No.50

           オバマ大統領と人種問題


アメリカのキリスト教(バプティスト派)で
「猛烈な弁説」を振るう黒人牧師、Jeremiah Wright師。

シカゴのTrinity United教会に居たことから、
若き日のオバマ大統領にとって信仰の師であった。

「猛烈な弁説」で最も名高いのは、「神よ、アメリカをくたばらせよ!」
(God Damn America)である
(普通は「アメリカに祝福を!」
(God America)というところを、この句でお説教を締め括った)。

無論、そこには黒人に対する迫害、差別などに対する黒人社会(教会)の鬱積した気持がある。

このお説教の時(2003年4月)から5年後の2008年、
当時は騒がなかったアメリカのメディアが、一斉にこの発言を採り上げ出した。

丁度オバマ大統領がその年の11月の総選挙に向けて、
その前に開かれる民主党の全国大会(コロラド州、デンバー)での指名獲得に向けて、
準備を進めていた所であった。

党の全国大会を5ヶ月後に控えた3月18日、
オバマ大統領は、アメリカ建国(父祖ら)の地、フィラデルフィア市の憲法会館で演説した。

憲法の前文中の初めの言葉、「より完全な結合を!」、
“a More Perfect Union”の句で始るが、
内容的には、半分以上がアメリカでの黒人社会の問題、人種問題を採り上げた演説である。

その中では無論、Wright師のことも出てくる
(自らの結婚式の司式から、2人の娘の洗礼まで世話になったことなど)。

更に、自らの血統、生い立ちと、アメリカそのものの人種的成立ちとを重ね合わせながら、
自らこの人種問題の解決に身を投げ出す覚悟を語っている。

ここで記すのは、そのオバマ大統領が、2007年2月、
Wright師を訪ね、自らの大統領立候補に係る各種催し、会場に、
同師が来て祈ったり、喋ったりすることを断っている点である。
のみならず、彼は上記の3月18日の憲法会館の演説で、
同師のGod Damn America発言を強く批判していた。

オバマ大統領というと、誰しも思うのが、この人種問題である。
アメリカの政界でここまで来るのに、この人種問題でどんなに大変であったろうか、
という思いである。

残る任期が半年を切った今、彼が党の全国大会の5ヶ月前に、
この別名「人種演説」
(race speech)とも呼ばれる演説を行って、
彼が人種問題にかける覚悟を開陳し、また人々に一致と協力を求めた、
その率直さ、賢明さを記す次第である。



                           2016年8月3日