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中央経済社「税務弘報」平成12年4月号

新事業進出・ベンチャー支援制度を活用した事業展開


公認会計士 税理士 佐久間 裕幸


予想される電子申告の姿とは

T 新事業進出とベンチャーを巡る状況
1 バブル崩壊後の日本の企業状況と中小企業
 バブル崩壊後1990年代のわが国企業は、不動産・株式等ストックの価格下落による資本の固定化、バブル時代の過剰設備投資による操業度の低下、景気低迷による余剰人員の発生などにより低迷を続けてきた。
 不動産・株式等の価格下落は、建設業や不動産業あるいは証券業に限らず、あらゆる業種において工場用地、投資有価証券、ゴルフ会員権といった資産の含み損という形で企業の資金を固定化している。これらの資金が固定していることで、必要な運転資金調達のための融資枠を圧迫し、また、担保価値低下により銀行からの貸し渋りを招くという現象をもたらしている。さらに、バブル時代の景気見通しに基づく過大な設備投資や人員採用の結果、損益分岐点が上昇し、景気の低迷に対して、非常に脆弱な企業体質となったまま、今日に至っている。設備の廃棄や人員のリストラをするにも資金が必要であったり、多額の損失計上を必要とするため、体質の改善をすることもままならない状態の企業も少なくない。
 これらの厳しい企業状況は、バブル時代に公募増資、社債発行など資金調達手段に恵まれ、人員採用も比較的容易だった大企業に発生しやすかったともいえ、その点、銀行融資以外に資金調達手段を持たず、バブル時代に人手不足に喘いでいた中小企業では幸いにして上述のような企業状況に陥らずにすんだ会社も見られるように思える。
 こうした背景の下、パーソナルコンピュータの普及を背景にパッケージソフトウェアの流通市場を作ったソフトバンク、携帯電話・PHSの普及とともに伸びた光通信をはじめとするベンチャー企業が急成長するなど、中小企業の中から新しい時代を切り開く企業群が見いだされてきている。

2 政府の中小企業政策の転換
 こうした状況を踏まえ、政府も産業活力再生特別措置法により既存大企業に対して、構造改善への支援をするだけでなく、大企業のリストラによる失業者を中小企業で吸収すべく、中小企業の多様性や創造性、機動性に着目して中小企業政策の理念を転換するに至ったのである。すなわち、従来、中小企業とは、近代的大企業と生業的中小企業という構造における「弱者」と位置づけられ、大企業との生産性等の格差の是正を政府の政策理念としてきた。
 これに対し、今般、中小企業に対し、独立した中小企業の多様で活力ある成長発展を基本理念として、新たな産業の創出、市場競争の促進、就業機会の増大、地域経済活性化といった役割を期待される存在として、位置づけることとなった。
 <新しい中小企業政策の柱>
  @ 経営革新・創業の促進
  A 経営基盤強化
  B セイフティネットの整備

 ここでは、意欲ある企業や起業希望者に対しては、経営革新や創業を促進し、技術、設備、情報、研修ならびにこれらに必要な資金調達を支援することで中小企業の強みを伸ばすことが政策体系の柱となる。しかし、中小企業において十分な経営資源が不足していることも確かであるから、経営資源の確保、取引適正化、国等からの受注機会の確保、連携・共同化の推進、産業集積・商業集積の活性化といった従来からの政策も残され、また、基盤の脆弱な中小企業が激変する環境に円滑に適用できるよう倒産法制の整備などセイフティネットの整備も政策体系とされたのである。

3 中小企業基本法の改正
 こうして中小企業に関する施策の基本理念、基本方針等を定める中小企業基本法が平成11年12月3日改正公布された。まず、第2条の中小企業者の範囲が以下のように拡大された。
<中小企業の範囲(資本金・従業員数)>

 

製造業その他

卸売業

小売業

サービス業

旧基本法の定義

1億円以下

300人以下

3千万円以下

100人以下

1千万円以下

50人以下

新基本法の定義

3億円以下

300人以下

1億円以下

100人以下

5千万円以下

50人以下

5千万円以下

100人以下

 この中小企業の範囲の改訂は、商工組合中央金庫法、中小企業信用保険法、中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法、新事業創出促進法、中小企業経営革新支援法などの関連法の対象企業を拡大することとなり、この改訂により、中小企業者の数は1万6千社増加すると見込まれている。
 また、こうした改正の目標としては、中小企業基本法以下の総合的な政策により新規株式公開企業数の大幅な増加とともに、5年後において年間開業企業数を10万社程度増加(現在14万社)、今後3〜5年の間に、創造的な中小企業数を1万社程度増加させることが掲げられている。

