” さようなら ”  角島へ向かう連絡船

出航のドラが鳴り、 蛍の光 のメロデイが流れます。船は静かに岸壁を離れ、船べりで交わす何本

かのテープがパチっと音をたてて切れました。その度に何か胸にジーンとこみあげて参ります。あちらこ

ちらで拍手がわきおこります。角島大橋の開通と同時に廃船となるこの 連絡船 は、これまで一体何人

の人を運んだのでしょうか。歳月は人も景色も変えます。効率、スピード第一の現代には時代遅れとな

り、経済の活性化の目玉として完成した角島大橋にとってかわりました。滅びゆくものは常に美しい。

夕陽に映えてテープと海がきらきらと輝いて見えます。ふと太宰治を思い出しました。 黄色の灯りをとも

した青函連絡船を港の桟橋で眺めながら、太宰治は少年のころ将来嫁となる女の子と男の子を結ぶ目

に見えない赤い糸について考えにふけったと申します。少年が上空に目をやると、糸を引くような一筋の

雁の編隊が飛びこんできました。伸びたり、縮んだりしながら何列にもわたりV字型飛行しております。北

方のシベリア、サハリンから南下する途中なのでしょうか。このあたりの上空を通過する雁の南の終着地

は一体どのあたりなのだろう、と少年は思いを巡らしながら、いつまでも空を眺めていたと申します。

 

海岸通

あなたが船を選んだのは 私への思いやりだったのでしょうか

別れのテープは切れるものだとなぜ 気づかなかったのでしょうか

港に沈む夕陽がとてもきれいですね

あなたをのせた船が小さくなってゆく

 

夜明けの海が哀しいことを あなたから 教えられた海岸通

あなたの言うとおり 妹のままでいた方が 良かったかもしれない

あなたがいつか この街離れてしまうことを

やさしい腕の中で 聞きたくはなかった

 

まるで昨日と同じ海に波を残して

あなたをのせた船が小さくなってゆく

− 伊勢正三 −