No.84
アメリカの大衆メディア
3大新聞やNHKが存在する日本のメディア業界と違って、
アメリカには全国的に展開するメディアが存在しない
(別の州に、子会社のような別法人を通して展開していて、
それらをマルチ・プラットフォーム(Multi-Platform)と呼んでいる)*。
実は、2015年から2016年にかけて、
これら大手メディアは絶好調であった(主に選挙の影響で、ニュースルームが拡大した)。
中でもワシントンポスト紙は、売り上げを記録的に伸ばし、
本社屋も新居に移転するとともに、新人記者60人の臨時採用を決めている。
しかも驚いたことに、世の中のメディアが皆、
記者の数を絞り込んでいる時代に、そうした景気のコースを予測して
3年前の2013年10月に、そのワシントンポスト紙を買収していた人がいる。
アマゾン社を創設したCEOのビゾス(Jett Bezos)氏だ。
今回の記者増強もビゾス氏の支持を得ている。
トランプ大統領時代に入り人々は、「何が起きるか?」と身構えている。
この支持は、そこに的を絞ったものだ。
これこそ、正にジャーナリズムの活躍の場を予測したものである。
しかも、それを今の時代向けに、携帯向けのビデオで流す業務に力を入れている。
今回のワシントンポスト紙の動きは、そうした点に、焦点を絞ったものである。
同社の先駆的動きには歴史がある
(皆さんも記憶しておられよう、1973年のウォーターゲート事件を嗅ぎ付けて、
身の危険や社の危険を顧みずに、ワシントンポスト紙は、ニクソンの犯罪行為を炙り出した)。
ワシントンポスト紙が、今の世に合わせたニューズルームの強化で進めているのが、
記者の数の増大に加え、上記のような携帯向けのビデオ作り、
それによるメディア性の最新化である。
そのため、今やニューズルームには、記者の他に、
ソフトウェアのプログラマー、デジタルデザイナー、モバイルデザイナー、ビデオエンジニア
などなどが、同居している。
ビゾス氏がワシントンポスト紙を買収して、初めてそのニュースルームを訪れた時(2013年)、
彼は記者らから、「何を考えているのですか?」と質問された。
対する彼の答えは、「滑走路だよ」(Runway)だった。
今2017年、その滑走路が拡張整備され、同紙は更なるテイクオフをしようとしている。
*このような、事実上全国的に展開しているマルチ・プラットフォームとしては、大きさの順に上から、
ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、USA Today、ウォールストリート・ジャーナルの4社があり、
殊にニューヨークタイムズとワシントンポストが2強と言われる。
2017年1月24日