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  《経営の話》    (niftyserveに連載した経営に関する話)          − 目 次 −      【最低資本金への増資 その1】      【最低資本金への増資 その2】      【中国への進出】      【倒産の話】      【原価計算の話】      【社員旅行の税務】     【株式公開のメリット】      【多角化への誘惑】      【予算の話】      【ダウンサイジングと経営改革】      【会社と個人でどちらが有利?】      【従業員に染み付いた体質】      【粉飾決算の話】      【社員の動機付け】      【第二店頭市場】その1      【第二店頭市場】その2      【故郷の土地の売却】
010/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 (再録) (15) 95/02/21 21:43   かつてFBMAN1に連載しました、「経営の話」の中からいまでも利用価値  のあるものを選んで、掲載してみることにしました。まずは、平成5年5月8日  の分です。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   【最低資本金への増資 その1】  前回の商法改正によって株式会社の最低資本金が1000万円に、有限会社の 最低資本金が300万円になったことは御存知だと思います。今回は、現在この 最低資本金に達していない会社の増資の期限やスケジュールについて書いてみま す。  前回の改正商法の附則によれば、この改正法が施行された平成3年3月31日 までに設立、又は定款の認証を受けて4月1日以降設立された会社は5年間資本 金が1000万円未満でもかまわないとされています(附則5条1項)。この期 間内、すなわち平成8年3月31日までに資本金を1000万円/300万円に 増資すればよいことになります。  さて、この期間が経過する間に資本金が最低資本金額まで増資されないとどう なるのでしょうか。この期間が満了すると、当該会社は解散したと看做される旨 が官報に公告されます。この公告の日から2カ月内に資本の額を1000万円以 上にする登記をしないとその日に解散したと看做されます。  ただし、こうなってもまだ救済の余地があります。この看做し解散の日から3 年以内に限り株主総会の特別決議によって会社を継続することができます。ただ し資本金が1000万円になるまでの間は、会社は資本の変更又は組織の変更に 関わる範囲に限って権利と義務を負います。すなわち本来の会社の営業など定款 に記載された会社の目的が制限されるということです。  従って平成8年3月31日までは最低資本金に達していない会社も合法的に取 り扱われ、その後平成11年3月31日までは存続することだけは認められてい ると理解すればよいかと思います。  なお、一般的に物的会社(出資された資本というモノによって担保される会社) である株式会社は、合名会社や合資会社といった人的会社(社員−出資者兼経営 者の無限責任で担保される会社)に組織変更することは認められません。しかし ながら、平成8年3月31日までの間、資本金1000万円未満の株式会社は、 合名会社、合資会社への組織変更が認められています。これは、実態として人的 な会社も株式会社の形態をとって存在している現状を考えて、会社の実態に合致 した組織形態を取ろうという行為を認めようという趣旨であると考えられます。  平成8年までには、あと3年あります。それまでに会社としての将来を見据え て適切な対応を取ることが望まれます。来週の「経営の話」では、平成8年まで の増資に絡んだ話をしてみるつもりです。具体的な手続きの話も出てくるなど一 般的な話ではなくなる恐れもありますが、小規模の会社をお持ちの方々には有益 かと思いますので、お付き合いください。   ご意見、ご質問があれば、この会議室へ書き込むかメールでお願い致します。                  FBMAN2 Sysop 佐久間 裕幸【SDI00703】 011/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 (再録) (15) 95/02/21 21:48   【最低資本金への増資 その2】  前回は資本金が1000万円に満たない株式会社、300万円に満たない有限 会社は、平成8年3月31日までにそれぞれ1000万円、300万円以上に増 資しないと会社が解散したものと取り扱われることを説明しました。そこで今回 は増資の方法から説明します。  (1) 新株の発行  新株の発行においては金銭による出資と現物出資が考えられます。金銭の出資 は最も一般的な増資の方法です。しかしながら発行する株式の発行価格について は注意が必要な場合があります。詳細に触れると分量が多くなるのでポイントだ けにしますが、増資の前後で株主構成に変化が生じる場合に出資を引き受けた側 に税務上の問題が起こり得ます。すなわち税務当局が認める株式の時価と発行価 格の差額に対して法人税(株主が法人の場合)、所得税または贈与税(株主が個 人の場合)が課せられることがあります。事前に税理士など専門家に相談するこ とをお勧めします。  現物出資は、金銭以外の財産で出資を行う方法ですが、株式会社においては従 来裁判所の定める検査役の検査が必要であるためあまり利用されておりませんで した。しかし平成2年の改正により検査の不要な場合も出てきました。逆に従来 有限会社では検査役の制度はありませんでしたが、株式会社に準じる制度となり ましたので注意が必要です。 なお増資の後に行う資本増加の登記の税率が最低資本金までの増資に限り、7/ 1000(最低税額3万円)から3.5/1000となり、しかも最低税額3万 円という基準も外されています。これは最低資本金までの増資への援助処置であ るわけです。  (2) 法定準備金の資本組入れと配当可能利益の資本組入れ  株式会社の場合、法定準備金や配当可能利益を利益処分において資本金に組み 入れることが認められています。といっても中小会社の場合に資本準備金が積み 立てられていることは極めて希なことでしょうから、実際は利益準備金(配当な どの10%以上を積み立てる準備金)や配当可能利益の資本金への組入れを検討 することになります。  これらの手法では十分な原資さえあれば新株の発行のような追加の資金を用意 しなくても最低資本金の達成ができます。しかしながら従来利益準備金と配当可 能利益の資本組み入れにおいては「みなし配当」という税務上の取り扱いがあっ て株主に対してみなし配当分(1株当りの利益準備金等の組入額×持株数)に対 して20%の所得税が課せられておりました。この資金負担があるためにあまり 利用されない制度でありました。しかし最低資本金への増資のための支援処置と して、平成8年3月31日までの最低資本金までの資本組入れにかかるみなし配 当については非課税とされています。従って毎期利益を計上している会社では利 益を資本金に組入れることによって最低資本金の達成ができることになります。   ご意見、ご質問があれば、この会議室へ書き込むかメールでお願い致します。                                          ひろ
