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◆ビジネスマンのための――
 バーチャルカンパニー経営術第16回

  待てばカイロで日干しになり

■■今年も厳しい年になりそう
 昨年は、中堅ゼネコンが潰れ、そこに融資をしていた都市銀行も潰れ、株価の低迷で生命保険会社も証券会社も潰れ、あとは損害保険会社が倒産すれば金融機関のそろい踏み・・・?なんていう状況でした。読者の皆さんの中でも、友人や親戚の中で「会社が潰れてしまった」という事件に直面してしまった人がそろそろ実際に出ているのではないでしょうか。不況を身近に感じる瞬間です。雑誌掲載までにタイムラグがあるので予想記事は発売日の時点での「外れ」が恐いものの、1月発売号ということで思いきって私の経済予想を書いてしまいましょう。
 まず、日本経済ですが、昨年同様思いっ切り厳しい年となるはずです。予定通り公共投資が7%削減されれば建設業が一層低迷します。「駄目な会社は潰れる」という競争原理に従えば、失業者が出るし、出稼ぎ労働者の仕事もなくなります。失業者が増えれば、就業者の給与もアップするわけがありませんから、昇給も少なくなります。家計のゆとりがなくなれば、消費支出も減るだけでなく耐久消費財への支出が真っ先に削られます。すると資金繰りに困って安値で放出されるマンションの買い手もなく、マンション市況が低迷すれば新築マンションもできないから、建設業は一層仕事が減ることになります。耐久消費財への支出が減れば、車も買い換えない、パソコンも買い換えない、買い換えなければ、Windows98も動かないから買わないし、重くなったソフトへのバージョンアップはできない、DVDも売れない、家具も冷蔵庫も売れない・・・となるわけです。これらのメーカーや小売店が厳しいのは当然として、モノが売れなければ、モノも倉庫に入ったままですから、運輸業も楽ではありません。
 世界に目を転じても、東南アジアは昨年以来の混乱状態が続くでしょうし、アメリカ経済は、いつ株価のバブルが弾けるかわかりません。もし、弾ければニューエコノミー論も絵に書いた餅でしょう。そうなると年金資金なども株を相当買っているはずなので、アメリカの年金も日本の年金制度と同じ境遇になってしまうかもしれません。ヨーロッパは、通貨統合がある以上、ドイツなど一部の低金利国は金利の引き上げざるを得ず、これにより景気にブレーキがかかるでしょう。
 そんな話をしながら、ある社長に「これから数年は、じっと地中で春が来るのを待つんでしょうかね」と聞いたら、「いや、じっとしていたらのたれ死にしてしまう」との返事。やはり、経営者はアグレッシブです。待つだけでは海路の日和は来ないのです。となれば、何か良くなる方策を考えなければなりません。ということで、これからのビジネストレンドのヒントをあれこれと考えてみたいと思います。

■■メンテナンス・ビジネス
 モノが動かないということは、一度買ったモノは長期にわたって使用することを意味します。車も3年毎に買い換えていたものが、5年になり、7年になれば、それだけ整備が必要になってくるでしょう。タイヤの交換、バッテリーの交換など3年で買い換えていた人ならやらなかったことが実際に必要になってきます。洗車を請け負うフランチャイズ業者というのを聞いたことがあるのですが、車内の清掃も重要なビジネスチャンスかもしれません。子供がいる家庭の車は、食べかすなどが飛び散っており、誰かがシートまでひっくり返して清掃してくれるならいいなぁ・・・と思っている人は少なくないのではないでしょうか。もちろん、車に限らず、電気製品の修理、住宅のリフォームなども出てくるに違いありません。バブルの頃には、3年おきにマンションを移っている人がいましたが、そんなことができなくなった以上、住まいは不具合を直しながら付き合っていかねばなりません。これらの仕事は、マンパワーしかも個人の能力に依存する部分のある仕事なので、企業として行うには人材の養成の面で難しい部分があるかもしれません。インターネットなどが需要と供給を結びつけてくれると、個人営業や副業のような形でできる分野もあるかもしれません。「21世紀は、資本主義ではなく人本主義」などと予言する人もいるようですが、こんなことを指しているのかと思ったりもします。

