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◆ビジネスマンのための――
 バーチャルカンパニー経営術第6回

会社にいても経営者感覚
■■これもバーチャルカンパニーでは?
 これまでバーチャル組織の話やSOHOの話などに触れ、独立にあたっての会社設立の話をしてきました。しかし、会社にいながら、経営者のような感覚を持って自分の所属する部門を率い、会社を大きく成長させるきっかけを作るような従業員の思考回路も一種のバーチャルカンパニーかもしれません。そこで今回は、会社にもたれ掛かるのではなく、会社に対して独立の精神を持ちながらも会社の成長に向けて前向きに活躍する、そんな人のための知識について書いてみたいと思います。

■■情報格差
 会社員の間でよく聞かれる愚痴に「うちの経営者はせっかく良い提案をしても理解できずに握り潰してしまう」というような話があります。しかし、まがりなりにも長期にわたる人事考課の結果として取締役になり、社長になった人たちの判断力が根本的に狂っているとは思えません。となると、一般従業員が判断を下す際に動員する知識・情報と経営者が判断を下す際の知識・情報にズレがあるか、優先度の違いがあるということになります。 このズレや優先度の中には、経営者側の現場感覚の喪失のような経営者サイドの問題もあるかもしれませんが、従業員側にも経営者が意思決定にあたって必ず考慮に入れる重要な判断要素が抜けているのかもしれません。その1つが従業員には入手しようのない全社的な情報です。会社の経営成績、資金力、中期経営計画、経営戦略等などがそれに当たるでしょう。例えば、本業の売上および利益が伸びている状況下では、会社のすべての資源を本業に集中し、シェアの拡大や売るための生産力のアップが最優先の経営課題になるかもしれません。逆に資金力がなければ、あるいは資金力はそれなりにあっても設備投資計画がある場合など、かなり妙味のある新規事業であってもその新規事業がイニシャルコストのかかるものであれば、涙を飲んで新規事業参入を見送るということになります。
 この辺りの話は、いくらしていても一介の従業員には入手が困難なのですから、誌面を割いてもしかたありません。私が今回触れてみたいと思うのは、会社にかかるコストの話です。つまり、会社が行動する場合にどれだけのコストがかかるか、この辺りの知識に経営者と従業員のズレがあるため、「これくらいのことやってくれてもいいじゃないか」とか「こんなことをすれば会社は儲かるのに」と従業員が思っても、経営者サイドで「採算が取れない」とあっさり否定されてしまうのではないかというわけです。

■■会社にかかるコストその1(人件費)
 会社にかかるコストの第一は、人件費です。一般的に人を1人雇う時のコストは、支払う給料の倍であると言われています。「そんなにかかるか?」と思われそうなので、これを実際に数字で検討してみましょう。ここでは、基本給、職能給など本給といえるもので月給40万円の人を想定します。賞与は、6カ月とします。そこで以下に給与に関わる支出とその想定額を一覧表にしてみます。
   項目          想定            年間発生額(円)
 通勤手当      会社の近所に住む人も遠距離通勤の人
           もいるが、一応月3万円を想定     360,000
 家族手当      昨今独身者も増えているが40万円の
           給与の人なら家族がいるとして2万円  240,000
 健康保険料     本人の給与からも控除があるが会社も
           同額を負担してくれている       228,480
 厚生年金保険料   同上                 470,040
 労災保険料     業種により保険料が違うが、一般的な
           業種ということで10/1000を適用      48,000
 親睦会費      たいていの会社では親睦会などに会社
           からの補填を行っている         36,000
 社宅または住宅手当 借上げ社宅の家賃、社宅のコスト、住
           宅手当を想定。月3万円とする     360,000
 社内預金金利    この低金利時代でも5%くらいの金利
           を出してくれる。預金額500万円と  250,000
           想定
 退職金       長く勤務する方が支給額が増えるので
           想定が難しいがとりあえず10年間勤  250,000
           務の際の支給額を250万円として
                      合  計   2,242,520
 もちろん、「我が社には社内預金制度はない」などの異論はあるでしょうが、とりあえずこの計算では、基本給40万円の人を雇うに当たり、給与も含めて年間 944万円かかるということがわかります。月平均にして78万円強ということで、月給の倍になるということがわかります。
 こうした直接的な人件費だけでも、これだけかかりますが、このほか、制服、事務机、ロッカー、机やロッカーの置かれるスペース、1人1台のパソコンなどと考えると賞与も含めた給与の倍のコストがかかるという気がしてきませんか? となれば、「年収500万円の販売員10人で売れば、粗利が20%だから、2億5千万円以上売れば儲けになるな・・・」等とシミュレーションしていた根本が崩れてしまいます。そう、5億円売らねば、儲けにはならないのです。