U 支援法の概略と有効活用法
1 中小企業事業活動活性化法の改正
 中小企業基本法の改正を受けて、平成11年12月22日に中小企業の事業活動の活性化等のための中小企業関係法律の一部を改正する法律が公布され、以下のような政策が実現している。
(1) 中小企業信用保険法および信用保証協会法の一部改正
 中小企業金融の一層の円滑化、資金調達手段の多様化を図るため、社債(私募債)にかかる信用補完制度の整備、保証付き債権の譲渡の円滑化を目的とした改正が行われた。
<改正の概要>
@ 一定の財務内容を有する中小企業者が限度額5億円の範囲内で発行する社債(私募債)について、信用保証協会が90%程度の部分保証を行い、当該保証債務について中小企業総合事業団が保険(填補率80%)を付す。
A 信用保証協会の保証付き債権(融資、私募債)が金融機関等(特定目的会社を含む)に譲渡された場合においても、信用保証の効果が及ぶとともに保険関係が存続すること。

(2) 中小企業金融公庫法等の一部改正
 中小企業者の資金ニーズに対応した適格かつ機動的な資金供給を目的に、中小企業金融公庫および沖縄振興開発金融公庫の業務範囲の拡大が行われた。
<改正の概要>
 中小企業金融公庫等の業務範囲を拡大し、貸付に加え無担保社債の取得を可能とすることにより、担保が乏しくとも成長が見込まれる技術志向型企業等の中小・ベンチャー企業のニーズに応じた資金供給制度を創設。

 この改正により、中小企業金融公庫ベンチャー育成資金供給制度(仮称)が作られる。
@ 対象企業
 高い成長性の見込まれる新たな事業を行う中小企業者であって、以下の要件を満たすもの
・当該新事業が事業化されたときからおおむね7年以内
・成長性、新規性について、中小公庫におかれる外部専門家からなる評価チームの審査をパスするか、中小企業総合事業団の出資制度等の公的支援施策の対象となっていること。
・ビジネスプランに基づく将来キャッシュフローおよび償還可能性について、中小公庫による金融審査をパスすること
A 資金使途
 設備資金及び長期運転資金
B 企業1社当たり限度額
 貸付・社債の合計で6億円
C 償還期間
 貸付15年以内、社債7年以内
D 社債にかかる条件
 ・無担保のワラント債とする。
 ・利率は、基準利率(長プラと同水準)を若干上回る利率とする。
 ・無担保等の高いリスクに対し、上記上乗せ金利とワラントの売却収入によって対応する。

(3) 中小企業近代化資金等助成法の一部改正
 中小企業近代化資金等助成法は、中小企業の設備の近代化を図るため、国並びに都道府県が資金を供出し、設備近代化資金貸付と設備貸与制度を行うものであるが、法律名を小規模企業者等設備導入資金助成法と改め、創業者および小規模企業者等のための設備資金無利子貸付制度、設備リース制度を創設した。
<改正の概要>
@ 創業者を新たに対象に追加し、38業種741設備の指定を原則廃止した。
A 無利子貸付を実施を貸与機関に一元化し、民間への業務委託を活用するなどで、手続の迅速化・効率化など、利便性を向上した。
B 償還期間を5年から7年に延長した。

(4) 中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法の一部改正
 同法による認定会社が取締役又は使用人に対し新株引受権(ストックオプション)を与える場合の限度を従来の発行済株式総数の1/10から1/5とした。ストックオプションは、中小企業が人材を獲得し、動機づける上での施策の1つであるが、これの付与限度が拡大されたことは、それだけ多くのストックオプション付与することが可能になり、認定事業者の人材獲得を容易にする効果が期待できる。

