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ぎょうせい「税理」(日本税理士連合会監修)98年6月号

特集 社会システムの変革と税理士の対応

会計帳簿の電子保存

−情報化の進展に伴う対応−


公認会計士 税理士   
佐久間 裕幸


1 社会システム(構造・制度)変革の現状(流れ)
 会計帳簿の作成については、経理担当者を置いているような規模の企業ではほぼ100%コンピュータと財務会計ソフトウェアを利用している。また、税理士事務所の多くにコンピュータが導入されていることから、自社で帳簿を作成する能力を持たない規模の企業でも間接的にはコンピュータで帳簿を作成していると言えよう。すなわち情報化の進展に伴い、企業の経理事務はコンピュータにより行われるようになってきている。
 手書きからコンピュータへという記帳方式の変化は、コンピュータを使うという形態面だけではなく、その形態に応じた管理方式の変化を企業にもたらしている。コンピュータに入力し、帳簿をプリントアウトしてルーズリーフとして綴じる現状の方式は、糸綴じの帳面に手書きで記帳した時代より内部統制の観点からは管理が困難となっている。記帳者の筆跡もなく、後からのデータの訂正や帳簿の差換えが容易だからである。現状は、入力担当者別にID、パスワードを設定したり、入力者以外のものによる承認、ベリファイといった情報システム上での牽制機能により従来型の内部牽制を代替する方式を習得しつつある段階にあるといえよう。
 こうして経理実務において、作成プロセスは、コンピュータ上に移行している。ところが帳簿の保存プロセスについては、法規制上の問題により電子保存は行われず、必ず紙に出力して保存することが従来行われてきた。1つは、商法の会計帳簿の保存規定(商法第36条)であり、もう1つは、法人税法等の帳簿保存義務である。商法上の問題については、平成7年に法務省より「商法上、帳簿を紙で保存しなければならない旨の規定はない」という見解が表明されており、税務面では、本誌発売時点では成立しているであろう「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(以下、「帳簿電子保存法」)により、帳簿の電子保存への途が開かれた。
 法律、行政制度が情報化に対応していないがために、企業活動の情報化・効率化ひいては国際的競争力の獲得を妨げられてきたという事態は、なにも帳簿作成だけに限ったことではない。今般の帳簿の電子保存が認められた背景には、政府の規制緩和政策があるので、この流れについて若干触れておきたい。

 高度情報化に向けての経緯
 平成7年3月 「規制緩和推進計画について」が閣議決定(5か年計画)を受
        けて高度情報通信社会推進本部が設置
 平成7年4月 3年計画として前倒し実施が緊急円高・経済対策として決定
 平成7年8月 同本部内に制度見直し作業部会が設置
 平成8年6月 同部会「報告書」公表
 平成8年8月 同本部、上記報告書に基づき推進することを決定

 平成8年の報告書の中で各種書類の電子データによる保存については、平成8年7月より実施に向けて着手し、平成9年度末までにこの検討を終了し、できる限り速やかに所要の処置(法改正が必要なものについては、法案を提出)をとるものとされた。同時に申告・申請手続の電子化・ペーパーレス化についても行政情報システム・情報通信基盤の整備等を進めつつ、できる限り速やかに実施することとなった。こうした動きの中で会計・税務の帳簿の保存は、規制緩和の目玉ともいうべき課題であり、国税庁では以下のように検討を進めた。

 帳簿の電子保存の経緯
平成9年3月 国税審議官の私的研究会「帳簿書類の保存等の在り方に関する
       研究会」で「帳簿書類の保存等の在り方について」が公表
平成9年12月 税制調査会第8回総会にて帳簿の電子保存が具体化
        「平成10年度税制改正の大綱」(大蔵省)に盛り込まれる
平成10年3月 「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方
        法等の特例に関する法律案」可決

 こうした経緯を見ると、帳簿の電子保存は、高度情報化社会への対応、規制緩和の推進という流れの中で出たものであり、事情のいかんを問わず、平成9年度中に法律案を出さざるを得ない状況にあったのである。今回可決された帳簿電子保存法に見られる多くの問題点は、十分な検討の時間のないままに法律を作らざるを得なかったために、とりあえず課税サイドとして問題が出ないようにという保守的なスタンスを取らざるを得なかったために生じたものであると理解できなくもない。個々の問題点について触れるのは、本稿の主題ではないし、紙数も足りないため、帳簿電子保存法の問題点については、本誌を出している(株)ぎょうせいより出版を検討している拙著に譲りたいと思う。

