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◆ビジネスマンのための――
 バーチャルカンパニー経営術第17回


  内部牽制システムの話

■■内部牽制ってなんだ?
 かつて東南アジアの空港で喉が渇いてコーラでも飲もうと軽食、飲み物の売店のカウンターへ行ったときの話です。店員さんに「コーラを1つ」と注文すると、伝票に書き込んで、「これをあそこのCasherに持っていって、お金を払ってから、もう一度戻ってこい」と言われました。言われたとおり、小さな窓口のCasherでコーラの代金を払うと、伝票に「recieved」という印鑑を押してくれました。この伝票をもって店員さんのところへ戻ると、やっとコーラを渡してもらうことができました。
 「なんという手数だろう」という思いと同時に、ある種の内部牽制制度の典型を見たような気がしたのです。この売店のように商品を取り扱う人と金銭を取り扱う人を伝票を介して分けてしまえば、従業員による不正の多くは、防ぐことができます。Casherの扱う現金は、「recieved」という印の押された伝票の合計金額分だけ増えているはずであり、これに相違があれば、つり銭間違いのようなミスかCasherによる横領であることが明白です。また、店員のところの在庫は、伝票の分だけ減少しているはずで、それ以上に減少しているならば、店員が自分で在庫を飲み食いしたり、横流ししたことになります。
 店員が現金の受け渡しと商品の受け渡しの両方を兼ねていると、もらった現金の一部を懐に入れるようなことがあっても、在庫の減少からしか不正の発見はできません。氷を多め、結果としてコーラを少なめに入れて販売すれば、コーラの減少が少なめになりますから、売上を抜かれても相当額抜かれるまでは発見できないかもしれません。また、本気で不正をするならば、原価で仕入れたコーラをお店に持ち込んで、その本数分だけの売上は懐に入れる、粗利分を横領する・・・といった悪質な不正は見つけることができません。

■■状況に応じて内部牽制をデザインする
 とはいえ、日本の飲食業ではこんな面倒なシステムは採っていません。マクドナルドのようなチェーンにしろ、雑貨屋さんにしろ同じで、店員が商品の受け渡しと現金の扱いの両方をやっています。私は、コーラを飲みながら、この原因を考えてみました。
 ・日本では、お金のやり取りと同時にレジスターを打って、レシートをお客さんに渡すので、そこで顧客の目というチェックがかかっている。レジを打たない場合に横領が起きるので、必ずレジを打たせる習慣をつけ、また、これの励行をチェックしているのであろう。
 ・では、あの空港ではなぜレジを使わなかったのか。おそらく、人件費が安い国なので、レジスターの購入よりもCasherを雇う方が合理的であると考えたのではないか。
 ・空港の売店でレシートをもらう人は多くないので、レシートを渡すことによるチェックがかかりにくいから、レジスターによるチェックでは不正が発生したのではないか。
 ・その国の教育水準を考えると、レジスターの入力ができたり、つり銭の計算がすばやくできる人を雇うより、最低限伝票が書ければよい人を店員として雇い、Casherだけ金銭の取扱いのできる(給与の高い)人を雇うのではないか。空港なので、現地通貨だけでなく、USドルで支払いたいという顧客もあるかもしれない。換算計算もできる人は、高給なのかもしれない。
と、あくまで推測の域は出ませんが、こうした理由のどれかによって、こうした内部牽制制度を採用したのだと思います。
 つまり、どのような内部牽制制度を作るかというのは、その国の物価、給与水準、教育水準、企業の業態などによって、変化させる必要があります。当然、日本でも宝石のような高額な商品を扱うお店では、販売員、在庫を受け渡しする人、Casherとが分けられているはずです。デパートでもレジの前に座ってお金のやり取りだけをしている人を見かけます。
 会社の運営、組織作りという場面では、内部牽制システムを各業務の運営及び組織の中にどのようにビルトインするかが重要なテーマになります。そうでないと従業員の不正行為によって、会社は不測の損害を被ることになります。

■■不正の例(販売取引)
 不正行為の発生は、小売での販売業務には限りません。例えば、資材部門でも材料の横流しや仕入業者からのリベートの受け取りといった不正行為が見られます。しかし、まずは売上という一番金額の大きい取引要素に絡む販売業務についての不正のパターンは、知っておいてもよいでしょう。また、そういう不正の例を知らなければ、会社の業務フローに内部牽制システムを組み込むことができません。