■■会社にかかるコストその2(間接費)
 会社が負担するコストは、人件費だけではありません。例えば、人件費の関連という意味では、会社の立地により社員食堂を設置したり、運動場、体育館、保養所といった厚生施設の設備がかかったりします。こうした項目も含め以下のようにまとめて考えてみます。

■間接部門費
 社長が「最高意思決定者&経理&総務&便所掃除(!)」であるような中小企業ならばともかく、相応の規模の会社になると、それなりの間接部門の人員を擁し、それに応じたコストが生じるようになります。たまたま手元にある某社の予算書を見てみますと、次のようになっています。
    売上高    143億円
    売上原価   121億円
    売上総利益   22億円
    販売費および
     一般管理費  13億円
    営業利益     9億円
    営業外損益    3億円
    経常利益     6億円
 製造した物品を売って22億円の粗利を得るために13億円の販売費と管理費がかかることがわかります。このうち管理部門(総務、経理)での費用が2億3千万として予算計上されています。これは、本社ビルの償却費や光熱費など現業部門の負担とすべきものは配賦した後の金額ですから、実際に会社を維持するためにこれだけの費用がかかっているわけです。つまり営業の人は自分たちが支出する販売費用の後ろには、これだけの管理費用が控えていると思わないと会社全体を見通した議論ができないということになります。

■租税負担
 企業活動においてはあらゆるところで、租税との関わりが出てきます。以前の連載でも取り上げた法人税・住民税・事業税は、利益の水準にもよりますが、会社の所得に対して約50%になります。配当や役員の賞与は法人税等を支払った後で残った利益から払いますので、株主に報いる会社であるためには上記の例の経常利益6億円から法人税等を払ってからということになります。また、交際費は法人税の計算上経費にはなりませんので、大雑把に言えば法人税等は(経常利益+交際費)×50%となります。このほか思いつくままに各種の税金をあげてみると、次のようになります。
  租税の種類    課税の対象等     税率その他
【国税】
 地価税     土地および借地権    (課税価格−基礎控除額)×0.15%
 登録免許税   登記その他の行為    不動産移転登記であれば不動産価格×5%
 印紙税     各種の取引行為     領収書3万円以上100万円以下200円
                     、約束手形なと各種・・・
 有価証券取引税 有価証券の売却     株式の売買価格×0.12%
 自動車重量税  自動車の車検の際    1t以下の営業車5600円
         これと別に地方税として自動車税、自動車取得税があります
【地方税】
 不動産取得税  不動産の取得      取得した不動産の価格×4%
 特別地方消費税 料理店等での飲食・遊興 利用料金×3%
 固定資産税   課税台帳に記載された固 課税価格×1.4%
         定資産
 事業所税    特別区・政令指定都市の 事業所床面積1平米につき600円
         事業者         従業者給与総額×0.25%
 都市計画税   都市計画区域内に所在す 税率0.3%以下
         る土地および家屋
 と、いろいろあるわけで、会社の業種によっては特定の租税が馬鹿にならない支出要素になります。人件費のところで述べた健康保険料などと同様、「会社というのはいろいろな負担を負っているのだなあ」と理解していただけますでしょうか。

■資金コスト
 さらに資金調達コストがあります。借り入れによる資金のコストは、上記予算例では、営業外損益3億円として出ています。そのほか株主からの資金コストは配当金という形で生じますので、設備産業など多額の資金を必要とする事業ではうっかりすると儲けはすべて利息に消えてしまうということになります。

ということで、経営者はこうした会社のコスト構造の中で意思決定をしているということに気づいていただけたかと思います。

文:佐久間 裕幸