2 変革に対する税理士の対応
 筆者が本稿を作成している段階では、電子帳簿の保管場所としての「納税地等」(帳簿電子保存法案第2条5号)に保存義務者の関与税理士事務所が含まれるかどうかは不明である。もし、税理士事務所での帳簿保存が納税地等での保存に該当しないとなれば、税理士の業務形態にとっても極めて大きな変動がもたらされる。しかし、私見ではあるが、大企業が情報システム部門を本社と異なる場所に置いている場合やコンピュータ処理については情報処理子会社を持っている場合などと同様に税理士事務所も納税地等に含まれると考える。そこで、以下では帳簿の電子保存を税理士事務所で行うことを前提として、税理士の対応について触れようと思う。
 帳簿の電子保存が認められたことで今後コンピュータシステムの重要性がより増すことになろう。なぜなら、従来のシステムは、帳簿を作成する機能を持っていること主がであり、年間の決算終了後1〜2年を経過すれば、保存データを参照することはなかった。したがって、保存の機能が意識されることは、ほとんどなかった。しかし、帳簿の電子保存が行われることで、コンピュータシステムにおけるデータ保存機能が重視されることになる。万一データが失われるようなことがあれば、会社に存在すべき帳簿が失われるということであり、取り返しのつかない事態となるからである。

     会計に関するコンピュータの機能
 コンピュータの機能      会計における機能 
@ データの入出力     
A データの計算、加工、検索 
帳簿の作成機能
B データの保存       帳簿の保存機能  

 税法での保存義務は最長7年間、商法のそれは10年間である。となれば、帳簿データは、これだけの長期間にわたって、安全に保管されることが必要となる。データの互換性がなかったり、操作体系が異なるシステムに移行する場合には、従来は紙による帳簿があったため、旧システムやデータは廃棄することができた。しかし、電子保存をしている会社ないしは税理士事務所では、旧システムも廃棄できないことになる。リースにより調達したシステムであれば、リース期間が終了し、使用しなくなった段階で再リースをせずにシステムを返却・廃棄することができた。しかし、保存義務が出てきたことで、10年間が経過しない限り使わないシステムについて再リース料を払い続け、設置場所の確保するというコストが発生する。これは前節で指摘した通り、帳簿電子保存法について十分な検討時間がなかったために出てきた問題点の1つである。
 また、システム自体の安全性もより高いものが要求されることになる。従来行われているデータのバックアップは、現在進行中の会計年度のデータについて過去の入力作業が無駄にならないことが最大の目的であり、完了した会計年度分のデータが失われることがあっても紙の帳簿を見ることができた。したがって、フロッピーディスクでもストリーマと呼ばれる磁気テープでも保存に際して特に心配することはなかった。ところが、フロッピーディスクの寿命は案外短く、2〜3年で読み込み不能などのエラーを発生するものが出てくると言われている。また、磁気テープでの保存も温度変化による伸縮の可能性があるため、何年も使用しない形で保存し続けた場合のエラーの発生は保証の限りではない。また、紙の帳簿は、雨漏りで紙が歪むことがあっても見読可能であるが、コンピュータシステムの場合、データが失われることを覚悟しなければならない。データの保管を2か所で行うといった対応も現実に検討するべきかもしれない。
 さらに帳簿の電子保存に際しては、プログラムの概要等の文書の保存も求められる。この場合、プログラムの概要に変化があれば、それぞれの年次毎に文書の保存が必要になることはいうまでもない。あるいは顧問先がEDI取引を行っていれば、その取引データの電子保存も義務づけられているし、加除・訂正の履歴が残らない会計システムは、電子保存の要件を満たさない。システム面で企業がどのような対応をしているのかを知らなければ、税理士としてその企業が税法の求める要件を充足しているかを確かめることができない。また、この過程において、税理士が情報システムについての助言をする必要が出てくることもあろう。税理士も、情報システムについての最低限の知識を習得することが不可欠になってきている。