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ベンチャークラブ98/1月号 ベンチャー経営者に贈る資金繰り術実践編(P.28)

事業計画書こそ命!
経費見積もりの甘さに注意

 ベンチャー企業の資金調達において事業計画書は、一般の企業が融資を受ける際の担保同様の機能を持っている。したがって、売上、原価、販売費管理費などを適切に計画して、狂いの少ない事業計画書を作成することが重要である。一般にベンチャー企業のキャッシュフロー及び利益は、設立後の数年間はマイナスを続け、やがてプラスに転じ、数年を経て、累積でもプラスに転化する。したがって、事業計画書における費用の見積りが甘いと、当初準備した資金が予想より早く底を突いたり、次回の資金調達の枠を広げる必要に迫られることになる。当初の事業計画より悪い実績を出しつつあるベンチャーに対して投資家は厳しい目で見ることになる。2回目以降の出資を約束していた株主ですら、ひとたび事業への不審を持てば、当初の出資が無駄になることも覚悟の上で2回目の出資を断ることすらある。

 ベンチャーの事業計画は、企業としての実態がない段階で組まれることも多い、したがって、前年の実績といった数字がなく、すべてが予想と計画に基づいて作成されることになり、非現実的な計画になりがちである。例えば、社長がトップセールスをした場合の売上高を前提に営業マンを雇っても、彼らは社長ほどには売ることができないだろうし、人数が増えれば、営業管理のための人員も必要になる。人が増えれば、組織としての会社を維持・発展させるための総務・経理・広報・人事といった管理部門も充実させないと会社が維持できなくなる。そして、支払う給与だけでなく、健康保険などの福利厚生費やオフィスの増床による家賃、求人費、机パソコンなどの事務用品費も増えてしまう。一般に人を一人雇うと、支払う給与と同額の費用が発生すると言われている。

 最近、ネットワークの普及により、バーチャルな企業組織により人件費や事務コストの削減を口にする起業家を見かける。しかし、会社の規模が数億円になり、数十億円になってもその構想が機能するならば、むしろそのノウハウを売りにしたコンサルタント業を始めた方がよいだろう。画期的なローコスト組織など夢見てはいけないのだ。

事業計画書(予想損益計算書)          
        (単位:百万円)  
年度 第1期 第2期 第3期 第4期 第5期
売上高 0 20 50 150 500
売上原価   18 45 90 250 ポイント1,2
 売上総利益 0 2 5 60 250
販売費一般管理費 65 90 95 130 170
(うち開発費) 60 50 30 30 30
(うち販売費) 0 30 50 80 120
(うち一般管理費) 5 10 15 20 20
 営業利益 -65 -88 -90 -70 80
営業外収益 0 0 0 0 0
営業外費用 5 5 10 10 15
 経常利益 -70 -93 -100 -80 65
 前期繰越利益   -70 -163 -263 -343
 当期未処分利益 -70 -163 -263 -343 -278

<ポイント1>操業度を考慮しているか
 製品の立ち上がり時期は、生産量が少なく、操業度が低いため、製造固定費によって大幅な赤字となることが多い。ファブレス(生産の外部委託)だとしても、委託先の操業度も低い以上、それを補填するような仕入価格を設定することも考えなければならない。

<ポイント2>減価償却費の配慮をしているか
 生産を開始するにあたって、機械や金型を購入したりするであろうが、これらは減価償却費として費用化される。金型の償却は耐用年数2年と定められているので、製造開始直後の減価償却費が膨らむ可能性がある。キャッシュフローの予想において機械や金型の取得代金は考えていても、その費用化まで計算されていないこともある。


人員計画       (単位:人)  
年度 第1期 第2期 第3期 第4期 第5期
開発          
 専門職 2 2 2 2 2 ポイント3
 一般職 1 1 1 1 1
営業           ポイント4
 管理職 0 1 1 1 1
 一般職 0 1 4 6 8
一般管理費          
 管理職 0 0 0 0 0 ポイント5
 一般職 0 1 1 2 2
専門職及び管理職は、1千万円/人、一般職は5百万円/人

<ポイント3>開発内容の変化を想定しているか

 開発要員は、当初より3名で変動を想定していない。しかし、製品売出までの段階では、製品化のための開発人員であろうが、売出後は、量産研究や修理等の容易な製品作りといった異なる能力を持った人材も必要になるのではないだろうか。
<ポイント4>管理部門の人材は十分か

 一般管理部門の人材は、第5期に到っても管理職抜きで一般職だけとなっている。こうした人員で5億円の売上が達成される企業の管理ができるだろうか。株式公開を想定しているならば、一般的に相当な能力を持つ管理職が必要である。また、情報処理部門などの人員も想定されていないようである。

<ポイント5>営業事務の負担を考えているか
 一般管理部門が手薄である以上、請求書の発行や入金管理などの営業事務は営業部門でやらざるを得ないだろう。しかし、この人員計画の中にそうした人手は考慮されているだろうか。一般職の増加は、売上の増加に見合った営業マンを想定しているように見える。


経費内訳       (単位:百万円)  
年度 第1期 第2期 第3期 第4期 第5期
開発費内訳          
 人件費 25 25 25 25 25
 その他 35 25 5 5 5
営業費内訳          
 人件費 0 15 25 35 45
 広告宣伝費 0 10 20 35 75 ポイント6
 その他 0 5 5 10 10
一般管理費内訳          
 人件費 0 5 5 10 10
 地代家賃 3 3 5 5 5
 その他 2 2 5 5 5 ポイント7

<ポイント6>広告宣伝費は売上に比例するとは限らない
 広告宣伝費は、売上の増加に比例するように増えることが想定されている。しかし、製品の販売開始の時には、カタログ、パンフレットの作成、各種展示会への出展など製品の販売数量と関連しないコストが発生するものである。

<ポイント7>雑多な経費を甘く見ていないか
 一般管理費の「その他」は、極力節約というイメージで作られているように見える。しかし、水道光熱費、事務機器のリース料くらいしか盛り込まれていないのではないだろうか。実際には、求人費用、会社案内の制作費といった費用も発生するはずである。一般管理部門が手薄であるから、税理士等外部専門家も十分活用する必要があり、その報酬なども盛り込まれているとは思えない。