北斜面  

  幹周り190a 最大山桜

昭和62年に故あって伐採しました。 巨大な老木 でしたが、これぼどのものは見たことがありません。

萱葺きの屋根が傷むので、昭和に入ってからも度々切られたそうで、それでも生き永らえてきました。

全盛時に比べれば小ぶりになりましたが、それでもご覧のとおり見事なものでした。 全盛の頃には遠く

から見ますと、真白の雲がもくもくとわきのぼって、家全体を包んでいるような壮観な 眺めでしたが、残

念ながら当時の写真は残っていません。 周囲には四十ばかりの大きな山桜 がありますが、この大木

に比べればまだまだ赤子程度です。樹が倒れ家屋倒壊の危険を多くの人から指摘されても、この山桜

を切ることを受けつけなかった祖父が、やっと伐採を決意したのは、皮肉にも93才の夏に死亡したこの

年の散花直後の春であった。 花咲か爺の祖父とともに生きてきたこの山桜は、この年の秋に伐採され

ました。

− 散る桜 残る桜も 散る桜 −

ソメイヨシノは生長が早く、接木苗より3〜4年で開花 しますが、山から掘り取ってきた自生の山桜や実生

のものは、植えつけても開花までに10年以上を要するのです。 立派な花を咲かせ、素晴らしい景観が見

られるには更に多くの年月がかかるのです。

桜は散るからこそ美しい。 散り敷く姿も、散り落ちた花も美しい。 その散り落ちた花も、他の花の

ように茶色に変色せず、瑞々しい美白のままです。 「 散る美しさ 」 を愛でるのは、おそらく日本人

だけがもつ独特な美意識 といえる。 春うらら かすみたつ光のなかに桜の花は音もなく散る。

" 久方のひかりのどけき春の日  しづ 心なく花のちるらむ "  − 紀友則 −

神秘的な色香に魅せられ、かがり火に映し出された夜桜の下に立つ時、人はその圧倒的な美しさに心を

奪われ立ちつくす。 光きらめく美しさや匂 い立つような艶やかさとは、また別の余情を表わす 「幽玄」

という美意識に酔っているのである。 それは桜花がもつ魔力なのだろうか、それとも日本人ゆえの特別

な感性なのだろうか。 散るがゆえに激しく燃え、華やかに咲く。 散り敷くその姿は美しく、なぜか哀しい。

" 清水へ祇園をよぎる桜月夜 こよい逢ふ人みなうつくしき " − 与謝野晶子 −

ソメイヨシノは20年で成木になり、樹齢は50〜70年までとされる。素晴らしい景観はおよそ樹齢50年位まで

とされ、その後は急速に衰えます。一昔前の人の一生とよく似てますが、30〜40年でピークを迎えるもの

もあり、美人薄命といったところでしょうか。とはいえ長寿のものもあります。岡山県新庄町には、日露戦勝

記念で植えられた樹齢100年のソメイヨシノ 「がいせん桜」 が今も健在です。日本最古のソメイは北国津

軽の弘前公園にあり、明治15年、樹齢124年と言われております。当地にも岩国の吉香公園内に明治19

年、樹齢120年のソメイがあります。大切に育てられ、町民の愛情が注がれた桜はそれに応えるのです。

花は一重の微紅色で大きく、葉の開く前に咲くために華美で花付きもよいが、病気に弱く花は満開を過ぎ

ると気品を失います。一つの花芽に4〜5つの花がつきますが、古い木でも4つ以上花がつけば元気があ

るとされます。山桜は100年、200年はざらで、水戸黄門も愛でたと伝えられる茨城県の「大戸の桜」のよう

に推定樹齢500年のもあります。巨木では静岡県の 「狩宿下馬桜」 のように樹齢800年以上、幹囲2丈8尺

もあるのがあります。実際は病虫害、公害、伐採などの為に200年を越える大木を見ることはめったにあり

ません。寿命が長い分、成木になるのも遅いのです。山桜はつややかな飴色の新葉とともに花の咲くとこ

ろに特徴があり、木の成長が進む間は葉もよく茂り、花は見応えはしませんが、木の成長が止まる大木に

なりますと葉の勢いがなくなり、花が出てきますので見事な景観になります。純白の五弁の花は満開を過

ぎても凛とした気品が漂い、花吹雪となって舞い上ります。風のない日でもはらはら、ひらひらと舞いおりま

す。落花の様子がノソメイヨシと趣が違うようです。ソメイヨシノは花が山桜より大きく、風がないとポロッポ

ロッと、落ちます。ソメイヨシノは明治初年に東京染井村(現 駒込付近)の植木商によって広められました

ので 「染井吉野桜」の名がありますが、有名な吉野山とは無関係の種類です 大島桜と江戸彼岸の自然

交雑といわれますが、真偽は明らかではありません。現在普通にサクラといえばソメイヨシノをさすほど有

名になり、公園、堤防などいたる所に最も普通に植えられているサクラです。日本で最古のサクラといえ

ば、山梨県巨摩郡武川村に山高神代桜 「江戸彼岸桜」 があります。推定樹齢二千年、幹囲11mで太さ

も日本最大です。どうも彼岸桜は長寿命のようで、全国的に老木が多いようです。ここでいう彼岸桜はエ

ドヒガンで、彼岸の頃に家の庭でよく見られる小ぶりの彼岸桜はコヒガンと申します。桜は病害や虫害に

おかされ易い花木、比較的強いとされる山桜も油断できない。山桜で多いのがコスカシバで、幼虫が幹

に入り込み、表面にオガクズのようなヤニがあらわれる。樹皮を削り虫を取り除くわけだが、大きな木は

お手上げだ。日当りや風通しの良いところはかかりにくが、木が密生して日当りや風通しが悪くなるとか

かり易いから枝を剪定することも必要だ。

毎年同じ木の同じところに発生し易く、被害が拡大し木の衰弱が甚だしくなる。外観も黒い塊が目につき

見苦しい。 落花直後、繁殖するのがオビカレハ、フマキラー程度の殺虫剤で死ぬから早目に処理する。

高いところは竹竿で巣を叩き落す。昼間は白いクモの巣状の中にいて、夜巣から出てき、葉を食い散ら

す。冒されると木がダメージを受け、葉の大半を食われると枯れることがある。当たり年は年三回繁殖し

、夏の終わりの場合は花芽を食われるから注意が必要。山桜に多いがソメイも例外ではない。

桜の持つ特徴に 「忌地(いやち)現象」 がある。同じ土地では、次代の桜は育たないという性質だ。生長

のはやいソメイはまたたくまに花をつけるまでに育つ。しかし、その代償に土地の養分を吸い尽くしてしま

うのだ。満開の花を見て、痩せてゆく土地を想像することは難しい。よそから土壌を移しそっくり入れかえ

るという大鉈を振わないと、ふたたびそこが桜の名所として蘇ることはないのである。桜の根は深く入らな

いので、重機で1m位掘り起こし、中の土壌を入れかえるのも方法である。又、桜の根が生長物質を出す

という説がある。元々他種を遠ざけるためのものだったが、長い間、土のなかに蓄積されると、同種をも

退ける働き持つようになるというのだ。同じ場所に桜を植えるにしても、同じ品種を植えるのはよくない

だろう。