No.62
             州裁判官の身分

アメリカの各州司法制度。
中でも裁判官の任命、分限などについては、別の処(「もう1つのアメリカ史」)中にも書いたが
(35州が公選制で、残りの州にも、政党などが絡んだ、独特の任命メカニズムがあること)、
NPRは、11月1日の雨の夜にカンザス州最高裁判所が、
地元トペカ
(Topeka)のハッチンソン地域大学(Hutchinson Community College)で開いた、
模擬ではない本物の裁判(弁論)につき、報じている。

それによると同最高裁判所は、もう数年来、こうした試み
(広いホールなどに出張して行って、そこで弁論期日を開くこと)を続けているという。

裁判を少しでも「人々に知りうるものに」、との努力の一環だという。

カンザス州など15州の最高裁判所判事は、公選制ではない。
日本の最高裁判所の判事の信任制度に似た信任投票をする形になっている
(ただし、カンザス州には、これまで1人の判事もNo!の投票をされたことはない)。

アメリカ全体としてみると、このところ判事の公選制に対し、
制度の弊害、金権主義的側面を指摘する批判が強まっている。

カンザス州最高裁判所も、交代で6年の任期ごとに信任を問うが、
今年は7人中5人が任期を迎え、その行方が懸念されている。

カンザス州では、昔は政党主体の任命委員会が任命を行ってきたが、
かなり前から政党色を薄め、メリット・システム(一種の点数制)に切り換えてきた。
それが今年は、えらい燃え上がり方をしている大統領選と重なったため、
政争の炎が、こちらにも燃え移ってきたという。

中でも保守派の動きが盛んで、
たとえば人工中絶に強く反対しているKansas for Lifeというグループがある。
この人たちは、基本的に公選制を支持している。

その事務所に行くと、黄色の小槌の印が描かれた大きな掲示板が所狭しと置いてある。
「進歩派の裁判官にNoを!」と書かれたその掲示板が、もう直き出番である。

そうなると、各人で手分けして電話をかけるし、
各戸毎に廻って行って、標語板をドアノブに掛ける作業が待っている。
なお、州議会にも何回か裁判官公選制法案も出されているが、まだ可決されたことはない。

一方、俎板の上の鯉ならぬ5人の裁判官は、様々な騒音に惑わされず、じっと押し黙っている
(うち4人は、いずれも元の州知事で、うち2人が共和、残り2人が民主党員だという)。
公選制ではない彼らは、何の運動も許されない。
任期が切れる5人のうち、1人は長官であるが、その彼は言う。

合衆国最高裁が言っている。
「裁判官は、政治家ではないのだから、人気を気にしてはいけない。
人々が「してほしいこと」、を行うのではない…
それは、年月により、場合により週毎に、変って行くが…それが基準ではない」。


                                  2016年11月7日