015/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話【中国への進出】 (15) 95/03/06 22:29 (初出 - FBMAN1 MES( 7) 681/681 93/05/21 21:41)   【中国への進出】  NICSへの進出というのが一時流行っていました。そして近年私の周辺でよ くみかけるのが中国への進出です。生産工場の移転先として、かつて韓国、台湾 等が主要な進出場所として選ばれていた時代がありました。しかしこうした国の 工業化と共に賃金水準も上昇し、労働集約的工場としては魅力が無くなったとい うことです。またシンガポールを代表とするNICSもずいぶん注目されました。 これに対して中国本土の経済特別区他への進出が目立ってきたわけです。  中国では労働力の供給としては非常に恵まれた条件にあり、香港に接したシン セン(すみません、変換しません)では、その周辺地域だけでなく、中国全土か ら労働者が集まってきています。とはいえ鉄道を乗り継いで4日間などというよ うな遠方から出てくる人もいるため、正月休暇などは少なくとも10日は必要だ というような事情もあるようですが。賃金水準は月給数万円で十分とのことです。  しかし問題がないわけではありません。まず中国側としても外資の導入が目的 の1つなのでしょうから、資金が流出しないような規制が公式、非公式に存在し ています。中国での子会社設立に当り、会社の定款や合弁契約を作成する際、当 事者での協議で十分議論して対応を考えても、いざ設立前に政府の認可を求める といろいろと修正しないと会社設立を認めてもらえない場合もあるようです。利 益が出たとしても配当として資金を日本に還元するのは困難なようです。中国側 の立場になれば当然のことなのでしょうけど。  あるいは本社の誰を中国子会社の経営者として派遣するかも重要な問題です。 経理が不透明になって横領などの不正が生じては困るし、また公開企業であれば、 連結決算に対応するために日本の会計制度に即した経理を行わなければなりませ ん。従って経理をある程度理解していて、かつ異国の人々と十分な友好関係を築 くことができて、生産や販売も含めて全社的な視野からのジャッジができる人材 が求められます。そのような人があなたの会社にいるでしょうか。もしいたとし ても、中小企業であれば、取締役にでも据えて本社の体制の確立に尽力してもら いたいくらいの貴重な人材です。それを海外に派遣したのでは、本社の管理面が 手薄になってしまう恐れもあります。  最近の新聞ではキヤノンやミツミ電機といった上場大手企業の中国子会社でも 労働争議が起きるなど、外国子会社の管理には相当な負担がかかります。一般に 生産子会社の設立というと、生産コストの面からのメリットに目が向きがちです。 いまいちど進出先の法律等社会制度や自社の経営力を総合的に見直してから海外 進出の意思決定を行う必要があります。   ご意見、ご質問があれば、この会議室へ書き込むかメールでお願い致します。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−   最近でも、増値税の還付について政府の取扱いが前触れなく変わったりして、  中国の制度には理解できない部分があります。   そういうリスクも承知の上で、そこに適応できたとき、はじめて「国際化」と  言えるのかもしれません。(H7.3.6)                               佐久間 裕幸
017/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【倒産の話】 (15) 95/03/13 23:40 コメント数:1   【倒産の話】   やはり景気の影響であろうか、倒産の記事が目に付きます。ところで一口に「  倒産」と言っても、具体的にはいろいろな内容があり、また法律用語ではありま  せん。中小企業信用保険法とか中小企業倒産防止共済法といった法律のなかで「  倒産」という言葉が出てきますが、いろいろな状況を称して「倒産」なのですね。  新聞などで「会社更生法の申請を出し『実質的に倒産』した」などという言い回  しがされるのはそのためです。    ^^^   法律的な倒産としては、整理、和議、破産、会社更生、特別精算があり、また  実質的な倒産としては銀行取引停止(手形交換の停止)や任意の整理があります。   このように見てみると同じ「会社を潰す」のでもいろいろな方法があることに  気がつかれるでしょう。しかも「倒産」と言っても会社を再建する方向での倒産  もあれば、会社を消滅させる方向での倒産もあります。またこうした法律にした  がった倒産のほかに銀行の管理下に入るとか夜逃げをするなどの法律に定めのな  い手法もあります。    再建型  和議(和議法) 会社更正(会社更生法) 整理(商法)    消滅型  破産(破産法) 特別精算(商法)              ()内は、根拠法令   このようにいろいろな倒産があるとなれば、会社の経営が苦しくなったときに  経営者としてはどのような倒産手続をすべきかを慎重に検討する必要が出てくる  ことになります。会社を設立するときに税理士や司法書士に相談する人は多く見  かけますが、倒産するときに専門家に相談することは希なようです。将来の見込  みのないままにズルズルと営業を続け、資金が苦しくなると知人や取引先に資金  の融通を頼み、さらには手形割引業者などに高利のお金を借りて、どうにも行か  なくなったところで夜逃げをする。これでは従業員も救われなければ、やがて本  人が出直そうとしたときにも誰も協力してはくれないでしょう。   これに反して、まれにすべての債務を銀行に集約した時点で不渡りを出すよう  な見事な倒産を見ることがあります。時には家屋敷も他人の手に渡ることなく、  会社も銀行の管理下で業務を続けられる場合まであります。こういう場合の多く  は後ろで指揮を取るアドバイサーがいるようです。株式会社、有限会社の有限責  任を上手に利用しているわけです。     会社を作るときには資金もあれば、将来への見通しもあります。こんな良い状  態のときにでも専門家を利用するのですから、会社の苦しい場面で専門家を利用  しない手はありません。身に詰まされながら読んでいる人のいないことを祈って  おります。   ご意見、ご質問があれば、この会議室へ書き込むかメールでお願い致します。                                                       佐久間 裕幸 MHA02122
