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◆ビジネスマンのための――
 バーチャルカンパニー経営術第18回(最終回)


  原価計算の話

■■最終回に際して
 本誌netPCが休刊し、新雑誌へリニューアルするということで18回にわたって続いたこの連載も最終回となります。第15回に売上高は会社の命という話を書きましたが、その次に重要なのが製造原価であるということで、最終回は製造原価、特に原価計算の話をすることにいたします。なぜ製造原価が重要かといえば、売上高100億円の会社で1%売上高を伸ばしたり、粗利率を増やせば、数千万から1億円の利益増加要因になりますが、その会社で1%の原価低減を果たせば、同じく数千万単位の増益要因になります。製造というプロセスのない小売業、卸売業の場合には、仕入コストを下げなければならないため、自社の努力だけでは仕入原価の低減はできませんが、メーカーでは製造プロセスでの原価管理を実施することで原価の低減ができます。

■■原価計算の適用の困難さと経済のソフト化
 日本の原価計算の発展の歴史をたどると、原価計算制度の土台として昭和14年に陸軍が制定した「軍需品工場事業場原価計算要綱」あたりに遡ることができます。すなわち、軍隊で兵器その他の資材を調達するにあたっての価格の算定が重要な課題であったわけです。戦争が技術を進歩させるという悲しい命題は、会計の世界でも当てはまるのです。そして、予算管理、原価管理という意味合いや経営意思決定に役立つ目的での原価計算は、昭和20年代のアメリカの会計学会などの影響も受けて昭和30年代になって発展し、ちょうど日本の高度成長とも相まって、大量生産方式の基盤として進展し、トヨタのかんばん方式などと同じ頃、一応の完成の域に達したように思います。
 ところが、この完成したはずの原価計算ですが、導入できなかったり、活用しきれない企業が近年増えてきているような感触を私は持っています。その理由の1つとして、経済のソフト化があげられると思います。もともと原価計算は、軍需製品、自動車、テレビといった機械製品を典型例として発展してきました。ここでは、原価計算の対象とするモノが明確に存在し、製品のみならずその素材に至るまで均一な材質、品質を前提とすることができました。
 ところが、経済のソフト化でサービス業が発展し、外食産業、コンピュータソフトウェア産業といった業態も大きな規模に成長し、上場企業も多数出るような状況になりました。外食産業の工場すなわちセントラルキッチンでは、肉や野菜、米などをお店で加熱して提供できるように加工します。ところがこれらの材料は、H型鋼、トランジスタのように規格の整ったものではなく、同じ重さでも水気のある米や少ない米などがあったり、当然、これらを炊けば、水分の吸収が違いますから、炊きあがりのボリュームや重さが変わります。また、自動車の生産では、ベルトコンベアーの上を走る車体に必要な部品を組みつけていくため、1本のベルトで1時間に10台の車ができる場合、200台の車の製造には20時間かかるといった計算ができます。ところが、カレーのルーを100人前煮る場合、鍋の大きさに余裕があれば、150人前でもほとんど同じ時間でできてしまいます。あるいは、コンピュータのソフトウェアのように原材料といった目に見える対象が存在しない製造物もあります。目に見える生産物なら、明らかな仕損じ(でき損ない)は見ただけでも発見できるし、仕損じた本人が自らその製品をラインから取り除くことができるかもしれません。ところがソフトウェアの場合、1つのプログラムのバグは、単体テストを実施しなければ発見できないし、複数のプログラムの連携で生じるバグは、結合テストまで発見できません。また、そもそも要件分析の段階で十分なヒヤリングがなされていない場合など、テストランの段階になって初めて、仕様のミスが発見される可能性もあるのです。

