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第一法規「JICPAジャーナル」(日本公認会計士協会編集)98年4月号

著作権取得の会計的問題

−コンピュータプログラムの著作権買い取りについて−


公認会計士 税理士   
佐久間 裕幸

1 著作権の償却はできるか
 ソフトウェア開発業者においては、ソフトウェア製品の開発を行う際に、コンピュータプログラムの開発を外部の事業者に委託することが頻繁に行われている。昨今のコンピュータビジネスの進展により、ソフトウェア製品化までの時間はどんどん短縮されてきており、既存プログラムの買い取りも製品化までの時間短縮の手段として頻繁に利用されているようである。コンピュータプログラムは、著作権法で保護される著作物であるから、昨今の情報関連企業は、著作権の取得や譲渡といった取引を頻繁に行っていることになる。ところが著作権という無形固定資産の計上はあまり頻繁には見かけないだけでなく、計上された場合にはその償却ができるのかという大きな問題が控えている。
 現在の会計慣行においては、著作権の償却は行われていないように見える。日本公認会計士協会のデータベースで企業の有価証券報告書を検索したところ、特許権、実用新案権などは当然ながら税法基準により償却されているが、著作権については償却されていない例が確認できる*1。この背景には、税法の取扱いにおいて著作権の償却が認められていないことがあげられる。解説書などにおいても「著作権は著作権法により保護されており、時の経過によりその価値が減少する特性が認められませんので、非減価償却資産として取り扱われます。」*2、「税法上、著作権については非減価償却資産として取り扱われることになっています(法令13参照)」*3と記載されている。法人税法施行令13条では、減価償却資産の範囲を限定列挙しており、同条8号では、「次に掲げる無形固定資産」として16項目を列挙しているが、この中に著作権は含まれていない。税務当局の見解の通り、著作権は時の経過による価値の減少が認められないから、減価償却資産とされていないのであれば問題はない。しかし、業界の進展の著しいコンピュータのプログラムの場合、本当に時の経過による価値の減少は認められないのであろうか。著作物としての価値は減少しなくても、その商品価値、経済的金銭転化の価値は陳腐化していくものではないだろうか。実は、コンピュータプログラムの買い取り同様、支出の効果が永久に減少しないのは実態に反するという観点から、法人税基本通達7−1−10は、社歌・コマーシャルソング等の制作のために用した費用の額は、その支出した日の属する事業年度の損金の額に算入することができるという規定をおいている。この規定の解説を引用してみよう。
 「法人が社歌を制定し、又はコマーシャルソングを作るといった事例がまま見受けられるが、これらの社歌やコマーシャルソング等の制作についても、法形式上は著作権の取得に該当するということになろう。このため、税法上は減価償却が認められないのかという疑問が生ずる。しかし、社歌、コマーシャルソング等の性質からすれば、その費用効果が永久に減価しないというのは著しく実態に反するというべきであり、何らかの方法で費用かを認めることが妥当であろう。<中略>このようなことから従来から執行上は、個別的にその支出時の損金として認めていたというのが実情であり、本通達では、このような執行の実態を踏まえて、これら社歌、コマーシャルソング等の制作のために用した費用については、その支出時点で損金算入できる旨を明らかにしたのである。」*4
 こうした事例を考えるとコンピュータプログラムの買い取りについても、その価値の減少を認め、支出時の損金ないしは一定の期間での償却をする余地があるのではなかろうか。例えば、プログラムが活用されるハードウェアにしても、従来の汎用機あるいはオフィスコンピュータと呼ばれた小型機からワークステーション、パソコンへのシフトがあったことは周知のことであり、その中で使用されるオペレーションシステムも大きく変わってきている。多くの読者にも馴染みのあるパソコンを例に取れば、10年ほど前にはMS−DOSというオペーレーティング・システム(OS)が7割がたのパソコンにおける主流であったが、やがてウィンドウズ3.1というOSに移行し、ウィンドウズ95、ウィンドウズNTという上位バージョンが普及するといった動きが見られた。MS−DOSのために書かれたコンピュータプログラムのほとんどは今日では経済的価値を失い、陳腐化したと言ってもよい。
 もちろん、企業内の業務システムのためのプログラムのように長期にわたって使用されるものも存在する。こうしたプログラムの開発を外部開発業者に委託した場合には、その開発費用は5年間で償却されている。しかし、業務用システムの場合、その企業の営業上、業務上のノウハウなども取り入れてシステム構築されることが多い。そのため外部開発業者に著作権が発生するとすれば、外部開発業者に複製権や譲渡の権利が存在することになり、納品された後にプログラムの改変を行うにあたっても著作権を有する外部開発業者にその都度改変権の許諾をもらうというのも不都合である。当然、こうした問題に留意して発注している企業では、著作権が発注者に移転することを契約書上に織り込むなどの配慮をしているはずである*5。もし、契約書上に著作権の移転が明記されているとすれば、開発委託金額の中には著作権取得料も含まれていると解するのが当然であろうから、本来著作権の償却はできないとされつつも、こうした場合には5年間で償却を行っているという矛盾が存在していることになる。
 すなわち税務当局もコンピュータプログラムという著作物については、法令通達においての整合性ある見解を出せていないということになろう。この原因を探ると実はコンピュータプログラムが著作権法で保護される著作物であるとされたのが、昭和60年という比較的最近の著作権法改正であったということが見いだされるのである。