(5) その他の施策
@ 中小企業技術革新制度の充実強化
 中小企業技術革新制度(SBIR)は、中小企業の技術を活用して、新たな産業や雇用の創出を強力に進めるために、平成10年12月成立の新事業創出促進法に基づき創設された制度である。現在、関係5省庁の40の補助金や委託費等をSBIRの特定補助金等に指定し、この交付を受けた中小企業者等に対し、事業化支援策を措置しているが、これの支出目標額を約110億円として実施中である。
A 新規開業向け貸付等マル経融資制度の特別措置の延長
 創業予定者や創業後まもない事業者に対するマル経融資制度の特別措置を平成13年3月末まで延長した。
B 産業活力再生特別措置法による創業者・中小企業ベンチャー向け保証制度の概要
 創業やベンチャー企業向けに対する産業活力再生特別措置法に基づく特別保証制度が存在するが、これを引き続き保証枠の適用を行うこととした。
C 中小企業総合事業団によるベンチャーキャピタルへの出資
 創業期、成長初期段階にあるベンチャー企業を発掘・育成する能力と体制を備えた投資事業組合に対し、中小企業総合事業団が出資を行えるが、これの出資金額を平成11年度第二次補正予算において拡充した。現在、フューチャーベンチャーキャピタル、CSKベンチャー、日本アジア投資各社が組成する投資事業有限責任組合に対して、出資が行われている。

2 新事業創出促進法
 平成11年12月22日新事業創出促進法の一部を改正する法律が公布された。これは、ベンチャー企業を取り巻く以下のような環境および課題を一気に打開するために、当面の間、集中的な政策資源の投入により、短期間に株式公開を目指す企業に対する重点的支援を行い、リスクマネー供給の自律的メカニズムを形成しようとするものである。

 具体的には、平成元年に成立したベンチャー支援の法律である新規事業法を廃止し、これに支援策を拡充しつつ、平成10年成立の新事業創出促進法と統合して、「第2章の2 新事業分野開拓の促進」という章を設けた。ここに「新事業分野開拓」とは、事業者がその事業の著しい成長発展を目指して行う事業活動であって、新商品の生産若しくは新役務の提供又は新技術を利用した商品の生産若しくは販売若しくは役務の提供の方式の改善により、新たな事業分野の開拓を図るものをいう(同法第2条4項)。新事業分野開拓を実施しようとする者は、当該新事業分野開拓の実施に関する計画(以下、「実施計画)という。)を作成し、その実施計画が適当である旨の認定を受けると、以下のような支援策を受けることができる。
(1) ストックオプション制度の拡充
 ストックオプションは、人材獲得と獲得後の人材のモティベーションの向上のために予め定めた安い価額で企業の株式を買い取る権利を与える制度であるが、商法においては、取締役および従業員に対し、発行済株式総数の10分の1を限度として与えることができるとされている(商法280条の19@)。これを認定会社については、付与の上限を3分の1まで拡大し、付与対象者を一定の要件を満たす外部の特定支援者にも拡げた。
 付与の上限の拡大は、発行済株式総数の小さいベンチャー企業において、ストックオプション付与の上限が10分の1では、従業員等に対して十分なボリュームのストックオプションを与えることができないことを改善することを目的としている。たとえば、発行済株式総数200株(資本金1000万円)の会社において、商法の定める上限によれば、20株分が付与の上限となり、これをすべて1人の使用人に与えて、株価が額面の50倍で株式公開できたとしても実現する利益は5000万円ほどであり、十分なモティベーションとはならず、ましてや、数人以上に分け与えた場合には、一人当たりの夢は非常に小さなものとなってしまうのである。また、ストックオプションは、創業経営者の安定持株比率の保持のためにも有用なツールであり、その目的を実現する上でも、付与上限の拡大は歓迎されるものである。
 また、十分な人材を雇用できないベンチャー企業にとって、弁護士、コンサルタントなど外部支援者の活用は欠かせないが、これらの者に良質なサービスを提供してもらうために、ストックオプションを与えることはアメリカ等では行われてきた。これが日本でも実施できるようになったのである。特定支援者の要件としては、企業の成長に必要な知識や技能を提供できる者であり、権利行使条件に、企業の成長の目標に合致した適切な条件が課されていることとなっている。
(2) 無議決権株式の発行要件の緩和
 無議決権株式とは、議決権がない代わりに普通株式より優先的な配当が受けられる優先株の一種であり、商法上、その発行上限は、発行済株式数の3分の1とされてきたものである。これを認定会社については、発行上限を2分の1まで拡大し、累積的優先株(配当不足分を次年度に繰り越せる優先株)について、議決権復活の期限を1年から3年に延長できることとした。
 無議決権株式は、会社の成長による配当や売却益を目的とする外部株主には議決権を行使させずに資金調達を行う手段として用いられるが、この発行上限が3分の1では、もともとの発行済株式総数の少ない会社においては、十分な資金調達が実施できなかった。この発行上限を2分の1にまで拡大することで、経営陣は、経営権維持の心配をすることなく資金調達を行い、利益が出始めたのちに、優先配当をもって外部株主に還元するような政策を取りやすくなったのである。
(3) 民間金融機関からの資金調達の円滑化
 ベンチャー企業は、設立後間もないため、信用力がなく、また、設備型産業でない場合も多いため、担保がなく事業資金の融資を受けられないという実態があった。そこで、認定企業に対して、信用保証協会と産業基盤整備基金が審査を行い、ここが債務保証をすることで民間金融機関からの融資を受けられるような措置が取られた。
信用保証協会の保証制度







