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ブルックナーの版の問題について(3つの版について)
原典版と改訂版の経緯を要約すると次のようになると思います(第1稿、第2
稿とあるものもあるので単純ではないが)。
ブルックナーの書き上げたスコア
↓ ハース版
初演時の書き込み入りスコア・パート譜 ↑ ↓
↓ ↑ ↓
(周囲の意見、初演時の感触) ↑ ↓
↓ ↑ ↓
(改訂作業) ↑ノヴァーク版
↓ ↑
出版用浄書譜 ↑
↓ ↑
出版譜(いわゆる改訂版) −−−−−−−−+
つまり、ハース版といえどもけっして当初ブルックナーが書き上げたスコア
イコールというわけではないし、したがってハース版がそれがブルックナーの
意思でもないわけです。あくまでハースが「ブルックナーの意思だろうと思っ
たもの」に過ぎないわけです。だからこそノヴァーク版が成立したわけですし。
つまり、周囲の意見や初演を自分でも生の音で聞いた感触をもとに行った改訂
作業のうち、ブルックナー自身の意見で記入されたと判断された修正だけを残
し、周囲の意見はバイアスとしてこれを改訂版から削除する作業がハースおよ
びノヴァークの校訂作業であったわけです。とすれば、ハースやノヴァークが
校訂作業の基礎とした出版譜こそ根底にあるのであって、「ハース版かノヴァ
ーク版か」ではなく「ハース版かノヴァーク版か改訂版か」という議論である
べきなのではないかと思うのです。
というところまで考えたところで、みなさんのご意見を頂戴したいと思うわ
けです。私自身、以前からクラシック、特に交響曲は好きでしたが、熱烈なブ
ルックナー愛好家というわけではありませんでした。むしろ自分の本の出版の
過程で感じた仮説を検証したくてこの1年ほどブルックナーの方に目が向かっ
たという程度です。
金子建志さんの本によれば、フルトヴェングラーは、9番については原典版
でやるべしと語ったようですが、ハース版が出た直後から「改訂版によってブ
ルックナーの交響曲がポピュラーになってきた・・・全集版によっても早くか
ら有名になっていたか疑問だ」「5番については原典版に有利な結果がもたら
される。同じケースであっても第4交響曲の場合には事情が異なる」という趣
旨の文章が残っているようです。そして、実際に彼は4番は改訂版で演奏して
いるわけです。
だいたい、朝比奈さんやヴァントのような権威がハース版で演奏し、それ以
外の指揮者もいずれかの原典版でしか演奏しなくなった現在、4番の改訂版に
よる生演奏というものにも触れる機会がありません。生の音で判断したいとい
う気持ちもないわけではありません。
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