2 著作権法におけるコンピュータプログラム
 著作権法は、著作物等に関して著作者の権利およびこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的としている(著作権法第1条)。同法では「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(同法第2条1号)と定めている。この辺りを読む限りでは、我々が一般的なイメージとして想起する著作物とは、文芸作品や絵画、音楽であり、時の経過により減価するものとは思えない。実際、同法第10条第1号から8号では、著作物の例示として次のものを掲げている。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踏又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
 こうした著作権の体系の中に昭和60年改正で同条第9号が設けられ、「プログラムの著作物」が加えられた。さらに昭和61年改正で第12条の2が新設され、データベースも著作物として保護されることになった。「思想や感情を創作的に表現した」ものを保護する体系の中で経済的時間的な資源投下の成果といった産業技術的な性格のものも保護することになったのである。
 コンピュータプログラムの法的保護については、新法によるのか、著作物として著作権法の中に取り込むのかという論争は、この時点で終結したわけであり、本稿は、そうした議論を蒸し返すものではない。しかし、公認会計士・税務当局といった企業会計分野の人間にはほとんど関心のない著作権法の世界で企業活動を支えるコンピュータプログラムに関する法改正があったのであり、また、当時は、弁護士のような法律の専門家にとっても著作権法は主たる業務領域ではなかったのではないかと思われる。こうした経緯が一種の税務上の盲点といったものを今日もたらしているのである。


