3V)ないと正しく動作しません。そのため、負荷電圧が3V以下の場合、回路が正しく動作しないという警告ランプを点灯させることにしました。回路としては、負荷電圧と3Vと比較し、それ以下だったらLEDを点灯させるという簡単な回路です。

具体的な回路図は回路図を参照してください。

 

5.全回路図

全回路図はこちらです。

 

6.使用してみて

複雑な機能はいっさい省きましたので、それなりに使いやすく、結構便利です。不満といえば、性能的に割り切って設計しましたから、物足りなさも感じてしまうということでしょうか。たとえば入力をフローティング入力にしていませんから、負電源の負荷として用いることができない(本器の電源は、DC12Vで動作するようにしていますから、どうしても負電源の負荷として用いたかったら本器そのものを電気的に浮かしてしまえばいいだろうと割り切ってました)、過渡応答の発振周波数を1kHzに固定したので、応答の遅い電源において試験がうまくできない、過渡応答時の立ち上がり・立下り時間が固定されているので、制御の傾向をみるのにちょっと物足りない、入手の都合上、モジュール抵抗を用いなかったので、電圧計・電流計の誤差が大きい(特に温度の影響を受けやすい)、電流センサ抵抗に温度係数の高い抵抗を用いているので、温度の影響を受けやすい。などです

まぁ、これらの不満は、本当に我慢ができないほど困るというものではないのですが。

これで、とりあえず電源設計をするとき、いちいち負荷用の抵抗を大量に用意する必要がなくなり、過渡応答試験ができるようになりました。

 

7.最後に

実のところ、この電子負荷は、もう引退してるのですが、過去に作成したものとして掲載することにしました。写真は、解体途中のものなので、放熱器が無かったりと、現役時代とちょっと様子が変わっております。引退理由は、負荷素子として用いていたトランジスタが入手できなくなってしまったのでメンテナンスが不可能となったこと、当時満足していた3Aという仕様は、現在では不足してきた、負電源を作成する機会が増え、入力がフローティング構造でないということに不満を感じてきた、というのが理由です。丁度、そろそろ新しいものとしてデジタル電子負荷というものを作成しようと思っていたため、思いきって引退させることにしました。