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◆ビジネスマンのための――
バーチャルカンパニー経営術第2回

非営利組織のバーチャルカンパニー経営術

■■バーチャルカンパニーのまえに・・
 バーチャルカンパニー経営術の第2回目です、と書いた直後に触れるのも人が悪いのですが、世間ではなにゆえバーチャルカンパニーと騒ぐのでありましょう。
 考えてみれば、人の集まり(法律では社団といいます)は、法律により人格を認められた法人とそうでない同窓会や町内会など(人格なき社団)に分類され、法人のうち営利を目的として設立されたものを会社というわけです。コンピュータを使って、新しい空間で何かをやっていこうという試みが現実になってきたところで、営利を目的とした組織という一番制約のきついものの運営を囃し立ててどうしようというのでしょうか。 我々が小学校、中学校・・と経る過程で社会的な体験を積み重ねて社会に出てお金を稼ぐようになるのと同様に、バーチャルカンパニーの経営も非営利の組織の運営から考えてみてはどうかというわけです。
 ということで、連載の第2回目は、営利を目的とするかどうかを問わない「バーチャル組織」全般に共通するあれやあこれやに触れてみたいと思います。

■■バーチャル組織の例
 バーチャル組織といってもイメージが沸かないかもしれませんが、飲み友達の間での「今晩のみに行かない?」なんていう同報メールのコミュニティやテニスに関心のある人たちの電子会議室を想像してもらえばよいと思います。
しかし、バーチャル組織も数人から十数人の規模ばかりではありません。ニフティサーブの<音楽フォーラム・クラシック>での「夏のオフ」などは大規模なものの例として挙げられます。この夏のオフは、日頃ネットワーク上で交流しているアマチュアの音楽愛好家が、比較的休みを取ったり遠出をしやすい夏の土日の2日間で全国から集まって、臨時のアマチュアオーケストラを編成して、ぶっつけ本番の演奏会をやってしまうというものです。今年の夏は、聴衆としての参加者を含め300人を超える規模となったようです。
 これだけの行事をネットワーク上のやり取りで実施していくためには、10人の運営スタッフとそれを支えるフォーラムスタッフがネットワークの参加者をリードしていかねばならず、また、数ヶ月間にわたる準備が必要であったわけです。また、参加者にしても参加の意思表明からはじまり、オーケストラのパートの割り振りや演奏する曲目の選定までネットワーク上で進めていきます。これにかかるやり取りは、フォーラムの会議室の発言を読めばわかりますが、全部で3000を超える発言が展開されておりました。
 こうしたバーチャル組織の遂行にあたっては、それなりの苦心やノウハウがあるわけで、この多くは、バーチャルカンパニーに活かせるのではないかと思いますし、反対にそうした習熟なしに営利を追求する組織に導入するのは危険ではないかという問題意識もあります。また、ネットワーク上で仕事をすることなどできないのではないかと考えられている方もいらっしゃるかと思いますが(netPCの読者に限ってはいらっしゃらないか?)、少なくとも非営利では数百人単位の行事が実行されているという現実を知っていただきたいわけです。

