No.63
              Alt-Right運動


この欄では、ヒラリー・クリントン、ドナルド・トランプのことは
努めて採り上げないことにしてきたが、アメリカで有名な暴力組織、
再びクー・クラックス・クラン(KKK)に絡んだ話題を1つ。

NYタイムズ、LAタイムズ、ワシントンポストなどの大手の新聞各社が、
クリントン氏支持を表明する中で
(10月30日現在で、全国の主な新聞100社中、71社が何らかの支持を表明し、
うち56社がクリントン氏を支持、トランプ氏支持は、ラスベガスの新聞1社のみ)、
11月2日のNPRは、KKKに関係する新聞“Crusader”が、トランプ氏支持を表明したと伝える。
その伝える所の要旨は、こうである。

「トランプ氏は、アメリカをもう一度偉大にしよう!と言うが、
その前にアメリカを偉大にしたものは何か?を問わねばならない。
『我々の建国の父祖らが何をしたか?』ではない。
誰が、どんな人達が、建国の父祖らであったか?を問うべきだ。
答えは、『白人(クリスチャンの)だったから』となる」。

このようなCrusader社の論評に対し、トランプ氏の陣営(キャンペーン)は言っている。

「トランプ氏は、いかなる形の憎悪も非難する…
この新聞のいうところには、抵抗があり、その見解は、
我々のキャンペーンをバックしてくれている数千万人のアメリカ人の見解と相容れるものではない…」。

「しかし」とNPR
(11月2日付)は言っている。
「人種差別的、白人至上主義的な傾向は、キャンペーンを通して存在してきたのではないか…」。

この欄(第53回)でも、トランプ氏に同調的なKKKの親玉
デューク氏
(David Duke)が、合衆国議会上院議員の選挙に立候補したことを伝えた。

1973年には、まだ若かりしトランプ氏が、マンションの販売で人種差別的であったとして、
ワシントンの合衆国裁判所に訴訟を起こされ、散々争った挙句に、
「もう2度と、人種差別的なことはしません」、として和解したことを伝えている
(9月29日NPR)

NPR
(モーニング・エディション)は、そのデューク氏とのインタビューを再び載せている。
それによると同氏は、仮に当選したら、
「上院の中で一番トランプ氏の政策に忠実な議員として採決などに参加することになる…」
と述べ、
「トランプ氏が、この国の伝統を守ろうとしているのと同じく、自分もそうする考えだからだ…」
としている。

一方のトランプ氏は、初め言葉を濁していたものの、CNNの記者に突っ込まれると、
デューク氏に対し否定的な発言をするようになった。
「にも拘らず、」とNPRはいう。
「トランプ氏が候補になったことで、これらの動きは、
白人至上主義的思潮を勢いづかせた
(energized)、「そのことに間違いはない」という。
それも、全国津々浦々のみならず、オンラインの、いわゆる“Alt Right”社会をも、と言っている。

“Alt right movement”とは、一体何か?
ヒラリー・クリントンは8月23日、ネバダ州リノ
(Reno)での演説で言っていた。

「これは、今までの保守
(Conservatism)でも、共和主義(Republicanism)とも違う…
もっと人種問題に偏ったアイデアだ。
反イスラム、反ユダヤ、反移民、反女性…これらを束ねるのがAlt rightだ!」。

つまり、白人至上主義そのものの新たな装いと言ってもよい。
もう1つ、この運動は、インターネット上(チャットボード、SNSなど)で、
若い白人男性の間で主にくり広げられている。

彼らはその中で、政治的正当性
(political correctness)
つまり上述の反イスラム、反ユダヤ、反移民、反女性などを糾し、
その点で瑕疵のない政治的立場を目指す考えを排斥し、それ(政治的正当性)を嫌う。

反対に、彼ら(Alt-rightの人々)は、人種差別的なことをネット上に流すことで、
政治的正当性に反撃し、それを否定し、逆に自らの立場を政治的に自由なものにできる、そう考えている。

そのAlt-rightersらが、今やトランプ氏に熱を挙げているという。
折も折、トランプ氏は、今までのキャンペーン・マネージャーを馘にした。
その後釜に据えたのが、Breitbart News Network会長の
スティーヴン・バノン
(Stephen Bannon)である
(そのバノン氏は、Breitbart News Networkのことを
「Alt-right運動の舞台」と呼んでいるという)。

一方のヒラリー・クリントン氏の方は、
「これで益々トランプ氏とAlt-right運動との結びつきがはっきりした」、
として選挙民の前でその点を強調し、
「トランプ氏が、この後、如何に温和な表情を装うとも、
バノン氏をキャンペーン・マネージャーにしたことで、こうした思潮との結びつきが裏付けられた…」
と攻撃することになろう。

一方でトランプ氏は、「投票所での不正」を今から盛んに喧伝していて、
それがAlt-rightばかりか、その他の右翼団体などをも刺激し、
たとえば、その1つの“Oath Keepers”の面々が、自発的に投票所の監視に乗り出す
などの動きが出ている(11月2日NPR)。

そうした動きが、1960年代にかけての、かつての公民権運動期での投票所での風景、
黒人らに対する脅しや、嫌がらせなどに繋がらないか、注目される
(現に民主党は、そうした行為の「差止め」を求めて、共和党を訴えている)。


                                   2016年11月4日