019/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【原価計算の話】 (15) 95/03/18 17:59   【原価計算の話】  「メーカーが株式公開をするには原価計算制度の整備がネックになることが多 い」、これは公認会計士が、株式公開を希望する企業に初めて伺ったときによく する話です。そして社長が「いや、当社の場合、既にやっていますよ」という返 事が返ることもよくある話で、後日原価計算の内容を会計士が調べるとやはり整 備が必要だったりするのもまたよくある話です。  要するに「原価計算」という言葉の範囲が広く、また人によって異なる意味に 用いたり、重点をおいたりしているのです。  「原価計算制度」という言い方をする場合、以下の5つの目的を合わせ持って いるのです。  (1) 財務諸表作成目的   毎月末、年度末の製品、仕掛品の原価を算定し、財政状態ならびに損益を算  定するための原価を算定する。また製品種類別の売上原価の算定などに必要な  原価情報を提供する。  (2) 価格計算目的   新製品の製造価格を事前計算(見積計算)して販売価格を算定する。  (3) 原価管理目的   原価発生の実際額と標準とを比較して、差異の原因を分析し、経営管理者の  各階層に対して必要な原価資料を提供する。  (4) 予算管理目的   予算の編成並びに予算統制のために必要な原価資料を提供する。  (5) 経営基本計画目的   経営立地、生産設備など経営構造に関する事項について経営意思を決定する  ための随時的な決定への資料を提供する  株式公開する上で原価計算が未整備であると言われる企業でも2の価格計算目 的での原価計算は行い、それをもとに年度末の製品原価も行っています。それゆ え1の財務諸表作成目的の原価計算も実施していると経営者は考えるわけです。  ところが、株式公開を目指す企業に期待されるのは、年度初めに定めた予算に 基づく原価見積により計算した原価と実際に発生した原価とを比較して、その原 因を明らかにできること、また見積の作成において見込んだ製造の能率や操業度 と実際との比較をして原因を分析すること、そして実際に発生した原価で製品や 仕掛品の原価を算定することなのです。  こうした原価計算を行うためには、帳簿における実際の購入金額を反映した原 価を算定する必要があり、「予定価格×数量」で算出する原価計算に比べてはる かに手数が増え、部門間の資料のやり取りが必要になります。  株式公開の準備においては原価計算制度の整備のお手伝いを公認会計士が担当 します。この場合、一定の期間、週に一度は会社に伺うなど相当の手数をかける ことになります。知識や経験だけでなく会社の多くの部門の人の協力を得られる ような全人格的なエネルギーの投下を求められます。しかしながら、その会社の 製造過程を教えてもらうことから会社の製品についての深い知識を得られ、また 会社の多くの人達と交流することができるため、非常に楽しい作業でもあります。 会社の人達から「問題点が見えるようになった」と言われるのが、何よりの喜び です。                            佐久間 裕幸
020/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【社員旅行の税務】 (15) 95/04/01 18:38   FBMAN1の7番会議室平成5年6月26日の発言の再掲です。   【社員旅行の税務】  社員旅行の費用を会社が負担する場合、これを従業員に対する給与(経済的利 益の供与)とせず、非課税とするという取り扱いがあることを御存知だと思いま す。これは所得税基本通達で定められていたのですが、この(平成5年)5月3 1日に一部が改正されましたので、説明することとします。  従来は次の3つの要件をすべて満たしていれば課税しないとしていました。 (1) 旅行に要する期間が3泊4日以内(海外旅行の場合は目的地での滞在日数) (2) 旅行費用の50%以上を使用者が負担していること (3) 参加する従業員等の数は全従業員等の50%以上であること  これが今回(1)が4泊5日になり、同時に(2)が削られました。  これは新総合経済対策に基づく景気刺激策の一環であるとされ、この結果とし て機内泊を含む4泊6日のハワイ旅行なども可能になったわけです。また(2)の 要件が消えたために会社負担が5万円、従業員負担が10万円で海外旅行という ことも可能になり、福利厚生予算が少なくても大きな旅行に行けるわけです。  ただしこの2つの要件は形式基準であるとされ、通達では「旅行の企画立案、 主催者、旅行の目的・規模・行程、従業員の参加割合・使用者及び参加従業員等 の負担額及び負担割合などを総合的に勘案する」という実質基準があります。こ れは、リクリエーション費用はもともと経済的利益の供与として給与課税する( 所得税法36条)ところ、通達によりの例外を定めるもので、社会通念上あまり に過大な会社負担でない社員旅行だけを非課税としようという趣旨であるからで す。  ここで問題となるのが、4泊6日なら旅行費用の総額も相当な金額になり、い ったいいくらくらいまでが非課税なのかという点です。国税庁では4泊5日の慰 安旅行(総額25万円)で会社負担が10万円ならOKという例示を出している とのことです。では15万円ならダメか?というと、これも微妙なところです。 実例としてはハワイ旅行で総額25万円の費用を全額会社が負担していた場合( ただし旧通達当時)で、税務調査時に過大であると指摘を受けたものの、経理担 当の説明の結果として更正には至らず(要するに課税されずに)に調査が終了し た会社もありました。  通達は、税務職員の判断の目安であって、法的な拘束力がないだけに、最終的 な結論は、会社の状況その他によって異なってしまうと言わざるを得ません。と にもかくにも、社員旅行がより豪華になるかもしれないお話でした。
021/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【株式公開のメリット】 (15) 95/04/17 21:50  【株式公開のメリット】 昨年は、100社を超える会社が証券取引所に上場または店頭市場に登録され、 今年も昨年を上回るペースで公開が進んでいます。そこで今回は株式公開のメ リットとデメリットについて書いてみます。  ◎メリット 1.資金調達力が増大し、財務体質が充実する。   株式を公開すれば、いつでも公募増資ができるので、資金調達の手段が拡が  り、その結果として財務体質が充実することになります。 2.社会的信用力が増し、知名度が向上する。   公開会社であれば、取引先からの与信限度は無制限になり、取引に際して保  証金を積む必要もなくなります。また日々新聞の株価欄に社名が載るだけでな  く、マスコミ等に取り上げられる機会が増えるため会社の知名度が上がります。 3.人材の確保とモラルの効用に役立つ。   社会的信用のある会社ということで優秀な人材が集まり易くなり、また就業  してからも、会社への誇りをもってもらい易く、高いモラルが期待できます。 4.組織的な経営や管理体制の充実が図れます。   株式公開に当っては、会社が組織的に経営されているかについてチェックさ  れます。