■■運営原理のあれこれ
 こうしたバーチャル組織の中では、基本的には日常生活でのフェースtoフェースのコミュニケーションや運営原理が当てはまらなかったり、当てはまるもののより重要であるというようなものがあるように思われます。ネットワークを駆使されている方には退屈かもしれませんが、まず思いつくもっとも基本的な運営原理について取り上げてみましょう。
■何でもよいから発言する
 ネットワークを使ってコミュニケーションする場合、通常の世界と違って相手に視覚的に認識してもらえません。「ネットワークの世界に壁の花はない」という例えでよく言われる話です。
 しかし、本当に発言の内容は何でもよいのかといえば、そうではないわけです。通常なら、スーツや靴の様子から外回りの多いサラリーマンだろうとか、ミンクのロングコートを着てきた人だから富豪の奥様か?などと外見から判断してもらえる可能性がありますが、ネットワークではそうはいきません。したがって、自分がどのようなものであるかをきちんと言葉にして伝えなければならないのです。
 これは、たいへんなことだと思える半面、従来スターになり得なかった人にも活躍の場が提供されることにもなります。すなわち口下手だったり、外見が風采の上がらないような人でも、饒舌に語りかけることができれば、注目されるというわけです。
■言い出しっぺがリーダーの原則
 ネットワークの世界では、上述のように外見など通常の世界で人が身につけているものがいったん剥がれ落ちてしまいます。ということは、従来なら、年長者だからとか、この町で一番大きな会社の社長だからといったリーダー選びの原則が成立しない場合も出てきます。
 そうなると、「今度こんなことをしないか、なぜなら・・」と魅力的にビジョンを語った人にその運営を任せたいと周囲は思うし、また、それ以外の人に任せる理由が見当たらないことも出てきます。新しい提案をする場合、その実現は自分がリーダーになって行うということになると提案の前には、相当な検討が必要になるでしょう。
 社内ネットワークで電子会議室システムを導入しようとすると「無責任な発言をして、会社の業務を攪乱する者が出てくるのではないか」と心配する意見が出たりします。しかし、この意見は、ネットワーク組織の原理を理解していないか、提案者に権限を委譲して実行させる(あるいは、させるかもしれない)ような柔軟な組織運営になっていないことによる危惧であると考えられます。
■コメントなしはOKの原則
 こうしてリーダーがネットワーク組織を動かしているときに、「・・ということにしたいと思います。3日以内に反対意見がなければ、了承と見なして進めますのでよろしく。」といった発言をすることがあります。これは、提案をした場合に、その提案が当然なものであればあるほど、「賛成です」という賛同の書き込みが付きにくいためです。バーチャル組織では、発言がないというのは組織構成員がいないのと同じですから、こうした原理を導入して、異論があればすかさず書くという緊張感がネットワークには不可欠であると考えます。
■根回しもできる
 コメントなしはOKの原則を連発すると専制政治のようなムードが漂ってくるおそれがありますが、バーチャル組織では、日本古来の組織運営原理(?)である根回しも容易に使うことができます。従来は重要な人のところへ歩いて回ったり、電話を架けまくったわけですが、ネットワークの場合には、当然のことながら電子メールを使います。
 一番先に耳に入れたい重要人物群に最初にメールを入れ、提案内容についての意見やアドバイスをもらいます。こうして自分の意見に磨きをかけてから、いざ提案となるわけです。
 高木晴夫慶大教授も「対面だけでなく、パソコン通信上でいつも「声をかけ合う」コミュニケーションの仕方のコツが身につき日常的になった時、アメリカに見られない日本本来の組織力が情報技術革新によって飛躍する。すなわち、時間と空間の制約のない「一声かけて」は、次世代組織として期待される「ネットワーク型組織」で仕事をするときの、きわめて有効な組織スキルとなるはずである。」(川崎賢一他著『メディアコミュニケーション』1994年富士通ブックス)と指摘しています。これは根回しに限らずセクションを越えた情報交換の有用性を説いたものですが、バーチャル組織は、本来の日本型経営と馴染むものがあるように思われます。
■ツールを使い分ける
 バーチャル組織の中ではやたらにネットワークに依存する人がいます。しかし、半日先のアポイントなら電話にすべきですし、アクセスの頻度の少ない人も含め全員に確実に伝えたいなら、同報Faxや郵便によるべきでしょう。反対に「この件についてはいついつに会議を開いて決めることにしよう」などと決まると、それまで活発だったその案件についての意見が書き込まれなくなることもあります。しかし、会議の効率化のためにはネット上での議論を十分に尽くしておいてからフェースtoフェースの会議にしたいものです。
■ その場で返事を書く
 電子メールをもらった場合にせよ、電子会議室を読んだにせよ、返事や書くべきだ思ったコメントはその場で書くことが必要です。電話と比較したネットワークの利点に相手の都合のよいときに読んでもらえることがあります。しかし、その分だけネットワークにアクセスしたときには、情報が発信されてから相応の時間が経過している可能性があります。また、手紙やFAXであれば、机の上に置いておいたままにすることで後で返事を書こうという気になりますが、ネットワークの情報はコンピュータ(ディスク)の中に入ってしまいますから、「後で返事を書こう」と思っていると忘れることになります。
 「メールもらいました。これから出掛けるところなので、後で返事を書きます」という返事を書くのも相手への思いやりかもしれませんが、そもそも出掛ける直前にメールを読むべきではないと思います。「都合のよいときに読めるネットワーク」という利点を本当に活かすには、返事を書く余裕もあるときに読むべきだということになります。参加者の少しずつのリアクションの遅れがバーチャル組織の活性度の低下につながるのではないかと私は考えます。

■■より重要な問題
 以上6つに分けて述べてきたバーチャル組織の運営原理ですが、さらに重要な問題があります。それは、バーチャル組織への参加者が全員上記の条件を認識していること、さらに認識した上で実践することです。
 パソコン通信最大手のニフティサーブの会員数が200万人になろうとしているとはいえ、単純に日本の人口で割れば2%に過ぎません。バーチャル組織に参加するだけの素養を満たしている人は、それほど多くはないと思われます。小学校の学級会で発言するのは40人で1人か2人しかいないのと同様、不特定多数の前で書ける人の比率というのは決まっているように私は考えるのですが、いかがなものでしょう。そう考えると、バーチャル組織が有効に運営できるようになるには、日本人の控えめな性格というものの改善を伴わなければならないようにも思えます。

■■組織を動かすリーダーシップ
 さらに、こうした素養をもった人だけを集めたとしても前述したような条件で参加してもらうには、参加意識を高い水準にモティベートしておく必要があります。会社のような雇用契約を前提として運営するネットワークならば、「重要な案件の決裁には稟議書を書け」という規則などと同様に、ネットワークにもきちんとアクセスすることを義務づけられますが、営利・非営利を問わないバーチャル組織においては、動機付けをしていくリーダーの素養が重要な課題になってきます。普段積極的に発言する人だけを集めてプロジェクトを作っても、発言するのはその2割程度という8割2割の原則はバーチャル組織にも当てはまります。また、リーダーシップや動機付けが重要であることは、営利組織である会社でも、従業員に義務づけるだけですべての解決ができるわけではないことはみなさんご承知のとおりです。LANを導入して「活用せよ」と号令しても、フルに活用する部門とまったく利用されない部門が出てきます。これは、雇用契約による縛りは、十分には(時には全く)通用しないことを意味します。
 したがって、ネットワーク・リーダーシップというものが求められるわけですが、この辺りの手法は、バーチャル組織に限らないように思えます。有効なリーダーシップを行使できる人がいなければ、組織は機能していかないのです。IT(インフォメーション・テクノロジー)を改善しさえすれば組織は蘇るかのように書かれている書籍などをしばしば目にするもので強調したいのですが、リーダーシップの有効な行使には、情報の収集や分析とその結果を雄弁に語るキャラクターが必要なのです。ネットワークその他のテクノロジーは、その過程で情報の収集や分析の能率や質を向上させるツールに過ぎないと考えるからです。したがって、ネットワークを活用しようという意欲のある人材のいない会社にネットワークを導入しても、ネットワーク活動は盛り上がらないし、ネットワークを活用したいという意欲はあってもリーダーシップを行使する能力(才能というべきかもしれない)の無い人しかいない会社では、組織は息を吹き返さないのです。

文:佐久間 裕幸