No.33

             スパルタ式の誓い


2001年のワールド・トレード・センタービルへのテロ攻撃の映像が、未だ脳裏に生々しい。

その頃ニューヨークに寄る度にそうしていたように、その年の11月も、
筆者はJFK空港からタクシーにトランクを載せ、Tri-Borough Bridge近くまで来た。

遙か彼方のマンハッタン、ダウンタウンのビル群のシルエットが鮮やかだ。
だがそこにいつも見えていた、空に突出た2棟のトレード・センタービルの姿は間違いなくなかった。


今回NPRは、このトレード・センタービルの残骸の鉄材から、
あるものが鋳造され、それがアメリカ社会でもずっと問題となっている
ベトナム、アフガン、イラクなどの戦争で闘った退役軍人(ベテラン)の精神的な回復のために、
役立てられつつある話をしている。


ベテランたちは、文字どおり戦火を潜り抜ける中で、互いに仲間を助け合ってきた。
いわば、互いに相手の命を庇い合ってきた。

アメリカでの精神医師団は、もうずっと退役軍人らの心のケアをし、
精神医師の中には退役軍人らとの間で、アンチ自殺の契約を交す例もあるが、
ベテランの間でのそのような方法の評判は、下がりっ放しだという。

しかし、Rand研究財団の専門家は、「やはり、プロによる処方を受けることが大切…」とは言っている。


そうした状況下で、ベテランの数人が、あることを考え出した。

この残骸の鉄材をテキサス州McKinneyにある、その名のよく知られた鍛冶屋に送って、
ギリシャのスパルタ式の刀に鋳り直して貰った上*、
その刀にかけて、スパルタ式誓い
(Spartan Pledge)を互いの間で交すのだという。


このスパルタ同盟のベテラン同士で交すスパルタ式宣誓の言葉が画かれている。

主文と副文の2節から成る文章で、
「私は、戦友
(battle buddy)と先ず話をするまでは、私の命を自ら断つことはしません」
と言うものである。

先のRand研究財団の専門家も、そのような誓を交すことに、マイナスがあるとは言わない。

「スパルタ同盟のベテランたちの間で、問題意識をはっきりさせ、
かつ互いの間のつながりを強める意味はあろう。
ただ、それで突然、自殺率がぐんと下がることは考えられない」
とも言っている。


* このスパルタ式の刀とは、短く、先の方が幅広で尖った形であるという(2016年5月3日npr.org)


                                  2016年5月16日