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◆ビジネスマンのための――
 バーチャルカンパニー経営術第12回

 シリコンバレーの見聞録(その1)

 私がお世話をさせていただいているニフティサーブのビジネス創造フォーラムでは、総勢8人のシリコンバレーの視察旅行をやってまいりました。シリコンバレーというとベンチャー企業のメッカということで日本でベンチャー支援策を検討する中でもシリコンバレーをモデルにしている部分がたくさんあります。たしかにヒューレットパッカード、インテル、サンマイクロシステムズ、シスコシステムズ、ネットスケープなど名だたる急成長企業を生み出しているシリコンバレーの社会システムを解き明かしたいとは誰でも思いつく発想です。そのために、官公庁や中小企業団体が次々と上述のような有名会社を訪問して回るため、広報担当者も辟易としているという話が聞こえてきたりしています。そこで、我々は、成功例だけでなく、これから成功を目指している会社や失敗した事例を聞けるようなシリコンバレー訪問をしてみようと思い立ったのが、今回の訪問のきっかけです。

■■まずはシリコンバレーとは
 すでにご存じかもしれませんが、「シリコンバレー」という市町村はありません。シリコンバレーはサンフランシスコの南へ車で1時間ほどの辺り、ゼロックスの研究所で有名なパロアルトからサンノゼ市に至る地域を総称しての名称です。


   <シリコンバレーの地図を挿入>


 スタンフォード大学のヒューレット君とパッカード君が1937年に設立した会社(といえばわかりますよね)やインテルの設立者など多くの半導体創成期の人材を生み出したショックレー研究所(1955年)およびフェアチャイルド・セミコンダクター社(1957年)を基盤として、パソコンからインターネットに向かう一時代を築いたこの地域を「半導体の谷」すなわちシリコンバレーと呼ぶようになったわけです。

■■いわゆるシリコンバレーと日本のベンチャー育成
 巷に伝えられるシリコンバレーというと、起業家がビジネスプランを事業計画書にするとベンチャーキャピタルから資金が供給されるだけでなく、事業プランの遂行に必要な人材や経営者まで提供されるので、ヤフーやネットスケープのように20代の若者の会社が会社設立から数年でナスダックに店頭登録できる・・・といった起業家のパラダイスのような場所だとされています。また、スタンフォードをはじめとする大学と民間企業との交流の話や、大学教授が会社を持ったり企業のコンサルタントとしても活躍すると同時に大学での研究成果が特許として申請された場合、研究者がライセンス収入の1/3を大学から受け取れるといったビジネスマインドのある大学の姿が伝えられています。あるいは、若い起業家に資金や知恵を提供するエンジェルやメンターといった人たちの存在も語られています。
 こうしたシリコンバレーの状況も参考にしながら、日本のベンチャー育成の政策が作られている部分があると言えます。新規事業法による債務保証や出資制度、ベンチャープラザの開催、地方自治体のベンチャー財団の設立、インキュベーション施設の設置、エンジェル税制の創設などが挙げられると思います。

