No.21

               
Too big to failから10年弱


オバマ大統領就任と時を同じくして起こった「サブプライム(ローン)問題」。

昭和初期の大恐慌の再来か!との声もあった問題であるが、
アメリカは、逸早くかつ思い切った公的措置をもって対応した。


中心となったのが、大統領府が行った提案に略沿った内容の立法、
連邦議会によるいわゆるドッド・フランク法である
1

2300ページ、16部(
title)から成る同法については、前に手短な紹介記事を書いていて
(國生一彦、「Dodd Frank法をどう読むか」、NBL No.964、2011年11月1日p.75)、
そこでも述べていることであるが、その目的条文中に、

「最早、大きすぎて潰せない(too big to fail)をなくす…」との文言がある。

この言葉を見て思い出す人もおられようが、
同法は、このtoo big to failの要件に当るものとして、
CFC
(Covered Financial Companies)を定義したうえで、
その後2009年に、スイスに拠点があるBISとの絡みで、
資産(assets)5千億ドル以上の銀行をG-SIBs
(global list of systemically important banks)
と定義している。

去る3月31日のNPRは、こうしたnon-bank banksの1つ、
GE Capitalが、この金融当局による監視の対象となるtoo big to failのリストから、
自らの名前を外すべく、その
「資産を、これまでの5490億ドル(約60兆円)から2650億ドルに引下げたと発表した」、
とするニュースとともに、同社CEOによる次のようなコメントを伝えている。

「我が社は、規模を縮小し、リスク要因(
risk-profile)を減らすことを計画し、これを成功裡に成し遂げた。
(財務省の外局としての)Financial Stability Oversight Councilへの
今回の抹消登録により、我社は金融システム全体との相互結合性を減らすことが出来
…合衆国全体の金融上の安定性を脅かす可能性を考えなくてもよい、と示せることとなった」


NPRによれば前述の法律の下で、巨大non-bankとして4社が指定されていた
2

ところが、MetLifeは、この指定により、
当局の規制が厳しくなる(コストが嵩む)ことを不満として、裁判所に申し立てていたところ、
3月30日に連邦裁判所から、同社をtoo big to failとした金融当局の判断が、
「恣意的で気まぐれ的」(
arbitrary and capricious)と、否定されて喜んだ
(最も、政府はこの決定に対し上訴した)。

アメリカのFSB(
Financial Stability Board)により、
このtoo big to fail bankには、現在、世界的に32行が指定されている
(日本3、中国4、ヨーロッパ17、アメリカ8)。


財務省の高官は、言う。

「金融システムの安定性を保つためには、
このtoo big to failを指定しておくことが、大変有益となる。
それを行っているのが、Dodd Frank法の下で作られた、今1つの機関
FSOC (
Financial Stability Oversight Council)だ
…2008年危機以前は、こうした機関と、その監督体制とが欠けていた…」

「Lew財務長官も述べたとおり、逆指定(指定外し)も妥当であれば、行なわれる…」





***注釈***

1 Pub.L. 111-203、略称Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act。
 2010年7月21日に大統領がサインして成立した。(同法のpopular nameの全文は数行にわたる。
 NBL No.924 2011年11月1日p.75参照)
2 現在、non-bank banksで、このtoo big to failに指定されているのは、
 GE Capital、MetLife、American International Group、
 およびPrudential Financialの4社である。


                                   2016年4月11日