PENTAX SUPER A SMC 100〜300mm

日本人は千年の昔から花に折々の季節感を感じてきました。 繊細な四季の移ろいのなかに自身の

喜怒哀楽や思いでを紡いでいる。 春は新しい出会い、別れそして旅立ち  ・・・・・・ 。 そんな人生の門

出を祝福するかのように、なつかしい思い出の傍らにはいつも桜の花が舞っている。 

桜は神の化身。 桜の花びらが散る様を古代人は " 穀物の神 " の " 種蒔き " と考えたようだ。

古代の人々が稲作をしながら、自然を敬い、神をおそれて暮らしていたこの頃、日本の山野を彩って

いた桜は、白い五弁のヤマザクラだった。 ヤマザクラは一本、一本の木に個性がある。 花と同時

に出る若葉の色の違い、茶、赤、青、黄色と木によって異なる。 花の色も純白から紅の強いものまで

微妙なちがいがある。 開花の時期も早咲きから遅咲きまで、三週間程度のひらきがある。

桜の代表 「 染井吉野 」 にはない趣があるのである。

" ねがわくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃 "  ー 西行法師 ー

桜を愛し、桜に生き、まさに桜の下で入寂した放浪の歌人 「西行法師」 と吉野山、桜の神秘性と深い

かかわりをもつ吉野山に生涯憧れをもち続けた 「豊臣秀吉」 、この天下一の桜の名所 " 吉野山 " も

ヤマザクラが主役です。 ソメイヨシノにはない純白の五弁と素朴な美しさ、凛とした気品、花と葉

の織り成す郷愁を秘めた佇まいが素晴らしい。

長野県蓼科高原の里に高野将弘という方がいらっしゃいます。学生時代から絵画の収集をしておりました

が、マリ・ローランサン(1883〜1956)に出会ってからはひたすら彼女の作品を追い求めたそうです。きっかけ

は奥さんが好きだったからのようです。 「彼女の絵画は厳密な絵画上の約束から言ったら、むしろ詩歌の

部類に入るかも知れません。そこには描かれた造形美よりも、より多き抒情美を見出すのである。その作

品は絵画であると同時にまた抒情詩なのである。 彼女の作風は一貫して女性の 「心の美」 を洗練された

タッチで描ていいます。そして一枚 一枚の絵に動きと語らいがあり、グレー、ピンク、ブルーを主調色とした画

像が醸し出す、ゆったりとした繊細で甘い香りは、日本人が本質的にもつリリカルな好みとぴったり重なるも

のである」 。高野氏はローランサンの初期から晩年に至る油絵、水彩、デッサン、版画、挿絵画など500点を収

集されたと申しますから、彼女の作品(油絵1336点)から見て、のめり込みようが推察されます。氏は八ヶ岳

中信高原国定公園内にマリ・ローランサン美術館を作り、そこの館長をされております。私はこの話を聞いて

心を打たれました。私自身美術には無縁でして抒情美も、殊に 「女性の心の美」 は皆目見当がつきませ

ん。私が素晴らしいと思うのは高野氏の半世紀以上にも及ぶ 「追い求める」 態度だと思います。氏を夢中

にさせた絵画とはどのようなものだろう、機会がありましたら是非拝見したいものです。

情熱なくして大きなことが成し遂げられたことはない  ー エマ−ソン ー