5 DAYS IN PARADISE
ジャカルタ・バリ島素描集



 インドネシアの首都ジャカルタの中心部は、近代的なビルが立ち並ぶビジネス街と南欧風の赤い瓦屋根の住宅街とのコントラスが印象的だ。比較的裕福な人々の住むこの街区では、家々の庭には樹木の緑と花々があふれ、屋根には衛星放送受信の丸いアンテナが、暮らしぶりを象徴するかのように林立する。だが、道路は未鋪装の部分が多く、乾いた風が巻き上げる土ぼこりが、辺りで遊ぶ裸足に近い子ども達を容赦なく吹き襲う。近くの空き地にはホームレスの家族の炊事の煙がたなびき、厳しい現実の姿も見せる。しかし、それらを包み込むようにキラキラと輝く近代的なビルのメタリックな精悍さと、赤い屋根の町並みの穏やかさが優しい表情を見せて美しい。




   ジャカルタ市内の交通事情はすさまじい。遠慮していたら角も曲がれない。頭を先に出した方が勝ちなのだ。走っている車の大半は日本車だ。それだけ見れば日本の都会と錯覚するほどだが、その車のいつ洗車したのか判らないほどの汚れぐあいには、むしろ感心する。市民の通 勤の足でもある乗り合いバスにはドアが無い。はげしい乗り降りにはこの方が便利だし、クーラーの無い車両では却って涼しくもあり合理的ともいえる。当然クーラー付きのバスにはドアがあり、料金も高くなる。
 鼻を突く排気ガスの臭いとけたたましいクラクションの饗宴。おびただしい車と二輪車の列が、うねりのような人の波をかき分け、さらにその中央をピカピカのベンツが引き裂くように疾走する。




 バリ島の青い海と白い海岸線のまぶしさは、旅のカタログそのままだ。あざやかな花とトロっとした甘い風。親し気な東洋人独特の笑顔と神秘的な装いの女性達の、ちょっと照れくさい歓迎を受けて凝ったバリ装飾のホテルに落ち着く。プールサイドのにぎやかな西欧人のパーテイーを横目で見ながら、ビーチの前のガーデンレストランで、バリ料理とやらに挑戦する。少々焦げすぎのえびや魚に舌つづみを打ち、ビールのほどよい酔いにまかせて、メキシカン風のトリオの唄う日本の演歌に手拍子を合わせる。
 翌朝、時間が止まったような静けさのビーチで、茫洋としたひとときに身をゆだねる。強い日射しと生暖かい風にどこか心地良さを感じながら、こんな暮らしもあるんだな・・・なんて、妙に人生を考えたりする。




 ウブドまでの街道には、木彫りや織物、彫金や絵画の工房が軒を並べる。バスが止まるや否や、幼げな娘やその母親とおぼしき女性達の土産もの売りの攻撃に襲われる。千円!千円!と叫びながら、わずかな時間に一つでも多く売りつけようとの凄まじい迫力には恐れ入る。訴えるような少女の眼差しに負けて買ってしまった40個千円の木彫りの束。すぐに壊れてしまいそうな粗雑な作りながら、南国らしい派手な色のユーモラスな鳥や魚達の妙な愛らしさには嬉しくなる。自分で彫ったという木彫りの箱の屈託のない粗い仕上げにも、心がなごむのは何故だろう。



 神々の島と云われるバリでは、独特の彫刻に飾られた割れ門と呼ばれる一対の石造の壁が、神と人との境界を示す。バナナの葉で器用に編んだ小さな皿に、色とりどりの花びらや果 実を盛り、暮らしの隅々に宿る神々へ感謝の気持ちとして供える。先祖の墓所はもちろん、机や戸棚など家のあちこちにさりげなく供えられている。それも、毎朝新しいものを供えるというから大変だ。
 街中を、花や果物を見事に積み上げた供物を頭に載せた民族衣装に着飾った女性達が行く。親族の葬儀に向かう縁者の葬列だというが、その表情は以外と明るく、無遠慮な旅人の好奇の目にも小さな微笑みで応えてくれる。


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