日本が貧しくとも豊かな自然に恵まれていた頃、次々と童謡が生まれました。 例えば秋、「秋の夕日に
照る山モミジ 濃いも薄いも数ある中に 松を色どるカエデやツタは 山のふもとの裾模様」、
「夕空晴れて秋風吹き、月影落ちて鈴虫鳴く 思えば遠し故郷の空 ・・・・ 澄みゆく水に秋萩垂れ玉なす露
はすすきにみつ」 と思わず歌がわきでます。透き通るような秋の光、刈り田の後には金色の稲穂を干
す棚が広がり、裏山では栗がはじけ柿が色づきます。やがて刈り田には藁(わら)を積み上げて保存す
る巨大な としゃく があちらこちらで登場いたします。道行く人の影法師は長くそしてくっきりと濃い。 豊
な自然に恵まれて何年何十年と見馴れてきました、珍しくも何ともない田舎の風景、その何ともない風景
の中から多くの童謡が生まれたのです。今でも鈍行列車で地方を旅すれば、なお同じ風景があるのに
新しい童謡は生まれません。あのわらべたちの歌声が聞えなくなって久しい。故郷、この道、赤とんぼ
、月の砂漠 ・・・・ どれも心にしみるメルヘンの世界があります。秋の日は " 釣る瓶落とし " といわれ
るように、あっと言う間に暮れてゆきます。そんな秋を歌った童謡も多くあります。夕やけこやけ、真赤な
秋、小さな秋みつけた、野菊、里の秋など、どれも心に しみるものがあります。
夏鳥が旅立ち、冬鳥が飛来するまでの暫くの間、夏の間余り姿を見せなかったスズメを良く見かけるよう
になります。朝早く、明け方頃から鳴いて目を覚まさせます。一様に 「 チュン チュン 」 と聞えますが、一
羽一羽 違うようです。スズメの鳴き声の基本型は 「 チェップ 」 で、それが変化してチェッ、チュン、チュ
リ、チューイン、チィーラムになったりするようです。生まれてまもない幼鳥は、身近な親鳥の鳴き声をその
まま真似る習性があるそうで、山奥のスズメの鳴き声は単純であり、町のスズメは、ほうぼうから集まって複
雑な鳴き声をもつようになります。ひまわりの花がぐったりと頭を垂れ、あらわになった黒い種にスズメが十
数羽、群がって、ついばんでいます。コカワラヒワも2、3羽の小群で 「 キリ キリ キリ、ギュウィーン、ギュウ
ィーン」と鳴きながら集まってき、熟した種を喜んで食べます。たくさんのシジュウカラも多くの桜の枝を飛
び交っています。9月中旬の一雨から秋晴れが続き、10月中旬になりますが、昨年は下旬ごろまで聞か
れましたツクツクボウシは、10月に入ってから聞かれません。
初夏から姿を見なかったメジロを見つけました。 メジロの動作は敏しょうで、 「 チイー チイー、ツゥー ツゥ
ー 」と鳴き、警戒するときは、鋭く 「 キリ キリ キリ 」 と鳴きます。 「 メジロ 押し 」 という言葉は、メジロが夜
眠るときなどに、木の枝に押しあうようにたくさんでとまることから出たことばです。もう椿の花が咲いて
います。メジロは椿の花の蜜や真赤に熟した柿が大好物です。メジロはそのことを良く知っており、深山
から下りてきたのです。間もなくヒヨドリも姿をみせることでしょう。夜間の虫たちの鳴き声も処暑のときに比
べれば、かなり弱くなりました。
「赤とんぼ」
一般に赤トンボと称されるものは、アカネトンボ20種のうち主にアキアカネ及びナツアカネを指し、未熟なうちはアキアカネは高い
山頂に向かって旅立ち、ナツアカネは近くの森や林の茂みに入って夏を過ごし、その後稲が黄ばみ、クリが割れ落ちる頃、老熟し
た赤トンボはまた生まれた平地に戻ってくるのです。風に向かって群飛する性質があり、電柱より高いところを飛んでいます。ナツ
アカネはそれほど赤くなく、少し早く出るので、季節的にも赤とんぼの印象が薄い。ときどき驚くほど真赤な赤とんぼ見ますが、これ
はショウジョウトンボという種です。以下の赤トンボはアキアカネを指 しており、一般的に赤トンボとはアキアカネであると思ってくだ
さい。赤トンボは秋と考えられがちですが、多くの種は5月下旬から羽化が始まり、遅いものでも6月末までには成虫となります。成
虫となったばかりのころは体色が黄色っぽくて、およそ赤トンボらしくありません。夏の間は高い山 (1000m)で過し、徐々に体色が
赤味を増してくるのです。涼しくなる秋になって平地におりてきますので、秋になってはじめて出てくると思われがちなのです。赤ト
ンボが活動する時刻は午前中であり、午後2時頃を過ぎますと、極端に少なくなります。夕方にトンボが群れ飛ぶことは、ギンヤン
マなどのヤンマ類でよく知られていますが、これは夏七〜八月に見られるもので、夕方に気温の下がる秋にはみられません。「赤
とんぼ」 の作詞者は三木露風 という詩人です。一頭の赤トンボが竿の先に止っているのを見て故郷での幼い日を思い出して書か
れたとのこと、" 夕焼け小焼け ・・・ " という出だしは先ほどふれましたことからすれば少しおかしい・・?秋の夕方でも群れ飛ぶト
ンボとして 「ウスバキトンボ」があります。このトンボは体色がうすいオレンジ色であり、赤いトンボではありません。しかし、夕陽を浴
びて群れ飛ぶ時、その姿は夕焼けに染まったように赤く見えることがあります。作者三木露風は夕方にこの光景を見て、夕焼けに
飛ぶ赤トンボというように感じたのではないでしょうか? ところでトンボがたくさん止まっている時、その止まり方や向きがほぼ同じで
あることがわかる。バラバラではないのです。太陽と一定の角度をとって止まっていることが多い。トンボの体温調節の一環で、暑
すぎれば太陽にしっほを向け、寒い日には体の側面を太陽に向けて、日向ぼっこをしているのです。
赤とんぼ
夕やけこやけの 赤とんぼ
負われて見たのは いつの日か
山の畑の 桑の実を
こかごにつんだは 幻か
・・・・・・
夕やけこやけの 赤とんぼ
とまっているよ さおのさき
ー 三木露風・詩 山田耕筰・曲 ー