■■信頼という商品
 競争原理が導入されて、どんどん会社が潰れる時代になると、安全な会社と取引したいというニーズが高まります。今までも得意先が倒産すると売掛金が回収できなくなりますから、信用調査をかけたりしてきましたが、外注先だって倒産されれば困ります。大事な仕事を発注していたのに、納品できないまま倒産されて仕事がうやむやになっては困るからです。調査会社に信用調査を依頼するということも今まで以上に日常的な作業になるかもしれません。そうなると、「うちは、調査会社から○○点の評価を得ているから安心ですよ」といった営業の仕方も出てくるのかもしれません。場合によっては、決算書の概略を添付した会社案内を作ったり、ほとんどの中小企業が実施していない決算公告(官報や日刊紙に決算の概況を載せること)が実利的な意味を持ってくることも考えられます。
   −−−−<商法283条3項>−−−−−−−−−−−−−−−−−−
   取締役は、第一項の承認(株主総会の決算承認)を得たる後遅滞なく貸
   借対照表又はその要旨を公告することを要す
   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
この規定には、罰則規定がないため、公告をしていなくても咎められませんでした。そのため、従来中小企業は、わざわざ費用のかかる決算公告などはしていなかったのです。
 法務省では、取引相手の保護という趣旨から決算書を法務局等で閲覧できるようにしたり、その開示される決算書に、監査に準じた調査報告書の添付を義務づけるといったディスクロージャー制度を検討しています。今までは、中小企業団体等の反対により先延ばしとなり、法制化されないでいました。しかし、会社の決算のことなんか外部には知られたくないという経営者の気持ちは、競争原理があっさり変えてくれることになるのかもしれません。

■■設備を持つことの意味
 ファブレス、アウトソーシングがこの数年の流行でした。本社は、製品企画、ユーザーサポートに専念して、生産は外部に委託する。シューズメーカーのナイキに限らず、工場を持たないファブレスやライン部門またはスタッフ部門の一部をまるごと外注してしまうアウトソーシングが迅速な企業経営に必須の手法として持ち上げられてきたように思います。ある地方公共団体が「創業10年以内で売上20億円以上となり、平成6年時点で黒字企業」という条件で抽出した県内ベンチャー企業15社の分析からもこの傾向が裏づけられています。 これら企業は、フラットな組織、インセンティブ型の賃金体系などと並んでファブレスであったという結果が出ています。従来型の中小企業は、大企業への部品供給などに象徴されるように他社でも作れる製品を生産プロセスの競争力により「高品質、安価、短納期」を実現して成長していたため、自社工場で生産技術を高めていくことが必須でした。ところが急成長ベンチャーにおいては、生産プロセスではなく、独自性ある製品といった製品競争力で勝負するため、自社工場は必ずしも必要条件ではないということなのです。地価の高い日本において工場用地を確保することは、多額の資金調達を必要とするため、むしろ成長を阻害するともいえるのです。また、工場を持つということは、設備と雇用を持つことでもあり、環境の変化に適応する企業行動を制約する要因であるとも考えられます。
   Nike社の経営成績(ナイキ社年次報告書より)
     売上高  純利益(単位:千ドル)
97/3  9,186,539  795,822
96/3  6,470,625  553,190
95/3  4,760,834  399,644
94/3  3,789,668  298,794   ←雑誌では、棒グラフ
93/3  3,930,984  365,016

 しかし、私は、あえてこの流れに異を唱えます。ナイキ社も大きくなりましたが、ナイキ社からの生産委託を受けた会社もそれなりに大きくなったはずです。シリコンバレーに代表される創業当初から世界展開を視野に入れた経営を行う企業にとっては、急速に増加する売上に応じて生産量の増加にフレキシブルな対応をしてくれる生産会社を持つことは成長の上で必須の条件です。もちろん、必要最低限の品質も確保していなければ、最近のパソコンに見られるような品質への不満をユーザーに持たれてしまいますから、大量あるいは多品種の注文を手際よく捌き、高品質の製品を供給する工場へのニーズは、これからも無くなることはありません。ある企業が自社工場の稼働率を維持するために、下請企業に外注していた仕事を内製化しました。しかし、数ヶ月したところで、営業部門や顧客から品質が落ちているというクレームが発生し、結局元の外注先に仕事を戻しました。その外注先には、製品競争力があったということになります。工場があり、設備があり、従業員がいるということは、良好な経営をしている限り、製品製造上の何らかのノウハウの蓄積があるということです。多くの従業員の連携により作り上げられたこうしたノウハウが再評価される時代が再び来るのではないでしょうか。

■■希望をもって21世紀へ
 今年の日本経済は非常に厳しいでしょうし、数年前に崩れた自民党の一党独裁、昨年の金融機関の保護行政など既存の権威やシステムが崩壊しつつあります。「官僚なんかに日本を支配させるな」とか言いながらも「自分の手に負えなくなったら手のひらを返したように銀行でも証券でも倒産させてしまう大蔵省はひどい」などと未だにお上意識の抜けきらない人も見受けられたり、社会も人も大混乱の様相です。戦後の焼け野原に例える人もいるようですが、戦後の財閥解体や焼け野原の混乱の中からソニー、松下、ホンダは生まれてきました。硬直したシステムの中からは、新しいものは生まれないし、生まれても既存権威に潰されてしまいます。これからの数年が混沌とした経済状況であればあるほど、21世紀の日本を支える新興企業を生み出す可能性が高いといえます。そんな風に前向きに考えて、自分自身をあるいは自分の会社を生れ返らせる方策を考えようではありませんか。

文 佐久間裕幸