3 実務的な対応について
 他社で開発されたコンピュータプログラムを買い取る取引を行った場合には、経理的にどのように対応すべきであろうか。私は2通りの方法を提案してみたい。
(1) 取得時の費用又は一定の期間で償却する
 これは、著作権買い取りの対価をそのまま費用として計上するか、一定期間の経済的価値(効果)が認識できるのであれば、買い取り対価を取得原価として著作権を計上し、経済価値を有すると認められる期間にわたって償却するものである。償却期間が客観的に決定しがたい場合には、法人税基本通達8−1−7に準じて5年で償却するという考えもあろう。著作権買い取りという取引は、外部に開発依頼をしてソフトウェアを取得する代わりに開発依頼しようと思ったソフトウェアがすでに存在していたから取得したのであり、類似の取引であるという解釈をするのである。
 こうした経理処理は、税務上の明文規定がないために企業の経理担当者には若干躊躇される部分があるのも確かである。しかし、すでに述べたように社歌、コマーシャルソングといった著作権買い取りの取引について損金処理が認められている以上、十分説得力がある経理処理方法であると考える。
 著作権を計上しつつ、償却は実施しないでおき、当該コンピュータプログラムが経済的価値を失ったことが客観的に説明できるようになった段階で除却処理するという会計処理も考えられるかもしれない。この経理処理は、著作権の経済的価値の減少が明らかになってから一時償却することから経理処理を税務当局から否認される可能性が低いという意味では説得力があろう。しかし、本来、経済的価値を失うまでの期間の収益と対応させることに会計的な意味があることを考えると、こうした処理は会計的には認められない。
(2) 著作権を買い取らないような契約で目的の効果を実現する
 第2の方法は、著作権を取得するから償却できるかどうかの不安が生じるのであるから、著作権を買い取らずに当該著作物を自社のものであるかのように使用する方法である。
 すなわち、プログラムの複製物の納入を受けてプログラム複製物の所有者となるのである。自己で使用する範囲であれば、これだけで必要な改変、複製、翻案を著作者の許諾無しに行うことができる(著作権法第20条2項、47条の2)。
 また、当該プログラムの複製物を販売したり、バージョンアップをした上で販売するような自社製品同様の扱いをしたいということであれば、著作物利用許諾の契約を著作者と結ぶことができる。通常の利用許諾では、著作権者は他の者にも利用許諾できるので、独占的利用許諾契約を結ぶことになる。
 また、著作権には、複製権など譲渡の対象となりうる著作財産権と譲渡の対象とはできない著作者人格権がある。著作者人格権は、著作者自身の人格的利益の保護を目的とするものであるから、財産権たる著作権とはその性質を異にし、一身専属性と不可譲渡性を有する(著作権法59条)*6。例えば『吾輩は猫である』の出版の権利(複製権)は、譲渡により出版社が持つことはできても、その著作者は「夏目漱石」と表示されるという意味合いである。従って、利用許諾を受けるにあたっても、著作者人格権についての特約を入れないと自社の製品として売りたいのに元の制作者の名称を入れなければいけないことになる。独占的利用許諾契約書の中で「乙(開発者)は、この契約により開発されたプログラムに関する著作者人格権を有する場合においても、甲(利用者)及び甲の指定する者に対してはこれを行使しない」という特約条項を入れるのである。この特約条項は、著作権譲渡契約においても入れておいた方が良いと思われるものであり*7、こうした法務知識は、ソフトウェア開発会社においては重要である。
 こうした契約を締結した場合、利用許諾契約に伴う著作権利用料を支払うことになるので、経理処理は、著作権利用料を費用処理することになる。契約書で一定の利用期間を定め、利用料を一括して支払った場合には、長期前払費用として利用期間に応じて均等償却することになる。また、年間支払額を定めた場合には、その都度費用計上する。プログラムの販売本数などに比例して支払う場合には、利用料の計算期間ごとに計算された著作権利用料を費用計上することになる。
 このように著作権の買い取りによって著作権を取得することなしに、それと同等の効果を実現するという点でこの手法は興味深い。しかし、こうした取引により生じる独占権は、委託者、受託者間の契約で定められているに過ぎないので、第三者に対してこの独占権を直接行使することはできない*8。著作権を取得していれば、その権利は第三者に対しても当然に主張できるのであり、当該プログラムを第三者が勝手に使用している事実があれば、著作権を侵している事実に基づき、使用差し止めの請求等ができる。しかし、利用許諾の場合、この独占権は、著作者と許諾を受けた側との間の債権契約に過ぎないので、著作者が第三者との間でさらに無断で利用許諾契約をした場合には、その第三者に対して、自分が独占していることを主張することはできない。この意味で、著作財産権を譲受けた場合と比較すると、立場としては弱いということになる。
 したがって、(1)の著作権取得の方法を選択するか、(2)の利用許諾の方法を選択するかは、税務上ならびに経理処理上の問題と、独占の程度が物権的か債権的かという意味での相違がある点を総合考慮して決めるということになろう。少なくとも、こうした取引が行われる前に経理部門が取引に関与しておかないと総合考慮の余地がなくなるという点で注意が必要である。