対象者:認定事業者であって中小企業者である者
支援策:保証限度額の拡大
一般の中小企業者認定事業者
普通保証    2億円普通保証    2億円+2億円
無担保保証   5千万円無担保保証   5千万円+5千万円
特別小口保証  1千万円特別小口保証  1千万円
新事業開拓保証 2億円 (うち無担保枠5千万円)新事業開拓保証 3億円 (うち無担保枠5千万円)

 産業基盤整備基金の債務保証制度は、保証限度額15億円で、借入金又は社債発行額の70%の保証をおこなうものとされているが、その適用対象は、信用保証協会の保証枠を全額使用するなど、信用保証協会の信用保証制度では、資金調達が困難な者に限られている。
(4) 事後設立にかかる検査役調査の特例
 事後設立とは、現物出資における資本充実の要請から定められている検査役制度を逃れるために設立2年以内に他社から一定以上の財産を譲り受ける場合にも裁判所の選任した検査役の検査を受ける必要がある旨を定めた規則である(商法246条)。しかし、裁判所が選任する検査役は、当該企業を熟知しているとは限らないため、検査に長期間を要する可能性があり、それゆえ、現物出資および事後設立という行為自体が利用されない状況にあった。これに対し、特定投資事業組合からの出資を受けている認定企業に対して、裁判所の選任する検査役検査の代わりに公認会計士、監査法人等の検査に代えることが認められた。
 これにより、既存企業から独立して設立されるベンチャーや、新規事業の実施に関して他社から営業や財産を譲受けるベンチャーにおける敏速な事業活動の開始が可能となった。

 こうした新事業創出促進法の支援策を受けるに当たっては、実施計画の認定を受ける必要がある。実施計画には、次に掲げる事項を記載する。
@ 新事業分野開拓の目標
A 新事業分野開拓の内容
B 新事業分野開拓の実施時期
C 新事業分野開拓の実施方法並びに実施に必要な資金の額及びその調達方法
 なお、この認定手続において、特定投資事業組合(ベンチャー企業を積極的に指導育成する能力と体制を有する中小企業等投資事業有限責任組合)が一定以上の出資等を行う企業については、認定手続の一部(事業性・採算性に関する審査)を省略することとして、認定手続の簡素化をしている。これは、民間ベンチャーキャピタルの審査能力を活用することで、ベンチャーキャピタルの投資審査に加えての実施計画の認定という事務手続によるベンチャーの負担を軽減しようとするものである。
 このほか、新事業創出促進法自体の改正項目ではないが、ベンチャー企業に対して、必要な支援を行う能力と体制を備えた特定投資事業組合に対して、産業基盤整備基金が、新規事業投資株式会社を経由して、ファンドの3分の1までかつ30億円以内の投資を行うこととされた。これは、公的機関が投資をすることで、機関投資家や個人投資家等からのリスクマネーの「呼び水」としての効果を期待してのものである。
 また、エンジェル税制について、抜本的拡充が行われた。現行の損失に関しての特例措置(翌年以降損失を3年間繰り越して、他の株式譲渡益と通算できる)に加え、個人が取得したベンチャー企業の株式について、株式公開後1年以内に売却した場合に生じる譲渡益を1/4に圧縮することとした。これにより、通常なら26%の税率が6.5%にまで軽減された効果をもたらすこととなった。

