「 一葉落ちて天下の秋を知る 」 の言葉どおり、秋は凋落の季節、紅葉をモミジとも読む。古くは草木の

汁を揉み出 して、布などを染めた 「 もみ出す 」 「 もみ出る 」 に由来するという。平安時代の雅人たち

は、ベニバナなどの花で染めた緋色が秋空に紅く映えているカエデ ( モミジ ) の紅葉と相通じているこ

とから、紅葉をモミジと読むようになったといわれております。しかしこの紅葉も古代の人は、色鮮やかな

紅葉より、黄金色に輝く黄葉にこそ、秋の美を発見 したという。「 万葉集 」 に残された歌の大半は黄葉

を詠んだもので、黄葉を最高とする唐の美学を色濃く反映させてのことであろうか。万葉の時代、黄葉を

愛でてやまなかった人々は、やがて平安の世になるにつれ、華美な時代の好みを反映してかしだいに紅

葉 ・濃いあかね色へと心を移 していくのです。

早々と落葉するのは桜。まず山桜から始まりソメイヨシノ、里桜と続きます。山桜は早いものは9月には

落葉しますが、もう一度新葉を出すことが多く、花も少し咲かせるようです。この新葉は春の飴色の新葉と

違い、鮮やかな緑色で趣のあるものです。落葉後にもう一度新葉を出すものに、啓翁桜、彼岸桜(コヒガン)

そして里桜が早く散った場合も見らます。彼岸桜は花も咲かせます。紅葉は北国のオオヤマザクラ以外

は余り美しいものでなく、山桜に偶に美しく 紅葉しているものがあるが、大方は朽ち葉色といったところ。

但し、寒気団(オホーツク高気圧)の勢力が強いと、当地でも冷え込みますから山桜、彼岸桜も緋色に染

まりまる。寒気団の南下がポイントになります。二度目の葉が出た後ですから十二月に入ってからの紅葉

になります。錦木(ニシキギ)は 「袖ふれて錦木紅葉(ニシキギモミジ)こぼれけり」 と俳人、富安風生も詠んで

いるように、その美しさは格別な趣。4、5月に咲く黄緑色の小花は地味だが、秋の早いうちから美しく紅

葉する。櫨木(ハゼノキ)は果実から蝋を採るため、四国、九州では畑に良く植えられている。木全体が赤

く燃え立つような紅葉は素晴らしい。毒性が強く、触れると皮膚に炎症をおこす。ウルシの仲間であり、ヌ

ルデも同様である。ウルシにはヤマウルシ、ツタウルシなどがあるが、毒性があり肌がかぶれるのは言うま

でもない。万作(まんさく)は早春に枝いっぱいに黄色の花を咲かせる。マンサクの名はこの様子を穀物が

豊かに実った姿にたとえたものといわれる。秋には黄葉する。

ツタは 「伝う」 からついた名で、ものにまつわりついて伸びる。葉には長い柄を持ち、葉肉は厚く表面に

光沢がある。秋には目のさめるように鮮やかに紅葉するので、真紅葉(つたもみじ)と呼ばれて愛されてい

る。欅(ケヤキ)は代表的な街路樹のひとつ。夏はよく茂って日光をさえぎり、秋になると葉が黄色から茶

褐色へと色づくが、らくだ色に近く鮮やかな紅葉とはいかない。柿も紅葉する。大きな葉が深くてえんじ色

に色づくのを見ますと、のどかな田舎の風景が浮びます。落ち葉の季節になると、木々は各々の個性を

主張する。毎年素晴らしい紅葉が見られるとは限りません。北国でない当地などは秋の天候が大きく影響

します。秋の長雨は紅葉にはマイナスで、日照が多いことが好条件とされます。さりとて日照が激しい日が

長く続くと、葉の先が焦げてチリチリとなり早めに落ちてしまいますから、適度の湿り気は必要なのです。秋

口の台風も紅葉には大敵です。山口県は日本海の山陰側と周防灘の瀬戸内海側に分かれます。 周防

灘の方が山陰側より暖かいように思えますが、実際は最低気温は瀬戸内海側が遥かに低いのです。11

月下旬には宇部、防府、柳井は軒並み最低気温は5〜6℃になりますが、当地は10℃を下回ることはあま

りありません。それは山陰側の日本海には、暖流の対馬海流が流れているためです。もっとも少し北にな

る長門、萩、更に島根県などは、日本海の北風がきつく、体感温度ははるかに低いのです。但し、今年の

ように寒気団が早く南下してきた場合、11月下旬でも7〜8℃になり、素晴らしい紅葉が見られます。どうも

紅葉のピークが11月末から12月初め位になる年が我が家の紅葉のベストになるようです。11月が非常に

暖かかった場合12月に入っていくら冷え込んでも、早いものは落葉が進んでいますし、そんな時は昼間も

気温が上がりませんから良い紅葉は見られません。美しい紅葉には寒暖差(昼と夜の気温差が激しいこ

と )、つまり夜間の冷え込みと穏やかな昼間の陽射しが絶対条件なのです。 響灘をのぞむ当地は紅葉に

は不向きですが、冬も暖かく過ごし易い天恵の楽園なのです。