一部の優秀な人間によって伸びている会社ではその人材がいなくなる  ことで会社の成長が止まったりする恐れがあるからで、そのため株式公開を目  標として経営の組織化や内部管理の整備を進めることができます。 5.法人税の課税の適正化が図れる。   非公開会社の大部分は、利益の社内留保に対して課税される同族会社です。  公開することにより、非同族会社となることができ、課税上の不利な取り扱い  から脱却することも可能です。 6.株式の流通性が増し、売却により創業者利得を実現できる。   会社の株式の流通市場ができることで、株式をいつでも公正な価格で売却す  ることができます。これにより市場での株価と創業時などに出資した額面との  差額である創業者利得を実際の資金として現実のものとすることができます。 7.株式の譲渡益に対する税法上の優遇がある。   公開会社の株式の売却益に対しては申告分離課税と源泉分離課税の有利な方  を選択できるという優遇処置があります。また株式公開時の売却利益に対して  は13%の申告分離課税が適用され、優遇されています。  ◎デメリット 1.投機的な取引や株集めへの対策が必要になる。   株式が公開されると言うことは誰でも株を買い集めて株主として発言するこ  とができます。株価の高騰を招いたり、乗っ取りへの警戒が必要になります。  ただし公開準備の過程でオーナーの主導権を維持できる株主構成を確保するよ  う綿密な対策が用意されます。 2.株主総会対策等株式事務が増大する。   いわゆる総会屋の登場もあり得ます。 3.企業内容の開示義務が生じます。   決算短信の発表、有価証券報告書の提出など、タイムリーな情報開示が必要  になります。迅速な経理集計が必要となりますが、半面経営者にとって必要な  情報も速やかに報告されるメリットもあります。  ということで、少ない行数で十分にはまとめ切れませんでしたが、ご質問等が あれば、この会議室またはメールでお寄せください。                              ひろ
022/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【多角化への誘惑】 (15) 95/04/17 21:50 コメント数:1   【多角化への誘惑】   そこそこの規模の会社を経営している経営者にとって、今の本業だけに頼らず、  もう1つ経営の柱になる業務分野を持ちたいという気持ちは、なかなか捨て難い  欲望のようです。これは、景気や主要な取引先との関係に左右されない強固な経  営基盤を作りたいという願いに基づくものと思われます。   しかし、経営学などの本の記すところや経営コンサルタントによれば、本業と  全く異なる事業分野への進出は危険であり、すべきでないとされており、何らか  の形で本業のノウハウや技術力が生かせる分野でなければ成功しないといわれて  います。   理由として会社にはそれなりの歴史や直面する市場などから醸成された経営風  土というものがあり、容易には新しい事業分野に適応できないということが挙げ  られます。また新しい事業といっても容易に利益が上がるような事業であれば、  多くのコンペティターが参入してくるわけであり、また容易に利益が上がらない  ような事業であれば、多角化の結果として経営の柱にまで事業を育てるのは非常  に困難なわけです。それゆえ、本業との何らかの関連性による差別化や独自の付  加価値が必要になるのでしょう。   このような話は、誠に有名な話でこのFBMANに来られる方々なら多くの方  々が御存知だと思います。しかし私がここで問題にしたいのはそれほど有名な「  多角化はいけない」という命題に反する意思決定をする経営者が後を絶たないの  は何故か、ということです。   これについて私は「恐れ」が関わっているのではないかと考えています。すな  わち、そこそこ会社が成長すると、そこから得られる自らの報酬や社会的地位、  従業員への責任なども大きくなります。これが何らかの市場構造の変化や社会の  需要構造の変化などから失われることへの恐れがあるのではないでしょうか。そ  れゆえもうひとつ経営の柱を持って、たとえどちらかの事業を縮小せざるをえな  なっても、少なくとも会社は半分の規模になるだけで存続はできる、そういう安  定性への欲求が多角化へと経営者を走らせるように思うのです。   しかし、経営の柱になるような事業など簡単にはできません。ましてや最初の  事業は、社長自身が決死の覚悟で裸一貫から始めて必死になって育ててきたはず  です。その時のような迫力で多角化に没入できる経営者はまずいないでしょう。  ある事業に自らを投じるだけの確信をもって始めた最初の事業と「恐れ」から参  入する多角化事業。結果に大きな違いが出るのは言うまでもありません。   今回は私見に基づいた話になってしまいました。ご異論もあるかもしれません。   ご意見、ご質問があれば、この会議室へ書き込むかメールでお願い致します。                            
035/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【予算の話】 (15) 95/04/27 23:27   【予算の話】   公認会計士が初めての会社に伺って経費や販売費の帳簿を見たとき、支出が  とんでもない科目で費用処理されているのに出会うことがあります。たとえば  例えば広告宣伝費になるような支出が消耗品費で計上されていたりするのです。  「ここの経理はどういうセンスをしているんだ?」とまずは呆れ、それから「  もしや?」と思って次のように質問してみます。     「こちらの会社は、かなりきちんとした予算管理をなされていますか?」    すると経理の人が「そうですね、というか、かなりガチガチの・・・」という  返事が返ってくる。つまりある費目で予算を超過してしまうとそれ以上の支出  ができないために、予算に余裕のある他の費目で計上してしまうということな  のです。     これは、予算制度の悪い面が出ている、というか、運用の仕方を誤っている  例と言えないでしょうか。本来予算制度は、翌年の会社の活動の内容を規定し  て、組織としての目標を達成すると同時に、それに伴い予算編成時に設定した  利益水準に到達するために実施されているはずです。毎月予算と実績を比較し て、予実の分析を行うことで、企業を巡る環境の予想とのギャップや予期せぬ 変化をキャッチすることもできます。そもそも1年先をきちんと読めたらバブ ルの崩壊などあり得ず、崩壊しても損失を抱えないで済む企業はもっとあった はずです。従って予算からブレない会社などないわけです。  そういうことは、みなわかっていながら、予算を超過する支出は認めない、 そういう予算制度の運用をするから予算の流用や計上費目の振替えなど小手先 の逃げが出るのです。予算を超えても支出しなければならない場合には、それ なりの補正予算の編成なり、稟議書による支出の決裁が認められなければなり ません。獲得済みの予算を流用するということは、予算編成時に実施しようと していた企業行動を取り止めて別の行動をするということです。