No.5

              
スマホの暗号


昨年12月、カリフォルニア州のサン・バルナディーノで、14人が銃殺される恐ろしい犯罪がありました。

犯人は、イスラム教に係りがあると見られる男女2人です。その一方のスマホ(iPhone)には、
イスラム教関係者と交わしたものかと見られる通信記録がありますが、
どのような情報が交されていたのか、知り得ません。

FBI(連邦諜報部)は、暗号がかかっているスマホの通信プログラムを管理している
アップル(Apple)社に対し、(そのプログラムの開発者は別にいます)プログラムの読み解くための、
そのためだけのソフトウェアを制作して提供するよう請求しました。

一方、アップルの最高経営者(CEO)が、そのようなソフトウェアが他にも利用されうること、
それにより不特定多数の人の個人情報(privacy)を侵害する結果になりうること、
を理由に請求を拒否しました。

これに対し、FBIは、連邦裁判所に仮処分を申立て、
裁判所がこれを認める決定を出したことから、目下アメリカでは、折からの大統領選を含め、
政治・法律上の一大論争を呼んでいます
(たとえば、トランプ氏がアップルに対するボイコット運動を呼びかける一方、
フェイスブックなど、他の情報絡みの同業者のCEOもアップルに賛同している)。

問題は、司法当局対情報業界との対立の図式へと発展しています。

連邦議会上院情報委員長Richard Burr(R- N.C.)も、

「アップルは、裁判所の命令に従うべきだ」

と言明していますが、
アップルが従わない場合の(その他のハイテク会社も、仮に同じような立場になったら、その場合に)、
取りうる実効的な措置について、意見の一致は見えていません。

このiPhoneの暗号を読み解くためのソフトウェア、i Cloud accountの鍵は、
アップルではなく、本人が始めに設定したパスワード(いわゆるPIN)と、個々のiPhoneごとに異なる暗号です。
この2つの記番号を知らないと、第3者が解くことはできません。

当局がアップルに求めているのは、この記番号を解き当てるのに適した、
「総当たり戦争」(brute forcing attack)のソフトウェアだと考ええられます。

この件で、個人情報を破ってでも、FBIがPINなどの解読を求める公益サイドの理由としては、
サン・バルナディーノの犯人の先に、同じような暗殺計画があって、
それが多くの人命の喪失につながるかも知れない、その可能性を予知・予防しうる点にあります。



実は、アップルと司法当局が、iPhoneの秘密開示を巡ってせめぎ合いをするのは、
「今回が初めて」と言う訳ではありません。

やはり昨年、ニューヨークのBrooklynでの薬物犯に絡んで、
麻薬の売人のJun Fengの持っていたiPhoneについてFBIは、
同じように裁判所の令状を取って、秘密開示への協力を求めました。

NPRはまた、以前、連邦情報局NSAにいて、今はBrookings Instituteにいるある弁護士は、

「アップルは、過去に70回も同じような事態に遭遇し、すべて裁判所の令状に従ってきた」

と言っていると伝えています(2月22日)。


しかし、Jun Fengのケースでは、裁判所が令状を出さないで、
却ってアップルに対し、その言い分を聞こうと働きかけました。

それにより、この種の困難な問題で、公けの議論がなされるようになることを狙った、
と見られています(Jun Fengのケースでは当局が、同じく1789年の法律Judiciary Act of 1789の一部
All Writs Actに依存しているらしいことに対しても、殊に疑問を投げかけていました)。

これらの法律が、この種の問題への答えになるかは、時代の違いが大きいことから、確かに難しいところです。

そこで、こうした古い法律を含め、現行法で解読のための協力(資料の提出などの)
を強制することが出来ないのならば、連邦議会が動く必要があります
(NPRのInskeep記者は、上院情報委員会の委員Angus Kingに質問しています)。

King氏によれば、1789年という連邦政府が発足したばかりの年に作られた法律
(当時は、フランスとの関係が、かなり危なくなっていたことから、
Alien Tort Claims Act外国人の不法行為に対する請求法)を、
もし、「この件に当て嵌めるとなると、余り適切ではないだろう」としつつ、
新法制定については、まだ自らも、議会も、はっきりとした方向付けが出来ていないとの認識を示しています
(しかし、司法が処理できる問題と言うより、立法問題だという点は、同意してます)。


国際的なビジネスをしているアップルとしても、この問題での対応により、
今後、外国でも似たような状況になることを懸念して、
自社の顧客になりうる人々が離れていくことを懸念しているようです。

                                       2016年2月23日