4 プログラムの外部作成委託の場合の経理処理
 プログラムの作成を外部に委託した場合、特に契約書上で著作権が委託者に移転することを定めるべきであり、従来5年償却していた経理処理は、著作権の取得との兼ね合いで矛盾があることは既述した。そこでこの点について私見を述べておきたい。
 法人税基本通達8−1−7では、「他の者からソフトウェアの提供を受け、又は他の者に委託してソフトウェアを開発した場合におけるその提供を受けるため、又は委託するために用した費用は、令第14条第1項第9号ハ《役務の提供を受けるための権利金等》に規定する繰延資産に該当する」としか規定していないため、著作権を取得したか否かには触れられていない。この通達は、昭和55年、すなわち著作権法でコンピュータプログラムを保護することが定められる以前に出されていることから当然の結果ではある。この通達の制定後に著作権法の改正があり、それ以降、著作権が委託者に帰属するような契約をしなければ、委託者の目的は達成できなくなっているという取引の実態を考えるならば、著作権を委託者が取得していても5年で全額を償却できると考えるのが自然である。契約書その他の中に作成委託料と著作権譲渡対価を区分して記載し、前者についてのみ税務上の繰延資産として償却したり、著作権譲渡対価は無償であるとの記載を契約書等に入れるといった対策は不要であると考える。このように考えれば、社歌・コマーシャルソングと同様、ソフトウェア開発費用について定めた本通達は、著作権について償却を認めない税務上の取扱いの例外規定であると解される。


5 まとめにかえて
 本稿の検討によれば、取引の実態において著作権の経済的価値の減少が認められたり、その支出を収益と対応させる必要が認められる場合には、税務上も著作権の費用化を認めていることがわかる。一般的には著作権の価値は不変と考えられる小説、論文といった文章での著作物にしても雑誌に掲載される文章(例えば新商品の紹介記事など)は、経済的価値を急速に減少させるであろう。現実に雑誌の出版社は執筆者に対して、「原稿料」という名目すなわち経理上は一時損金処理を行っているのであり、実際は雑誌のレイアウトにあわせて若干の改変を行うから著作権の1つである翻案権の譲渡があったと考えられる。しかしながら、これを著作権として償却できなければ、出版社は経営が成り立たないから、当然に費用処理している。こうして考えると、著作権は税務上は非減価償却資産であるという原則自体に問題があるともいえる。この原則があるがゆえに多くの事業者において、通達、業界の慣行、通達の解釈(類推適用)によって費用化の途が探られている。経済のサービス化、ソフト化という流れが変わらない以上、税務当局の柔軟な対応が望まれる。同時に我々職業会計人も、著作権法のような従来意識をしていない分野にも最低限の知識を習得しておく必要が出てきているのである。


*1 日本公認会計士協会データベースによれば、貸借対照表に著作権勘定が計上されて
 いるのは3社(タイトー96年3月期、ダイワ精工96年3月期、ローランド96
 年3月期)であり、95年3月期から引き続き計上されているタイトー、ダイワ精工
 においては、計上額が変わっていないことから償却が行われていないことがわかる。
  また、アイ・オー・データ機器95年6月期の減価償却明細表では、「その他の無
 形固定資産(著作権を含む)」という記載があるが、著作権以外の無形固定資産が償
 却されている可能性もあり、著作権の償却が行われているかどうかは不明である。
*2 「平成7年版税務相談事例集」p.618三橋乙彦編(財団法人大蔵財務協会)
*3 「法人税基本通達の疑問点」p.245渡辺淑夫,山本清次編集代表(ぎょうせい)1990年
*4 「コンメンタール法人税基本通達」p.285渡辺淑夫、田中豊著(税務研究会出版局)
*5 「(外部業者に開発を委託する)このタイプの開発は法人著作の概念には入らない
  ので、開発請負人が著作権を取得する。ただし、開発請負契約で委託者(発注者)
  を著作者とする合意は可能であり、有効である。かかる形態の請負では、請負契約
  で著作権者を明確に合意しておく必要がある。」「ソフトウェア開発に伴う知的所
  有権法及び税法上の諸問題」p.150 高石義一「税務弘報」1997年No11
*6 「新訂版著作権法の解説」p.48千野直邦、尾中普子著(一橋出版)1995年
*7 「ソフトウェア取引の契約ハンドブック」p.21,p.42吉田正夫著(共立出版)1989年
*8 同p.43