No.23

                    
大変な銃社会

「アメリカが大変な社会…」と言うのは、筆者の近著
『アメリカの憲法成立史―法令索引、判例索引、事項索引による憲政史―』
のはしがきにも記したことだが、その1つ、銃社会アメリカについては、
外国人の我々日本人でも、色々と見聞きする機会が多い。

4月12日のNPRは、

「9歳のうちの子が、レストランなどに行っても、周りを見回して、
来ている人々の中に危険そうな人がいないか、先ずチェックする…」、

という「ある母親の話」から始めている。

「外出の時は無論、2人で互いに『当てっこ』のようにして、変な人がいないかチェックする…」
のだそうだ。

彼女は無論、ハンドバッグにピストルをしまっているという
(こうした表面に出して持ち歩かない銃については、
許可証がまた別に出されることになっていて、既に数百万の人が、
その種の許可を取っており、その数はこの処、急上昇している)*。


次いでNPRは、女性が男性とは違って、銃のことを、「フランチェスカとか、ドリィとか」、
まるでペットに対するかのように、呼名を付けて呼んでいることを紹介している。

こうした銃の所持は無論、万一の時のため、自らの身に危険が迫った時に、実際に使用される。
丁度、あちこちのビルの片隅に置いてある消火器のようなものである。

だが、その万一の時の使用の効果たるや、生死の別であり、正に「身の毛もよだつ」ものがあろう。

そのうえでNPRは、実際にそのような身に危険により、
実際に使用した人、3例を短く紹介している。



例1)
S氏はガソリンスタンドに行って、給油し終って給油所の入口に行きかけ、
  ふと振り返ると、若い男が運転席に入っているのを見た
  (彼は、車のキーをつけたまま出てきていた)。
  S氏がその若い男に「降りろ!」と叫んだが、若い男は、「どけ!」と言いざま、
  自分のポケットに手を入れかけたため、S氏はピストルを男に向け1発撃った。
  弾は男の胴に当ったが、男はそのまま急発進し、車は直ぐ先の樹に激突して、
  男は死亡した
  (その後警察は、男のポケットにもピストルが入っていたことを確認)。
  S氏の心は、以来沈んだままである。
  S氏の息子も、丁度その若い男と同じ年(19歳)であったことも、一入響いた。

例2)G女は、3児の母親で、巨体を持っている。
  デトロイトのあるナイト・クラブで用心棒(
bouncer)をしていた。
  ある夜中、仕事の帰りに彼女は、パパイアジュースを買うためにコンビニに立ち寄ったところ、
  やせ形の男がピストルを手に、「金!」と近づいてきた。
  G女は、ピストルを外から見えるように体に下げていたので、相手も状況を判断した上なのであろう。
  彼女に向け撃ってきたので、見ると、少し離れたところの車の中には、
  相棒と見られる男がこちらを見ていた。
  彼女も撃ち返すと、男は走り去り、相棒は駐車場から急発進。
  彼女と、彼女の車に向け何発も撃ちながら出て行った。
  G女は結局、AK-47で左腕を撃たれていて、
  病院での4回の手術と、多くの祈りの末に、70%回復したという。
  「彼女がピストルを体に下げていたことは、彼女をより危険にしたか。それとも命を助けたか?」
  この質問に、彼女は「判らない」と言うが、「でも、持っていてよかった」と呟く。

例3)デトロイト郊外で植木屋(tree-trimming business)をやっている、コロンビアから来たR女。
  昨年10月、ホーム・デポの駐車場で、買った物を自分のトラックに載せかけていた。
  その時、1人の婦人が金切声で叫びながら建物のドアから飛び出して来た。
  その先を男が、商品をショッピングカートに山盛りにして、大型SUV車の方へ向っている。
  いや走っている、と言った方が当っていた。
  R女は、ホーム・デポで働いていた経験もあり、会社の方針として、
  「盗人(
shoplifters)は、追い掛けるな!」と言うことも、承知していた。
  だがR女は、その後から婦人が金切声で追いかけていたことから、
  咄嗟に「これは普通とは違う?」と判断した。
  自らのトラックの座席に置いてあった銃(Koch 9mm)をとり、
  そのSUVが近づいてきたところを、タイヤ目がけて乱射した。
  
ミシガン州法では、「財産犯を停めるために致死力(deadly force)を使用すること」は、
  違法とされている。
  結局、彼女は18ヶ月の保護観察処分に処せられ、
  かつその銃の許可証を取り上げられてしまった
  (この処分は、R女としては軽かった。
  その後直ぐに、警官が盗人らを逮捕出来たことも、斟酌されたと思われる)。




昨年暮れにギャラップ調査所(
Gallop poll)が行った調査では、

「あなたは、より多くのアメリカ人がピストルの許可証(CPL)を取った方が安心と感じるか?」

との質問に対し、56%のアメリカ人が「イエス」と答えたという。

NPRは、実際に自衛のために銃の引き金を引いたことのある人々に
接触して質問している(それらの人を特定するため、先ずインストラクターや弁護士に接触してから)。

だが、そうした人々の反応は硬く冷たかった。

「問題に二度と触れたくない…これ以上、人の話題になりたくない」

殊にメディアに出ることに対し、拒否的であった。


* この許可証、concealed pistol license (CPL)を貰うのには、そのための講習が用意されていると、デトロイトの火器インストラクターの言葉も載せている。Does carrying a Pistol Make You Safer?(npr.org)。

                                      2016年4月15日