3 中小企業経営革新支援法
 平成11年3月に制定された中小企業経営革新法は、中小企業近代化促進法に代わる法律として作られたものである。日本産業の大宗を占める中小企業自らの積極的な経営革新により、日本経済全体の活力ある発展を牽引してもらうことを期待して作られ法律であり、今般の中小企業基本法の改正における政策理念の転換の第一段として生まれたものといえる。
 この法律に基づき、中小企業者等が自ら経営革新計画を作成し、行政庁(都道府県知事又は地方通産局長・国税局長等)の承認を受けた場合には、債務保証・公的融資・税制・補助金等の支援措置を利用することができる。ここに経営革新計画とは、中小企業が、単独又は協同で、必要に応じ組合や共同出資会社等を用いつつ、新商品の開発、生産、商品の新たな生産の方式の導入その他の事業活動を実施することを通じて、相当程度の経営の向上を図ることをいう(同法第4条)。この経営革新計画には、経営の向上を示す指標を盛り込むものとされている。具体的には、企業全体の付加価値額(営業利益+人件費+減価償却費)または企業全体の従業員一人当たりの付加価値額のいずれかについて以下の伸び率を達成する目標を立てる必要がある。




計画期間計画期間
目標伸び率
3年以下の計画 9%以上
4年計画12%以上
5年計画15%以上

 経営革新計画の承認をうけた中小企業者等は、以下のような支援策を活用することができる。また、特定業種に属する商工組合等は、経営基盤強化計画(同法第10条)について通産大臣の承認を受けることでの支援策が用意されている。
(1) 中小企業経営革新事業費補助金
 承認された計画にしたがって行う事業で、特に他の中小企業のモデルとなるような模範的なものに対して経費の一部補助が行われる。その対象事業は、新事業動向調査事業、新商品又は新技術の開発事業、販路開拓事業、人材養成事業とされている。

 


中小企業経営革新

対策費補助金

中小企業経営革新

支援対策費補助金

補助率

1件当たり事業総額

補助率

1件当たり事業総額

中小企業者

1/2

約2000万円程度

組合等

1/2

約5千万円程度

2/3

約3000万円程度

 

(2) 低利融資制度

 承認された計画にしたがって行う事業に必要な設備資金、長期運転資金等に対して低利融資制度が用意されている。

 

貸付対象

貸付利率(11年7月)

先端産業育成特別融資

(中小企業金融公庫)

設備資金

1.7%

中小企業経営革新党支援貸付制度

(中小企業金融公庫、国民金融公庫等)

設備資金

2.0%

長期運転資金

2.0%

(3) 税制措置
 承認された計画にしたがって事業を行う場合、下記の特例措置により、事業開始の設備投資等に対する負担を軽減される。
@ 設備投資減税
 取得の場合、特別償却(取得価額の30%)又は税額控除(取得価額の7%)、リースの場合、リース費用総額の60%の7%の税額控除ができる。
A 欠損金繰戻還付
 ある事業年度において欠損金が生じた場合、1年前までに遡って法人税の納付がある場合、その一部についての繰戻還付を請求できる。
B 特別土地保有税非課税
 特別土地保有税について、非課税措置がある。
C 試験研究関連税制
 試験研究費賦課金の任意償却、増加試験研究費の税額控除、私見研究用固定資産の圧縮基調を行うことができる。

(4) 高度化融資制度
 計画の承認を受けた組合が、高度化融資を受けて工場の集団化や施設の共同化等を行う場合に長期無利子高度化融資等の優遇措置が講じられている。

(5) 中小企業信用保険法の特例
 承認された計画にしたがって行う事業に必要な資金については、通常の保証限度額と同額の別枠保証が設定される。

(6) 中小企業近代化資金等助成法の特例
 承認された計画にしたがって行う事業に必要な設備についての中小企業設備近代化資金制度の償還期間を5年から7年に延長する。

(7) 中小企業投資育成株式会社法の特例
 承認された計画にしたがって事業を行う中小企業者については、資本金が1億円を超える場合であっても同社の出資を受けることができる。