会社として決 めた活動をしないのも悪いことだし、それで浮いているお金を会社として決め ていない行動のために支出するのも悪いことです。しかし、企業の実態として は、そういうことは生じるはずなのです。ですから、予算にない支出は一切認 めないという制度は、予算制度の悪しき運用だといえます。  生きた予算制度を実施されている会社はどれくらいあるのでしょうか。我が 社はオーナー企業だから社長の鶴の一声で予算など無視されてしまう・・・、 などという会社は案外血の通った予算制度を実施していると言えるのかもしれ ません。ただ社長の鶴の一声でなく、稟議書や取締役会で決定されるのが一番 良いのですが。  予算制度については、予算の編成方法、運用方法、予算実績の分析と活用な どを詳細に触れた書物を見たことがありません。やはり個々の会社のノウハウ に近いものがあって、アンケートなどでも本当のところの集計ができないのか もしれません。もし、この会議室で様々な実例を紹介していただけたら幸いで す。
040/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話【ダウンサイジングと経営改革】 (15) 95/05/09 23:58   これは、一昨年の8月に書いた文章に手を加えたものですが、いまだに内容  は死んでいないようなので、アップいたします。  【ダウンサイジングと経営改革】  「ダウンサイジング」というのは、いまやある種の流行語になっている感じ ですね。ただし今日本で語られているダウンサイジングの多くは「大型コンピ ュータでできる仕事がワークステーションなどをLANで繋げるとできてしま うらしい、それなら、その方が安くていいじゃないか」というニュアンスが強 いように思われます。  しかし本来のダウンサイジングは、そういう利用するハードウェアの話だけ ではなく、経営組織自体を変革するものという側面をもっているようです。あ くまでハードウェアにこだわった言い方をするならダウンサイジングは、エン ドユーザーコンピューティングを伴っていると考えられます。少なくともそう いう方向性でコンサルティングを受けて成功いる例があります。  例えば保険会社の保険契約の申し込みから契約書の発行までの業務を考えま す。仕事の流れは大雑把にはこんな感じでしょうか。  1 [営業部]申込書を受取り、内容をチェックして、必要事項を記入。上         司の承認を得る。  2 [審査部]審査部の観点から内容をチェックして、過去のブラックリス         トなどとも照合。上司の承認を得る。  3 [医療部]健康状態の申告書についてチェックして契約を受けるか判断         する。上司の承認を得る。  4 [事務部]OKとなった契約書を入力する。出力結果についてチェック         して、必要部署に回付。  5 [営業部]出力された契約書を契約者に発送。  この流れで、各部に担当者、事務処理をする職員(いわゆる女の子)、課長、 部長がいて、この間の書類の流れだけでかなりの時間を消費します。さらに部 署間の文書の移動(社内メールですね)で時間を消費します。これだと1から 5までで2〜4週間を要していたのだそうです。  ダウンサイジング、すなわち各部署にLANでつながったパソコンを置くと データが部署間で相互利用できますから、最初の段階で契約申込書を電子デー タにしてしまえば、文書の移動時間はゼロになります。  また各自が端末を持ちデータベースにアクセスできるので、システムにチェ ックの機能を持たせるほか十分な情報を提供して上げることで担当者ベースに 判断能力を持たせることができます。職位に伴う情報の独占という事実を壊す ことで部長からヒラまでの階層を減らすことができます。  さらに1〜3までの流れの審査も各人が情報を持てれば1人で行うことがで きます。そうなると組織の横の拡がりも縮小できます。  つまり組織自体のダウンサイジングが達成でき、この例の保険会社では3〜 7日で契約書が発行できるようになったそうです。これは、経営の変革にほか ならず、システム部門が主導で行うべきものではないことになります。従来の 組織においては情報を持てないような末端の構成員にまである程度の情報を持 たせることで、一定の枠内で判断能力を向上させて、多くの処理を少数の人員 で実施してしまうように経営自体を変えることにほかならないからです。  その意味で経営の再構築を支える手法の1つとしてダウンサイジングを捉え ることもできるということなのです。つまりリエンジニアリングですね。こう いう動きが日本でも本格化してくるとハンコだけ押して給料をもらっている管 理職というものが排除されるような流れが生じるかもしれません。これからも 注意をしておきたい動向だと思います。  ただ、こういう動きを阻害する最大の要因は、こういう効率化を図ると管理 職の解雇をせざるを得なくなる、すなわちもっと人余りになってしまうという 事だと思います。
041/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 会社と個人でどちらが有利? (15) 95/05/16 21:19  【会社と個人でどちらが有利?】  さて、今回は、事業をするのに会社でするのと個人でするのとどちらが有利 かという話です。いろいろな観点から説明できるのでしょうけれど、ここでは 経済的側面(税務面)と法律的側面(社会面)の2つから考えます。  税務的には、会社か個人かで、納める税金の種類が異なり、税率その他が、 変わってきます。従って、所得の大きさによって、会社か個人のいずれかが有 利という計算ができます。とりあえず事業の経営は自分一人、扶養家族が1人 という前提で考えます。ここで会社の場合、「社長の給料の控除前の所得」の 8割を給料として支払い、2割を会社の所得として残すとします。すなわち下 の表での「所得」は会社の場合、「社長の給料の控除前の所得」と考え、納め る税金は、会社の法人税等と社長の給料にかかる所得税等という仮定です。昨 年からの特別減税は、考慮していません。   所 得      会社の納める税金     個人が納める税金      0          70,000           3,900  1,000,000          149,592 52,900  4,000,000 598,618 701,900  7,000,000 1,240,644 1,873,900 10,000,000 2,115,420 3,373,900 15,000,000 4,166,130 6,303,900  この表からみる限り、所得が300万円を超えて、その後も事業が伸びるよ うなら、会社にした方が有利ということになるでしょうか。ただし個人の方で 専従者給与を考慮していないなど、仮定による概算計算のブレがあることは考 えておいてください。また、事業所は、1つを前提としているため、住民税の 均等割が事業所の数で変わってくることや法人税における交際費等の損金不算 入も考慮していません。  