No.87

       人種意識に基づいた政治(identify politics)


オバマ氏が2期8年の大統領職を全うした今になって、
アメリカのメディアの一部で、改めて初の(唯一人の)黒人大統領の歴史的意義、
その果した役割を問うものが現れている。

NPRは、3人の黒人史、
黒人問題専門家(政治評論家を含む)との会談を載せている(1月22日)。

要約すると、
1人は、「いつかは起きる必要があった…最も安心できる(人)形で、それが起きた…」、
と言う一方、他方では、
「まだアメリカは、(黒人大統領に)十分な心の準備が出来ていなかった
…その結果が、2016年選挙(トランプ大統領)だ」、と応じている。

すると、もう1人も、この後戻り論に同調して言っている。

「世論調査も、それを示しているよね…黒人大統領の出現には両面あった。
一方で、オバマ大統領は大変な期待をもって迎えられたが
…他方で、彼が為したことと、成し得なかったことがある…」

として、犯罪率が全体として下がったものの、
シカゴ、ロサンゼルスなどの都市では、黒人による凶悪犯罪が増えたことを挙げている。


以下も、この3人のやりとりのポイントである。

オバマ大統領は間違いなく、黒人問題、人種問題に取り組んだ。
彼は一方で、
「人種演説(2003年)を行い、人種問題でも目立った活動をしていた有名人(牧師)、
アル・シャープトン
(Al Sharpton)を重用し、また黒人による
白人などから反発もある抗議運動“Black Lives Matter”にも肩入れしていた。

これらすべてに対する反応ともいえる者、
それがトランプ大統領の当選であるという。

しかし、そこでもアメリカ全土と言う大変な広がりで、
一本にまとまったものがあるという訳ではない。
一方で大統領は、黒人の投票権を強化するなど、格差是正のために努力したと言える。

これに対し一部の白人らの間では、
人種意識に基づいた政治
(identify politics)の動きも生じた。

それらを総合すると、
「アメリカ社会での人種意識は、却って鋭くなった…」とも言えよう。
それが一方で、白人至上主義の1つAlt-rightを生み出した。

彼らを動かした最大のもの。それは、黒人との間の格差の縮小を、
自分達の既得権の喪失との危機感に駆られたことであろう。
それを巧く捉えたのが、トランプ大統領であった。


                                    2017年1月30日