No.12

                    
世論と貿易戦争

3月14日(月)のDayton、Ohioでの選挙活動中に、トランプ氏は、
同じく共和党大統領候補の座を争っているオハイオ州知事ジョン・ケーシック氏を指さして、
演説会でこう言っている。

「ケーシック知事は、今やオハイオ州を痛めつけているNAFTAに賛成していた
…それが今度は、一生懸命にTPPの後押しをしている…このアメリカの労働者にとっての悪者を!」
(NPRは、「共和党候補は一般に、国際取引条約に好意的で、
テッド・クルーズも、マルコ・ルビオもそうだ」と付言する)。


ところで、国際取引を促進するための12か国間の条約TPPは調印され、各国毎の批准を待つ状態にある。
その中で、TPPがアメリカでの連邦議会上院での3分の2による
助言と承認を必要とする憲法(U,2)でいう条約(treaty)であるのか、
それとも単なる国際間の合意書(international agreement)であるのか。

仮に憲法で言う条約であるとすると、第一に、大統領が交渉・締結する必要がある(U,2)。
そうではなくて、条約よりは下位の政府間合意書であったにしても、アメリカの憲法上は、
法律と同じ扱いになるから、上、下両院のそれぞれの単純多数によって承認されねばならない。

たった今ing(進行中)の大統領選の雰囲気では、上下両院の承認でさえも、中々険しい道程のようである。

前記のトランプ氏ばかりか、先週、

「もし当選したら、TPPを議会に送るなんてことはしないよ・・・クリントン氏にも、同調を求める」

と言っていたサンダース氏。そのクリントン氏も、反対の気分を盛り上げる方向で演説している
(3月13日(日)のオハイオ州民主党の伝統ある夕食会で、同旨の発言をしている)。

トランプ氏によるTPP賛成派のKasich知事に対する攻撃を紹介したが、
その発言は、アメリカのメーカー(エアコンなどの)Carrier Corp.が、
2月9日に発表したIndianapolis、Indianaの2つの工場(従業員1400人と700人)を
すべてshutdownして、メキシコに新設することに関してなされた。

「そんなにアメリカ人の労働者を頸にして、外地に行きたいのなら行け。
その代り、一台でも製品を持込んできたら、35%の税金をかめてやる・・・」

3月14日(月)のNPRは、トランプ氏から上記のように言われた点につき、
Carrierの親会社United TechnologiesのCEOが、釈明したと伝えている。

「我が社は、一貫して常にグローバルな利益の最大化を求めてきた
…そのためには、外地に移ることも厭わない」

その上でNPRは、保守的な研究所American Enterprise Instituteのエコノミストのコメントを紹介する。

「外地企業の製品に税をかける政策理論は、重商主義(mercantilism)の時代にまで遡るものだ。
16世紀から18世紀にかけ、ヨーロッパを風靡していた
(アメリカも遅ればせながら1930年のSmoot-Hawley Tariff Actで、それを試みている*)。

だが殆んどのエコノミストは、このやり方はマイナスだった(backfired)という。
互いに高い税をかけあう形となり…大恐慌を大きくさせたことも、その1つだ」



* Smoot-Hawley Tariff Actについては、Economist誌(2008年12月18日)のこんな記事がある。

「…JP Morganのパートナーで有力エコノミストThomas Lamontは、
Hoover大統領の膝にしがみついて、このバカげた(asinine)法律にサインしないよう哀願せんばかりだった
(普段なら、フーヴァーもLamontの助言に耳を傾けた筈だったが…)。
Lamontは、『あれで、世界中が保護主義(nationalism)に走った』と回顧する。」

Economist誌は、1929〜1933年の世界貿易が、ぐるぐる渦巻きながら月次で
次第に中心に向かって縮んで行く様を図解している。

同誌はまた、トップにHawleyとSmootの2人の議員が並んで立っている白黒写真を載せて、
貿易(戦争)のお化け(bogeymen of trade)と記している。


                                       2016年3月17日