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◆ビジネスマンのための――
 バーチャルカンパニー経営術第15回

  債権管理の基礎としての契約書

■■代金回収ができなければ、大損だ
 この雑誌の読者なら、販売活動のプロセスはみなさんご存じと思います。受注→製造(または在庫確認、仕入先への発注)→納品→請求→回収です。営業マンというものは、成績に追われるためでしょうか、このプロセスの少しでも前の段階で成績判定をしてもらいたいと考えます。企業会計の世界では、売上は、財貨または用役の提供が行われ、対価が確定した段階で売上が実現したという認識をします。すなわち、注文書などで売値が決まっていて、納品が行われた段階です。ところが、営業マンの感覚では、「注文を取れば俺の仕事は終わった、納品が未了なのは、先方の納品指定日が遅いせい(あるいは在庫がないため)なのだから、俺のせいじゃない」となりがちです。これでは、売上計上よりも1カ月以上も後になる回収プロセスのことなど頭の隅にすら残らない人もいておかしくありません。
 しかし、この回収が多くの企業の頭を悩ませるテーマなのです。たとえば、70円で仕入れた商品を100円で販売したとします。仮に納期遅れで値引きを要請されて90円になったとしても、とりあえず粗利20円は、確保できています。あるいは、最悪返品されたとしても、ほかの顧客に販売できる可能性があるならば、販売できた段階で仕入代金の70円以上の資金が会社に入ってきます。ところが、得意先が倒産でもして、販売代金が回収できなかったらどうでしょう。納めた品物はすでに使われたり、売却されたりしていて戻らず、代金ももらえなければ、会社としては仕入代金分や運賃分だけドブに捨てたようなものなのです。回収できないような得意先に販売することは、あらゆる努力を払ってでも回避するべきなのです。

■■債権管理の重要性
 売った代金はきちんと回収しなければ・・・ということになると、最初に浮かぶのが債権管理。一般的には、取引をはじめる際にきちんと契約書を作成し、各々の取引に際しては、注文書をもらい、納品時には納品受領書を受け取るといった書面による取引の実在性の証拠を残すことが一番最初に挙げられます。契約の主体、契約の対象、商品の引き渡し時期と方法、代金の支払方法及び時期、保証人の有無、商品に瑕疵があった場合の取り決めなどを定めておくことで、トラブルが起きたときの対処が自動的に決まります。
 と書くと、「あれ、倒産による貸し倒れを防止する話ではなかったの?」と思われるかもしれません。実は、回収ができない場合の多くは倒産ではなく、倒産の前段階で資金繰りが苦しい会社がいろいろな理由をつけて支払を遅らせる行為や取引上でのトラブルによるものなのです。例えば、口頭では「納品したら、すぐに払う」と約束していたのに、「経理に駄目だと言われた」という理由で支払を遅らせたり、「納めた商品にかくかくの問題があったので、エンドユーザーに納品できていない。納品できるまで支払はできない(あるいは「迷惑を被ったから支払などとんでもない」)」といった形態です。ですから、こういった支払遅延や支払拒否に対処するには、契約書が必要なのです。また、得意先が倒産しなくても、実際に納めた商品の内容等でトラブルが起きた際にも、契約書があれば解決の拠り所になる場合もあります。
 例えば、納めた商品に瑕疵があった場合ですが、一般的には当該取引の解除(返品)や損害賠償(修復、新品交換を含む)が生じます。しかし、商法では、買主は商品を買ったならば納品物に瑕疵や数量不足がないことを検査する義務を負わせています。
+−−商法526条−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
商人間の売買において買主がその目的物を受け取りたるときは遅滞なくこれを検査し若しこれに瑕疵あること又は数量に不足あることを発見したるときは直ちに売主に対してその通知を発するにあらざれば、その瑕疵又は不足によりて契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をなすことを得ず。売買の目的物に直ちに発見することあたわざる瑕疵ありたる場合において買主が6か月内にこれを発見したるときまた同じ。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
 例えば、コンピュータプログラムをテープや光ディスクなどで納品した場合も、とりあえずはそれなりのファイルが入っていることくらいは受領側で確認すべきであり、また、動くかどうかといった簡単には分からない問題についても遅くとも6か月以内には告知しなければならないのです。つまり、これを過ぎれば、納品した側は免責となるわけです。しかし、納品して2か月もしてから、「バグがあったから、代金は支払わない」と言われても困るわけで、「納めたプログラムの単体テストは2週間以内に行う」とか「結合テストにより発見された瑕疵の通知は2か月以内に行う」といった取り決めをしておけば、納品側としても安心であるわけです。
 債権管理というと、内容証明郵便の書き方とか強制執行などが頭に浮かぶかもしれませんが、実は、トラブルを起こさない、起こしても大きくしない努力が肝心なのです。

