"入谷から出る朝顔の車かな "  − 正岡子規 −

七夕をはさむ両日、江戸の下町に真夏の到来を告げる鬼子母神の朝顔市は、元々庶民が涼しさを求め

て朝顔の鉢を軒先に並べたことに端を発するようで、その後は入谷、染井あたりでは朝早くから店で賑

わったものが、明治以降は入谷の鬼子母神真願寺で朝顔市が催されるようになったといわれておりま

す。鮮やかな瑠璃色、濃い青紫色、ぶどう酒色、あかね色、白、と様々な色の朝顔が、よしず張りの数十

の店に並び、朝顔模様のはっぴをきた若い衆の掛け声が飛び交い、下町の夏を楽しむ人々で賑わいま

す。朝顔の花は夏の朝、夜明けとともに清々しい朝露を浴びて静かに、鮮明な花をいっせいに開いてく

れる。日が高くなるにつれて色あせ、萎んでしまうので、ほんとうに一瞬の美しさを楽しむ花だ。朝顔の花

ことばは 「はかない恋」、はかなさ好きの日本人にぴったりの花だ。 アサガオのカオはただの顔ではない。

容花、つまり美しい容姿という意味だそうだ。だから朝顔は朝の美女であるが、時代によって変わるのが

美女の基準で、朝の美女もその例外ではない。万葉の時代、美女はキキョウだった。万葉集にある 「朝が

お」 はキキョウのことで、現在の朝顔ではない。やがてアオイ科のムクゲがこれに代わった。朝咲いて夕べに

萎むあの花だ。晴れて天下の美女と認められたのは、ずっと遅れて江戸時代になってからだ。 江戸の

人達が好んだ 「 花火 」の粋な世界とも似ているかもしれない。 「 粋 」 とはあかぬけたことだが、今では

「 クール 」 というのに近いかな ・・・・ でもスタイルやデザインのかっこよさとは違う 「 心持ちのかっこよさ 」 とで

もいったらいいかも。江戸時代ではそんな「 粋 」 な花が朝顔だったのです。 余計なことだが、人間の美

女の基準も時代と共に変わる。平安時代の美女と現代の美女の基準は違うのである。花も美女になる

のにこんなに時間がかかったのだから、人間だって悲観することはない。次の世に同じ顔で生まれ変わ

ったとしても、美女になっているかもしれない。

一朝一期 と咲く朝顔 ・・・・・・ 千利休の 「 朝顔の茶会 」 は有名である。秀吉は利休の朝顔を一見したい

と所望して利休の庵を訪れる。 花はすべて摘みとられて一輪もない。怒りをこらえて通された茶室には、

「床に朝顔一輪これ有候 」 と。秀吉はじめ一同が 「 めざむる心地 」 がしたという話し。一輪に凝縮され

た花の命に、両人の心は期せずして一致をみたのであろう。 江戸の天才的な装飾画家としてその名を

知られた尾形光琳が、六双の金屏風に朝顔の姿を艶に描くにあたって、実際の花容以上に花のさまを

大きくみせたことは、利休居士の 「 朝顔の茶会 」 でのただ一輪の花を生けて美の所在を一点に凝結

せた、その手法に通ずるものがある。

朝顔の原産は熱帯アジアで ヒルガオ科です。 日本では古く 奈良朝の頃から薬用として栽培されていた

ようですが、江戸時代には家紋にも使われていたという、庶民的にみえても意外と格式の高い花のよう

です。ファミリーには昼顔、夕顔(夜顔)があります。それぞれ朝、昼、夕方に咲 くことから名付けられた

ようで、単純明解で興味深いものがあります。 朝顔は日長が12時間以下になると咲く短日植物です。

この性質を利用すると秋に咲かせることもできます。 秋は気温の低下が早く、植物の体は伸びにく く

なるので、日当たりのよい場所にまく と背丈の低いうちに花が咲きます。 朝顔の種蒔きに五月がよいの

は、花芽ができるのが、夏至を過ぎて日長が短くなりはじめてからになることとの兼ね合いもあります。

それまでは植物の体が伸びるだけで、あまり早く蒔いても花が早く咲 くわけではないのです。朝顔は朝3

時頃には咲き、日のあたる9時頃には萎みますので、鉢植えのものは8時頃に日陰に移しますと、一日中

花を楽しめます。但し、日にあてないと翌朝咲く花が小さくなるので、一旦、日陰に移した鉢は午後にはも

との日にあたる場所に戻しましょう。夏場は水をたっぷりとやり、萎んだ花はすぐに摘むことが朝顔を長く

楽 しむこつのようです。

入谷の朝顔市が終わりますと、9日からは浅草観世音の縁日で境内一杯に青鬼灯を商う市が立つこと

から" ほおずき市 " と呼ばれ賑わいをみせます。赤い実の種を取り出 し、口に含んで鳴らして遊ぶこと

も出来ます。ほおずきはお盆に墓参りのお供え物 として欠かせません。当地 福岡の生産地からも、お

盆前には赤く 色づいたほおずきが多く出荷されます。

椿の実が褐色に色づ いてきました。椿の実は硬く、種の中身をくりぬき笛を作ったものです。 花の散っ

たザクロの実も椿同様大きくなりました。 梅、ザクロ、椿それぞれの実は花を愛でるのとはまた違った趣

きのあるもののようです。梅雨の中休みですが、夥しい数のオレンジ色のウスバキトンボが飛び交いはじ

め、草むらではキリギリスが鳴き始めました。チョンギースの鳴き声を聞くと、夢中に探しまくった子供の

頃を思い出します。

 

「天の川」

牽牛、織女の物語り、七夕の行事で有名な天の川は英語ではmilky way「乳の道」、唐詩「星河」、エジプト

「大空のナイル川」、スウエーデン「冬の道」、アメリカ・インデイアン「魂の道」と呼ばれる。天の川は地

球から見た、銀河系小宇宙の横顔である。銀河系は二千億個の星と大量のガスやちりが直径約十万光年の円

盤状に分布したもので、円盤は厚みをもっており、特に中心部はふくらんでいる。地球から見る天の川は、

円盤を横から見る方向に星が特に密集しているから白く光る川になるのである。この時期、天の川は良く見え

るのです。七夕ではささの葉に願い事を書いた短冊を吊るします。五色の短冊が風に振れるさまは、幻想的で

ロマンチィックな雰囲気になります。天の川の星々にどんな願いを込めましたか? 当地 山口では「山口七夕

ちょうちん祭り」が、1ヶ月後の8月6・7日に行われます。その数、10万個。ロウソクが燃え尽きるまでの2時

間、あたりは幻想的な雰囲気に包まれます。