「眠く、そして照れている」 Kaseo(KASEO REKORZ)


 正直言って、この作品を初めて聞いた時に、私は不覚にも途中で寝てしまったのである。別に普段からの寝不足がそうしたというわけでもないのだ。断言してしまうが、この関東正晃の新作「rusty music」は"眠い"アルバムだ。しかも"気持ちのいい"眠気を誘う作品である。

 氏とは小学5年生からの付き合いであり、現在もKATEというユニットで活動を共にしている友人である。だから今回のこのライナーノーツ執筆の話しを依頼された時、果たして客観的な視点で書くことができるのか?と少々とまどいもあったのだが、作品を聞いてみて、リスナーの方々にぜひとも伝えておきたいことがあったので、僭越ながらこうしてキーボードを打っている。
 20年来の付き合いであるからして、氏の"やりたいこと"というのが私にはものすごく"わかる"。何を表現したいのか、どんなミュージシャンからの影響か、このサンプリング音はどこからのパクリか(笑)。毎回、新作が届くごとにニヤリとさせられていたのだが、今回はちょっと違った。冒頭でも書いたが、何故か非常に"眠い"のである。はたと気付くとCDのプレイが終わっていて、慌てて頭からもう一度聞き直すこと数回(合掌)。でもこれは作品がつまらない-脳の拒否反応-ということではなくて、「rusty music」自体が眠気を誘うオーラを発しているのである。しかもこのオーラは、何故か私にだけには非常に強く作用してしまうようなのだ。どういうことだ?・・・そして何度か聞いてみてようやくその原因が判明した。アルバム全体を通してのBPMがおおよそ100〜130前後なのだ。ドラムンベースやガバなどのいわゆるハードコアテクノ-BPMが150〜180前後という高速なビートの音楽にすっかり耳が慣れてしまっている私には、この「rusty music」が放つゆるいBPMが子守歌のよう気持ちよく入り込んできたのであった。そして、昔よく聞いていたテクノポップの持つ、ストレートでいて、かつヒューマンな感じの音楽の響きが逆に新鮮な感動となって体の中に入り込んできたのであった。その事実が判明した途端、今度は脳がイキイキと動き始め、この「rusty music」をもっと深く聞き込んでいける体勢に入っていったのであった。

 氏は非常に"照れている"。ここ何作かの氏の作品では歌モノが中心であった。そう。あくまでもテクノポップという姿勢を崩さないものであった。それが今回は歌モノは9曲中2曲(tr7.kagome-kagomeを含めると3曲)という、インスト曲が中心のアルバムに仕上がっている。この変化は何だ?昨今の、いわゆるデトロイトやシカゴを中心に発達していった"90年代テクノ"を意識したものなのかと思ったのだが、いささか違うようだ。
 YMO世代と言われる氏や私のようなテクノ少年が捉えるところの「テクノ」というのは"テクノポップ"のことあでる。プロフェット5に憧れ、ボコーダーの発するロボットボイスに狂喜し、MIDIなんてまだ存在しなかった頃のテクノ。シンセサイザーメーカーからカタログを取り寄せ、学校で昼休みにソレ系の仲間達と「買うとしたら」とか「一番欲しいのは」などと言いながら盛り上がっていた経験をお持ちの方ならわかると思うが、氏の作品には「やりたかった音作りができるようになった」という喜びが満ちあふれている。当時はとても高くて手が出なかったようなシンセサイザーが、ようやく自分達の手に届くような環境になってきたこと、そしてマイノリティーだった「テクノ」が市民権を得て、現在は"ナウい"シーンになっていることなども含めて、やっと"できる"ようになったのである。気が付けばもう30歳になり、結婚もして子供まで生まれている(笑)。それでもまだ冷めることのない「黄色魔術」。その「黄色魔術」にかかっていない、新人類とも言える最近の10代、20代のテクノ少年少女達に突き付ける、快心の一作!と言いたいところだが、氏は"照れている"のである。照れて、そっとこのアルバムを差し出すのである。「こんなの作ってるんスけど?」てな感じで。表面では照れている。でも腹の中では「これが"テクノ"なんだ!解るか?」と言い放つワイルドな姿勢がある。一番多感な時期に「黄色魔術」にかかってしまった私達は、アナログシンセやボコーダーというのは、すっかり"血肉化"しているのである。「今、流行っているから?」とか「モテるから」とかいう理由でシンセサイザーを使っているのではない!自然にやりたいことをやろうと思ったときに出てくるのがシンセサイザーでありドラムマシンであり、ボコーダーなのである。年季が違うんだよ、年季が!(笑)

 この作品を聞くにつけ、私は本当にテクノ少年で良かったと思う。というかこれからもずっとテクノ少年であり続けたいと思わせる作品である。「あぁ、オレ達はやっぱりテクノが好きなんだ」と再確認することのできる作品である。

 そしてまた眠くなる・・・。


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