■■サイバースペース時代の債権管理
 従来は、取引を開始するとなれば、会社なら登記簿謄本を取ったり、契約書に印鑑証明書を添付したりといった手続で契約相手の実在性を確かめたりすることが行われていました。しかし、ネットワークが普及して、取引の範囲が地域的にも拡がってくると、地縁血縁による保証もありません。また、SOHO的な事業者が増えると、1件の取引金額が小さくなるため、その都度登記簿謄本を取るのは極めて不合理です。また、自宅にいながらでのプログラミング、翻訳などのSOHOの場合、納めた商品(サービス)の見かけより内容が重要になってきます。動かないプログラム、内容を適切に訳していない翻訳では意味がありません。量ではなく質が重要になるという点で、封筒貼りに代表されるかつての内職とは違うのです。そのため、従来以上にトラブル(取引相手の消滅、納品物の内容についてのトラブル)が起きやすいのではないでしょうか。
 取引相手は、自分と異なる思考・行動パターンを取る人間であるかもしれないし、最悪の場合詐欺師かもしれない。サイバースペースでの取引には、そういった心構えをしておく必要があります。しかし、我々の多くは「契約書なんか作るのは、相手を信用していないみたいで心苦しい」という日本的感覚の持ち主ではないでしょうか。そこで正面から契約書を交わすのではなく、ホームページに契約書のひな型を掲載しておいて、取引相手には、「私のホームページに取引をする際の原則的なひな型を載せてありますので、一応読んでおいてください。また、今回の仕事において不都合な条文があったら、協議しながら修正しましょう」とメールで書き添えておくのも知恵ではないでしょうか。相手から特にリアクションがなければ、請求書などで支払期限なども記載の上で「その他、本請求書に記載のない事項については、メールでのご確認通り私のホームページ掲載の契約書ひな型を適用させていただきます」と小さな文字で入れておけばよいでしょう。
 グローバルスタンダードという言葉が日常的に使われますが、契約などを文章で残すことへの抵抗感なども取り払っていくことも重要ではないでしょうか。欧米各国がそういう取引の仕方をしているのですから。

■■知的財産権についても取り決める
 プログラム、イラストなど著作物の取引においては、著作権が誰に帰属するかは重要な問題です。例えば、プログラムやイラストを納品した場合、その著作権が取引相手に帰属するのか、自分に帰属するのか、自分に帰属する場合、取引相手に著作物の使用の許諾をすることになるが、どの範囲(今回の取引の関係だけなのか、今後も取引相手は他の取引の際にも使用できるのか)で許諾するのか。この辺りをきちんと決めておかないと後々問題となります。著作権の絡むビジネスの難しいのは、制作時点では著作物の世間的価値が確定していないことです。だから、何年かしてその著作物が評判になったりしたときに、この辺りを明確にしていないと争いの原因となります。トラブルの例ではありませんが、作曲家の黛敏郎さんが昭和20年代に某テレビ局のスポーツニュースのテーマ曲を書いたことに触れ、「今でも使われているけど、こんな何十年も毎晩使われるとわかっていたら、もっと作曲料をもらっておくんだった」といったニュアンスの話をされていました。制作の際の努力や苦労と成果がまったく比例しないのが多くの著作物の特徴ですから、こういった分野の仕事をする人は、知的所有権の知識も持っている必要があるのでしょう。「俺は、税金のことなんかわからない」と豪語する営業マンでも自分が発行する領収書に貼る印紙の金額の知識は持っているのと同様、仕事上の常識的範囲での知識は持っておくようにしたいものです。
 ちなみにコンピュータプログラムの場合、バージョンアップなどで改変等が必要になりますので、通常は発注側に著作権が移転するような契約をします。その文例を掲げておきます。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
本件ソフトウェア開発によって発生する、著作権その他工業所有権(受託者が従来権利を有していたもの及び本件ソフトウェア開発の過程で発生し受託者に帰属したものを含む)及び成果物の所有権は、著作権法第27条、28条に定める権利を含め全て、委託契約料金全額が支払われたときに、受託者から委託者に移転する。
+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
「ソフトウェア法務の上手な対処法」65頁より(民事法研究会平成7年発行)

文 佐久間裕幸