法律的側面からみると、会社は1つの人格として認められます。したがって 個人の信用と離れて存在できるため、無限の成長の可能性を秘めています。ま た会社の存在が商業登記されるため、商売上の名前すなわち商号も会社名と一 致しているならば、自動的に商法により保護の対象となります。個人の場合は 商号登記をしなければなりません。  会社は、個人と離れた人格です。したがって法律の建前からは、「俺の会社 なんだから俺の勝手に・・・」というわけにはいきません。半面、個人と人格 が別れていますから、取締役の交代さえ行えば倒産しない限り会社は永久に存 続できます。  しかし、会社の場合、商業登記をし、個人の申告に比べるとかなり精密で複 雑な税務申告を行う必要があるなど、個人に比べ手数のかかる事業形態です。 多くの場合申告を税理士に依頼するようです(っと、ここまでなら営業行為に はならないでしょうね(^_^))。個人なら、仕事を始めた瞬間に事業の開始なの ですから何とも手軽ですし、申告も税務署で配布している「申告の手引き」な どで勉強しながら何とか済ませられると思います。  こうした個人と会社の特性を捉えて世間での信用力としては会社の方が高い 信用力を持っています。そのため上場企業などの外注をするに当たり、会社で ないと取引をしてくれないということもみられます。  会社か個人かの判断は、上記のような事情を総合的な判断して決めることに なるのでしょう。                       佐久間 裕幸 (FBMAN2 Sysop)
045/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 「従業員に染み付いた体質」 (15) 95/05/24 21:21 コメント数:1  【従業員に染み付いた体質】  今回の話は、経営者の方々は十分承知している問題かもしれません。むしろ これから転職したりする人のためになる話と思って読んでもらってもかまいま せん。  成長途上の中小企業では、自分の会社内に幹部候補になる人がいないため( または、不足しているため)、外部に幹部候補を求めています。反対に金融機 関やメーカーなどは人員整理の一環として積極的に出向及び転籍者の斡旋をし ています。  こうした動きは、本人の意思に関わらず出向転籍させられる本人にとっては たいへんなことですが、基本的には成長力を失った会社から成長力のある会社 へ人的資源が移転することなので、社会的には望ましいことだと思われます。  そんな形で幹部候補者を受け入れた中小企業で見かけるのが、受け入れ者の 会社の体質への不適合です。大きな会社で育った人は、組織の固まった組織内 での経験が染み付き、常にそうした行動をとる傾向が見られます。  例えば、幹部としての機能自体への誤解があります。大企業では、組織自体 が大きいため、組織間の調整が重要であり、その分会議が多くなります。また、 職務権限や内部牽制が明確になっているために、書類を審査したり、ハンコを 押す仕事が無視できない業務になっています。しかしながら、中小企業では、 組織間の調整はそれほど多くなく、重要な調整は社長自身の仲介や指示で行わ れます。したがって、中小企業の幹部は、自ら業務の一部に積極的に介入して 仕事の仕方を部下に見せながら、かつリーダーとして部門を掌握しなければな りません。少なくとも朝、会社に出てきてお茶を飲みながら業界紙をひろげる ・・・という優雅な生活はできません。  またトラブルが生じたときの対応も異なります。ある社内の業務改善の仕事 がうまく進まなかったりする場合、大企業では仕事自体の権限がその部門に割 り振られたものですから、部門長自身がトラブルの終息まで責任を持って仕事 に当たります。ところが中小企業では、場合によっては社長自身が乗り出して きて、社長の指示が出たり、場合によっては直轄事項になったりします。すな わち特定の業務の部門への割り当てや職務分掌は、固定的ではないのです。あ る意味では朝令暮改ですが、フレキシブルな対応と見ることもできます。組織 の運営方法自体が違うわけです。そして社長が乗り出したからといって、その 部門長が無能だとされたのではありません。  そのため、中小企業の経営者は、各部門の仕事が順調に進んでいても不調で あっても、すべて報告することを求めます。不調であっても納得できる理由で 不調であれば、別に部門長の責任を問うこともありません。もちろん何故順調 に進まないのかについての理由は厳しく問われると思いますが、例え不調の原 因が部門長にあったとしても、不調であることを報告しないことの方が重大な 問題行為なのです。  中小企業にとって、大組織における稟議書その他に代表される組織的な運営 や書類の書き方などのノウハウを持った人は、たいへん貴重な財産です。しか し、中小企業ならではの組織原理や風土というものを理解して、自らのノウハ ウと融合させる努力をしてくれないと、社長としては能力は認めつつも切捨て るという判断をせざるを得ないと思われます。ただ、経営者の側もそういう原 理に気づくまでの時間的な猶予は認めてあげて欲しいと思います。会社の仕事 を理解して、風土を理解するだけの時間を与え、それでも柔軟な変化を見せな かった時には速やかに切捨てる、そういう我慢と決断のタイミングが重要かと 考えます。   ご意見、ご質問があれば、この会議室へ書き込むかメールでお願い致します。                           佐久間 裕幸 SDI00703
058/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【粉飾決算】 (15) 95/06/11 18:12   【粉飾決算の話】   世間はどこを見ても不況、不況です。そんな中で取引先や関連企業の決算書を 見て、その会社の状況を見ることは重要です。ただし、中小企業の決算書という のは、得てして当てにならないもので、こんなご時世だと多分に決算の粉飾があ ったりします。  公認会計士や税理士も中小企業の決算書をよく見る職業の1つだと思いますが、 今年のような状況で以下のような損益計算書を見たら、それだけで「ああ、2千 万円くらいは、いじっているかもしれない・・・」などと思います。              損益計算書    科目      94/3  95/3 (単位:千円)   売上高      1,223,451  1,056,387   売上原価      991,758 840,673    売上総利益   231,693 215,714   販売費一般管理費 183,549 178,398    営業利益     48,144 37,316   営業外損益     28,579 24,650    税引前利益    19,565 12,666   法人税等      11,708 8,364    当期利益      7,857 4,302  理由は、簡単です。これだけ景気が落ち込んでいる環境で、前年が8百万円弱 の利益の会社が今年同じ位の利益がでるはずがないからです。現に売上高は13 %以上落ち込んでいます。それなのに売上総利益はあまり落ちていない。