「みんなのコミック村/サロン」への書き込み

#802


=== <802> comic/salon, BQ2M-FRT(古田 真也), 99/11/ 5 02:38, 50行, 0(0)関連
標題: 国立博物館物語:岡崎二郎・小学館・ビッグコミックス全3巻

 しばらく(半年くらいか)前にビッグコミックスペリオール誌での連載が完結した作品です。岡崎二郎(つぐおじゃないよ)の作品はSF短編(というよりショートショートか)が多く、それが持ち味でしたが、これはむしろ「科学読み物」という感じの作品になっています。大人向けの「まんがサイエンス」とでもいいましょうか。
 主人公は森高弥生、新米博物館員です。化石が好きで、趣味と実益を兼ねて新東京博物館に就職。そこではニューロコンピューターを使った仮想進化実験が行われていて、ヘルメットを介してその世界を仮想体験できる設備(「コレクター・ユイ」のコムネットのようなもの・・・という説明でわかるかなぁ)も開発中だった。たまたまこのコンピューターと相性が良くて、仮想世界の中で活動できる弥生は、本来の古生物学の雑用以外に仮想進化の実験にも駆り出されます。で、初めのうちは仮想世界(主に白亜紀後期のモンゴルあたり)の恐竜(コンピューターが創り出したもので、必ずしも実在したわけではない)の生態を観察するような話でしたが、次第に弥生を中心にした現代の話が多くなっていきました。中でも、動物の行動や生態を観察する話が多いです。

 主人公の弥生は、決して優等生な博物館員・研究者ではないのですが、旺盛な好奇心を持ち、他部門の研究部長などを含めて多くの人に好かれます。そしてまた、非常に強い「運」も持っていたのです。埋もれている化石を見つけるには「運」というのも非常に重要な要素で、弥生はその「運」の力で重大な発見をするのでした。

 主人公が好奇心の強い女の子で、しかも不思議な運を持っている。その運は自分に都合の良いことが起こるというような、いわゆる「ラッキーマン(この場合はウーマンか)」な運の良さではなく、むしろ周りの人に幸福を呼び込むような、様々な出会いを生むような、そんな運である。このあたりが「エスパー魔美」を思い出させる漫画です。先輩研究員達が高畑くんのようなブレーンの役を果たしてるし。3巻の最後の頁の弥生は、すごく充実したいい顔をしていまして、これが「パパの絵 最高!!」(「エスパー魔美」の最終回のタイトルで、最後のコマの台詞でもある)という魔美に重なるのです。超能力やハダ カはないですけどね。
 最後のコマの弥生は、魔美よりもむしろ「腹ペコだ」という平賀・キートン・太一に近いかもしれません。自分の好きなことを思い切りやっているという満足感に満ちあふれたような顔ですからね。その「好きなこと」というのが、キートンは遺跡発掘で弥生は化石発掘と似ているし。

 話の底流になる仮想進化実験は、最初に設定された生態系や気候風土などの条件からコンピューターが計算した生物の進化と、実際の化石からわかる生物との違いから進化の仕組みを解明しようという試みです。これは天てれアニメのうち最初の二作品「恐竜惑星」「ジーン・ダイバー」に通じるものがあるかな。

 長々と書いてきましたが、この本はおすすめです。藤子・F・不二雄のSF短編が好きな方、「エスパー魔美」が好きな方、「恐竜惑星」「ジーン・ダイバー」が好きな方なら、きっと楽しめると思います。そうでなくても、岡崎二郎のクセのないきれいな絵柄や、余計な手を加えずに素材(アイディア)の味をそのまま活かす語り口は、読み手を選ばずどなたでも楽しめることでしょう。


パヌキ