■■原価計算のオーソリティも少ない
 経済はこのように変化しているにも関わらず、書店で売られている原価計算の書籍は、旧態依然の第二次産業的な製品を前提とした本がほとんどです。「ソフトウェア原価計算」といったタイトルの書籍もありますが、中には、「この部分については、公式の見解がない」という事実を指摘しているにすぎないものも見かけます。これでは、会社の業務の実態に即した原価計算制度を構築できるわけはありません。実務的に使える本が少ないということは、原価計算を知り尽くした実務家がいないということかもしれません。昔は、原価計算業務は、すべて手作業で行われていました。したがって、材料を払い出して、それを原価台帳に記載して、その上で配賦基準に従って加工費を加え、合計するとその製品の製造原価になる・・・といった仕事を算盤と手書きでやっていました。必然的に業務のフローや全体像を体で覚えることができました。ところが、コンピュータが普及したため、これらの手書きプロセスがすべてシステムのプログラムによって行われるようになり、原材料の払出伝票や勤務表を入力すると自動的に製品原価のアウトプットが手に入るようになりました。プロセスがブラックボックスとなってしまったため、自社の計算プロセスを知る人は、最初のシステム化に参画した年配の経理マンとシステム部門の人だけになりがちです。かくして、経理マンとして伝票を切れる人、申告書を書ける人はそれなりの人数がいても、原価計算制度を構築できる人は、かなり少数になってしまっています。
 経理マンが駄目なら、外部の専門家ということになりますが、多くの企業が顧問を委嘱する税理士は、試験科目に原価計算がないこともあり、たまたま原価計算に直面するような機会を持った人を除いて原価計算のプロとはいえません。また、その対象顧客は中小企業が多いため、本格的な原価計算を導入する機会も多くありません。公認会計士は、その試験科目に原価計算があり、その顧客が上場企業など大規模な会社が多いため、原価計算に触れる機会は多いといえます。しかし、経理マンと同様、原価計算がすでにシステム化された会社を担当する公認会計士は、詳細なフローまで把握しきっているとは限りません。
 かくして、第二次産業的な原価計算の教科書を前提として、サービス産業の原価計算制度を構築するため、活用できないような原価計算システムになってしまうということがいえます。

■■原価計算制度の難しさ
 原価計算の難解さは、業務の複雑さではありません。原価計算に関連する部署が多いことが難解さの原因です。原価計算をするには、材料の使用量や労務費の発生額、経費の発生額などを把握しなければなりません。したがって、材料の払出をする倉庫部門・資材部門、人件費を計算する人事部門、経費の集計をする経理部門、減価償却費の元となる固定資産を管理する総務部門が関わることになります。そして、製品が完成すれば、再び倉庫部門に納入され、また、製造予定数を決めるには、営業の受注データが必要ですから、営業部門も関わります。原価計算の結果を経営に活かしたり、予算分析に活用するなら、企画部門、予算部門も関係してきます。原価計算制度を導入する規模の会社でこれだけの関連部門の業務やシステムと調整しながら、必要なデータを提供してもらったり、提供したりという相互関係を作ると同時にその会社の業務の実態に応じた原価計算のフローを構築する。これが原価計算制度構築の難しさなのです。

【原価計算システムフローの概略】
   


 したがって、原価計算制度の構築に当たっては、トップダウン的に経営の上層部が積極的に関与して、会社の各部門の責任者と実働者の両方を集めてプロジェクトを作って進めなければなりません。これだけの人員を集めて会議をやれば、会社としては相当な負担がかかります。それでもそれをやらねば、どこかの部門がネックになって原価計算に必要な資料が集まらなかったり、原価計算からのアウトプットが有効に利用されなかったりします。私がオブザーバー的に原価計算制度の構築に関与する場合もこの点に最大の注意を払います。しかし、このプロジェクトがうまく動き出したときには、会議なども実に活気のある有意義なものになります。なぜなら、その会社の各部門の選りすぐりの人たちによる会議だからです。関連部署の価値観の統一を図りながら導入することが必要という点では、ネットワークの導入と同じかもしれません。本誌の読者である「LAN闘する人」、「TPLな人」、「BPRする人」や「ビジネスマン’98」が原価計算制度に関わったときには、この連載を思い起こしていただければと思う次第です。
 では、1年半にわたっての連載におつき合いいただきありがとうございました。また、どこかでお会いいたしましょう。

文 佐久間裕幸