No.99

       トランプ大統領の下のアメリカの行方


トランプ大統領の最近の2つの演説は、対照的である。

1月20日の就任式での演説では…野外の寒さを考えに入れ、
いつもの彼式の長い(4,50分はかかる)演説ではなく、短くするよう彼は心掛けていた

その中で、数人の「遺族」と呼ばれる人を招いていて、
演説の中で、指さして話していた。
いずれも、不法移民の手で殺された人の遺族であることの共通点がある。


このように、就任式の演説は、アメリカの殺劇
(American Carnage)と言う言葉で、
グルーミィな暗黒の世界を画いていた。
全体として暗い、厳しいトーンだった。

大統領が好きな4つの言葉、
強く
(strong)、豊かに(wealthy)、誇らしく(proud)、安全に(safe)があるが、
そのどれも、今この場合に欠けていた
(「それを回復しよう!」が、彼の結びの雄叫びであった)。

これに対し2月28日の議会演説は、一言で言うと、
明るく前向きの、和やかなトーンに満ち溢れていた。
今日、目の前にあるのは、「アメリカ精神の更生だ!」
(Renewal of American Spirit)と、
未来に目を向けていた。


この対照も、ショーマンの大統領が演出しようと狙っていたことに違いはない
(NPRは、大統領が「リセットボタンを押した…」という)。

就任式の演説でのグルーミィさを支えていたのは、
何よりも今日のアメリカの姿を、ありのままに見るトランプ氏の見方、視点であろう。

これまでの大統領は、就任式の演説のような場面では、
多かれ少なかれ現実を美化していた。
アメリカは、「世界一だ!」と讃えていた。
(いつまでたっても)「偉大である」と主張していた。

それが、トランプ氏の場合は、初めて反対のことを認めた。

「都市の内部は、錆びついた工場だらけ…」、
「犯罪と悪党と麻薬…が、限りなく多くの命を蝕み、奪っている」、
「我々の工場は、次々に閉鎖され、この岸を去って行った…」、
「何十年にもわたり、アメリカは自らの産業の犠牲において、外国産業を富ませてきた…」。

オバマ大統領は、「アメリカは最早、世界の警察官ではない…」
と表明した初めての大統領となったが、
それでも、まだアメリカの衰退のような言葉は使っていない。
これに対し、トランプ氏はもっと端的に、次のように述べた。

「他国の軍隊に補助金を出す一方…我々自身の軍隊の衰退を許してきた…」、
「他国の国境防衛には携るも、自国の国境を防衛する努力を拒んで
 …何兆ドルもの防衛費用を、他国のために費やしてきた…」。

こう述べてきた彼は、「だが、これらは、もう過ぎ去ったことだ!」として、
今日から先は、
「只、アメリカの前進あるのみ、アメリカ新章が始るのだ
(…new Chapter of American Greatness…)
 アメリカ第一主義あるのみだ!
と宣言している。


貿易、税制、移民問題…これらすべては、
今日からは、アメリカ人(その労働者ら)のために決定される。
保護こそが、この国を偉大な繁栄と国力(回復)へとつなげる。
アメリカは、もう一度、勝者として戻ってくる。仕事を、国境を、富を取戻す。
この国土を、隈なく更新された新しいすインフラで埋め尽くす…」。

「そのために我々は何をすればよいか?
…簡単なことだ!たった2つのこと、バイ・アメリカン、
ハイア
(hire)・アメリカンの2つをするだけでよい…」。


大統領は、無論、バランスも考えてこういっている。

「我々は、この先も、世界の国々と仲良くするだろう
…だがそれは、互いに皆が『自国の利益を第一にする』、との理解のうえでのことだ」。


どうやら、大統領は「愛国心の固まり」になってしまったかのようであった。
しかも、それを人々にも呼び掛けている。
(one people…one destiny…と)団結心を呼びかけている。大同団結である。
「小さな考えの違いや、小さな争いは、もう辞めよう!」と言っている。

ニューヨークの不動産王として、実業の世界を生き抜いてきた彼。
「連邦破産法のプロ」と称される彼が、全ての人に向って、
「アメリカ精神の更生」
(Renewal of American Spirit)を呼びかけた。


                                2017年3月9日