■■制度で補えないシリコンバレーの強み
 しかし、シリコンバレーに追いつき、追い越すには、こうした行政その他の制度をどれだけ整備しても駄目な部分があることに今回の訪問で気づきました。今回訪問した先の1つ、スタンフォード大学US-JAPAN TECHOLOGY MANEGEMENT CENTER所長のダッシャー博士のお話から、そのいくつかを列挙してみます。
■1つではないエリートコース
 アメリカでのエリートコースは、1つではありません。日本のように東大を頂点とする大学のピラミッドがあるわけではなく、学科単位で世界有数の成果を出している大学が各地に点在しています。これらの大学を卒業しても、大会社に入るだけがエリートコースではなく、MBAを取得する手もあるし、大手の会計事務所を経て企業の財務マネジャーになる手もある、もちろん自分で会社を興すというのも立派なエリートコースとして認められます。そのため、優秀な人材が起業家となることに日本でのような躊躇が少ないということが言えます。
■ビジョンを持った技術系の学生の存在
 「人間生活を進歩発展させるテクノロジー」といった観点を持つ学生が多いと言うか、日本のように就職の道具としてしか大学を考えない学生が少ないことが、自分の研究過程から生まれたビジネスヒントをプランにまとめ起業する学生を生み出しているのだと思われます。
■リスクを取るカルチャー
 「やるべきではないという理由が見当たらないならやってみよう」という前向きの精神、西部開拓魂のような文化がシリコンバレーにはあります。この背景には、事業の失敗に対する評価が日本とは違うという面もあります。日本では一度会社を倒産させると、「あの人は会社を潰した人だ」というレッテルを貼られてしまいます。アメリカでは、「前回は、これこれの場面で失敗したので、今度はそこをクリアするだろう」と評価してもらえます。
むしろ多少の挫折のない人には信用がないとも言えるかもしれません。
■ベンチャーを支える関係者
 ベンチャー企業に資金を提供するベンチャーキャピタル、技術系ベンチャーに必須である知的所有権に強い弁護士、スタートアップ時の諸問題に精通している会計士など各種の専門サービスがシリコンバレーには存在しています。スタンフォード大学の周囲10マイル内にアメリカのベンチャーキャピタルの4分の1が存在するのだそうです。また、大学教授も週に1日を大学外で働くことが認められているため、彼らがベンチャー企業の顧問や社外取締役として参加することも見られます。実際、技術系の研究者の協力なしには、ベンチャーキャピタルといえども投資案件の技術的な可能性の評価などはできません。
■高い労働の流動性
 優秀な人材を得やすいこともスタートアップ時の成長の速度に大きな影響があります。ヘッドハンターに依頼すれば、全米から(に限らず世界中から?)人材を得ることができます。これは、もともと日本のような終身雇用でないということも要因ですが、世界中から人が集まってくることや「ソフト開発者に強いヘッドハンター」のような業種別に人材紹介業者が充実していることも要因として挙げられます。それぞれの業種に精通したリクルーターでなければ、求人先が求める能力を持っている人材を探すことなどできない以上、日本のヘッドハンターにない探索力を持っているように思われます。

 上述したようなシリコンバレーの強みは、制度を1ついじればどうにかなるという性質のものではありません。例えば、大学の教授の兼業禁止規定の緩和は、日本でも導入されるという話を聞きましたが、今の日本の大学教授が産業界で即戦力として期待される人材かというと疑問もあるでしょう。と書くと大学の先生から無礼であるとのお叱りを受けるかもしれませんが、起業家から取締役やコンサルタントを委嘱されたりするような汎用技術に通じていて、かつ人柄的にもフランクな大学教授というのは日本には希有なように思うのです。

■■圧倒的にシリコンバレーが強いのか?
 このように書くとシリコンバレーは理想郷のように思えてしまう人も少なくないと思います。しかし、見てきた限りでは、必ずしも理想ばかりがあるわけでもありません。シリコンバレーは、現在では、ファブレスであり、具体的なモノの生産は、テキサス州や東南アジアで行われています。また、シリコンバレー内でも実際のエンジニアは、中国人、ベトナム人、インド人、イスラエル人であったりします。つまり、シリコンバレーは、アメリカの奇跡ではなく、シリコンバレー地域を足がかりにしてネットワークを拡げた人々の奇跡だと言うことができます。また、人材が容易に獲得できるということは、従業員が簡単に引き抜かれることを意味します。ベンチャーキャピタルが送り込んだ経営者と創業者の意見対立で会社が揺れ動くことも少なくありません。ベンチャーキャピタルからの資金だって、数十社のベンチャーキャピタルにプレゼンテーションしても断られる場合だってあります。親が資産家であったりするならば、日本の方が簡単に資金が引き出せるかもしれません。実際、クライナー・パーキンスといった著名なベンチャーキャピタルでは、巨額のファンドを運用する必要があるため、数百万ドル以上という単位の投資に絞らざるを得なくなってきており、小規模ベンチャーにとっての資金調達先としては期待できなくなっていると言えます。
 ということで、次回は、シリコンバレーにおける経営の難しさと、それに対する日本企業の経営の課題について触れてみたいと思います。

文:佐久間 裕幸