No.30

               
 唯一人の黒人最高裁裁判官


少し古くなったが、4月15日のNPRは、
ホームドラマなどにもなった“Confirmation”で、Anita Hillを演じた黒人女優
Kerry Washingtonによる、「ドラマに寄せたコメント」を、載せている。

Confirmationとは、
大統領が指名する連邦最高裁裁判官は、その指名を連邦議員上院の多数により
確認
(confirm)して貰わなければならない、その手続のことである。

また、Anita Hillとは、
黒人の法学教授
(U. of Oklahoma)で、1991年、連邦議会上院の司法委員会で、
自ら名乗り出て、そこで証言した女性である。

黒人の最高裁裁判官候補、それまで自分と似た様な境遇にいたClarence Thomasの確認手続き
(その年7月1日にGeorge H. W. Bush大統領は、Thomasを最高裁裁判官に指名されていた)
での証言である。


NPRは、彼女が司法委員会の面々の前で、Thomasのことを何と言ったかは明かしていないが、
他のメディアでは報じている
(2016年4月16日People.com)

「彼は、コーラの缶を私の前に取り出して、『誰だ、この缶の上に陰毛を置いたのは!』と言った」という。


仮に、Anitaが司法委員会の前でその通り喋っていたとしても、
Thomasの指名確認の結論を左右することはなかった
(メディアを大いに賑わせ、その結果、喋った方のAnita Hillは、その後メディアからは姿を消した)。



さて、そのClarence Thomasは、「保守主義傾向の強い黒人」、としてくらいで、
それ以外には、あまり有名ではなかった
(Thurgood Marshallがなくなった後の最高裁ベンチは、白人ばかりになっていたこともあり、
彼に白羽の矢が立てられたのであろう
1)。

一方、最近のTVドラマでAnita Hill役を演じた黒人のKerry Washingtonは、
NPRに大要以下のような話をしている。


先ずClarence Thomasのことにつき、

「彼は、司法委員会の聴聞会を『ハイテク、リンチだ…』との有名な言葉でかわした上、
Anitaに対しては、「近頃の上流黒人
(uppity blacks)は、
有り難いことに、尊大に構えて自己の考えを述べ、自らそれを押し通し、他人の意見には同調しない
…古い考え方に合わせられない人の前では、誰もが、こんな目に遭う…」、
式の要約をしたという。


Kerryはまた、TVドラマの“Confirmation”については、

「台詞は、速記録そのままの言葉で…ドラマの中の言葉も、それと一字一句違わないの!
きっと修飾してる筈だわ、と思うでしょうが、とんでもない」

「私は、この上院での聴聞会のとき、まだ14歳だったわ
…だから多分に両親の頭と口を通った形で、覚えているのね。
父は父で、この同じ黒人、その男が、年寄りの白人ばかりの委員の前で、
今や女性問題で一生を棒に振りかねないことに同情的で
…一方の母は母で、黒人で教授にまでなってたAnitaが頑張っていたのに、攻撃されていることに同情的で…」

「今日でこそ、“セクシャル・ハラスメント”と言う言葉は、しょっちゅう使うが、
当時(1991年)は、そうではなかった
…第一、それが何を意味するのかも、十分浸透してなかった
…そんな中で、委員会の年寄りの白人たちが、たった1人の黒人を評価している、
そこには女性も、若者も、黒人も混っていない。これが果して、皆の代表と言えるだろうか。
この国として、この点は、しっかり正さなきゃ…」


さて、以上の女優Kerry Washingtonの考えと比べる意味で、
同じ黒人のThomas判事の考えも少し紹介しておこう。

彼は最近「私の祖父の息子」
(My Grandfather’s Son)と言う回想記を出している。
またCBCのKroft記者と60分間×7日のインタビューもしている
2

Thomas判事が世間にある、「自分に対する誤認識」について語ったところで、
Kroft記者が、
「それは、そうした批評にThomas判事が、自ら十分答えて来なかったからではないか?」と反論した。

これに対しThomas判事は、

「私の仕事は、(判決の)意見を書くことだ。
イデオロギーや根拠もない批評に反論することではない。
無論、人々は自由に批判してよいし、それが建設的である限り問題ない。
だが、「私が黒人だから…」と言った批判は、意味がない」


**注釈**

1 CBCニュースは、現在でも「彼が最高裁の中で一番右寄りの人であるとし、
 少数民族なのに、自らの民族の権利伸張のための行動をしない(それに時々反対する)ことに対し、
 同じ民族の連中からは、叩かれている」と伝えている(cbsnews.com)。

2 Kroft記者は、Thomas判事が一般には、
 「これまで見るべき実績のない、日和見的保守主義者で、自らの民族(黒人)を売り渡して、共和党に入党して、巧くやってきた、
 独自性に自信のない、軽量級インテリで、ほかのことでは、滅多に口を開かない…」などと記している。




                                       2016年5月9日