No.58

     ブレクジット(Brexit)の本当の原因とEU


イギリスが国民投票によりEUからの離脱(ブレクジット)を決めてから1月余り。

当時、離脱運動の旗を振っていた1人、
イギリス独立党
(UK Independence Party)(UKIP)党主だったNigel Faragoは、
その後、辞任している(党内選挙の結果は、9月15日の党大会で公けにされる)。

Times誌が「今年のイギリス人」
(Briton of the Year)に選んだこの男が、
離脱の理由を要約していた(6月28日NPR)。

「最大の理由は、EUが域内の人々広くに本当の意図を知らせないで、こっそりと、
ないしは誤魔化しつつ、いつの間にか域内を政治的に統合していたからだ
…2005年、オランダとフランスが政治的統合に反対し、その統合憲法を拒否したが
…にも拘らず、EUはそれを無視し、裏口からリスボン条約
(Lisbon Treaty)を持ち込んでしまった…」
(彼は、EU離脱は「イギリスが最後ではないだろう…」と予言する)。


NPRは更に、その決定時のEU議会の有様(Farago演説の)一節を報じている。

「企業、貿易、何であれ、君らの誰も、これまで碌に仕事らしい仕事をしてきてないじゃないか!
一人前の職(仕事)を作り出したこともないじゃないか!」

騒然となった議場に向うEU議会議長。
一方でFaragoの話しを制止し、止めさせるとともに、一同の方に向かって、

「みなさんお静かに…興奮されるのは判るが、それではまるで、
この議場でUKIP(の代表ら)が騒いでいるのと同じじゃないですか。
どうか、彼らの真似だけは止めて下さい…」

Faragoの演説はこの後も続く
(要約すると、
「イギリスの行動(離脱)に対し、EUが罰を加えようものなら、
何倍もの仕打ちとなって帰ってくるぞ
…でなければ、EU外に居ても、両者は仲良くやって行けるだろう…」)。


さて、そのリスボン条約は、2009年12月1日に発効していた(域内の法律となる)。
EUのリーダーらが、更なる統合に合意してから8年かかっている
(これには、イギリスも
「憲法の形ではなく、各国の議会で採決できる条約形式でどうか」、と言っていた)。

無論、すんなりとではない(アイルランドが、一旦それを否決するなど)
このリスボン条約がそのように発効するには、メンバー27か国、すべてが批准しなければならない。


リスボン条約は、不成立に終わった統合憲法の多くの点を内包している。

(1)EU理事会
(European Council)議長となった個人が、2年半の間EUを代表する
  (ただし、閣議に当る会議は、6ヶ月ごとに交代するEU大統領が議長となる。

(2)対外的な顔を一本化し(今までの外交代表
(supremo)と、外務委員(Commissioner)に分れていた)、
  EUとしての対外的権威、交渉力を高める。

(3)EU委員会
(European Commission)は、結局、各国1人かつ27人の委員から成るものを、
  その通り維持する(1つ前のニース条約(2001年調印2003年発効)では、
  委員の数を減らすことを決めていた)。
  決定権の上で、EU議会と委員会とは対等とする
(co-decision)

(4)各メンバー国のEU議会での投票権の配分は、2014〜2017年の間に次第に調整する。

(5)EU議会、EU委員会、EU司法裁判所、それぞれの権限を今より拡げる
  (個別のメンバー国による拒否権も次第に減らして行く)。


以上のように、EUは、アメリカの13州が初め連合憲章
(Articles of Confederation)により
緩やかな連合
(Union)を作り、
その20年後に、合衆国憲法
(Constitution)により連邦国家を作ったのと比べると、
やはりより困難な道を歩んできている。

結局、ローマ条約(1957年)マーストリヒト条約(1992年)などの
条約の改訂を重ねる形の統合になってきている。


                                 2016年9月8日