V 支援制度の有効活用と事業展開の手法
 これまで紹介してきた中小企業の各種支援法制とその優遇措置をいかに有効に活用し、事業展開に結びつけるかが本節のテーマであるが、実は、容易には語れない側面がある。ベンチャーとしてある程度実績のある企業の場合その企業の現状に適した支援策を選択するのも容易であり、会社の状況が相応に知られている会社の場合や各法の認定事業者に対しては、施策についての案内や情報なども集まる傾向がある。それに対して、実績のない企業の場合、自社に適した支援策を自ら探して、適用にまでこぎ着けなければならない。反面、平成10年10月の保証協会特別保証枠のように申請さえすれば必ず利用できる支援策もあり、雇用助成金のように比較的容易に給付されるものもある。しっかり申請書類を作成すれば活用できる支援策は、おおいに活用すべきである。
 こうした支援策の難易度の問題のほかに、資金調達に窮した企業が施策の求める要件の事業等を行うことにして支援策を活用するという問題がある。特に助成金は、税金を投入しても支援したいほどの国策にかなった事業でなければ受領できないと考えるべきであるが、企業にしてみれば、事業に要する資金の1/2前後をもらえるのであり、「行うことにして」への誘惑は少なくない。さらにこうした環境下で、助成金を受け取るべき企業以外にまで助成金獲得の助言を行い、支給された助成金額の一定割合を成功報酬として受け取る助成金コンサルタントの出現といった事態まで考えると、根の深い問題である。
 こうした問題から、支援制度の有効活用や事業展開のポイントは、個々の企業の実態により異なるため、詳述は困難である。よって、不十分ではあるが、支援策の有効活用と事業展開について感じる点のみ指摘してみたい。
(1) 必要な認定を受ける
 新事業創出促進法、中小企業経営革新支援法あるいは中小企業創造活動促進法など支援策の前提として認定を受けなければならないものがある。それぞれに対象企業の層や事業規模などが異なるため、難易度(という表現もおかしいが)に違いがある。各法の趣旨を考えた上で、認定申請を行う必要がある。
(2) 各種支援ツールを使い分ける
 次に問題となるのは、各種支援策の類型のいずれを利用するかである。
@ 融資・保証
 比較的、適用を受けやすい支援策ではある。しかしながら、返済が必要であることはいうまでもない以上、実施する事業についての利益計画とそれに伴う資金計画を十分に吟味しておかないと、返済に苦しむことになる。
A 補助金・助成金
 事業に要した資金の1/3から1/2を助成してもらえるため、企業にとってはうれしい支援策である。反面、税金を投入するほど公的な必然性のある事業でなければ、支援対象とならないはずであり、襟を正した経営を求めたいものである。なお、補助金・助成金の多くは、対象事業で実際に支出した金額等の実績に対して事後的に支給されるため、当初の支出についての資金調達は、別途考える必要がある。補助金の認定は受けたけれども、事業を行うための資金調達ができないために、事業規模を縮小して実施し、縮小した規模の1/2の補助金しか受け取れなくなってしまったという話は、意外に見聞するところである。
B 投資・ストックオプション
 公的機関からの投資は、返還を要しない資金であるため、補助金同様、企業のニーズが高い支援策である。しかし、外部株主が誕生することでもあり、経営およびディスクロージャーの適正性が求められることになる。また、投資を受けた以上、株式公開によるキャピタルゲインで還元するか、配当金で還元するといった最終的な還元方針を固めておく必要がある。
 ストックオプションもオーナー以外の役員や従業員にも株式を持つ機会を与えることになる以上、経営を第三者からチェックされることの覚悟が必要であるし、株式公開やM&Aなどで高い株価を実現しなければ、また、実現する可能性を提示できなければ、モティベーションは高まらない。
 同時に、経営者の安定持株比率の維持など資本政策の必要性が出てくるので、十分な検討と並行して実施すべきである。
C 優遇税制
 優遇税制の代表は、特別償却制度に代表される設備投資減税である。しかしながら、中小企業が設備投資を行う場合、初年度から利益が出ているとは限らないため、特別償却を実施することで、赤字に転落したり、黒字は確保しても未処理損失を抱えたり(特別償却を利益処分方式で実施した場合)することが多い。これが原因で金融機関からの融資が不可能になったのでは困るため、設備投資減税は中小企業にとって支援策としての誘因にならない場合があったのも事実である。
 しかし、今般の支援策改正のなかで、繰越欠損金の繰越期間を7年に延長したり、欠損金の繰戻還付といった制度が生まれた。これらの制度は、経営成績のブレが激しい中小企業にとって、大きな支援になるのではないかと期待している。

W まとめ
 こうして説明すると、新事業進出・ベンチャー支援制度の活用は、十分な支援情報の収集と理解に尽きると思われる。昨今、インターネットによる各省庁の広報が充実してきており、広域関東圏産業活性化センターによる支援策のメールニュース配信(http://www.giac.or.jp)といったものも生まれてきている。従来からの情報収集手段に加え、こうしたツールも加えて支援情報を収集し、理解していくことが重要かと考える次第である。