この景 気で売値の低下より仕入値の低下の方が大きい会社は少ない。まして製造業なら 売上の減少は、操業度の低下により原価率の上昇を招く。すなわち、普通なら粗 利益率が上昇するわけはない。ということは、仕入高や期末の在庫高を調整して 利益を捻り出しているのではないか・・・?と推測するわけです。  この会社がもし前年と同じ利益率で販売したなら売上総利益は、ちょうど2億 円くらいになります。若干利益率が落ちればそれを割り込むわけで、そうすると 約2千万円の利益を粉飾しているのではという最初の印象が形成されるわけです。  そもそも当期利益が百万円台というのが「いかにも赤字を避けた」という感じ です。銀行から借入れがある以上赤字にはできないという事情から多くの企業で こうしたやりくりが行われるわけです。  「銀行の人は、気づかないのか?」と思われることでしょう。もちろん気づい ていると思います。彼らも決算書を見るプロのはずですから。それでも黙って決 算書を受けとって融資を継続してくれるわけです。なぜなら、彼らの審査基準と しては、黒字か赤字かは重大な問題であって、融資担当者としては会社の状況は 普段訪問時に把握しているから、すぐに倒産するわけはないくらいの心証は得て います。となると、融資は継続したい。じゃあ、嘘でも何でもいいから黒字の決 算書を出してくれた方が審査を通しやすい・・・という事情になっているのだと 想像されます。  別に中小企業の粉飾決算を奨励するつもりはありませんが、やはりタテマエと ホンネというのはあるもので、銀行の貸しやすい決算書を作ることはそれなりに 必然性があるのだと考えています。  ちなみに高景気の時には、上記の決算書の94年と95年を入れ換えたような ものが出てくるかもしれません。その時には、利益を圧縮するような操作をして いる可能性がありますね。  ご意見、ご質問があれば、この会議室へ書き込むかメールでお願い致します。
060/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【社員の動機付け】 (15) 95/07/10 17:57   【社員の動機付け】  ある東京に本社がある情報処理サービス会社が店頭公開を間近にして膨大な 審査資料を作成している時の話です。2,3日の間に相当な量の提出資料のワ ープロ入力をしなければなりません。会社の公開プロジェクトのメンバー、私 ら会計士などがチェックして、修正点を出して検討しながら、かたや女性の事 務方が入力をしていって、なんとか間に合うかな?という状況です。  その日の午後、数日泊まれるような大きさのバッグを持った4名ほどの女性 社員が部屋に入ってきました。役員の一人が「おお、よく来てくれた。がんば ってくれ」と。彼女たちは?と聞くと、大阪本部から出張させてきたとの答え。 情報処理サービスの会社なんだから、東京の本社や事業所にワープロに長けた 社員はいくらでもいるのです。私が怪訝な顔をしていると、専務が説明してく れました。  いくら「今年度株式公開を達成する!」とスローガンを掲げても東京の本社 以外の事業所では「なんか本社の方でやってるみたいだけど・・・」程度の認 識しかされません。ぜひとも全社をあげての態勢とか意気込みを醸成したい。 そこでわざわざ大阪本部の中でも優秀な女性社員を選抜して、東京での入力作 業に投入することにしたのだそうです。  当然、大阪からの交通費、宿泊費、手当などがかかります。それでも大阪本 部にしてみれば、一番優秀な(従ってそれなりに目立っている)女子社員4人 を送り出せば、株式公開準備に参加したという実感が出てきます。そうした意 識が生まれるだけでスローガンの受け入れ方がぜんぜん違ってくるわけです。 また送り出された4人にしてみれば、「大阪を代表して来たんだ」という自 負がありますから、非常に高いモラルで仕事をしてくれます。逆に一緒に仕事 をする本社側の女子社員も負けられないという気持ちになります。いわば経営 学で有名なホーソン工場の実験が再現されるわけです。ホーソン工場の実験と いうのは、作業能率の測定のために実験をしたところ作業場の明るさのような 環境の変化よりも「私たちは実験の被験者として選ばれたのだ」という誇りに よる高いモラルの方が仕事の能率の向上に影響する、という事実を発見するき っかけになった実験です。  専務は「どうです?1粒で2度おいしいっちゅうやつでっしゃろ」と笑った が、当時会計士になって3年目の私は、「これが経営と言うものか」と痛く感 心したのでありました。特にこの会社の場合、東京に本社を置きつつも、東京 と大阪に本部制を敷いて、地域別事業部として活動していました。従って東京 と大阪の対抗意識も上手に利用しているわけです。そういう見事な経営をして いるその会社は当然店頭登録を成功させ、現在は東証への上場も済ませており ます。
066/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【第二店頭市場】その1 (15) 95/07/25 18:25   【第二店頭市場】その1   第二店頭市場の話題が出てきています。私の所では、某証券会社経由で  新聞発表の前からある程度の話は聞いておりましたので、その辺の水面下  の話を中心として、第二店頭市場の説明をさせていただきます。基準は、  どう定められたかとか、もっと詳細な運用の基準は?という話は、これま  での新聞およびこれからの新聞をお読みください。   第二店頭市場の話は、もともと通産省系の意見として出てきておりまし  た。証券市場を管轄する大蔵省では、粉飾決算で倒産する会社やら相場操  縦でお縄になる会社やらで、もっとリスキーな市場なんてとんでもないと いうニュアンスであったとのことです。ところが、アメリカでのベンチャ ー企業の活躍やら国内空洞化の回避という目的が優先になってきたようで 急遽具体的な話を煮詰めることになったようです。  第二店頭市場は、現在の店頭市場を本則とすれば、特則市場として位置 付けられます。したがって、株価欄なども大阪市場の一部、二部、新二部 のように本則、特則という形で現在の店頭銘柄とは、内容が違うことが明 確に判るように表示されることとされているようです。しかしながら、特 則銘柄が本則銘柄の形式基準を満たした場合には、自動的に本則銘柄へ移 行するということで、あくまで特則市場は経過的にいる場所であるという ことがあるようです。したがって、NASDAQのようにインテルやマイ クロソフトが店頭市場に居続ける・・・というのは、日本の場合、店頭の 本則市場でしかあり得ないわけです。  それでも、第二店頭市場への公開は、株価にして200円とか300円 という水準を考えているようです。今までの店頭への公開は、多くが数千 円の値段で公開しているため、また会社の利益が数億円以上になってから であるため、投資家としては投資してもせいぜい数割の利益しか期待でき ないことになります。ソフトバンクに至っては、1万円を超える値段で公 開しており、正直なところソフトバンクなどは、後は値下がりを待つしか ないのではないか?(^_^)というありさまです。数百円の株価で公開して、 これが数千円になれば、投資家は10倍の投資成果を得ることになります。 ただし、投資した会社が伸びなければ、数百円×株数の投資資金は、殖え なかったり、ゼロになったりするわけです。それでも、それがアメリカの 市場であり、そういう市場に全面的になれるかは別としても、そうなるこ とで将来成長が期待される研究開発型の企業に資金調達の場を与えること になるわけです。                              ひろ