不正のパターン 対応策
商品を倉庫から勝手に持ち出して販売して、その売上金額を着服する。 倉庫の受払管理を整備する。
領収書の連番管理などにより、会社の関知できないような領収書の発行を防止する。
修理のような商品払出のない業務において、その修理売上分を着服する。 修理の受付担当者から修理依頼伝票を発行させ、それをもとに請求までの管理をする。
会社には値引きして販売したり、販売後に値引を要請されたと報告して、実際の売上金額との差額を着服する。 値引についての承認制度を整備する。
領収書の発行は営業マンにはさせず、会社として売上伝票、請求書、領収書のチェックの機構を作る。
得意先から回収した代金をそのまま着服し、その後に他社からの売上代金を回収した段階で、当初の代金回収として入金処理する。 売掛金の回収予定表により、回収遅れの有無をチェックする。
領収書の発行は営業マンにはさせない。


 こうしたパターンと対応策を見ると、内部牽制のポイントは、2つに集約できます。
@ 取引の処理を複数の人を経由して行う。
A 取引について取引記録を作成して、チェックを行う。
 冒頭の空港の売店の仕事の流れをもう一度振り返ってみると、この2つのポイントをクリアしていることがわかるでしょう。

■■内部牽制の限界
 このように企業経営には不可欠な内部牽制システムですが、実は、重大な弱点もあります。1つは、経営者による不正です。内部牽制は、経営者が経営をコントロールする手段の1つとして設定するものですから、経営者自身が従業員に不正を指示した場合には、内部牽制によっては、発見、防止できません。ここでの経営者は、通常は経営者ですが、従業員に指示ができる立場であれば、支店長でも部門長でも同じです。「不正融資があった」「損失補填があった」「総会屋に利益供与をしていた」などの不正な(不法な)取引は、通常の社内のチェック体制があれば、当然発見されるものですが、経営者の指示であるがゆえに遂行されてしまったと考えられます。また、これに対して「そういう報告は受けていなかった」という弁明をする経営者もいましたが、不法行為を意図的に行うにあたって経営者に報告がいかないような内部牽制システムしか構築していないこと自体が経営者の責任でしょう。ただし、内部牽制システムの知識自体があまり一般的ではないためでしょうか、そういう観点から経営者責任を問うているマスコミの論調を目にすることはありません。
 内部統制のもう1つの弱点が共謀です。すなわち、内部牽制制度により互いにチェックをするべき従業員が一致団結して不正を行う場合には、内部牽制は機能しません。また、従業員だけでなく、取引先との通謀があっても、内部牽制は機能しません。なぜなら、一般的に会社の内部資料よりも会社外部から得る資料の方が客観性があると考えられるため、請求書の水増しなどがあった場合に、それをチェックする担当者が不正の片棒を担いでいると、会社内の他の人には発見が困難なのです。
 内部牽制には、こうした弱点もあることを前提とすれば、内部牽制に依拠しない不正の防止・発見法も必要です。「A子ちゃん、最近、今日のブラウス、似合ってるね。彼のプレゼントかな?」みたいなセクハラまがいの発言も、女子社員の服装等が派手になったように感じられたときの不正チェック法の1つです。こういった発言にどのような答え方をするか、表情はどうかを観察しているおじさんは優秀な管理職であるといえるでしょう。そこで何か疑問を感じたら、彼女の作る書類を注意深くチェックするわけです。

■■BPRと内部牽制システム
 ビジネス・プロセス・リエンジニアリングは、一時期大流行の言葉でしたが、最近ちょっと下火です。ただ、本誌に連載している太田秀一さんによれば、BPRはアメリカではまだまだ進展しているということです。このBPR、書類回付のプロセスをなくして、業務の効率化を図り、企業が本来提供するべき価値の創造に立ち返るものと考えられます。その際に、従来存在した内部牽制システムはどうなるのでしょうか。ネットワーク上で業務を進めることでチェックがかかるのだと想像しておりますが、ハマー&チャンプの「リエンジニアリング革命」からは読み取れなかった部分です。いつまでも承認印と稟議書による決裁システムを続けるわけにもいきませんが、単純にネットワークを構築すればよいというものでもありません。会社の業務フローの後ろには、内部牽制システムがあるということを忘れないようにしていただきたいと思います。

文 佐久間裕幸