No.48

        ルーズベルトを叩いたリンドバーグ


先日(7月21日)終了した共和党全国大会(RNC)で、トランプ氏が多用した句がある。
「アメリカ・ファースト」だ。

NPRは、トランプ氏がこの句の出典や正しい(元の)意味からかけ離れた意味で、
この句を使った、正しい文脈で使うことを拒んだ、と報じている(7月23日)。

New York Timesがその点を質したところ、彼は答えている。

「この句が気に入っている。その自分は、
(その当時に意味されていた)孤立(中立)主義でも反ユダヤでもない。
ただアメリカ・ファーストの句が好きなんだ」

America First Committeeとは、
主にイェール大学生とシカゴの財界人が中心となり1940年に正式に設立された。
アメリカの歴史を通しても最大の平和団体の1つで(W.W.U開始から間もなく解散された)、
ピーク時は各界の名だたる人々が、80万人も名を連ねていた*。

前注の小著にも記したが、America First Committeeのメンバー中でも
最も広く知られ、かつルーズベルト大統領と華々しくやり合ったのが、
例の大西洋横断飛行を初めて成し遂げた大佐(彼は、この位を返上しているが)
チャールズA.リンドバーグ
(Lindbergh)である。

既にW.W.Uは実質的に始まっていたと言っても良い。
ドイツはポーランドに侵攻していたし、日本は中国で闘っていた。

そんな中、America First Committeeは、
「アメリカ合衆国は中立を厳守すべし」を綱領としていた

(道義的には、イギリスを日本やドイツから区別する理由はないとして、
日本に対する石油禁輸制裁や、イギリスなどへのLend-Lease法による援助にも反対していた)。

リンドバーグは、中でも1941年9月の集会で言っていた。

「誰もドイツで行われているようなユダヤ民族に対する迫害を支持していない
…だが、そのユダヤ系が、このアメリカ合衆国内でアメリカを戦争に引き込もうと工作している。
我国における彼らの脅威は、その財力、巨万の富にある。
それにより、アメリカの映画、新聞、ラジオそして政府までをも支配しかねないからだ…」

(この発言の後の方は、America First Committeeに対し
「反ユダヤ」、「孤立主義者」というレッテルを張らせたという不本意な結果をもたらした。
リンドバーグをはじめ、孤立主義者の多くのリーダーは、結局、戦争には従事していた)。
とにかく、以上のようなアメリカ・ファーストの意味に関係なく、
今その句を使っているのが、トランプ氏である。


*NPRが挙げるのは、Sinclair Lewis、E.E. Cummings、Walt Disney、Frank L. Wright、Norman Thomas…
 などである、なお、ルーズベルト大統領が作成を命じていたW.W.Uを想定した作戦計画Victory Programを
 当時、戦争省(War Dept.)内で担当していたAlbert C. Wedemeyerも、またその岳父Stanley D. Endickも、
 ルーズベルトの戦争計画に反対しており、その関係で、America First Committeeのメンバーともかなり親しくしていた
 (小著、アメリカの憲法成立史―法令索引、判例索引、事項索引による憲政史―、八千代出版、2015、p.755)。


                               2016年7月28日