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 バーチャルカンパニー経営術第8回

交際費の税務と管理

■■会社に「貸し」がある?
 昨今のリストラのブームの中で、ある日突然会社から肩を叩かれたり、降格されたり、子会社・関連会社・取引先などに出向、転籍させられたりという話をいやというほど耳にします。そして、そうした会社のリストラに対しての問題点の指摘も数多く耳にしますが、それとは反対に「リストラされる従業員自体に問題があるのだ」という指摘も目にします。すなわち、会社にすがって生きているから、ある日会社に三くだり半を突きつけられると他の会社で評価されるだけの能力を持っていないがためにどうすることもできず、ただただ会社を恨んでいる人が目に付くという論調の指摘です。
 たしかにそれなりの説得力があるものの、リストラされる人に同情できる面もあるような気がします。というのは、こうした人は、会社の組織があまりに大きいためによい意味でのゼネラリスト・スペシャリストとしての能力を伸ばす機会がないままに歯車的な仕事をさせられ、異動の都度、配属された部署の中でその部署の雰囲気に馴染んで仕事を進めることが最大の考課ポイントとして育てられた人です。こういう人が急に「他の企業でも通用するスペシャリストとしての能力を持っていない」と言われても困惑するというものでしょう。かつて新人類と言われた現在の30才代の人たちは、「何を考えているのかわからん」と冷たい目で見られ、「この会社には一生いない(いられない)かもしれない」と考えることの多かった世代です。しかし、40才以上のリストラ世代は、大きな会社に入ったら、一生そこで勤めるものだという教育を受け、また、会社側もそういう思想を前提とした給与体系を提示していたと言えます。だから、今は安月給でも、サービス残業が多くても、「やがては高い役職とそれに応じた給料と定年時のそれなりの退職金がもらえるはずだ」と期待していたはずなのです。社会的な慣習とも思えたこの期待をリストラにより裏切られたために会社に対する「恨み」の気もちが生まれるのです。この「恨み」、会社からの報酬より自分がしてきた会社への奉仕(あえて「貢献」とは書きません)の方が大きい、つまり会社に対して「貸し」があると思っているから、湧いてくるのだと理解できます。安月給、サービス残業、頻繁な転勤などいろいろな貸しがあるのでしょうが、こうした「貸し」の1つとして、会社の経費にしきれないで、自己負担した交際費・交通費があるような気がします。長い前置きですが、ということで今月のお話は、交際費の話です。

■■交際費の課税について
 交際費や接待の帰りのタクシー代のような交通費を会社で精算しきれなかったりするのは、これらの支出が税務計算上は「交際費等」とされて、経費として認められないため、その分だけ予算管理上もチェックが厳しいということが原因の1つにあると思われます。予算オーバーだと経費にならないために、タクシー代とか3件目以降のお店の払いは自分持ちということになるのでしょう。そのほか、多くの会社では麻雀の負け代や接待ゴルフのチョコレート代は精算させてくれないでしょう。こういう「貸し」があるため、不意のリストラで「貸し」が貸し倒れになり「恨み」になるわけです。まあ、「恨み」の話はさておいて、交際費の課税の仕組みです。
 会社の法人税の計算は、次のようになっています。
    益金 − 損金 = 所得  →  法人税額 = 所得 × 税額
そして、この「益金」は、基本的に売上高など損益計算書の収益と原則的に一致し、「損金」は、多くの場合売上原価や販売費及び一般管理費など費用と一致します。ところが、交際費は、損益計算上は当然に費用ですが、税務上は損金とはならない項目とされています(ただし、資本金5000万円以下の会社では、一部損金とできます)。したがって、収益が1000、費用(法人税等計算前)が900(うち交際費100)という会社の計算では次のように損益計算と税務計算に差がでてきます。
  <損益計算>          <税務計算>
    収益   1000       益金   1000
    費用    900       損金    800
    利益    100       所得    200
 税務上は、200の所得に対して、税率を掛けますが、一般的に実効税率といわれる51%を使うと、法人税等は102となります。ということは、法人税等の計算を加えると損益計算書は、次のようになり、最終損益は赤字ということになります。
  <損益計算>       
    収益   1000  
    費用   1002(900+200×51%)  
    利益     △2  
 つまり、交際費を使っても税務上は損金にならないために、本当は、儲かっているはずなのに税引前の利益以上に法人税等がかかってきて、赤字になってしまうことがあるのです。また、通常の費用支出は、イコール損金ですから、その51%分だけ法人税等を減らす一種の節税効果がありますが、交際費にはないという言い方もできます。ですから、交際費は通常の費用より2倍の負担が企業にかかるという言い方もできます。つまり、広告宣伝費100の支出で1000の売上増加が期待できる場合、同じことを交際費でやるならば50の支出で1000の売上増加を実現しなければならないということになります。