067/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【第二店頭市場】その2 (15) 95/07/25 18:25   【第二店頭市場】その2  さて、新聞などでは、研究開発型の企業に株式公開の機会が与えられた ということで、新市場のことしか報道されていないようですが、私が思う には、もっと多くの企業に影響を与えるのが、本則市場の窓口の拡がりで す。  第二店頭市場の話が出る過程では、従来の店頭市場でいわゆる実質審査 基準は従来からなかったし、これからもないのだ・・・ということが確認 されています。つまり、従来、審査基準として明確に定められている形式 基準によれば、一株利益10円、発行済株式数などの基準を文字どおりに 適用すれば経常利益数千万円の会社も店頭に公開しても良かったはずです。 ところが、実際には経常利益3億とか4億といった「実質基準」があるの だという話があったわけです。  これに対して「形式基準で審査します」というのが今般の経過で公にさ れました。したがって、研究開発型企業で特則市場の基準を超えて、むし ろ本則市場の基準をクリアしていれば、第二店頭市場に登録することはで きず、従来の店頭市場に公開しなければなりませんし、「うちよりも小さ い赤字会社が第二店頭に公開して、黒字の当社が第二店頭にも店頭市場に も公開できないとはけしからん」という事態を招いては困るわけです。  そこで、これからは、店頭市場にもっと粒の小さい企業が公開してくる ことが予想されます。そして、従来のように経営者の相続対策や創業者利 得を極大化することを目的とするよりも、本当に資金の必要なときにスピ ーディに公開する・・・という動きが出てくると思われます。  そういう資金需要に裏づけられた株式公開に対して、証券会社(引受部)、 公認会計士・監査法人がどのように対応していけるかが、新しい企業への サービスとして重要になってくると思われます。私自身もたいへん興味深 いサービスだと考えており、今後も随時このテーマでは報告したいと考え ております。                              ひろ
068/130 SDI00703 佐久間 裕幸 経営の話 【故郷の土地の売却】 (15) 95/07/29 18:31   【故郷の土地の売却】   今回は、かつて受けた質問を利用したQ&Aで話をします。  ○ 質問   私は、自宅は都内で自営業をしていて、祖先からの土地を新潟県に保有してい  ます。この土地は、周囲が畑と農家だけという所で地目が山林で1500坪です。  これを売却した場合、かかってくる税金は、どうなるでしょうか。  全部で2000万円として諸費用も含めて考えると   売却代金             2000万円   売買仲介手数料ほか登記など経費   150万円   差引所得             1850万円  翌年の3月の確定申告での所得(年収300万円として)とすると所得2150  万円となり、税額表を見ると685万円、これに加えて住民税がかかるという計  算になるのですか?  ○ 回答   不動産の売却の税金は、通常の所得税の計算とは、異なっています。一番の  違いは、通常の所得と合算せずに単独で税額計算します(分離課税)。   まず、土地は長期間保有と考えていいですね。譲渡した年の1月1日におい  て取得してから5年以内かどうかで税額が変わります。もちろん長期の方が安 いです。  長期譲渡所得の計算は次のとおりです   長期譲渡所得=譲渡収入金額−譲渡資産の取得費−譲渡費用−特別控除額                                (100万円)  そして取得費については昭和27年12月31日以前から引続き所有してい た土地建物を譲渡した場合は、その譲渡金額の5%をもって取得費と見做すこ とができます。なお、この計算では、相続で土地建物を取得した場合、所有期 間は相続前から継続して計算できます。ですから、ご本人は昨年相続で取得し たとしても、被相続人が昭和27年以前から所有していれば、OKです。長期 譲渡か短期譲渡かの判定でも同じです。  こうして計算された譲渡所得にかかる所得税率は、特別控除後の金額が4000  万円以下の部分について25%、住民税が7.5%、4000万円を超える部分に  ついて所得税30%、住民税9%となっています。  従って、本件の場合、  譲渡所得=2000万円−2000万円*5%−150万円−100万円      =1650万円  税 額 =1650万円*(25%+7.5%)=536.2万円  通常の所得の方と切り放して、この金額が課税されることになります。  さて、これだけだとどんな本でも書いてあるので、ちょっとヒネリを加えま す。地目が山林になっている土地を売却するわけですね。ですから、おそらく 土地の上に木が生えているのではないでしょうか。そうすると所得税法には、 山林所得という概念があります。長期にわたって育てた木を売った場合の税金 の計算の計算区分です。  山林所得の計算は以下のとおりです。  山林所得=A−{(A−B)*概算経費率40%+B+C}−特別控除50万円      A:伐採または譲渡による収入金額      B:伐採費、運搬費、仲介手数料その他の費用の金額      C:災害によって生じた事業用固定資産について生じた損失等  この山林所得は、通常の所得と合算します。  ここで、2000万円で売る際に1600万円を土地代、400万円を山林 の価額として契約書を作成すると税額はどうなるでしょうか。  譲渡所得=1600万円−1600万円*5%−150万円−100万円      =1270万円 税 額 =1270万円*(25%+7.5%)=412.7万円  山林所得=400万円−{(400万円−0)*40%+0+0}−50万円      =190万円  税 額 =190万円*(20%+10%)=54万円     (通常の所得税300万円に加わる分なので、増分の金額を算定。住民      税は10%とする) 合計税額=412.7万円+54万円     =466.7万円 当初に金額に比較して、70万円ほど税金が安くなりますね。こうした工夫は、  売却の前にしないと効果がありません。また売却のときからずっと専門家のアド  バイスを受けておくといいかもしれません。山林をいくらくらいで売却したこと  にしても不自然でないのか?など・・・。ということで、所得税の奥は深いとい  うお話でありました。                                   ひろ