■■交際費を相手先別に管理する
 こういう負担の重い交際費ですから、その支出にあたっては十分な管理をする必要があるように思います。あまり耳にしない管理ですが、ぜひやってみると面白いと思うのが、交際費の支出相手別管理です。新規の顧客の獲得にあたっては、接待することで大きな受注が取れるかもしれません。しかし、既存の顧客においては接待をしてもしなくても同じくらいの受注が取れるのではないでしょうか。また、ゴルフの好きな顧客を高級料亭に案内しても効果は低いし、カラオケの好きな顧客を一次会だけで返してはまずいでしょう。そこであくまでシミュレーションの世界にはなりますが、「交際費追加支出1円のあたりの期待売上増加額」(「限界売上獲得力」とでも言いましょうか)という概念を導入して、顧客別の一覧表を作ってみます。
 顧客名  新規/既存 限界売上獲得力  顧客の嗜好等
A商事   既存     200円(20%)  ゴルフ(部長)、カラオケ(担当課長)
B工業社長 既存     500円(15%)  はしご酒
B工業部長 既存     20円(15%)  グルメ(ただし発注権限はあまりなし)
C物産   既存     5円(25%)  禁酒中、ゴルフ下手
D建設   昨年より   800円(20%)  取引枠拡大中
E食品   新規    1,500円(10%)  エスニック料理
            (限界売上獲得力欄のカッコは、顧客毎の平均粗利率)
 B工業のように組織的な運営ができていない会社では、誰を接待するかで受注への影響度合いが変わりますので、顧客別ではなく、個人別に作成する必要があります。C物産はあまり接待の影響がないので、1万円の支出をしてもその結果は、50万円の売上増加にしかなりません。しかし、E食品は新規取引が開始できると大きな売上増が期待できるので、1回の食事でもそれが1億5千万円にもなるかもしれないという期待が込められています。
 さて、ここで接待交際費予算の増加枠が30万円あったとします。ここで単純に6人に均等に割り振るとどのような売上増加が期待できるでしょうか。
    顧客名  支出交際費  売 上 高  売上総利益
   A商事    50,000  10,000,000  2,000,000
   B工業社長  50,000  25,000,000  3,750,000
   B工業部長  50,000   1,000,000   150,000
   C物産    50,000    250,000    62,500
   D建設    50,000  40,000,000  8,000,000
   E食品    50,000  75,000,000  7,500,000
    合計   300,000  151,250,000  21,462,500
 こうしてみると、もっとも限界売上獲得力の低いC物産では、5万円の支出を行っても得られる利益は、6万円強に過ぎません。そして、交際費は損金にならないことを考えるとC物産には追加の接待をすると損をするということになります。逆に30万円の追加予算を全額特定の1社に投入したらどうなるでしょうか。売上総利益ベースでもっとも高い利益の上がったD建設に30万円の全額をつぎ込むならば、2億4千万円の売上と4千8百万円の利益が獲得できることになり、均等に割り振った場合の2倍以上の粗利が獲得できることがわかるでしょう。

■■本当に必要な支出なのかどうか
 振り返って日常の仕事を考えると、接待を1回増やしてどれだけ売上が増えるものでしょうか。多くの場合、自社の営業マンがお酒を飲みたくて、ゴルフをしたくて、行きつけのお店のママに顔つなぎをしたくて顧客を接待している面も否定できないと思います。そのように考えると、追加支出1円当たりではなく、現在の交際費を減らしたらどれくらい売上が落ちるのかという計算をしてみるのも面白いと思います。C物産のような場合には、交際費を削った方が最終的な利益は増えたりすることも期待できるかもしれません。そうであるならば交際費を増やすより、残業手当を増やして営業マンが1件でも多くの顧客に訪問するようなセールス管理を充実した方が効果的かもしれません。
 その意味で、上述のように交際費の追加支出あたりの売上を推定するのは数字の遊びの側面も否定できませんが、顧客別の交際費支出高と売上高及び売上総利益の実績表を作ってみるだけでも意味があると思います。慶弔費のように削れない(削るべきでない)交際費もありますが、一度は今回のような視点で交際費を見直してみるのもよいのではないでしょうか。

文:佐久間 裕幸